シナリオⅣ 3 前章 第5話
シナリオⅣ 3.5〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉
I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light
草創歴0449年7月(7/20)
反帝国を掲げる民間組織「クリシュナ派」の拠点は各地に点在していたが、ここハイランド(山岳地帯)と言う名の都市は、その中でも特殊な意味合いを有する。
草創歴50年、教皇会から初代「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)位」を授かった伝説の人物「サーガイア・ニヒル」。
ハイランドは彼の生誕地と伝わる。
サーガイアの志を引き継ぐ「ハイランド騎士団領」(ハイランドナイツ・トゥアン・テリトリー)は、同年に公国共同運営として、この地で設立された。
各公国騎士団より選りすぐられた心技体、真に優れた者のみが、その頂点たるハイランダー(貴戦士)十三名に名を連ねる事が許される。
だが、ハイランド騎士団 (ハイランドナイツ)の本拠地たる「チョール・ゲルニカ(国歌の都市)」は、帝国によるマイルウェスト公国陥落を受け、その奪還の為に騎士団を派軍。
その隙を突き、第肆(四)帝国総軍の襲撃を受けて瓦解してしまった。
取り残された騎士団もまた、壊滅の憂き目を見る事になる…。
今日もまた、戦士の伝承碑に花を捧げるのはただの一人、K・アルザードキングのみ。
そのKもまた、ハイランダー(貴戦士)の末席を埋める者として、あの戦いに参列していた。
そして僅かに生き残った者を率い、地に潜伏したのだった…。
それがこの地、ハイランド(山岳地帯)。
取り囲む大地は、その多くが氷河による浸食と堆積の影響を受け、起伏があり険しい自然の要塞。
その都市は古代の火山岩頚の頂上に位置しており、極めて守備的に有利な位置にあると言えるのは、ジョーイ(涙の)川が下流域で蛇行を繰り返している地域であることも関係している。
歴史上では歴代のマイルウェスト公の勅許を得た自治都市として有名であり、「フォルファン城」と中世の市街地の周囲に居住区が集まるかたちで構成され、その眺望は中世の色彩豊かである。
「ヤマさん、私達はいつまでここにいるんですか、ね?」
「…あ〜、わかんね。だって、あの兄ちゃんほっとく訳にはいかんだろぉが?」
ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスの言う兄ちゃんとは、無論、今や「クリシュナ派」の代表として活動するガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルに相違ない。
北ソルティアを脱し、ピュリタ・ネーゼ・ウォルタンの案内の元、ここハイランド(山岳地帯)に辿り着いたのが6日前だ。
「…にしても、リューの奴は何やってんのかなぁ?お金持ってるのアイツよっ?っか、俺のお金よねぇ?」
音信不通のリュー・シュレンメイは今頃、何処か…。
どっかで買い食いでもしてるのが目に浮かぶ。
「既に霊符の効力は切れて連絡途絶していますからね。しかし、リューなら一人でも大丈夫でしょう…。」
「なにさっ…俺は一人じゃダメみたいな言い方だな?」
細かいところで繊細なのが悪い所だ。ほぼ全体的にはガサツな性分にも関わらず…。
ハイランド(山岳地帯)の領主、「フォン・シャースタ」は「誠実」を表す白鳥の旗印が示す通り、クリシュナ派に協力的な人物であった。
クリシュナ派が拠点として使用しているのは、シャースタ家が管理してきた都市貯水管理施設である。
この施設を隠れ蓑にし、地下排水と給水のルートを網羅している。
ヤーマンターカとリンベル・カセンショウの二名はクリシュナ派の客分として、かれこれ6日間の滞在を経ていた。
…それにつけても、その順応の早さ。
既に皆からは「ヤマさん」と呼ばれて上機嫌。
何事かあると呼ばれて助太刀に行っている。…主に力作業ではあるが。
「何なら、就職したらどうですか?」とはリンベルの言葉。
「馬鹿やろう。俺は人の下で働く器じゃねぇ。」
特に親しくなったのが、中央大陸北西部でも名の知れる「サン・アガスティア」である。
彼は元来、「北極の学問の塔」(コネサンストゥール)に所属する塔の学者であった。
魔道技術の研鑽に殉ずるこの塔は、学園都市「ウィラ」、賢者の山に並ぶ三大名門となっている。
彼が何故に塔を出でて、クリシュナ派に身を投じたのかは定かではない。
だが、その体格、剛毅さ、適当さは瓜二つ。
意気投合し、夜な夜な抜け出すや、市街地酒場でのドンちゃん騒ぎ。
お互いにウワバミで手のつけようもない。
「はぁ…。」
それを横目に、1人盃を傾けるリンベル。
もっとも、飲み比べでヤーマンターカは一度もリンベルに勝った事は無かったが…。
そして代金はクリシュナ派へのツケである。
話は変わるが、ガチャトーレがクリシュナ派の代表に就いて後、組織改革が行われ、支部長が各地に置かれた。
各都市との結束は更に強靭になり、物資供給ルートが確保されつつある。
接してみるに、実に天然極まりないガチャトーレであったが、そのカリスマ性は目を見張るものがあった。
とは言え、その為の事前の準備はタマウガード・スパエラの賜物であろう。
タマウガード自身は数人の手練れを伴い、活動を南部内陸に拡げるべく、この地を発っている。
その酒場へと、フラフラと紛れ込んで来たのは当のガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウル、その人であった。
一方、一際盛り上がる円卓を挟み、互いに真っ赤な顔のサン・アガスティアとヤーマンターカの腕相撲は、遂に佳境を迎えていた…。
「ぐうぉぉお~やるじゃないかっ、ヤマさんよぉ~う?」
だが、腕力は拮抗している。
「サン!この野郎っ、俺をここまで追い込むとはぁ~ぐはあぁぁぁ~見事なりぃ~。」
そこらしこで、この腕相撲に賭けが生じているようで、ヤマさん頑張れコールが鳴り響いている。何をやっているんだか?
ハイランドの住民の底抜けに明るい気質に、彼等は受け入れられているようだ。
「…あの、あなた達…あれ程、目立つ行為は禁止だと言われてた筈なのに…自分達だけ楽しそうですね〜?」
恨めしそうに見つめる視線を感じ、二人の筋肉は瞬時に凍りついた。カンズメにされ続けた代表は、旨そうな匂いつられて鼻をヒクヒクさせている。正直、冷飯には飽き飽きの頃合いだ。
とは言っても、その指示を出したのはガチャトーレ自身である。
「えっ?あれはですね…僕ではなく、もう一人の僕なんですよ。」
「はあ?」
相変わらず、何を考えてるか分からない奴。そう思いながら、風土料理でもある羊の内臓の詰め物に舌鼓を打つガチャトーレを見守るしかない二人。
ふと、ガチャトーレは思い出したかのようにフォークを止めた。
「ああ、忘れてましたよ〜。アガスティアさんも聞いて下さい。」
「おっ〜?兄ちゃん、何だっ?」
「何事じゃ??」
二人は突然の事で顔を見合わせた。
「クリシュナ派は現時点でハイランドを放棄しま〜す。構成員は直ちに、次の合流地点へ向かってくださいね。」
「「…え?」」
あまりに突然の事で、状況が飲み込めない。
簡潔に説明すれば、市街地に抜け出ていた彼等にこそ非があった訳で、単身それを伝えに来たガチャトーレではあったが、その熱気に呑まれ、食欲を満たしてしまった次第…。
国家間の情勢を鑑みれば、先日、第壱帝国総軍によって陥落したとされる大国、「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)の悲報を受け、各国の緊張は高まっていた。
「…あ、ちょっとまずいですね〜。」
え、やっぱりその肉詰め不味いの?頼まなくて良かったとはヤーマンターカの言葉。
サン・アガスティアもこれに同意する。
「ヤマさん…違いますよ。」
ツッコミを入れたのは、一人盃のリンベルであった。
その刹那、酒場の外壁が粉々に吹き飛ばされ、内部に破砕された材質が降り注ぐ。
ドドド…ドドドド…ゴゴゴォォォ〜ン!!
二筋の斬撃が生み出した破壊力。
鋼の筋力がもたらす、圧倒的な物理破壊。それが栄光位騎士の誇る「獅子回帰」の相乗効果。
アスハダルト公子たる白豹の「タリズマーナ・ニア・アスハダルト」。
今一人の若き騎士は、ヒロト・グラーティア・ドゥーロ。
かつて「栄光位騎士団」に所属していた、第五階位騎士である。
「やろっ…おいしい登場の仕方しやがってぇ〜。」
「右に同じっ!!」
騒然とする場に居合わせた男達を尻目に、こちらもこちらで腕組みをしたまま不動のヤーマンターカとサン・アガスティアの双璧が対峙する。
だが、動揺と共に人垣が割れた。
タリズマーナと、ヒロト・グラーティア・ドゥーロも左右に分かれ、道を譲り、その者を中央に招き入れる。
「ん…?」
一同、騒然とした。
その女性、健やかなれど気高く覇気に満ち溢れ、清流の如き気品を纏う戦乙女の化身か?
それはハイランダー(貴戦士)にして、「ラミナ=プロクルサトール(剣聖)」の称号を持つ乙女、マリティネーテ・ディギトゥスメディウス、その人であった。
教皇会の法王によって、一時代に1人のみ授与される「剣聖(ラミナ=プロクルサトール)」の称号。
故にこそ、中央大陸北西部では、とみに名の知れ渡る人物である。
「貴公等、速やかにその男を我々に引き渡すがよい。」
瑞々しい唇から出たのは、予想外にも恫喝であった。
威嚇するかのように、両脇の栄光位騎士が、その剣を誇示する。
その男とは、即ち、クリシュナ派の代表たるガチャトーレを指していた。
だが当の本人は我関せずだ。
「おい、兄ちゃん…お前のことじゃね?」
「え〜?」
もう一人の我関せずはリンベル。
他人の視線で未だに盃を傾けている…。
「……。」
「豹牙」新設奇兵隊に代わり、「鉄鎖騎士団」が設立され、団長にマリティネーテが就いたとの、誠しやかな流言が流れていたが、この状況を見る限り、それは真か…。
既にハイランド入り口より下方、下流域中州地帯に鉄鎖騎士団が陣を張っている。
その数600騎。
とは言え、動きを見せる様子も無く、その指揮官であるマリティネーテ等が単独で先行しているのならば、威力誇示と見るが正しいか?
「……。」
さりとて、もはや、刃を止めるも限界である…。
身に付けた帯剣の7本が怨讐に高まっていた。
膠着した現場の上空から、狙い定めた猛禽のごとく、襲撃者が聖剣「イスマイール」を振り下ろす。
そこに躊躇は無い。
その対象は見知った顔。
「マリティネーテっ!!」
K・アルザードキングの刃を、だがマリティネーテは予期していたかのように、剣を抜き放ちざま、容易に弾き返していた。
ガキィィィーーーン!!
聖剣「クルクスメーンス(十字の心臓)」。
「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)が擁していた刀鍛冶、イグニファタス家より宝槍家へ贈られた逸品である。
だが女性の細腕にして、Kの斬撃を一撃で弾く業こそ、さすがは剣聖(ラミナ=プロクルサトール)と言ったところか。
その後の所作にも一部の隙も無い。
故にこそ、こうして帝国の尖兵に身をやつしている姿を見るは偲びない。
「…剣聖(ラミナ=プロクルサトール)にも関わらず、ましてや、共に戦い死んでいった同胞、我らがハイランダー(貴戦士)の名誉を穢すつもりかっ!?」
Kの怒りが木霊する…。
ハイランド騎士団を率いた張本人が、今や、帝国軍「鉄鎖騎士団」を率いる反逆者の筆頭。
この事実が明るみに出るや、ハイランド騎士団領 (ハイランドナイツ・トゥアン・テリトリー)の名誉はおろか、教皇会の権威も地に失墜しよう。
「ならばっ、今ここで我が手にかける!!」
Kの有する7本の「剣の英霊」(スピリトゥース)もこれに賛同する。
解き放たれた7本の刃が、Kの周囲で悠然と起立した。
まるで、各々にその持ち主が居るかのごとく、胸前で構えられ、刃の先を地に差し示し、地平を切る様は、まさしくハイランダー(貴戦士)の儀式剣技。
英霊を呼び覚ますKの、「アタラクシア(英霊同調化魔道)回路」の発動。
7本の刃が瞬時にマリティネーテに襲いかかる!!
これが契機となり、戦場が動いた。
Kと同様、機を窺っていたのはピュリタ・ネーゼ・ウォルタン。
その「闇の衣」(エクリプス)を纏い、闇と同化し身を潜めていたが、彼女の標的はただの1人だ。
「…っ!?」
湾曲状双短刀「漆黒のプリート・マルテッロ」で奇襲を狙うは、自らを捨てた婚約者、タリズマーナ・ニア・アスハダルト。
だが、その奇襲は読まれていたのか、黑装の剣士は容易に察知し、斬撃をやり過ごす。
「…来るとは思っていたが、相変わらず冷静さを欠いているな、ピュリタ?その程度の腕では俺の首は取れんよ。」
冷徹な目がピュリタを蔑む。
一方、酒に酔いながらも、クリシュナ派に属するサン・アガスティアは、迷う事なくグンッ!と跳躍していた。
その跳躍力は尋常では無い。
如何なる鍛錬の賜物か、猛虎の如き躍動感を乗せた徒手打撃を、栄光位騎士ヒロト・グラーティア・ドゥーロに目掛けて繰り出す。
僅かにコンマ0,5の神速の応酬。
北極の学問の塔 (コネサンストゥール)による、究極の人為的肉体構造変革。
その最たる「人型魔導書」の成果の集大成。
後付けによる第一号被験者にて、「赤蛇の破壊者」の異名を有する、赤髪のサン・アガスティア。
だが、この神速の連撃を封じたのはヒロト・グラーティア・ドゥーロに非ず。
ドゴォォォ…ン!!
サン・アガスティアの拳を覆う「紅蓮の鱗気」に手の平を焼き燻られつつも、これを受け止め、返す拳で反撃を打つ。
バゴォォォ…ン!!
その男の反撃を、だが今度は左手の平でサン・アガスティアが受け止める。
「ちぃっ!!」
互いに拳を掴み合い、封じられたまま微動たり出来ぬ緊張感。
皮肉じみた苦笑を同時に浮かべた。
「どうする?サン、俺を止めたいんだろう?」
その場に割り込んだ男とサン・アガスティアは、元より勝手知ったる仲であった。
「…帝国に対する技術漏洩並びに、我らが塔に対する背徳…何故だ?何故に裏切った、タッキーノ?」
タッキーノと呼ばれた男は自嘲した。
タッキーノ・アルジェントムニツィオーネ、それが男の名であり、かつては共に塔の学者として、後進の指導に情熱を傾けていた。
それが自ら進んで鉄鎖騎士団に身を投じ、何の因果でか、この地で再会しようなどとは…。
「サン、いつのもように酒を飲んでいたな?そんな事で俺に勝てるのか?」
サン・アガスティアとは対照的な細身の剣士ではあるが、猛々しい面と引き締まった筋肉とが印象的な美男の風貌である。
彼は帯剣していたが、今はあえて同条件で闘いたいと言わんがばかりの組み合いが継続していた。
「酒を飲めば飲むほど、俺は強くなるんだぜ?忘れたのか、タッキーノ?」
前述の通り、タッキーノを捕らえるべく放たれた追跡者こそが、このサン・アガスティアである。
全くもっての好機ではあった。
「忘れたわけでは無いが…戦歴は五分五分だった筈だぞ、サンよ?」
北極の学問の塔 (コネサンストゥール)を守護する要、「魔法戦士」の長にして、その類稀なる資質を以って、魔道技術の発展にその身を捧げてきたタッキーノ。
その前世返りによる、「魔人化現象」は未だ未知数であったが、まさしくサン・アガスティアの「赤蛇形態」と同等以上の戦闘能力を有すると目されていた。
周囲は混沌とし始め、巻き込まれまいと、傍観者は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
そんな中で、互いに私闘に興じる者達…。
マリティネーテ・ディギトゥスメディウスに挑むは、K・アルザードキングの無数の剣撃。
タリズマーナ・ニア・アスハダルトに復讐の刃を向けるは、ピュリタ・ネーゼ・ウォルタン。
タッキーノ・アルジェントムニツィオーネとサン・アガスティアは組みあったまま動じず。
最重要人物たるガチャトーレを守るのは、今や、なぜかヤーマンターカの1人のみ。とは言っても、本来はクリシュナ派とは無関係ではあるのだが…。
よくよく考えると、何故にここに居るのかも分からない。
どうしたものかと頭を掻く一方、今一人残されし第五階位騎士ヒロト・グラーティア・ドゥーロがヤーマンターカに迫って来た。
「うわっ!危ねえぇぇ〜。」
まあ、いつものごとく逃げるが勝ちかと、ヒョイと兄ちゃんを肩に抱える。
肩の上でガチャトーレが暴れるも、さして影響は無い。
こうは見えても脱出ルートは頭に入っている。
山岳部を貫く給水ルートを成す巨大配管の一つは、見分けもつかぬダミー通路となっており、混乱に乗じて使用するに適しているのだ。
そこに辿り着くまでの道は…ちゃんとリンベルが憶えている筈だ。
だが、逃げ出そうとした矢先、ヤーマンターカは足を止めた。
…止めざるを得ない状況にあった。
彼等の眼前、ヒロト・グラーティア・ドゥーロの前にと、鉄鎖騎士団兵士等数人によって引き出された、鎖に繋がれた虜囚の姿。
あれ?どっかで見た覚えのある奴だぞ?
「この者がどうなっても構わぬのならば、逃げても構わんがな…。」
そう告げるや、その斬魔剣を首筋に突き付け、威嚇する。
「ヤマさ〜ん。僕だよ〜。」
それは誰であろう、リュー・シュレンメイ、その人であった。
どう言う経緯でそうなったのか。
だが本人は、あっけらかんとした表情である。
ああ、これは察するに、連れて来てもらった方が早い的なあれですね…。
やれやれと、未だ1人盃のリンベルは呟いた。
ただ、案の定、そう言う状況が大嫌いな人物に火をつけたようで。
「き、貴様っ、動くな!?」
ヒロト・グラーティア・ドゥーロが動揺する。
場の空気が一瞬にして変わり、互いに私闘を繰り返す一同も、何事かと動きを止めた。
「俺はなぁ、そう言うやり方が1番、大嫌いなんだよぉ。」
それは、ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスの身から吹き出る異質な存在感の誇示。
凄まじく、圧倒的な霊子の奔流。
「な、何ぃ!?う、動くんじゃ…。」
ガチャトーレを降ろすや、ヤーマンターカはズイッと歩を進める。
「俺の前で次に同じ事をしてみろぉ、2度目は無いぞ?」
動くな、と言いたくも、声が出なかった。
まるで金縛りにあったかの如く、身動ぎ一つ出来ない…。
ヒロト・グラーティア・ドゥーロの目には、まるで近付いて来る者が、人型の小宇宙であるかのように感じられた。
圧倒的な存在感に射すくめられ、斬魔剣を動かす事も儘ならぬ。
額を冷や汗が流れ落ちる…。
「お前らぁ、こんなくだらない仲間割れやってて楽しいのかっ!!」
ヤーマンターカが一同を叱咤した。
「!?」
するや、その霊子波動は一気に拡大され、全員が小宇宙のただ中に放り出されていた。
「…これはっ!?」
「剣聖(ラミナ=プロクルサトール)」マリティネーテ・ディギトゥスメディウスでさも狼狽える。
今までに、味わった事の無い浮遊感と虚無感、そして孤独感が身を襲う。
同時に全てを見透かされ、意識を共有しあっているかの如き霊子の結合…。
皆が皆、瞬時にそれと理解した。
そして呆然とし、戦意を奪われていた。
これこそが、「御神座」を受け継ぎし陽家の血統…「羅候の星辰」。
天の星、羅候星の星気を宿す因子。
その中にあって、全てを掌握するはヤーマンターカただ1人であった。
『喧嘩はダメっ!』
それは彼の心の叫びか、トラウマか…。




