シナリオⅣ 2 前章 第8話
シナリオⅣ 2.8〈人は、誰かから深く愛されることで力を得て、誰かを深く愛することで勇気を得る〉
Being deeply loved by someone gives you strength,while loving someone deeply gives you courage
草創歴0449年7月(7/19)
第一幕なる開戦の結末は、参列に加わったアルカサンドリア(砂漠の民)の「砂炎の猟団」による奇襲を目の当たりにし、撤退を余儀無くされる「大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)」によって幕が引かれた。
何よりも1対1で指導者同士が対決し、これを地につけたと言う事実は、プロパガンダとして、もってこいの話題である。
無論その前後、カイト・オセアノ・シュルンの助力が及ぼした功績は言うまでも無い。
だが、これを見越しての左翼編成であるとタマウガード・スパエラは言った。
「しかし、彼等は何をやっているんでしょうねぇ…。いい大人が、どこまで迷子になっているのやら…。」
少々、計画に齟齬が生じているようだ。
しかしソウマは何の不安も感じていない。
…ともあれ、翌早朝には第二幕となる戦陣が展開されていた。
負傷した「王者」ローディアス・リュッセンになり代わり、「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)残存戦力1000騎の指揮を執るのは、六翼将にて「第二宗家」のシュン・セクレート・ラズルシェーニエである。まさに満を持しての出陣であった。
同様に「第一宗家」イラリオン・ラシジェーニエも再度、戦列に並び立つ。
前日の失敗を省みて、縦隊2個師団450騎兵に分け、それぞれをシュン、イラリオンが牽引する陣容に変更。
残された100騎は二重構造の外壁前、国王親衛隊が密集陣形を維持しつつ、ローディアスを護衛したまま動く気配を見せていない…。
「さあ、今日が正念場ですよ、皆さんっ!!」
タマウガードが前列を駆け抜けて発破をかける。
うおおおぉぉぉぉおおおお!!!
歓声と怒号が飛び交う中、ソウマは緊張するが、そんな彼を気に掛けるように肩に置かれた手があった。
それは義兄レン・スラスト・ヴァストックのものであり、ソウマに確かな勇気を与えてくれた。
「…お前ならば出来るさ。」
そう。僕はやらねばならない。
レグルス(王太子)ソウマ・ヴァストック・キアが率いるは、総数約1100騎。
戦力比は、ほぼ互角となっていた。
ソウマは戦列を駆け巡る。
率いる者として、馬上から声を響かせねばならないのだ。
「正面からの衝突は極力避けるようにっ!我らに勝利をっ!!」
おおおぉぉぉ!!!勝利をぉぉぉ!!!レグルス(王太子)に勝利をぉぉぉ!!!
陣形は鶴翼の陣。翼を広げたような形にて、敵を囲みながらの攻撃の布陣。
本来であれば迎撃型陣形であるが、タマウガードは引き付けるだけ引きつけ、散開を指示する。
今…決戦の火蓋は切って落とされた。
大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)の2個師団は、これを追い掛ける事でお互いに距離が生じる。
相変わらずの猪突猛進ぶりだ。
「…誘い込まれている?」
シュン・セクレート・ラズルシェーニエは違和感を覚えた。
だが、追撃戦の様態にあって、掃討戦を得意とする「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)を止める手段は無く、また我等はそこにこそ絶対の自信を持っているのだ。
それがタマウガード・スパエラの右翼と、カイト・オセアノ・シュルンの左翼それぞれの、散開を始めたしんがりの部隊を追う。
「かかった!!」
それは計300騎の馬影を追い駆け、正面に相対する陣形に側背を晒す結果となった。
そんな正面、目視戦域外からの「砂炎の猟団」による伏兵が横隊陣形にて突撃を開始。ここで披露される「砂漠の民」が操る人馬渾然一体の妙技。その神速。
その距離は見る間に縮まった。
「偃月輪用意っ!放てっ!!」
レン・スラスト・ヴァストックの号令と共に、カーテル(刃の党派)それぞれが血印契約せし「精霊」の宿る偃月輪が赤線を引いて放たれる。
術者の精神に感応し、自在に操つる事が可能な秘技だ。
浮き足立つ黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)へと、側面から偃月刀を携えて各個撃破の追撃を挑む「砂漠の戦士」(モバーレズ)達。
「ええいっ!怯むなっ!向かい討て!!」
「第一宗家」イラリオン・ラシジェーニエが徹底応戦を唱える。
だが、黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)の足が止まったと見て、しんがり部隊も翻り、当初の予定通り、「鋒矢の陣形」を展開。
包囲威圧を掛け、指揮系統の混乱を誘う。
ましてや、指揮系統が2通りあっては、戦場に於ける陣形の変更は速やかに行える筈も無い。そもそも指揮を出せる状態にもない。
レン・スラスト・ヴァストックの双刃の偃月刀が予測不能な動きにて、これに国王親衛隊たるイラリオン・ラシジェーニエは翻弄されていたのだ。
「おのれっ!砂漠の民めっ!!」
全ての斬撃は弾かれ、回転する偃月刀の間合いに近付けぬまま、膠着状態に陥っていた。完全に足止めを喰らっていた。
それもあくまでタマウガードの指示である。
「貴様っ、正々堂々と戦えっ!!」
「フッ。これが砂漠の戦士 (モバーレズ)の闘い方よ。」
戦場にて、レン・スラスト・ヴァストックは美しい微笑を浮かべる。
一方、運悪くと言うべきか、ソウマは「六翼将」シュン・セクレート・ラズルシェーニエとの遭遇戦を繰り広げていた…。
白髪獅子の相貌を宿すシュンは、その因子に「絶対防御遮断結界」を持つ。
近距離からの「聖骸銃」の銃撃さえも弾き返す反射神経が超次元で結合しているのだ。
元より急所は狙っておらずも、その余裕に気圧されてしまう。
シュンに至っては、これが出来レースとは分かってはいても、譲れぬ物があった。
「…いつまで、そんなオモチャで戦うつもりだ?お守りがいなければ、剣も振れぬのか?」
「言ったなっ!!」
偃月刀「砂漠の青」(アズラク)を抜き放ちて、ソウマがシュンの挑発に乗り同じ土俵に上るのは、決して侮辱されたからではない…。
ラズルシェーニエ家の罪は、始祖デュークライトから始まる因縁深く、大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)にとって象徴的な騎士の血。
元を辿れば、北剣の王者シリウスの栄誉ある騎士王の末裔である。
フィデース・レグヌム(教皇國)キアとの因縁は並々ならぬものがあったのだ…。
「…例え、相手がキアの殿下であろうとも、我が血に賭け、この無敗の栄光を泥にまみれさせるわけにはいかないっ!」
「…僕も、ここで負けるわけにはいかないんだっ!」
互いの意地と意地とがぶつかり合う。
ガキィィィ…ン!!
弾かれた。
馬上、切り結ぶ事、数合…。
ソウマの握る偃月刀「砂漠の青」(アズラク)が激しく揺さぶられる。
「…くっ!!」
シュンの一撃ごとに、彼の振るう黒刀「勢子餓鬼」が、偃月刀の気刃を損傷させてゆく。傍目にも劣勢である。
だが、相手の挙動、予測線も良く見える。ギリギリで回避行動を成すソウマ。
「ちっ!良く避けるっ!!」
シュンもまた、決定打を撃てずにいた。
ソウマは「砂漠の民」の暗殺剣技「カーテル(刃の党派)」と、カリスエクェス(聖杯騎士団)の固有細剣術、更にはタマウガード直伝の格闘術を独自に融合させた、「全距離間合い」の戦技を習得していた。
この「全距離間合い」の特性は、テオ・スティーリア・タクナリと同様の「天賦の才」だとタマウガードに言わしめた。
テオの場合は、馬上にあっても「片刃の双剣」(ア・ペアロソーズ )を自由自在、無形に使いこなす変幻自在の太刀筋である。
かつて別名を「迴天の双剣客」として名を馳せた人物だ。
そのテオ・スティーリア・タクナリは今、マテシス・ハラダーサの手引きにより、ようやくにして伏兵待機50騎、傭兵ギルドの面々と合流を果たしていた…。
決して迷子になっていたわけではない。何度も言うがな。
そして、まさかの首都リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)外周から、二重構造外壁を巡り抜け、黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)撤退口に遊撃を仕掛ける。
「お前らっ、致命傷は与えるなよ。ゲートを確保出来ればそれでいいからなあっ!!」
とは言っても抵抗激しく、刃を振るう両手に余裕は無い。テオに手加減と言う文字も無い。
双剣は戦場に血花を咲かせて行く。
「しかし…アイツ、大丈夫かなぁ〜?」
何よりもテオが心配するのは、単独行動にて戦場を突っ切って行った腐れ縁の旧友だ。
そんな男も、今では「紅翼」のドクトゥスエクエス(騎士団長)とは驚きであった…。
ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…ドドッ…。
単騎の早駆け。
誰もその行く手を遮ぎることが出来ぬ。
バキィィィーーーン!!
交差した剣の閃きが、紙切れの如く、相手の刀身を叩き斬る。
これは彼が振るう細剣「シルヴァヌス(荒地の精)」の力か?
…否。
それは彼が持ち得る魂「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)の力だ。
「アルマートゥーラ(着装)!!」
涙滴形大型結界防盾、通称「カリス・アスピス(聖杯の盾)」により、「フルヴィイ・トランシトゥス(河を越えし者)」から魔道の光「リヒト(座標点)」が転送される。
光は物質化され、その身に一瞬にして纏った荘厳かつ、緋に染まった重鎧「プーニケウスアーラ(紅翼)」。
背には純白のマントが翼のごとく風にたなびく。
「ソウマ殿下っ!!」
標的直下、リョウ・ギアラルは疾走せし馬上より、物理・霊的にも滅殺する万能の太刀筋を繰り出す。
ガキィィィーーーン!!!
リョウの「幽境の極地」(ヒエラ・ホドス)と、シュンの「絶対防御遮断結界」が激突する。
「水を差すかっ!?カリスエクェス(聖杯騎士)っ!!」
「あっ!!リョウ君っ!?」
思わぬ乱入者にソウマは距離を起き、この世にも稀れな「六翼将」同士の対峙を見守る。
だが、まさか「紅翼」ドクトゥスエクエス(騎士団長)と言う立場のリョウ君が来てくれるとは?タマさんの言っていた伏兵とは…彼の事だったのか?
気が付けば、この対決をカイトとタマウガードもまた、高みの見物をするべく陣形を離れていた。
だが、その頃には戦場は、ほぼ鎮静化していたのである…。
「タ、タマさん!?大丈夫なんですか?」
「ええ。全ては私の作戦通りですよ。」
ソウマは知らなかったものの、テオ率いる遊撃部隊がローディアス・リュッセンの身柄を確保した結果である。勝敗は既に決していたのだ。
しかし戦場の結末は如何であれ、そこで繰り広げられる男と男の闘い、その交わる刃の剣音を衆目は凝視する。凝視させるものがそこにあった。
そして、それは見事に実力が拮抗し合っていた…。
見守る側は手に汗を握るも、両者の顔には歓喜が満ちる。
互いに全力を出し合っても、そこで互角とは、これ以上無い好敵手と言わんばかりに、その剣先は鋭く細い。
しなる刃先が黒刀を掻い潜り、シュンの眉間を狙う。
細剣ゆえの神速突きを、あえて前進してタイミングをずらし、肩からぶつかり合う。
もつれ合いながらも、隙を与えずに騎馬を引き離す。
「…よくぞ、今のを躱したな!!見事だっ。」
馬上でバランスを崩しつつもリョウは、シュンの下段切上げを剣身に沿って軌道を逸らしつつ、賛辞の言葉を贈る。
「…貴公こそよ、さすがは「紅翼」の名を受け継ぎし者だっ!」
その剣先は更に鋭く研ぎ澄まされてゆく。
互いを競い高め合うように、どこまでも鮮烈に、気高く、剣音を響かせてゆく。
それは見守る一同の、その記憶にいつまでも焼き付いて離れぬ光景でもあった…。




