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シナリオⅣ 3 前章 第2話

シナリオⅣ 3.2〈光の中を1人で歩むよりも、闇の中を友と一緒に歩むほうがいい〉

I would rather walk with a friend in the dark, than alone in the light


草創歴0449年7月(7/5)


旧ソルティア公国首都「公領曼荼羅華」(現帝都)。

南ソルティアの領主、ガーランド家(我園家)が興した公家である。


元来は、ルネサンス建築様式の古典古代を理想とする建築美を体現する都市であった。

総じて、単純な整数比に支配された幾何学的な構造を採用していた。

ネオプラトニズムに基づく幾何学模様群の密集体。


それが今や、高度発展した錬金道の導入を経て、様変わりを余儀無くされていた。


魔道が世界の秩序を上書きし再構築する道理を物理的に証明し、物質に置き換えて留める錬金道の真髄。


かつて、人は霊子力学の解明にまで到達していたと言う。

霊子力学の頂点「八葉」の解明に至り、またこの世界に於いて、魔道は神的エネルギーに帰順する系譜にあり、それは次元構成の消費に他ならぬ。

つまりは、この世界に等価交換は存在し得ない。


その全ては錬金道で精製された希少鉱物レアメタル、その霊子配列を組み替える事で産み出された「覇光核(ダイナモニウム)」の産み出す無尽蔵のエネルギーからもたらされていた。


物質世界には存在しえない、別の高次元界にあるべき鉱石である「覇光核(ダイナモニウム」は、一定の指向性パルス(波動)を受ける事で霊子融合し、核内部にて高エネルギー粒子を自己錬成する。


その霊子配列構成図は初代帝位「ラシュア・エクナス」がもたらしたものだと言う。


帝都はその恩恵を受け、昼夜を問わず光に満ちた機械都市の様相を持つ。


とは言え、それは都市内部構造状の仕様であり、外観は蓮華を模した振動吸収転換防壁「展開型装甲」に護られ、その花弁が開くのは日中のみ。

夜間は完璧に密封され、立ち入る隙は無い。


半径300メートル。中心部を象る「喜見城(ションゲンゲビエット)」は地殻内部に収容され、開口時には浮上する(はがね)色の超巨大尖塔高層物体である。

帝都のライフラインは全てこの内部で賄われ、一般的な都市とは一線を画していた。

この中腹に「覇光核(ダイナモニウム管理中枢」があり、これらはラシュア・エクナスの直轄となっている。


「即ち、この最高層部に奴が居る事に、まず間違いは無いっ!!」と、ヤーマンターカ・ヘイ・ラーマスは断言した。


「俺の予感は必ず的中するっ!!」


その自信は何処から来るものか…?


相変わらずの無鉄砲さに辟易へきえきするも、嫌いでは無い。

あえて言えば、慣れてしまったと言うべきか…。

リンベル・カセンショウは「右近の桜」として、どうあれ従うが道理であった。


そもそも、今回の件も思い付きに等しいが、それが中央大陸にまで出張るとなれば他人事では無い。


自分が「御神座みかぐら」を継ぎたくが無い為の口から出たまこと。


…親父をぶん殴ってやるんだっ!


それは面白い。その修羅場は一見の価値ありと、ほくそ笑むリンベル。


だが運良く紛れ込んだは良いものの、暗闇に乗じての潜入は、生来の武人(もののふ)であるリンベルは言うに及ばず、ヤーマンターカに至っては隠密のオの字も知らぬ。


それでも人目に付かず、喜見城の(ゲート)を2人が潜れたのは、帝都壁外に待機するリュー・シュレンメイの手際によるものだった。


隣接空間に身を潜み、「祇園図(術式)」に座す少年。その周囲を霊符(アポストロ)が取り囲んでいる。


「え〜と、ヤマさん、リンベルさん、聞こえますか?」


霊符(アポストロ)を介して、リューの言霊(ことだま)が霊子信号に変換され、リンベルの持つ受信用霊符に転送される。


『…聞こえているよ、リュー。』


リンベルから明確な返答が返ってきた。


この喜見城(ションゲンゲビエット)とやらは、魔道技術的な障害は感知出来るも、霊子感応には未だ対応してはいないようだ。


「僕の陰形霊符の持続時間は約3時間です。絶対に他者とは接触しないでくださいね。」


ヤーマンターカとリンベルの身を包む不可視の視覚妨害は、事前にリューが施した霊符(アポストロ)の効果によるものだ。

各々、右手の甲に貼り付けられたそれが、周囲の霊子を結合させ、空間から姿を隠させ、視認と言う認識を拒絶している。


「なあ…ところで、俺達は何処へ向かってるんだ?」


進めども進めども、下り坂の分岐通路が続くばかり。ヤーマンターカがぼやく。


「まあ、そもそも、日中ならいざ知らず、夜はあの城は地中に収納されていますからね…あなたの予感とやらはどうしました?」


ジロっと、ヤーマンターカはリンベルを睨む。

忍び込むなら夜だと、お前も賛成した癖にと、ありありとその目が語る。


『…喧嘩しないで下さい。ヤマさんが持ってる感応霊符を介して、構造を把握してみます。少し時間を下さいね。』


分かった。と言ってみたところで、ヤーマンターカの足が止まる訳でも無い。留まると言う言葉は彼には無縁の性分だ。


「…ん。これは何の音だ?」


後方から迫り来る轟音。


ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ


と、想定外の事態に巻き込まれ、突入して来た貨物と思しき車輌に飛び移った。

彼等はそのまま車輌に身を潜め、運ばれて行くに身を任せる。行き先などは見当もつかない。


ともあれ、危うく轢き殺されるところだったと胸を撫で下ろす。


何故ならば、帝都地殻に穿たれた幾つもの通路は、その全てが貨物車輌専用のものだ。危うく対向車輌に轢かれる事を免れたのは幸運と言える。


「でもまぁ、運んでくれるなら、そっちが楽だな〜。」


あっけらかんとヤーマンターカは言うものの、乗り込んだ3両編成の車輌に人の気配は無い。

腑に落ちぬとばかりに、リンベルは視線を凝らす…。


見られている気配はあるか…。

このまま誘われるも一興か。


「…しかし、無計画もここまで来ると笑えますね。」


「だろっ!?」


皮肉を皮肉と捉えないあたりがヤーマンターカの良い性格である。


『…リンベルさん、その車輌はまずいですね。最下層に向かってるようです。』


霊符(アポストロ)から言霊が流れる。


「なんだよっ!まあ、でも1番下なら後は上を目指すだけじゃね?」


『え…いや、確かにヤマさんの言う通りですけど…。』


いつもの事だ。


と、車輌は地殻下の広大な空間に出でて、その全貌を彼等に晒す。

それは地下空間とは思えぬ第二の機械都市と言えるものだった。


喜見城(ションゲンゲビエット)構成物体が天と地とを支える異風景にあって、隙間無く稼働する生産工場ドームの合間を縫い、車輌用レールが全域を網羅し、集約されている。


「お〜。絶景だなぁ!?」


ヤーマンターカの言う通りに絶景ではあるが、言わば招かれざる客。

子供の如く目を輝かされても困る。


案の定、彼等の乗る車輌だけが本線から離脱し、更なる降下ルートに突入した。


ガタン…ゴトン…ガタン…ゴトン…ゴゴゴゴゴ…


雲行きが怪しくなってきた。


「…どうやら、ここで行き止まりのようですね。」


「あん?到着か?」


リンベルの瞳が透過する、車輌の先に待ち受ける帝国兵と思しき思念を感知。

その「雲外鏡の眼」が捉えていた。


そうして、終点に行き着いた車輌は襲撃を受けるも、既に内部はもぬけの殻。

帝国軍「豹牙(ザンナ・パンテーラ)」新設奇兵隊は指示通りに捜索を開始するものの、途方に暮れた。


「見えない者を探しようがあるまい…。」


黑装の若き剣士(スパダッチーノ)タリズマーナ・ニア・アスハダルトは笑った。


…ともあれ、通路は一つ。


「その場で待機!警戒は怠るな。」


さてはて、問題はそれを察知した長官ライ・ムと、従兄弟でありながらも犬猿の仲のケンタ・ウルス・タングマアイの動向か…。


ケンタ・ウルス・タングマアイが「豹牙(ザンナ・パンテーラ)」の二位に就いてから、ほぼふた月。内部の対立は激化の一途を辿っている。


そもそも、元来は山賊集団に属していた者に規律が守れる筈も無く、そういった輩と、止む無く山賊に身を落とした者との相違が浮き彫りになるのは時間の問題であった。


「白豹の瞳のライ・ム」とて前首領の首を獲り、その地位を奪った者である。

黑装の若き剣士(スパダッチーノ)自身、当時、囚われていた身を解放してくれた恩義に報いて、その手勢に加わった経緯がある。

既に故国、アスハダルト公国は帝国の手によって陥落していたせいもあったが…。


そして、ライ・ムに帝国との交渉を提言したのもタリズマーナである。


当の長官ライ・ムは最下層、辺獄(公族専用監獄)区画最奥部へと足を伸ばしていた。


そこは帝国にとって、最重要の要人を幽閉する「電子の監獄」(センテンスト)。


四六時中の尋問は、彼が反帝国組織「クリシュナ派」と如何なる関係にあるかの追及にあった。

だが、ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルはここに幽閉されて以来、1度たりとも地表に出ていない。

眉唾物の流言である。


ましてや、魔道現象を無効化する術式円環紋の電子構成の檻。

機械化された半永久的に持続する幽閉回廊の只中にあっては、ライ・ムの右目「盗賊の瞳」も効力を発揮できぬ。


…何が出来る筈も無い。


あの日、「星見台(エトワールトロンヌ)」で以来の邂逅であった。


ガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルは急激にやつれ、かつての面影は失われ、瞳に光は無い。

鎖に繋がれたままの、これを生かし続ける事の是非を問いたいものだ。


かつて黄金宮(ロゴス)の次期総主が、逆に哀れだな…。

憐憫の情?冗談では無い。


黄金宮(ロゴス)と金眼の社に見捨てられたのは俺の方だ。

異端の子と罵られ、野盗に身を堕としたたのは俺の方だ。

恨む権利は俺にこそある。


ライ・ムは罪剣「フェアラート・クリンゲ」を鞘走らせる。


「おっ!?ここ何だ?ここは怪しいぞ、リンベルよぉ。」


けたたましく鳴り響く大きな声に妨害され、その凶行は寸断された。


「!?」


何事かと振り向くや、彼等はもう既に背後にいた。


「おい、お前。ここ何処だ?」


緊張感の欠片も無く、この尊大な態度は何なのか?

思わず殺意が生じる。


顎を狙った下段からの切り上げが唸りを上げた。


ガキィィィ…ン!


だがライ・ムの罪剣「フェアラート・クリンゲ」は、間隙を抜いて突き付けられた「妖刀・香具山食かぐやまじき」によって弾かれた。


「うおいっ!?何だこいつ?いきなり切りかかってきたよっ!」


慌てふためくヤーマンターカを尻目に、リンベルは妖刀を八双の構えに維持したまま微動たりもしない。

ライ・ムの斬撃を横から軽々と弾き返す技量、それは只者では無い。


「じゃあいいやっ、こっちに聞こう!」


「き、貴様っ、何をっ!?」


ライ・ムの当惑。


気付いた時には刻既に遅し。


メキメキメキッ…バキンッ!!


囚われの身であったガチャトーレ・クリシュナ・ラ・ウルを縛る鎖の錠を素手で引き千切り、その捕縛から解き放っていたのだ。

何より、素手で「魔胱石(アダマンチウム)」の枷を引きちぎるなど、あり得ない現象である。


「おいっ、お前さんっ、しっかりしろや〜。」


肩を貸して起き上がらせるも、憔悴しきったガチャトーレは目を閉ざしたままだった。


「きっ、貴様ら、何者だっ!?クリシュナ派の手のものかっ!!」


「あ?クリシュナ派?何だそれは?」


馬鹿にするのも大概にしろ。

第一、どうやってここから逃れる気であるのか?

ましてやここは「電子の監獄」(センテンスト)だ。


「おい、リンベル〜。この下に水脈があるらしいぞ。って、この兄ちゃんが言ってるんだが?」


言っていると言うよりも、彼の魂魄が肉体から抜け出し、床を指し示し告げているのだ。

お前らには見えないのか?


無論、そんなものはライ・ムには見えない。

幽閉回廊ゆえの障害が裏目となっていた。

灯台下暗しとはこの事か。


『残念ながら、僕も速やかな退避をお勧めします。そのルートからでは、逆行はきわどいですね。』


リューの肯定を受け、リンベルは正中線を正面から外し、その構え、動作に「門守塔」極意を顕現する。


「…桜花の祇園図(術式)!!」


「妖刀・香具山食かぐやまじき」の刀身から幻想的な桜の花が無数に舞い散り、その花弁が刃となりて電子の檻を傷付け、火花を散らす。


バチッ…バチバチバチッ!!


「ば、馬鹿なっ!?ここでは魔道に類する力は無効化する筈!!」


しかし目の前で起きている現実。

この渦に触れただけで肉はズタズタに引き裂かれよう。ライ・ムは身を引く以外に手はなかった。

何より、ここでは自身の特能を発揮出来ぬのだ…。


「さあ。ヤマさん、行きますよ!」


『僕の感応霊符で障壁を張ります。水脈に落ちたら、なるべく1箇所に集まって下さいね。』


言うよりも早いか、リンベルはヤーマンターカの首根っこを引っ掴んだ。


「あわわっ、またかよ!?」


高速で走る車輌から飛び降りたと同様、本日二度目だ。

今度も擦り傷で済むんだろうな?


リンベルの妖刀が桜の花弁の渦を纏いて、彼等が居座る牢獄の床に穴を穿うがつ。


ガシャヤヤヤーーーン!!!


大音響と共に床面が崩落し、もろともリンベル達は姿を消した。


残るはヤーマンターカの悲鳴のみ。


「あーーーーーーーっ。」


その光景を空間投影型全天周モニターにて見やるはケンタ・ウルス・タングマアイ、その人だけであった…。

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