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シナリオⅣ 3 前章 第6話〈前編〉

シナリオⅣ 3.6〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉

I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light


草創歴0449年7月(7/30)〈前編〉


がむしゃらに走り抜けたその先は、まさに断崖絶壁であった…。


さすがの彼等も飛び降りられる高さに非ず、危うく足を滑らせるところを踏みとどまる。


…だが、これで万事休すか。

ヤーマンターカは憮然ぶぜんとする。


まあ、こうなったら仕方あるまい。

迎え討つ他あるまいが、前方に広がる森林に紛れ、その追跡者を見極めるのは容易では無い。


ましてや、彼等を追跡する者達の氏素性(うじすじょう)を知れば、森の中で応戦する危険性は語るまでもない。

未だここは「銀の種族」(アエテルニタス)の領域であった。


ヤーマンターカとリンベル・カセンショウは前衛を組み、リュー・シュレンメイ達を後陣に下がらせる。


さて…何から話せば良いものか、長くなりそうだが、まずは中央大陸北西部全域に拡がる森林地帯について話そう。


俗に言われるのは、中央大陸北西部は「森の世界」である。

中央大陸を統治した「聖ラムサ王國」(ハインリッヒ・ラムサ・ケーニクライヒ)にとっても、かつて未開の地である北西部の広大な森は、恐るべき存在であった。


哲学者でもあったダーヌ・セバーンは「荘厳で巨大な樹木が欝蒼(うっそう)と茂り、豊かな葉をつけた枝のために空が見えなくなっているような森の中に入ってゆくと、樹木の力と森の不可思議な力が神性を垣間みせてくれる」と語っている。


森に対する畏怖(いふ)感は、それはとにもかくさず、銀の種族 (アエテルニタス)に対する恐怖の感情へとつながっていく。


広大な森に住まう銀の種族 (アエテルニタス)たちの生活様式は、人のそれと全く異なっていた。

妖精族(エルトメンヒェン)から分かたれしとは言え、人類種ヒューマンを忌避し隔絶空間に隠遁いんとんする彼等と違い、一定の距離を保ちて、交易関係を築いてきたからこその、近くて遠い脅威でもある。


およそ、500年前の北西部は海峡に沿った一部の地域を除けば、ほとんどが緑の森に覆われていた。


大開墾が始まり、森を切り開いて耕地がつくられるようになるまで、このような状況が続いていたのだ。

カシ・ナラ・ニレ・シナノキ・ブナ・モミ。なかでもカシは、森林の王と呼ばれている。

高さは20~30メートルを越え、高い幹の上方に斜めに枝を張り、びっしり葉をつけ、また散らして2000年の樹齢を保つ。


人が森を切り開く努力を怠れば、森はたちまちのうちに村や畑を飲み込んでしまう。

恐るべき森の勢いに人は神の力を感じてもいた。


そんな畏怖すべき森林地帯が残る場所、それがアスハダルト公国領土内に現存していた。


「…それがここ、比類なき銀の台地 (アルジェント・ウィルダネス)です。」


羊皮紙に記された地図を指し示し、不安に揺れる少年の名を「ユーキ・オンベリーコ」と言う。


「ふぅ~ん、そこに銀の種族 (アエテルニタス)の都があんのぉ?」


ヤーマンターカの言葉に「はい」と彼は頷いた。


とても利発気で年の頃は十三、十四といった所か。

しかしながら、彼とて兄と共にクリシュナ派に属する、有数の使い手とのことだ。

しかしなぁ、見た限りは剣士と言う風体でも無い。


「あっ、僕はドルイド(自然崇拝者)ですから…。」


傍らに立て掛けた(カシ)の杖を引き寄せて見せる少年。


「で〜、あれか?そこに向かったお兄ちゃんが音信不通になったから、一緒に様子を見て来いってことなのぉ~?」


ヤーマンターカが語尾を伸ばすのは、面倒臭いと思うとあからさまに出る癖だとリンベルは知っていた。

とは言え、一人不安に(さいな)まれる少年を捨て置くのも人情に劣る。


「まあまあ、ヤマさん。これも立派な仕事ではないんですか?」


そもそも、ハイランドから脱出後、辿り着いたこの本拠地(予定地)で、もはや彼等はガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルの個人的な腹心と周知されていた。


帝国圏内の触書ふれがきに於いても、この者のくだり、通称「ヤマさん」で大きく載っている。

ガチャトーレ、タマウガードに次ぐ賞金額となっていた…。


何でこうなったの?


それは無論、毎度、目撃者を残したまま逃走してきた「あなた」の不手際ではあるが、それはそれでヤマさんの人柄だからしょうがない。

尚且つ、かの剣聖(ラミナ=プロクルサトール)マリティネーテ・ディギトゥスメディウスを退けたとの風聞は知れ渡っており、実際の事実はさて置き、持ち上げられると有頂天になるのが悪い癖。


「あっ、俺にかかれば大した事ないよ〜?何でも俺に任せなさいよっ。何でもするよっ。」


言ったからには責任を持ちなさいよ。それが酒の席とはいえ、だ。


「はいはいっ。確かに言いましたともっ!行きますよっ!行けばいいんでしょっ!?」


逆ギレですか。リンベルの視線が冷たく刺さる。


「僕も彼に協力してあげたいな。僕も兄さんが生きてたら…。」


リュー・シュレンメイの呟きに、一転して涙を浮かべるヤーマンターカ。

感極まるその様から顔をらし、ほくそ笑むリュー…。


そんな一行に囲まれ、困惑気味のユーキであったが、ハイランダー(貴戦士)であるK(ケイ)・アルザードキングを含め、関わった古参の皆が太鼓判を押す「噂のヤマさん」である。


この「噂のヤマさん」に率いられ、一行は3日の旅路を2頭立ての馬車を借り受け、旧道かられたあぜ道を進む。

無論、人目を避けての夜間移動を心掛けてのこと。

御者はリンベルが担当する。


とは言え、アスハダルト公国領内はとりわけ林道が多く、帝国の目も行き届かないのが実態である。

そこにはまた複雑な要因が重なってもいた。


「ところで、ユーキ君のお兄さんは、そこに何をしに行ったの?」


これから向かう先は未知の領域、銀の種族 (アエテルニタス)の首都「ベネヴォランス」。

何が待ち受けているかも分からず、無事に潜入出来るかも分からない。


行きから沈んだままのユーキであったが、年が近いせいか、リューとは話しが合うようだった。

いや、リューは童顔のプニプニ体系で、実際にはユーキより幾分年上である。

それを言うと激怒するので、ヤーマンターカは相席でじっと我慢。


「…うん、僕の兄さんは、タマウガードさんに命じられて、首都ベネヴォランスの様子を見に向かったんです。」


彼の話によれば、「銀の種族」(アエテルニタス)が何事か、大規模な行動に出ようと画策しているとの報を聞きに及び、その実態の把握をすべく、彼の兄に依頼したとの事。

更には、それが帝国に与する事であれば妨害するようにと…。


出来うれば、銀の種族 (アエテルニタス)とクリシュナ派の協力関係を結べれば言うべきことは無いのだろうが、音信不通に加え、このメンバーを派遣するあたり、もはやその線は絶望的か…。

リューと言えども想像出来る。


だが純粋無垢なユーキの瞳に、リューは目を背けた。


「だっ、大丈夫だよっ!お兄さんはきっと無事だし…それにホラっ!僕等にはヤマさんがいるからっ。」


「!?」


まさかの丸投げに、ヤーマンターカは愕然とした。

あれ?でもそれって期待されてるのかな?


「おおうっ!俺に任せとけっ!!」


その自信は何処から生まれるのやら、馬車を御しつつ、リンベルは苦笑する…。

帝都に潜入した実績はあるものの、確たる場所が判明しない都だと言うのに。


「ユーキ、方向は合っているのかな?」


「ええ、そろそろ馬車を止めて下さい…。」


リンベルの言葉にユーキが即答した。

とすれば、既にここは「比類なき銀の台地」(アルジェント・ウィルダネス)か。


夜の闇に紛れて進むのはここまで。

当初の予定通り、ここまでは無難に辿り着いたが、先行するユーキの兄と同じルートを辿っている為、警戒が強化されているとも予想出来る。


これについては意見が別れたが、正々堂々乗り込んだ方が良くねぇ?派のヤーマンターカに対し、反対派多数で却下された。


「リンベルはいつも俺に反対するよねっ?悪意がない?」


「ええ。そっちの方が面白いでしょう?」


リューは思う…面白い判断基準って何なんだろう?

ふと思ったものの、「隠形」霊符(アポストロ)の霊子調整に集中するため疑念を振り払う。


「さあさあ、皆さん。右手の甲を出してください。僕の霊符(アポストロ)を貼りますよ。」


帝都潜入の際にも使用した霊符(アポストロ)を順番に貼り付け、順次起動してゆく。

視認を拒絶する霊子反応を収束させた「祇園図(術式)」が、周囲の霊子を結合させる。


「いいですか?お互いに目視は可能ですが、外部との接触には十分に気を付けてくださいね。」


物理接触が無い限りは、そうそう破られるものでは無いと言ってもだ。


「前回のような不測の事態が起きないように、今回は僕も同行しま〜す。」


リューの同行に異存は無い。


むしろ心強いが、支援強化系に特化した霊符術は、「奥の(エウブレウス)」にあってこそ霊子の供給が持続するし、複雑な調整に費やす精神力も補完されるべきもの。

咄嗟の対応となれば、その効果は半減してしまう。


だが、リュー・シュレンメイはこの歳にして、「守護沙門」の第三位にある。

その符術の腕前は双璧無しと謳われる程だ。


「さあ、さあ。じゃあユーキ君、道案内をお願いしま〜す。」


リューにわれて、ユーキ・オンベリーコが道を示す。


「いやぁ〜、でも銀の種族 (アエテルニタス)の都ってどんな感じなんだろぉな?俺が思うにっ、凄い秘境って感じのお城なんだろ〜なっ。」


ヤーマンターカの想像出来うる範囲では、霧深い渓谷に守られた古城が精一杯か…。


ユーキの捧げ持つ樫の杖が地に突き刺さり、これを触媒として大地との意識共有を果たす。

精神が根を伸ばし、瞬時に森の構成因子と同化する。


「……。」


かなりの高度なネイチャーマジック(摂理魔道)の使役である。

これ程に古い森であれば、その霊質は一個の精霊王に等しいも、なんの拒絶反応も無く制する力量は、その年相応とは思えぬほどだ。


とは言え、今は頼るべき者はユーキ1人。中央大陸の魔道体系に熟知しておらぬ自分やリューは元より、他の1人は問題外か。


「…ヤマさん、ここからは余計な発言はやめて下さいね。」


「わ、分かってるよっ!俺だってそれぐらい…。」


だが、そこに開けた景色は驚嘆すべきものであった。

森はユーキを受け入れるや、反転するかのごとく、一瞬のうちに彼等を取り込んでいたのだ。


これは言わば、比類なき銀の台地 (アルジェント・ウィルダネス)と言う精霊の記憶中枢に焼き付けられた「忘却(ベネヴォランス)」と言う名の内包空間であった。


「うおぉぉぉ〜っ!何じゃこりゃぁぁぁ〜!?」


精霊が見る夢を体現するかのように、その景色は刻一刻と様変わりを繰り返す。

空は眩い虹色。

大地は煌めく星の砂が砂漠の如き丘陵を成している。


即ち、この都は夢の産物であった。


だが、ここに住まう「銀の種族」(アエテルニタス)は実在している。

この首都「ベネヴォランス」でさえも、彼等の幾つかある都市の一つにしか過ぎず、次元間航行を可能とする(すべ)を持つ銀の種族 (アエテルニタス)にとって、この次元の寄港先に過ぎない。


「え〜と…あれが都なのか?」


唖然として見上げる一同の頭上に、驚く程に巨大な球状物体が静止していた。

その大きさや、半径150メートルもの壮大さ。

この空間にあるものと言えば、丘陵に巨大な影を落とす、それだけであった。


「…あれ、どうやって入るんだぁ?」


少なくとも、頭上から200メートルはありそうな、ゆっくりと自転する人工小天体。

球体表面の大半は液体状物質に覆われ、いたる所に建築物が突き出している。


入り方…確かに、それが1番の難問か。


彼等が見上げる首都「ベネヴォランス」、その内部では今まさに、次元間航行能力を持つ銀の帆船群が出立せんがばかりであった。

その帆船数約60機あまり。


これを指揮するは、若き銀の種族の王太子「レヲン・ギ・ル」。


彼等の容貌は妖精族(エルトメンヒェン)に近しい。

若葉のごとき深緑の髪。

その耳の形状は独特であり、アーモンド型の瞳によって、一目でそれと知れる。

銀の種族 (アエテルニタス)もまた表情に欠けるも、見目麗しき若人であるは同様だ。


だた一つ違うのは、その身を覆う面妖な紋章にあった。

それは「(アウェルンクス)」を源とする遺伝子情報に刻まれた「禍紋」。

それは顔相にまで及ぶ。


『聴け、我が同胞達よ…こたび妖精族(エルトメンヒェン)の都、青陽の湖 (ウルティマラクス)襲撃は、我が一族の悲願を達成するに必要不可欠のものっ!』


人民を鼓舞する為の、レヲン・ギ・ルの演説が響き渡る。


『…神の摂理に反する道を進む我らが祖を(ただ)し、我らを見捨てた報いを、今こそ受けさせるのだ!!』


一際大きい歓声が湧き上がる。


うおおおぉぉぉ!!王太子万歳ぁぁぁい!!銀の種族 (アエテルニタス)万歳ぁぁぁい!!


続々と開口部より出航する銀の帆船群。

レヲン・ギ・ルに追随するのは、三眷士であるヴロンズ・ナン・ナ、オクト・ニーヲァの両名である。


首都「ベネヴォランス」に残り、彼等を見送るのは、三眷士である「ガープ・ヒュー」のみ。

当のガープは含み笑いを浮かべるのであった…。

(^ー^)ノ6話から前後編になりますっ。

ヤマさんグループの珍道中。

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