シナリオⅣ 3 後章 第8話〈前編〉
シナリオⅣ 3.18〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/21)〈前編〉
世界の秩序を構成する摂理を上書きし、再構築の上、自らに都合の良い現象を生み出す術、これこそが魔道と呼ばれるものの正体である。
とは言え、魔道を起動するには「鍵」となる術式は必要不可欠であり、これが触媒としての効力を及ぼす。
なればこそ、この世界に於ける魔道や錬金道は等価交換たり得ない。
それはこの世界そのものが未完成である事を示す証拠でもあった。
同時に、この星そのものの未成熟を証明している。
これは既に、ラーマス族がもたらした霊子力学の頂点「八葉」の解明によって周知の事実とされた。
だがそれは闇に封印され、ラーマス族の名と共に「禁忌」の烙印を押される事となる。
この「霊子」とは、摂理と結合し、世界を構成する最も小さい原子であり、刻さえも超越する粒子となる。
それ故に、あらゆる生命に宿る霊性は、即ち、その本質から別かたれた末端であり、その全ては繋がっている事を意味した。
時に霊子力学を用いた双方向転移さえも可能とし、刻と空間を凌駕する事が可能であるのは、この理屈を以ってすれば容易い。
とは言え、帝歴1162年(約4889年前)にラーマス族の首都アイムガルドが消滅して以来の、既に失われた技術に等しかった…。
それが現存していたとしても、これを使用するのは正気の沙汰とも思えない。
今となっては遺跡と呼べる類の物であるし、放置されて久しいからだ。
だが、それが稼働する日が訪れた。
図らずも、この地は元来、冬歴4400年頃には「銀の種族」(アエテルニタス)が統治する都市の一つであった。その名をナターレ、もしくはナタリと言った。
これを戦後に「黒狼軍」が接収し、「ルードマージュ(狼の傷)」と改め、都市の再設計に着手した。
だが、公家も手を付けずに封印せざるを得ない区画が存在し、言うなれば先住者であった「銀の種族」(アエテルニタス)も同様であったのだろう…。
それが地下区画に現存する遺跡「黒狼神殿」であり、その為に保存状態は極めて良好に保たれていたとは言い得て妙か。
今や、この神殿は公王家に所縁のある儀式を執り行う以外、立ち入る機会は滅多に無い場所であったが、さすがにこの異変は察知されるに十分であった。
神殿の中央空間に隣接する円柱形儀式台座が起動し、形状を変化させていく。
ガチッ…ガタガタッ…ガタガタガタッ……。
それは扇状に羽根を広げ、眩く輝く杯の形を成す。
するや、天井部分からも同様に逆扇状に羽根が展開され、これが重なり合い、円形のゲートを構築した。
凄まじき振動と光を洩らし、1万キロ離れた位相距離を霊子融合する為の、粒子加速が開始される。
ゴゴゴゴ…ゴゴゴォォォ……ォォォン…。
ロストテクノロジーの塊と化した空間へと、何事が起きたものかと駆け込むは、戦後処理もままならぬ閣僚ケイスケ・ソリッドシメールであった。
「…何だっ?これから軍を派遣するって言う時に、また厄介ごとか?」
ついぞ夕刻まで、「赤き蛇の王」(オウロボス)たるサン・アガスティア率いる「カエルム・キルクルス(天宝輪)」の軍勢と争い、これを退けたばかりだと言うのに、だ。
並びに、公王宮 就きとなった「クリシュナ派」の戦士、共に戦場を駆けたアター・ラ・ラセンも横に並ぶ。
「待ってください。…これは恐らく、転移の為のシステムだと思います。同じような物が、俺の故郷にもありましたから。」
「転移の…?」
断定するには軽率ではあったが、そうこう言っているうちに霊子が収束され、推論通りのシステムであったと証明した。
…霊子から物質変換を果たし、転移を成した者。
「あっ、誰か出てきたぞ?」
中央大陸を離れ、1人、東方辺境「ウァルキュリアス」へと戻った和装の武人の姿がそこにはあった。
静寂な面持ちは変わらぬが、より一層に研ぎ澄まされた刃の如き鋭さを感じさせる。
それは「右近の桜」として背負った業がそうさせるのか?
「あれ?あなたは…。」
「…上手く成功したようだな。アター君、私だ。」
東の祇園「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)に至るに約1ヶ月あまりを、危険を承知で刻を短縮して舞い戻った。
言うなれば実験台となってしまったが、時間の猶予が無かった為に、やむ負えなく取った手段である。
…だが、支障なく辿り着けたようだ。
今一度、霊子機関が収束し、転送ゲートが瞬く。
安全を確証 次第、後続の彼女を送り込む手筈になっていた。
「何だ?知り合いって事は、クリシュナ派の人間か?」
「はい、この人はリンベル・カセンショウさんです。俺達の仲間で、ヤマさんの友達です。」
友達…か。
友と呼べる関係であったのか、今となっては自身でも定かではない。
顔に曇りが出てしまうのは、いざとなればこの手で彼の命を断つ覚悟の故であろう。そう言う約定を交わしてきたのだから…。
だが、やらねばならない。
万に一つの光明がある限りは…。
「アター君。すまないが、今すぐ向かわなければならない場所がある。案内をしてくれる人を探しているのだが…。」
急がねばならない。
目指す場所は「ラーマス族」の残せし遺跡、軌道エレベーター。その先の大気圏外へ、と。
草創歴449年9月21日。
クリシュナ派の誇る拠点、人工島「アルキストラテゴス」が外洋北側のメデュース海峡から進入し、図らずも、8月25日の再現に位置取りを果たしていた。
レイアーン公王国が第肆(四)帝国総軍を撃退しての後より、僅かに5日後の電撃的な包囲網である。
今度こそはと、南ソルティアを陥落させんと、側面海峡からの砲撃を前提とした布陣を敷く。
のみならず、東海峡沿いに上陸を果たした「公国王位騎兵団」が陣形を固める。
指揮を執るのは閣僚ケイスケ・ソリッドシメールだ。
総数600騎兵からなる騎馬陣形横隊に展開し、開戦は今かと距離を保つ。
北側に伏兵として配されたのは、クリシュナ派の精鋭部隊400騎兵。
同様に指揮を執るのはタッキーノ・アルジェントムニツィオーネである。
予期せぬクリシュナ派と「公国王位騎兵団」による挟撃。
だが、そこに待ち受けるはレヲン・ギ・ル率いる「銀の種族」(アエテルニタス)の第弍帝国総軍。
銀の帆船群を擁する彼等との戦いは、如何にスムーズに侵攻し、都市内部に取り付くかにかかっている。
サクトリフ・ヴォルフォルターの演算結果によれば、現状戦力での対比は五分と五分。
「…もしくは、不確定要素を含めても、あまり芳しくはない。」との事。
余談になるが、南東諸島群に侵攻していた筈の第参帝国総軍が反旗を翻し、現在、学園都市「ウィラ」を中心とする「自由都市連合」を巻き込み、第壱帝国総軍と交戦中である。
この好機を逃す手は無い。
「上空からの攻撃には、出来うる限り、アルキストラテゴスの対空砲火で対処します。
言うなれば、地上戦に障害なし。勝機は我らにあります!」
陣頭指揮に加わったアター・ラ・ラセンが、王位騎士を煽動しつつ、ケイスケ・ソリッドシメールと轡を並べる。
「しかし、この戦は成功するのかねぇ…。」
「信じましょう。俺は彼等を信じています。そして仲間を…。」
とは言えども、アターが気がかりなのは4日前に「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)へと向かった、リンベルさんの動向であった。
案内役を求められ、塔出身のタッキーノさんが立候補したものの、彼はもはやクリシュナ派にとって必要不可欠な人物である。
代わって案内役を買って出たのが、件の最重要人物であった…。
彼についての詳細は未だ伏せられたままである。
噂ばかりが先行する人物であるが、同行者の妖精族も剣の使い手としては達人級であるとか…。
無論、この南ソルティア攻略戦の是非は、彼等が握っていると言っても過言では無い。
刻限は刻一刻と迫りつつある。
しかしながら、旗艦「イーンスルターレ」を使用しての隠密行動ゆえに連絡は密に取れないのが実情。
全ては人工島「アルキストラテゴス」統制コントロールルームに陣取るサクトリフ・ヴォルフォルターの演算結果を持つほか無い。
ジレンマが疼くも、進軍の指示を待ち続けるしかないのだ。
同刻、旧ソルティア公国首都「公領曼荼羅華」即ち現帝都、その中心部たる「喜見城」からほど近い森林地帯、「灌頂の森」に彼等は身を潜めていた…。
旗艦「イーンスルターレ」は、外装に超高度の全方位被写幕術式を組み込まれ、目の錯覚を応用したステルス機能で隠されている。
至近距離に近付くまでは、周囲の景色と一体化し、鏡映しの林を生み出していた。
これは「西方快賊」の「エルフェンバイン(象の牙)級3番艦オルガデス(鯱の群)」の技術を流用したものである。
先に送り出した「鉄鎖騎士団」の敗残兵100騎を見送り、これが帝都の門を潜った事を確認し、ハイランダー(貴戦士)K・アルザードキングは独り言ちた。
仮定の勝算で見出された計画ほど心許ないものは無い。
戦力を分散し過ぎている感もある。
「だが、それは騎士としての戦場の見方か。今ならば信じられる。仲間の力をな…。」
「仲間ねぇ…。」
不服そうな声色で、ことの成り行きを見守る騎士が傍らに控えていた。
今となっては、どちらの陣営に与すると言う選択肢は無い。
元より捕虜の身である…。
海中に墜ちたマリティネーテ嬢を救い上げるべく、その後を追い海中に身を投じた。
栄光位騎士の誇る「獅子回帰」の鋼の筋力で海流を裂き、泳ぎ切ったものの、女性一人を抱えての疲労は想像以上であった。
どうにか海峡岸に彼女を打ち上げるも、自身が這い上がるだけの体力は残されていなかった。
海流に揉まれ、意識を消失した後、気付けば人工島「アルキストラテゴス」の虜囚となっていたのだ…。
聞けば、先じて海中に飛び込んだ武人、リンベル・カセンショウが自分を引き揚げたのだと言う。
彼はただ1人で、あのヤーマンターカ・ハヒキのみならず、海中に没した私までも救い出したのか。
終ぞ、当のリンベル某殿に礼は言えなかったが、何たる力量であろうか。
恐るべき男だと感ずる。
「しかし…よく協力する気になったな?」
「協力するなど一言も言ってはいないがな…貴様が彼女の命を奪わなかった恩義だけは感じているさ。」
こう見えても、アスハダルト公国がかつて擁した「栄光位騎士団」の第五階位騎士である。ヒロト・グラーティア・ドゥーロは不貞腐れてながらも、Kに対して相好を崩した。
「…まあ、いいさ。これが上手くいけば、クリシュナ派も戦力が増強されよう。」
「そう、上手く行くもんかねぇ?」
しかし、ハイランダー(貴戦士)たるKには微塵の揺るぎも見られない。
かつて、マリティネーテ・ディギトゥスメディウスが「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」位を継承して以来、彼女は不敗を貫いてきた。
これを地に伏せ、一躍名を馳せる事となったのが、このKである。
帝国の本拠地たる「喜見城」に乗り込もうと言うのだ。それ相応の手練れが必要であろう。
だが多勢に無勢は言わずもがな。
だからと言って、加勢する気になったわけでも無いがな。
「大丈夫ですよっ。この作戦は成功しますからぁ~。」
気の抜けた相槌と共に、旗艦「イーンスルターレ」から顔を出した人物は、相変わらずの脳天気であった。
「魔道の徒」に所属する「レーヴ・ソムニウム」を伴い、クリシュナ派の指導者たる、ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルがしゃしゃり出た。
「今回はですね~、僕も一緒に殴り込みますから、大船に乗ったつもりでいてくださいね~。」
その自信は何処から来るものか?甚だ人迷惑な結論に、Kのみならず、ヒロトまでもが呆然とする。
そもそも、彼は戦えるのだろうか?と。
「本気を出したらですね、やれば出来る男なんですよ、僕は~。」
その細腕でレイピア(細剣)をブンブンと振り回してみせる。
甲冑を一通り漁っていたようだが、それは断念したようだ。触れないでおこう。
「…で、誰がこの人につくの?護衛役は?」
ヒロトの何気ない一言に、皆が目を背けた。
触れてはいけない質問に触れてしまったようだ…。
「…頼んだぞ。」
それは誰の言葉か?
「おおーいっ!まさか俺なの?俺っ??」
以降、Kは無言でヒロトに背を向けていた。目を合わせようともしない。
「おいっ、このやろぉ!俺の目を見ろっ!!」
憤慨する彼に取り合う者は誰もない。
高らかにガチャトーレの笑い声が響くのみであった。
これより刻は24時間を遡る…。
オ・ギリュッティーナ・アルキアティウスは彼等を塔に迎え入れていた。
「魔道の徒」(マーゴアンジェロ)十傑に名を連ねる超霊者である。
「…ようこそ、塔の客人よ。お待ちしておりました。」
旗艦「イーンスルターレ」による長距離航行は中央大陸北西部を横断し、レイアーン公王国の居城、スルスブロー宮殿を出て、一路、「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)へと進路を取った。
すべからく、ある目的の為にガチャトーレが指示しておいた計画である。
無論、健在するガチャトーレとは程遠い方のガチャトーレだ。
奇しくも、「賢者の山」に於いてガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウル本人の魂魄体は命を落とした。
その事実は黙され、クリシュナ派の実体に影響は与えてはいない。
しかしながら、現況、クリシュナ派を迎え入れた塔は混乱に陥っていた。
それもその筈、前塔主、エノイキアン・ダイダロスの指名によって次期の塔主に確定していたガチャトーレが消滅してしまったのだ…。
「…その結果、魔道の徒 (マーゴアンジェロ)は二つに割れ、クリシュナ派に協力を良しとせぬ派閥が閉じ籠り、次期の塔主を決める為の対話にも応じない状況であるのですが…。」
そう言うと、オ・ギリュッティーナは溜息をついた。
しかし、閉じ籠ってくれている分には問題はない。余計な邪魔さえしてくれなければ、だ。
ところが、ここで思わぬ邪魔立てが生じた。
譲歩策として、派閥が提案した件である。
それが「魔道の徒」(マーゴアンジェロ)十傑に名を連ねる者…「レーヴ・ソムニウム」をクリシュナ派に同行させ、与する事が塔に利益をもたらすか否かを判断させよ…とのこと。
「…と言う次第なのですよ。」
「え~と、まあ、いいんじゃないですか~?」
軽い生返事一つでこれを了承するガチャトーレ。
目下、ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルの、この残された肉体であれ、決定権を有するは彼にある。
「まあ、異議は無いな…。」
Kもそう呟くし、クリシュナ派の他の戦士達も、それで不都合が無い為、目を瞑っているのが現状であった。
「皆んな、今まで通りにやってるとこを見て貰えば、それでいいんじゃないですかね~?」
そもそも、あなたの存在が一番の論議を及ぼしているのだが…。
さすがに、それをオ・ギリュッティーナは言えない。
その移植された神性たる「アガリアレプト(盲目の君)」が肉体に残された記憶と結合し、擬似人格とも言うべきものを形成していると思しい。
その結果、彼の少年的な性格が誕生したようなのだ…。
「そうですか。皆さんがそう仰るのなら、よろしくお願いします。」
そうこうして、オ・ギリュッティーナによって、皆の前で紹介された人物がレーヴ・ソムニウムである。
レーヴは「魔道の徒」(マーゴアンジェロ)十傑の中でも、オ・ギリュッティーナに次いで歳若い人物であった。
そんな彼が選ばれた理由は、彼が常に中庸を謳う立場にあり、十傑に於いても一目置かれる者であったからに他ならない。
年輩の雰囲気漂うものの、超霊者特有の、年齢を感じさせぬ浮世離れした印象を与えた。
第一印象は、穏和な笑顔が良く似合い、魔道士と言うよりも、外交官と言った風貌の佇まいである。
しかし、これが政治的な意味合いも関わってくる事柄である事を、この中の何人が理解しているのやら…。
今までのクリシュナ派と「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)の関係は援助に当たるが、介入となれば、反対派閥は恐らく漁夫の利を狙ってのことか。
「よろしく。人が夢を見る原理を研究している…レーヴ・ソムニウムだ。」
ともあれ、成すべき事を成さねば事態は好転せぬのも道理。オ・ギリュッティーナは次の事態に備えるべく、事前の予定通りに事を進める。
「…では参りましょう。間もなく人工衛星「黄幡星」とのランデブーポイントになります。これを逃しては勝機はありません。」
元来、大気圏外の施設と接合し、これの整備調整を行う為に建造された軌道エレベーターである。
本来の目的の為に使用しようと言うのだ。
だが、その為の機能復元は放置されて久しい…。
不都合があるやも知れぬし、この先は一筋縄ではいかない。
「…ソウマ殿もおいで下さい。お伝えしたい事があります。」
リンベル・カセンショウに続き、ソウマ・ヴァストック・キアもその後に続く。
互いの同行者もまた、その後続に続き、計4名が戦列を離れたことになった。
彼等を見送り、「頑張って〜!」の声援虚しく(ソウマだけが振り返り手を振った)、ガチャトーレは旗艦「イーンスルターレ」に舞い戻り、「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)を後にした。
まあ、そちらはそちらでレーヴ・ソムニウムを新たに加え、意気揚々(いきようよう)と盛り上がり、喜見城へと進路を取る事となるのだった。
(^ー^)ノヤマさん救出編…前編でしたw




