シナリオⅣ 3 後章 第5話〈前編〉
シナリオⅣ 3.15〈私が変わったときに変わり、私が頷いたときに頷くような友は必要ない。そんなものは、私の影がずっとうまくやる〉
I don’t need a friend who changes when I change and who nods when I nod; my shadow does that much better
草創歴0449年9月(9/16)〈前編〉
…初戦の喧騒が止んだ。
激しくも小競り合いが其処彼処で繰り広げられ、剣と剣とが交差した。
逐一、陣形が乱れぬよう腐心しつつ、連携を呼びかける。
中隊ごとに王位騎士を配してはいるが、統制は難しい。
敵対戦力は「マスター・エイヴィス」率いる第肆(四)帝国総軍800騎。
そのほとんどが「鉄鎖騎士団」に所属する隷属騎士である。
実質上、これの指揮を取るのは「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」マリティネーテ・ディギトゥスメディウス嬢であった。
「ブリュイヤール(霧)山地」を挟み、配置は横陣にて散開包囲の構え。
対する我が陣営は中隊歩兵陣形にて、レイアーン公王国の居城、スルスブロー宮殿を背に魚鱗に配して迎え討つ。
総数1000騎兵…。
だが、その約半数はロン・タオ公国に所属する騎士団「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」である。
レイアーン公王国と隣接する、この公国との結び付きは強い。
ロン・タオ公国は分家に当たり、互いの公家は婚姻を度々行ない、親戚筋にある。
右翼の陣頭指揮に当たるは公子「ハル・ロン・タオ」だった。
戦力比ではこちらが上回っている。
防衛戦に関して言わば、その比率が2倍であっても持ち堪える事が出来よう。
故に「公国王位騎兵団」は3分の1を温存し、首都「ルードマージュ(狼の傷)」内部に待機している。
留意すべきは、マスター・エイヴィス直属「永劫種の従属者達」のみだが、まだ日は高い…。
だが、予想以上に鉄鎖騎士団の脚は早く、士気も高い。
「クリシュナ派」に良いようにされ続けてきたとの噂だが、前評判よりも質は高く感じた。
1度は押し返したものの、こちらの足並みが揃わぬうちに、攻め寄る遊撃部隊に右翼が誘い出されている。
戦慣れせぬ若きハル・ロン・タオが浮き足立ち、その結果、勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)を突出させるわけにもいかず、やむを得ず、王位騎士を率いて前進を指示した。
騎馬の手綱を打ち、怒涛の如く駆け抜ける。
些か衰えはしたものの、かつては公王家の虎の子たる「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」でも随一の早駆けの名手であった。
そこに遊撃部隊の一つが出鼻を挫こうと、左側面からの襲撃を仕掛ける。
「ちぃ…!!」
見事な采配であったが、残念ながら数が少ない…。
側面からの攻撃にも前進形態で対処が可能である。
それがこの陣形の利点であった。
だが、予想に反してその突進力は弱まらない。
「このままでは陣形が崩れます!」
「馬鹿な。止まったところで陣形が乱れるは必至であろうがっ!!」
前線では既に衝突が始まっている。
先陣を率いるのは「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」騎士団長「カズ・アダマンテーウス」。
北西部でも名の知れ渡った有数の騎士の代名詞だ。
彼に任せておけば問題あるまい。引き際の契機を見失わぬ男だ。
とは言え、ここで足を止めれば前線が崩れかねまい。戦況が大きく覆る可能性もある。
「我に続け。側面からの攻撃を迎え討つ!!」
一中隊のみで抑えられるかは別として、手練れの騎士がそれを率いているのは間違いあるまい。
なれば、私自身が行く他あるまい…。
「…老骨に鞭打つのは酷な事だがな。」
弱音が口を突くも、狡猾さは負けるつもりは無い。
それにつけても、よもや鉄鎖騎士団が、ここまで決死の覚悟とは恐れ入った。
立ち塞がる敵に一群となって喰らいつく。
目を見張るのは、騎馬上で振るわれる「大鎌」の軌跡か。
近づく者を縦横無尽に斬り伏せる戦技。
更にそれが女性騎士となれば、思い当たる名は一つしか無い。
「後光騎士「煌」(カヴァリエーレ=シンティッリーオ)のカンタルテ・ミセリコルディア卿か…。」
思いもよらず強敵に遭遇するも、ここで時間を稼がねばならぬ。
王位騎士の象徴である「黒狼の鎧」が警戒を示し吼える。
魔道によって精製された狼の魂が「魔胱石」によって製造された甲冑に封入され、自己防衛本能を発揮する。
故にレイアーン公王国の擁する「公国王位騎兵団」の防御能力は他を圧倒するとされる。
ともあれ、その甲冑と対となる「魔胱剣」を「召喚」により、瞬時に掌中にて物質化する。
このトゥハンドソードの内部に封入されしは「狼の牙」(クロ)。これに宿るは闘争本能。
故に、二つあってこそ、最大の効果を発揮する。
即ち、野生の勘を装着者に与えるのだ。
ガキィィィ…ィィィン!!
「死精の王」(タナトス)の宿るフラウロズの大鎌を寸前で弾いたのも、野生の勘あってのものか。
だが、こちらの牙も通らない…。
見事な制圧圏を成し、攻撃と防御を一体化している。
この間合いに入るのは危険極まりない。しかし、懐に入らずば致命傷を与えるのは不可能に近い。
また、カンタルテ・ミセリコルディアは常に無表情であり、顔色を読む事も困難であった。
「…無口な女性は、あまり好みでは無いのだがな。」
「……。」
動きを止められず、攻めあぐねるのは双方とも同じか。
だが、すかさず金色の鞭「禁鞭」が間隙を突いて、彼女の右腕を縛りつける。
常ならば両手で振るうべき魔胱剣を、彼は鞭までも使用する手練れであった。
更に、どう足掻こうとも、この鞭は外れない。
若い時分、東の祇園「戸隠の郷」(レクスサクリフィクルス)で授かった、霊子によって編み込まれた魔道武具である。
内心、胸を撫で下ろした。
人員が足りないとは言え、こうして戦場に出るのは久方ぶりであったのだ。
ケイスケ・ソリッドシメールは、元来はレイアーン公王宮を構成する「絶対公王政議会」の「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」並びに「公国王位騎兵団」を統括する立場にある廷臣(軍部大臣現役武官制)閣僚である。
先の第肆(四)帝国総軍の攻撃が長引き、名のある王位騎士将「五色の騎士」(サンククルール=シュヴァリエ)は戦死の憂き目にあった。
惜しむべきは紅一点「翡翠の騎士(ジャッド=シュヴァリエ)」ユーキシエル・フリュニエールが未だに行方不明である件か…。
他方、老骨と言うほど高齢でも無いが、壮健と言うほど体調万全でも無い。
だが元来「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」出身の為、体力には些か自信はある。
行方不明と言えば、2年前より消息不明となっている公王子「ノーヴァル・ハウ・レイアーン」もまた気掛かりではあった。
厄介な事に、先王ソヴァールが半年前に致命傷を負い、病床に臥せっており、勅命なくば動かす事も儘ならぬ「ヴァンジャンス(王立洗礼騎士団)」を戦線に投入出来ぬ次第…。
手を尽くして追ってはいるが、公王子の足取りは「賢者の山」からプツリと消えている。
これに血相を変えて怒鳴り込んで来たのは、隣国「ロン・タオ公国」の公太子であった。
顔を膨らませ、方々へと怒りを振りまいている。
「兄上は何処に行ったんだ!?お前ら、ちゃんと探してるのかっ!」
「お言葉ですが、ハル公子。こちらも全力を尽くしております。」
事実、「五色の騎士」(サンククルール=シュヴァリエ)たる「緑翠玉の騎士」(エメロード=シュヴァリエ)アルエット・ヘオジュエに事を当たらせてはいるが、未だ朗報は届いていない…。
取り乱して泣き叫ぶ子供のようで、ケイスケは毎度のことながら、ため息をついた。
公王子ノーヴァルとハル・ロン・タオは実の兄弟では無く、血縁的には従兄弟に当たる。
だが、ノーヴァルを兄のように慕うハルを、彼もまた慈しんだ。
常日頃、公王宮に微笑ましい兄弟関係を振りまき、公王宮の華として話題となっている人物である。
見た目にも幼い印象を与えるハル公子は、服装も王子様的なものを好んで着用しているようで、メルヘンチックこの上無い。
「僕が直接、賢者の山に行って調べる!!」
「…公子、帝国との紛争中に馬鹿な事はおやめください。」
「…え?馬鹿?」
その後の騒動は想像にお任せするが、一悶着あり、危うくロン・タオ公国との関係断絶にまで発展する所であった。
「勝利の旗(ヴィクトワール=ドラポォウ)」騎士団長、カズ・アダマンテーウスに泣き付かれ、謝罪訪問をさせられる羽目に陥った。
…そこは思い出したくもない回想である。
あの我儘公子め、甘やかされ過ぎにも程がある。
だがその帰り道、思いもせぬ邂逅が待っていた。
「…何者か?」
それは7月の上旬のこと。
雨が滴る中、木蔭から現れたのは、小柄なれども体躯逞しき偉丈夫であった。
眼鏡が印象的で理知的な男に見える。
その儀式的な道着には見覚えがあるな…。
「…賢者の山の者か?」
「大賢者シサイア・ヴァジャンの命を受け、民間組織クリシュナ派を設立させて頂きました、タマウガード・スパエラと申します…。」
クリシュナ派の名は既に知れ渡っている。
ラ・ウル公国の公子、ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルがその名の由来と噂されているが、その背後に「賢者の山」があるとは初耳である。
「…して、私に接触した理由は何か?」
「我々、クリシュナ派は未だ戦力不十分ではありますが、いずれは帝国に仇なす組織となりましょう。その時が到れば助力いたしたく思います。」
「なるほど、協力関係を築くのはやぶさかではないが…。」
だが、時期尚早の感もある。
何より、公王子ノーヴァルは賢者の山で修行し、「賢者の称号」(ハイ・ダァト)を得た経緯があり、大賢者シサイア・ヴァジャンの直弟子に当たる。
「だが、ノーヴァル様が戻られるまでは、どうにも動きようがあるまい。」
レイアーン公王宮は混乱の最中にあり、「賢者の山」を危険視する意見も上がっているのが実状。
馬鹿な憶測だとは思うものの、刺激する気にもなれない。
「…いずれ、我々が公王子を救い出す為の力となると、北極の学問の塔 (コネサンストゥール)のエノイキアン・ダイダロス塔主より承っております。」
「ほう、あの大老、恐れいるな…。」
ここに至りて大賢者のみならず、あの大老まで動くと言うのはただ事では無い。
ならば、まだ我らがレイアーン公王国にも未来はあると言うべきか…。
だが、その接触より2ヶ月、状況は進展せず。
もしくは更に悪化していると言わざるを得ない。
その最たるものが「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)の陥落である…。
「ヴィワン諜報機関」を介し、聖堂騎士団長レーズダン・スサリーと連絡を取り合っていたものの、その目論見は露と消えた。
「聖王女」レーア・ノウスト・ラムサの行方も掴めず、滞在されていた「フレーグ騎士団領」(フレーグ・カヴァッレリーア・テッリトリオ)の首都、港湾都市「ペルラチッタ」も壊滅している。
…何ともままならぬものだ。だが、今が耐える時であるのは言うまでも無かった。
(^ー^)ノレイアーン公王国編…開始。
文章量の関係でここから前後編に分けます。( ´ ▽ ` )ノ




