シナリオⅣ 3 後章 第5話〈後編〉
シナリオⅣ 3.15〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/16)〈後編〉
一気に間合いを詰め寄ろうと、騎馬を煽り走らせる。
「禁鞭」が障害となり、カンタルテ・ミセリコルディアはバランスを崩していた。
今が勝機。
と思われたが、思いの他に陣形が崩れている。
「…カズ・アダマンテーウスめ、あのバカ弟子は何をしている?」
ともあれ、ケイスケ・ソリッドシメールは「魔胱剣」を平正眼から叩き込む。
避ける隙間も与えぬ、剛なる太刀筋をお見舞いした。
ガキィィィ…ン!!
弾かれた。
咄嗟に回避し、騎馬を巡らせる。反撃の一撃を、禁鞭を解きて牽制する。
距離を保てただけでも僥倖であろう。
その場に割り込み、ケイスケ・ソリッドシメールの剣撃を弾いたのは、鉄鎖騎士団に所属する騎士、サスティン・サチローズ改め、サスティン・インデックス。
三宝の家系である「宝剣家」の騎士である。
「女性を斬るなど、感心しませんよ?」
「…私を女と侮るか?邪魔だてをするな。」
だが、助けられた方はそれを望んでいない様子。ともすれば、自殺願望があるのやと疑う。
「これは申し訳ありません。ですが、貴女は貴重な戦力。それに、妹さんを残して死ぬ訳にはいかないのでしょう?」
「余計な事を…。」
どうも陰険な雰囲気が漂う。
それにつけても「禁忌の極現力」たる「宝ナル剣」の因子。
飄々(ひょうひょう)とはしているが、あの細き剣「ラファーガ」で、この大剣を受け止め、あまつさえ弾き返し刃こぼれ一つせぬとは恐るべし。
「やれやれ、後手に回ったか…。」
サスティン・インデックス率いる遊撃部隊が合流したとなれば、魚鱗の陣形は左右半ばから寸断されたと見るべきか…。
前線が突出すればする程、孤立無援になり兼ねぬ。
しかし、ケイスケ・ソリッドシメールは、手練れの騎士2人と対峙したまま身動きとれず、戦場に釘付けにされていた。
…その頃、突出し過ぎる右翼をカバーすべく、「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」騎士団長、カズ・アダマンテーウスは陣形が乱れるのは承知の上で、前線に突撃の支持を出していた。
ぶつかり合う互いの総戦力。
怒号がぶつかり合う。
それはロン・タオ公国の公子「ハル・ロン・タオ」を矢面に立たせる訳にはいかず、苦肉の策であった。
また、カズ・アダマンテーウスには倒すべき敵がいた。無論、真っ先に「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」の姿を探し求めるが見当たらない。
「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」のトリコロール色に彩られた騎士等の活躍は目覚ましく、徐々にガルラバン山地側へと陣形を押し出して行く。
それは公子ハル・ロン・タオによる士気高揚の効果とも言える。
そう言う意味では、我儘でやりたい放題の王子様ではあるが、部下をやる気にさせる天性の采配を持っていると言えよう。
そこは素直に尊敬するカズ・アダマンテーウスであった…。
その最中、鬩ぎ合いを抜け出し、彼の前に踊り出でた騎影があった。
となれば、向こうも探していたと言わんばかりの猪突猛進で、トリコロールの騎士達を薙ぎ倒して行く。
金眼虹色の虹彩を宿す「金眼相」の持ち主。
即ち、「金眼の社」のケンタ・ウルス・タングマアイである。
対してのカズ・アダマンテーウスは白髪金眼の「白神相」として知られる。
かつて、「金眼の社」から派生した変異体にて、「黄金宮」を経てレイアーン公王国に保護された一族である。
「…よもや、このような場所で異端の者に出会おうとはな…。」
「黄金宮を裏切った者の言うセリフかっ!?」
何よりも憤怒せしは、帝国を「星見台」に招き入れ、黄金宮を崩壊せしめたこと。
私憤と言われようとも、我が一族の名誉にかけても奴を討つ。
腰の帯剣、聖剣「フェアブレッヒェン」を抜き放ち、下段地の構えにて剣気を漲らせるカズ・アダマンテーウス。
銀飾刀「イノセンス(無罪)」を掲げ、これに応えるケンタ・ウルス・タングマアイ。
共に有する「幽現の瞳」(タングマアイ)。
それは幽境の世界から霊剣を導き出し(瞳から)、己が剣と融合させる秘中の儀…。
実体剣をも霊質と化し、剣をすり抜け、その刃を肉体もろとも貫く技に回避は不能。
キィィィ…ン!ガキィ…ン!カキィ…ン!!
だが同質なればこそ、激しく交差する剣と剣。弾き合い、弾丸のごとく2頭の騎馬はぶつかり合う。
互いに多対一に於いて有効な剣技である。巻き込まれれば、敵味方を見境なく斬り裂いてしまう。
…故に陣は割れてゆく。
「貴様の所業、許されると思うなっ!」
「許してもらうつもりはない。私は、私の望みを叶える為だけに生きているのだからな!」
信念に基づく鋭い剣先。
全てに於いて互角であった。
「チィィ!!」
焦燥感がカズ・アダマンテーウスを襲う。
公王の虎の子「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」に入団を許され、前ジェネラル(団長)ケイスケ・ソリッドシメールを師事し、過酷な鍛錬の末に、筆頭騎士に昇格し「ユルティムソルダ(極致兵)」の号を得た。
後に、ロン・タオ公国に請われ、「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」騎士団長の地位に就くことになったが、剣の腕にかけては自負がある。
それを、この「金眼の社」の若き後継者ごときが互角などと…。
「ここまでやるとは…。」
「剣の腕には自信があったようだが…それが未完成な白神相の限界よな?我が剣流は黄金宮総主ゲレヒティカイト・クリシュナ・パトリ直伝、金剛念動砕破よ。」
するや、左翼の勢いが止まった。
まさかとは思ったが、案の定、陽動の策が見抜かれ、「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」マリティネーテ・ディギトゥスメディウスが主力を率いて抑えに回ったようだ。
「どうした?周りが見えぬ者は墓穴を掘るぞ。」
これを先回りし、ケンタ・ウルス・タングマアイが立ち塞がる。
「貴様っ、どけ!!」
左翼を率いるハル・ロン・タオの身が案じられる。
当のロン・タオ公子は当惑していた。
ハルの「トルフィット(物質感能力)因子」は、物質に宿る力を無限に引き出す特性を有する。
優れた魔力も剣才も持たぬハルではあるが、それを補って余りある公家の血筋である。
例えば彼がその場にいるだけで、四方50メートルに及ぶ範囲内の味方の武器、防具の耐久力は30%向上する。これは戦場に於いて、絶大な効果を及ぼす。
元来、ロン・タオ公国領内では希少な精霊石が産出され、この加工精製に特化し、刀剣や鎧製造業を特産とする。
それもひとえに公家の有する「トルフィット(物質感能力)因子」による恩恵であった。
「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」の騎士が着用するトリコロール色の甲冑と騎士剣は「ペネトレイト精霊鋼三種」を加工した特殊なもので、貫き浸透する多様性を含む加護力を生み出している。
ハルが着用するのはオーダーメイドの王子様風衣装ではあるが、更に精錬された硬度の「ペネトレイト精霊鋼三種」が各所に使用されている。
その結果、その加護力は無尽蔵とも言えよう。
のみならず、ハルは公家所有の国宝級「精霊石」を幾つも持ち出し、隠し持っていた。
「そんな馬鹿な…僕の力が…。」
だが、その加護力が打ち払われた。驚愕すべき事態である。
それを成したのは、ただ1人の騎士。
「宝ナル槍」に宿りし「禁忌の極現力」の為せる技。
聖剣「クルクスメーンス(十字の心臓)」の一振りに込められた多重結界の斬撃であった。
「我はラミナ=プロクルサトール(剣聖)…マリティネーテ・ディギトゥスメディウスである。いざ尋常に勝負されよ!」
ハルの顔が青ざめる。
現れし馬上の戦乙女。
気高き覇気が猛々しくも満ち、その気品漂う姿を照らし出す。
もはやそれは別格この上ない。
しかし、怯みながらも、ハルにせよ公子としての誇りはある。
「ぼっ、僕はロン・タオ公国の公子、ハル・ロン・タオだっ!」
帯剣を持たぬ代わりに、宝物庫から持参した弓「シェルシェール」の弦を引き絞る。
ハルのトルフィット(物質感能力)因子が作用し、百発百中の貫通力を与えるべく精霊力が収束する。
「…外せば、その方の首ないものと覚悟せよ!」
マリティネーテは初撃を譲り、馬上にて迎え撃つ構え。
それが世にも稀な弓と剣との一騎打ちの作法か。
各陣営は固唾を飲んで、遠巻きに眺めやる。
矢尻が一点を狙う。
心臓を狙いて撃ち出された矢尻に宿る加護力。
空を切り裂き、時を超越せんと迫る。
その狙いは寸分違わぬ。
常人には反応出来ぬ速度を、だが何の因果か、聖剣「クルクスメーンス(十字の心臓)」の刀身が盾となり弾いた。
ガキィィィ…ィィィン!
「まさか、僕の矢がっ!?」
有無を言わさず肉迫するマリティネーテ。
敗北感から微動さえも出来ぬまま、その刀身が、今度はハルの心臓目掛けて撃ち出される。
流れるように華麗なる軌跡であった。
…死を覚悟した。
その時、天より降り注いだ7本の剣が障害となり、マリティネーテの剣を止めた。
もとい、それを察し、身を引いたのもさすがと言わざるを得まい。
で、なければ地に刺さりし7つの「剣の英霊」(スピリトゥース)によってズタズタにされていたのは、マリティネーテの方だった筈だ。
「卿、このような所にまでっ!?」
戦場に舞い降りる騎士。
「…ハイランド騎士団領 (ハイランドナイツ・トゥアン・テリトリー)の名誉と尊厳に誓い、貴様を討つ!」
生き残りしハイランダー(貴戦士)が1人、K・アルザードキングが立ち上がる。
…戦場に集う皆が頭上を見上げた。
上空に到来せし一隻の船。
それはかつて、「銀の種族」(アエテルニタス)が使用していたものだが、発掘されたものを原型ないまでも改修し、巨大化した旗艦として今や運用が可能となった。
船体には「クリシュナ派」の徽章が刻印されている。
旗艦名は「イーンスルターレ」と名付けられた。
満を辞して、ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルに率いられた戦士達が咆哮を上げる。
うぉぉおおお…クリシュナ派万歳ぁぁぁあ……い!!
「銀の種族」(アエテルニタス)のユウラーレ・ル・ドゥスが施す浮遊落下魔道を得て、彼等は次々と戦場に降り立った。
サスティン・インデックス並びに、カンタルテ・ミセリコルディアに囲まれたケイスケ・ソリッドシメールの元に降り立つのは、「ラセンの都」に住まう末裔にして「死人使い」アター・ラ・ラセンである。
「助太刀します…。」
ここに来て、クリシュナ派の介入により戦況が動いた。
レイアーン公王国にとっては予期せぬ増援となり、陣形の建て直しの猶予を得たと言える。
何より、クリシュナ派の戦士は一騎当千の実力を有す。
だがしかし、戦は中盤戦に過ぎず、夕刻が刻一刻と迫っている。
戦いは未だ終わりを見せずにいた…。




