表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
74/116

シナリオⅣ 3 後章 第8話〈後編〉

シナリオⅣ 3.18〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉

I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better


草創歴0449年9月(9/21)〈後編〉


塔に残った一行は、内壁に(もう)けられた螺旋状中央ルートを上昇し、輸送回廊と共に最上部区画へと向かっていた。


それは「天幕の宮殿」(パラディーゾパラッツォ)である。


かつて、オ・ギリュッティーナに案内された道を再び辿(たど)る事となったソウマ・ヴァストック・キア。並びに追随者(ついずいしゃ)である妖精族(エルトメンヒェン)のエメヲラ・ヴィ・ドゥ。


タッキーノ・アルジェントムニツィオーネに代わり案内役を買って出たものの、予期せず、事が順当に進行せぬ場合は「刻印」の力を有するソウマにしか、打開する手立てが無いと懇願された為だ。


「…手助けは無用だ。彼女は私が一命を()して、黄幡星(カプト)へ送り届ける。」


リンベルはきっぱりと断って見せた。


とは言え、ソウマとてそれだけが目的では無い。オ・ギリュッティーナがそれと察して向かい合う。


「…ソウマ殿、無論、エノイキアン・ダイダロス大老の遺言に従い、あなたの友に掛けられた聖刻術式(ミステリウム・マグヌム)、イムメモラーティオ(忘却)の解除方法について、塔の知識を総動員して解明しました。」


「…そうですか。では、その為の答えは?」


「結論として、やはりイムメモラーティオ(忘却)を解除するには、更に強力な忘却の力を()って打ち消す他に無いのですよ。」


だが、聖刻術式(ミステリウム・マグヌム)による封印ほど強固なものは無い。ましてや、シャリアロンド・アールデンスによる、己の死と引き換えにした封印でもある。

それ以上のものとなれば、おのずと限られてこよう。


「…一つだけ方法があります…それは、同じ忘却(ぼうきゃく)と言う意味を持つ都市、そのものを用いて対消滅させる事。」


「馬鹿な…それはっ?」


エメヲラが(うめ)いた。


その通り、その名を(かん)する都市は中央大陸にただ一つ。

だが、それを奪うとなれば(いばら)の道…都市と言うからには、住まう住人もいよう。


「そう、あの銀の種族 (アエテルニタス)の首都ベネヴォランス(忘却)ですよ。あの空間は比類なき銀の台地 (アルジェント・ウィルダネス)と呼ばれる、言わば樫の木の精霊の見る夢…これをあなたの「原始回帰」で奪い取り、アルピュタス聖不可侵域で使用すれば封印は必ず解かれます。」


「だが、そうなれば、その都市は…?」


「無論、消え去る定めにありましょう。(ゆえ)にソウマ殿、あなたが真にその友たる者を救う覚悟があるのならば、何も躊躇(ためら)う必要は無い筈。」


ましてや、「銀の種族」(アエテルニタス)は現在、帝国に(くみ)し、第弍帝国総軍に編成されている。

その総戦力の大半を南ソルティアに配置し、首都ベネヴォランスは手薄な状況となっていると言う。


この機を逃すべきでは無いと、オ・ギリュッティーナは念を押した。


戦略的に見るのならば、第弍帝国総軍の戦力を奪うに効果的な手段でもある。

だが、そうは言われても、ソウマの顔色は(すぐ)れない。

理屈ではなく、エメヲラにせよ、敵対する種族であるとは言え、都市一つを丸ごと消滅させるとなれば躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない。


「……。」


そして、それを成す力がソウマには(そな)わっていた…。


軌道エレベーターは亡き塔主、エノイキアン・ダイダロス大老の姿亡き「天幕の宮殿」(パラディーゾパラッツォ)に到達した。


塔の外壁は(すで)に大気圏外にあり、頂上ゲートの先は宇宙空間に繋がっている。


急遽(きゅうきょ)(しつら)えられた大気圏外防護服が持ち込まれたが、これも固辞(こじ)するリンベル。

それは同行する彼女を気遣(きづか)ってのことか。

今の今まで口を閉ざし、(もく)して語らぬまま、リンベルに付き従ってきた女性が初めて口を開いた。


わらわに、こんな物を着れと言うのか。無礼な…。」


その口から出た言葉は、憮然(ぶぜん)とした拒否反応である。


船内に()いても、近寄り(がた)き拒絶感を(かも)し出していた少女だ。

それは、切れ長の瞳に異彩(いさい)が宿り、独特の髪結(かみゆ)いと、霊子の輝きを放つ(かんざし)がもたらす所以(ゆえん)か。


(きら)びやかな装飾が()い込まれ、(ほどこ)された和装の着物を引きずり、まさに静々(しずしず)と中央に進む。

だが、その足取りは重い。


「お嬢様。私が必ず無事に護り通しますので、何の心配もいりませんよ。」


「…そうは言うけど、いつになったらあの人のところに連れてってくれるのよ、リンベル?」


打って変わって、リンベルに詰め寄る(さま)は、まるでじゃじゃ馬のようであった。


「ですから、これが上手くいけば、ちゃんと元のヤマさんに戻りますから…。」


「あの人、きっと浮気してるんだわ。キィィィーーー許せない!わらわと言う婚約者がありながらっ!」


ヒステリックに怒鳴(どな)()らす彼女を尻目(しりめ)に、リンベルは黙々(もくもく)と準備を整え始める。

何やら、そこら辺は()れた対応であった…。

(ふところ)から取り出した「霊符(アポストロ)」を床面に順次(じゅんじ)張り付け、円形の簡易「奥の院」(エウブレウス)を創り上げる。


完成を再度確認の後、その中央に立つリンベル。並びに、(かたわ)らに彼女を呼び寄せ、袖着(そでぎ)(はし)を握らせた。


「…私の合図と共にゲートを開いて下さい。」


ソウマ達はことの成り行きを見守るべく、輸送回廊まで引き下がった。

オ・ギリュッティーナも同様、隔離(かくり)された制御室に入り、その合図を待ち受ける。


リンベルは(おの)れの妖刀・香具山食(カグヤマジキ)を抜き放ち、高々と頭上に(かか)げる。

それは「天の構え」である。


と、その刀身から無数に桜の花弁(かべん)形状に凝縮された霊子が吹き出し、周囲を舞い(おど)った。


キィィィーーーィィィン!!


それらが床面の「奥の院」(エウブレウス)に共鳴(きょうめい)し、また膨大(ぼうだい)な桜の花弁(かべん)が渦を巻いて2人を包み込む。


これぞ「桜花の祇園図(術式)三摩地(サマーディ)」である。


(たと)え、宇宙空間の絶対零度たる真空状態であれ、生命維持を可能とする究極の空間 生成法(せいせいほう)である。

その効果の程は、深海の凄まじき潮流(ちょうりゅう)の中にあって実証済みであった。

その恩恵を受けた者がヒロト・グラーティア・ドゥーロである。


「…ゲートを開けてください。」


内部の空気を放出(ほうしゅつ)しながら、頭上の頂上ゲートの開口部が二重三重に展開し始め、気圧ロックが解除さていく。


ガチャン…ガチャン…ガチャン…。


同時に重力までも吸い出され、リンベル()を包む桜の花弁(かべん)による球体は、まるで水中を浮き上がるかのように押し出された。


「行きますよ、お嬢様。」


「とっとと済ましてちょうだいっ!」


あらぬ速度で宇宙空間に投げ出され、虚空の果てかとも思われる深淵(しんえん)に飲み込まれる。

自らの母星が遠ざかり、心細く動悸(どうき)が高鳴る。

刻が止まったかの(ごと)静寂(せいじゃく)が包む。


…どれほどの(とき)が流れたのか。


されど、祇園図(術式)の集中を途切れさせる訳にはいかぬ。

丸一昼夜に(およ)ぼうとも、退路は無し。


「来るわっ!あれよ!!」


感ずるままに、彼女がそれを察知し、視線を投げ掛ける。

彼女の中の「それ」が強く感応(かんのう)しているようだ。


「!?」


(せま)箒星(ほうきぼし)(きら)めき。

それは深淵(しんえん)の闇を引き裂き、猛々(たけだけ)しい雷光を()って母星を巡る。


我らが祖、かつてのラーマス族が作りし人工衛星「黄幡星(カプト)」である。


全長40メートルにも及ぶ超巨大建造物が、一定の周期を経由(けいゆ)し、この太陽系を循環(じゅんかん)していた。

無論、無人の放棄された衛星である…。


だが、この衛星の主動力源は二つに(わかた)れ、黄幡星(カプト)の起動因子として精製(せいせい)され、その末裔の遺伝子に刻み込まれた。

即ち、その一つが「羅候の星辰」。

御神座(みかぐら)」を受け継ぎし陽家の血統である。


「…あれに取り付きます。(つか)まっていて下さい。」


「感じるわ…わらわが感じるように、そなたもわらわを感じるか?ヤーマンターカよ。」


桜の花弁(かべん)が翼を形成し、猛烈な速度で2人を押し出す。


しかし、同時に霊子の消耗が激しい。「奥の院」(エウブレウス)の消費も限界を越えている。

背水の陣なればこそ、彗星(すいせい)となりて、その輝きは夜空を貫いた。


交差(こうさ)する流星…。


()け、ホウギョク!ヤーマンターカを頼んだぞ…。」


…流れ落つ星。


ホウギョク・メノウダイを黄幡星(カプト)の外壁に辿(たど)り付かせ、そこでリンベルの「奥の院」(エウブレウス)が崩壊した。

桜の花弁(かべん)が宇宙に散り消え()く…。


ホウギョクは咄嗟(とっさ)に手を伸ばすも、もはやリンベルの姿は急速に遠ざかっていった。


「…わらわに宿る「計都の星辰」よ!その起動因子を返還(へんかん)し、ヤーマンターカの「羅候の星辰」と一つとなるがよいっ!」


彼女の内なる「計都の星辰」が「黄幡星(カプト)」にリンク(結合)し、彼女を構成する霊子を内部構造体に取り込んでいた。


ゴゴゴ…ゴゴゴゴ…ゴゴゴォォォ…ン。


およそ4889年振りに覚醒する「黄幡星(カプト)」が神々しいまでに霊子波動を一際(ひときわ)強く、まさに生命の灯火(ともしび)を燃やすかのように(またた)く。


燦然(さんぜん)(またた)く輝きを遠目に、リンベルは安堵(あんど)の微笑みを浮かべた。


よもや、自らの命を()した万に一つの()けと、友とも呼べる「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)の次期当主を討つ事を天秤(てんびん)に掛けられ、前者を選ぼうなどとは思いもよらぬ決断であった。


…だが、事は成った。


ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスを呪縛する「イムペリウム(支配者)」の聖刻術式(ミステリウム・マグヌム)と、その中に潜むラシュア・エクナスの意思。

これを撃ち破る為には、彼の中の「羅候の星辰」に、黄幡星(カプト)(かい)して陰家の「計都の星辰」を送り込み、その統合(とうごう)()ってする以外に方法無し。


黄幡星(カプト)」内部の霊子機関(エクス・マキナ)脈動(みゃくどう)を開始し、ホウギョクの意思を体現する。


『…ヤーマンターカ…わらわを感じよ。』


霊子感応が極地(きょくち)的に増幅され、地表の起動因子を座標点として(とら)えた。

即座にホウギョク・メノウダイは、自らの思念を投影(とうえい)する。


(おの)が婚約者、ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスは「喜見城(ションゲンゲビエット)」の中枢部、「覇光核管理中枢の間」の中央玉座に座していた。


降臨(こうりん)するホウギョクの幻影。

だが、ヤーマンターカは微動だにしない。

その瞳は何も捉えていないのか?


なれば、その周辺に2人目、3人目、4人目のホウギョクが舞い降り、ヤーマンターカを取り囲む。


『ヤーマンターカ、わらわの名を思い出せ…。』


「…お前は…ホウギョク…?」


「イムペリウム(支配者)」の仮面に亀裂(きれつ)が生じ、ヤーマンターカは苦痛に身を(かが)めた。


「…やめろ…助けてくれ…リンベル…。」


『そのリンベルが、今や風前のともしび)ぞ?よいのか、あれを救えるのは、そなただけであろうがっ!?』


ホウギョクの幻影が叱咤(しった)し、膝を折るヤーマンターカの瞳が、カッと見開(みひら)かれた。


この刻、「黄幡星(カプト)」底部の地表に向けられた霊子放出口から、圧倒的な霊子の渦が放射(ほうしゃ)され、天と地とを結んだ。


ドドドドォォォ…ォォォオオオ…ンンン…。


光の柱は喜見城(ションゲンゲビエット)の超巨大尖塔高層物体を貫き、ヤーマンターカの内側に注がれた。


「…リンベル…そうか…これが、真の対極の力か…。」


ホウギョクの肉体遺伝子から「計都の星辰」が抜き出され、霊子となってヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスの遺伝子を補完(ほかん)した。

元より、二つは別たれし一つの物。


「…我は…猛き黎明 (ネツァク・アズヴォガ)なり。」


(あお)色の光彩が瞳に宿り、ヤーマンターカの眉間に静寂(しじま)()つる紋様が浮かび上がった。


刹那(せつな)、頭の芯が灼き切れ、瞬時に「イムペリウム(支配者)」の聖刻術式(ミステリウム・マグヌム)が砕け散った。

(ほとばし)(あお)き雷光が、全身を透過(とうか)し、周囲の霊子を()らい尽くす。


それは(とど)まるところを知らず、砕け散ったそれさえも()らい、「喜見城(ションゲンゲビエット)」を構成する全ての区画を走り抜けた。


全ての「覇光核(ダイナモニウム)」機関がショートし、あらゆるライフラインが断絶を余儀無(よぎな)くされ、緊急警報が鳴り響く。

それは機械化された術式円環紋の電子構成である事が(わざわ)いした。

各所で誘発(ゆうはつ)される爆発。


だが、放電の余波凄まじく、近付く事もままならず…。

帝都は混乱の只中(ただなか)に放り込まれていた。


またそれは最下層、辺獄(公族専用監獄)区画最奥部にも及び、「電子の監獄」(センテンスト)の監視システムさえも無力化する。

この混乱に乗じ、監獄を解き放ちて退路を確保せんと、先に潜入した「鉄鎖騎士団(ケッテ・アルメーコーア)」の敗残兵一同が、決死の覚悟で鍔迫り合いを果たす。


これを指揮するは、重症の身のケンタ・ウルス・タングマアイである。

内部の構造を知りつくす彼ならばこそ、適任(てきにん)の潜入劇であったのだ…。


また、不可思議な現象に護られながら、彼等の脱出の手助けともなった。

それはヤーマンターカの霊子が電子と結合し、妨害的な誘爆(ゆうばく)で帝国兵を(さえぎ)り、脱出を後押しした結果である。


「リュー、あいつ等を助けて、人質の脱出に協力しろっ!兄ちゃん達が帝都に乗り込んで来てる。一緒に船で脱出するんだぞぉ。」


(かたわ)らより現れし、冷徹(れいてつ)な表情の「左近のたちばな)」。

それがリュー・シュレンメイの表情に立ち戻った。


「うん、分かったよ、ヤマさんっ!」


あのプニプニ顔でリューが微笑んだ。


「…俺はリンベルのところに行ってくっからな。」


リューの後ろ姿を見送り、ヤーマンターカは天を見上げた。


その身は未だ、(あお)き雷光と一体化している。

即ち、光の速度は秒速29万9792.458キロメートル。


瞬時に踏破(とうは)し、その手を伸ばす。


黒き深淵(しんえん)を挟み、友と友との手が結ばれた。


「やっぱり、お前は頼りになる男だよなぁ、リンベルよぉ。」


「…ヤマさんは、私がいないとダメな男だからね。」


後は頼むぞ、と(たく)した思いが2人を(つな)いだ瞬間。


広がる広大な宇宙を前に、(はる)か遠くに(またた)く我らが母星。

さあ、戻ろうあの場所へ…。


おっと、ホウギョクを置いたままだと大目玉(おおめだま)だった。


我知らず、笑みがこぼれるヤーマンターカであった…。

(^ー^)ノヤマさん救出編…でしたw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ