シナリオⅣ 2 後章 第9話〈前編〉
シナリオⅣ 2.19〈愛は約束、愛は思い出の品。一度与えられると、忘れ去られることはない。決して愛を失くしてしまわぬように〉
Love is a promise, love is a souvenir, once given never forgotten,never let it disappear
草創歴0449年8月(8/29)〈前編〉
急拵えの操縦席と剥き出しのコンソールパネルを設置し、複数人で機体制御を分担することで、ようやくそれは稼働状態に至った。
元より未知の技術を人の手で復元したものである。
更には、それを強奪した「クリシュナ派」は「巡検士機関」と共同でこれを解析。
同盟都市カルラの地下空洞施設内にて修復作業に着手していたのだ。
緊急事態避難用にと手筈を整えていたものの、現在、この「アグネヤストラ(銀色の円盤)」はソウマ等主要メンバーを載せ、「アルピュタス聖不可侵域」を目指し空中を滑空していた…。
「…神の卵 (アニマ・オーヴァル)の一神経のみで、あの生命力…なれば本体が解放された時、どれ程の被害が生じるか想像もできぬ…。」
ヒュークリスタル・ヴォーグスの言う通り、事態は深刻であった。
如何なる手を使ってでも…それを阻止せねばならない。
我らの希望は唯一無二の「ソウマ・ヴァストック・キア」に託された。
それは沈黙化した「帝国軍第弍新帝都」を突如に襲った異変に端を発していた…。
…夕刻に訪れた夜明けの陽光。
辛くも、対帝国同盟「カイト」は第弐帝国総軍を壊滅に追い込んだ。
この消滅エネルギーは、元より鑫のテクノ・ミュラー・ウェストエイトによって、摩天楼を通路にして「空座」に集約されるよう偽装されている。
肆(四)大総統の一人、ポ・チダムーと共に、それは完全消滅を果たした…かに思えた。
「だが…何かがおかしい?」
テクノの推測通り、摩天楼を飲み込んだ消滅エネルギーがその場に留まり、縮退もせずに浮遊状態にあるのだ…。
「タマさん、これは!?」
退避途中に見上げる上空で、その変容をソウマは見て取った。
ズズズズ…ズズズ…ズズズ…ドシャーーーン!!!
消滅エネルギーが光る触手を伸ばし、地殻に突き刺さる。
「おい、テクノ!どうなっている?」
近接地に堕ちた触手の影響を受けて、激しい地響きが一帯を襲う。
騎馬が恐怖に悲鳴を上げた。
「どうっ!どうっ!!落ち着けっ!」
「むむむ…まさか?余剰エネルギーを経て、細胞が死滅したゾイマー炉を取り込もうと言うのかっ?」
それは恐らく、「槌のゾイマー」が自立稼働しようとする兆し…。
「タマウガード、あの触手を止めろっ!大変な事になるぞっ!!」
テクノが慌てふためく。
地殻を融解し、更に4つの、計5つの触手が地下施設の残骸に埋れたままの、自壊した壱號炉から伍號炉までの生体動力「ゾイマー炉」との結合を果たさんとしていたのだ…。
だが、その結合は見る間に成され、脈打ち始める。
と、触手の先から消滅エネルギーが細胞分裂を繰り返し増殖。光は物質化を開始し、本体に向けてそれが浸透して行く…。
止めなくてはならない。あれは間違いなく、止めなくてはならないものだ。
直感的に、皆がそう感じるモノであった。
「…今度は僕が止めるっ!!」
騎馬の踵を返し、ソウマは触手を目掛けて疾走を開始する。
「待てっ!やめろ、ソウマっ!!」
「殿下、おやめ下さいっ!!」
タマウガードの止める声も、マリューの制止の声も、もはや耳には届かなかった。
どうであれ、誰かが成さねばならぬ事に違いないのだから…。
「…我が身に宿る炎祭祀の青き焔よっ!!」
偃月刀「砂漠の青」(アズラク)の封印解放。
ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴォォォ…。
青き刃の具現化。
千刃能力の集束。
騎乗のまま振るった斬撃に無数の青き刃が連なり、物質化しつつある触手の一つを打ち据える。
バシュュュン!!!
青い火花を撒き散らし、青き刃が接触面を抉り取る。
細胞分裂の速度が早いか、破壊する速度が早いかの根比べ。
「砕けろぉぉぉっっっ!!」
ソウマの執念が功を奏し、触手の一つを地殻から断ち切る事に成功した。
ガシャャャャャーーーンッ!!!
ガラス細工のように、それはソウマの前で砕け散った…。
更には、青い炎が触手を通じて本体を彩り始める。
それが契機となったのか。
他方、「百騎士団長」サクラ・アベアクアティカの超長距離射程の「精密顎射モード臨界」。
「…標的捕捉!散れっ!!」
追尾性能を有する「捕食弾道」が2本目の触手に風穴を次々に開け、地殻から分離させる。
ガシャャャャャーーーンッ!!!
3本目。カロン・カイン・ミストの「次元刀(エクス-ハティオ)」空間断裂奥義「月輪」。
「…我が次元刀(エクス-ハティオ)に斬れぬもの無し!」
連続次元跳躍波により、対象物の分子構造を崩壊させる奥義。
カロンの両腕が弧を描き、触手を散乱させた。
ガシャャャャャーーーンッ!!!
4本目。シュン・セクレート・ラズルシェーニエの「静の剣」(チーヒィミェーチ)残像乱舞。
極限にまで細く絞った線と線とが幾重にも重なり合い、渦を纏った斬撃を触手に叩き込む。
それはタケ・ディーカヤ・コーシカの身体強化術式あっての神業でもある。
「騎士王より受け継ぎし真なる力!!受けるがいいっ!」
「絶対防御遮断結界」の本領発揮。
物理防御を無視し、その一撃が根本から触手を打ち砕く。
ガシャャャャャーーーンッ!!!
5本目。最後の触手を討つは、今や1人の騎士たるリョウ・ギアラル、その人であった。
マゥル・ウァルティアン・キアの亡骸を片手で抱え、騎馬に座したまま、その眼は一点集中の構えのまま微動せず…。
「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)が導き出す破壊点(カースス=プンクトゥス)。
これを結び付ける崩壊点(デーストルークティオー=プンクトゥス)。
リョウの幽体の瞳が見つめるは、更にその先…。
全てを凌駕する「終局点(ポストレームム=プンクトゥス)」である。
「今はただ、1人の騎士としてなんの憂いもなし。我が剣に曇りなしっ!!」
力強くも投じられた細剣「シルヴァヌス(荒地の精)」。
突き刺さると同時に、その触手は「終局点(ポストレームム=プンクトゥス)」の捻れ現象に巻き込まれ、存在の崩壊に導かれ、因子破壊の渦に堕ちて行く。
見る間に塵芥と化して消滅する。
ガシャャャャャーーーンッ!!!
全ての触手を同時に失った消滅エネルギーが、声に成らぬ声にて悲鳴を上げた。
ヴアアアァァァ…ァァァァァァアアアア…
「…やったのか!?」
奇跡が起きたのかとテクノは頭上を見上げる。
だが、縮退と同時に消滅エネルギーは原子核に擬態し、自己増殖を開始。
受精卵から胎児へと進化するように、それは見る間に巨大な赤子へと物質化していく…。
「遅かったのか…死滅した細胞の一部を取り込んだと言うのかっ!?」
テクノは絶句した。しかし、同時に研究者としての願望が頭をもたげる。
「…まさか、神の卵 (アニマ・オーヴァル)の一神経でさえ、この脅威的な不滅性?一体、アイゴケロス(角獣の座)宮に封印されているモノとは何なのだ?」
「そんな事を言ってる場合じゃないっ!!」
タマウガードは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「私はソウマを連れ戻す!!君達は皆を安全なルートに案内しなさいっ!!」
「わたくしも参りますわっ!」
足手まといだと言わんばかりに、タマウガードはマリューの身を押し退ける。今は問答をしている場合ではないのだ。
…そうこうしている内に、今や、その現身が地に足を降ろす。それは急激な成長を経ていた。
ズドドド…ドドドド…ドドドドォォォン。
身の丈は100メートルあまりの、まさに白痴の巨人が現出していたのだった…。
人と呼ぶには、あまりに無貌の白き肉塊。歪な人の模造品。
これを人の手で止める手立てがあると言うのか?
一同、愕然とする。
更には、あろうことか地殻内の「ゾイマー炉」それぞれが同様に肉質化を経て、白き手となり伸びつつあった。
その巨人の手が地中より5本、悪夢の如く生え出し、空を目指しわななく。
何かを掴み取ろうとせんばかりに…。
「僕が…止めなければならないのに…。」
己の不甲斐なさ。
力の無さにソウマは打ち震えた。
フュリエルが命をかけてまで、その命脈を託されたと言うのに…。
「うっ…クッ…。」
不意に頭の芯が痺れた。
魂の真髄に宿る一筋の至光が漏れる。
と、その時、彼等の上空に飛来した物体があった。
白痴の巨人の直上、その位置につける「アグネヤストラ(銀色の円盤)」である。
艇底が開口し、落下よろしく飛び出したのは誰であろう、教皇会所属南部内陸「六翼将」が1人、ヒュークリスタル・ヴォーグスであった。
「…何という悍ましき存在よ。」
少し遅れて、テオ・スティーリア・タクナリがその後を追って降下する。
「おいおい。こんな化け物、ホントに封印出来んのかよぉ?」
「…こんな物を放置する事は、我がボヌム・レギオー(聖紋団)の信念に反する事だ!!」
南部統括大神官の奥義「コントラエレクトローデ=アルス(対極陣)」封印術式。
奴にマイクロコスモス(小宇宙)の具現エネルギーを直接叩き込む。
「受けよっ!我らが精霊神、冥界星守護ヒュブリス=ゾォリン・ソールの力を!!!」
胸中に宿す「コキュートスコル(氷結心臓)」の聖刻術式を解き放ち、その全てのエーテリックの奔流を術式に注ぎ込む。
今回ばかりは、出し惜しみは無しだ。
ゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴッッッ。
摂理に反する不浄なる力を駆逐する光。膨大な光の籠が白痴の巨人を見事に幽閉してゆく…。
「…やったか。」
落ちて行くヒュークリスタルの腕を掴む手。
朱の翼を羽ばたかせ、テオ・スティーリア・タクナリが彼と共に緩やかに降下する。
「ホントに、これで片付いたんだろぉな??」
「……。」
テオの懐疑の声に応える気など毛頭無い。どちらにせよ、これが通じぬ相手に、もはや打つ手は無し。
自身はエーテルを使い切り、生命維持で手一杯である…。
同時に「アグネヤストラ(銀色の円盤)」が光の籠に接舷を開始する。
幽閉した檻もろとも、自動操縦で「銀の種族」(アエテルニタス)の次元間航行ブラックボックスを暴走させる計画だ。
…別次元の彼方へ葬り去ろうと言う算段であった。
だが、そうはさせじと5つの腕が地表より伸び、封印の檻を掴み取り、阻止の動きを見せる。
「いかん、このままでは…私の封印がもたんぞっ!!」
幽閉の檻に亀裂が生じる。
ギシィ…ギシィ…ギシギシィィィ…。
「あの腕を破壊しろっ!!」
亀裂は拡大してゆく。
どうやら、光の籠の内部で蠢く肉塊は顕在のようだ。
各自、腕への攻撃を再開する騎士達。
だが、亀裂から抜け出そうとするかのように、その崩壊の速度は雪崩式に加速して行くのであった…。




