シナリオⅣ 2 前章 第7話
シナリオⅣ 2.7〈人は、誰かから深く愛されることで力を得て、誰かを深く愛することで勇気を得る〉
Being deeply loved by someone gives you strength,while loving someone deeply gives you courage
草創歴0449年7月(7/18)
ザンマルコ自治区(セルフ-ガバニング・ザンマルコテリトリー)に於ける会合破談より3日後、大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)の首都「リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)」を臨む丘陵に陣を張る仮設同盟軍本陣。
此度の「黒曜石の城」(クリェーポチス)篭城戦に対する分の悪さは申し分なく、言い換えて勝つ事さえ出来うれば、起死回生の喧伝になるとタマウガード・スパエラは周囲を鼓舞した。
とは言え、取り囲む程の手勢も無く、仮設同盟軍本陣の保有戦力は総数800騎あまり。
対して、「正義の代行者」シャリアロンド・アールデンスの独断と思しき「アグネヤストラ(銀色の円盤)」の攻撃により屈服し、その意に下った大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)の騎数2000騎。
篭城の構えに尚且つ、黒曜石の城 (クリェーポチス)上空にそれは停滞する…。
「王者」ローディアス・リュッセンは帰還後、すぐ様に首都「リトグラーフィヤストラナ(石碑の国)」の門を潜り、「ミーラークルム・マヌス(奇跡の御手)」の軍門に下ったとされる。
ともあれ、教皇会に背く事は、フィデース・レグヌム(教皇國)・キアに反旗を翻すと同義であり、二の足を踏むべき事実でもあった…。
「つまり…この仮設同盟軍の指揮を執るのがレグルス(王太子)ソウマ・ヴァストック・キア殿下である事が大前提なのですよ。」
タマウガード・スパエラはそう説き伏せ、机上の配置に従い、前衛にザンマルコ自治区(セルフ-ガバニング・ザンマルコテリトリー)「紅石騎兵」大隊600騎、横隊陣形にて側背包囲を防ぐべく配備した。
微速前進による威圧を掛け、これの指揮を執るのはソウマである。
副官として、国防長官の「ハウル・サーガイア」の軍馬が横に並ぶ。
一方、伏兵50騎は未だ配置に着いておらず、頭数には入っていない。
「えっ!?レン義兄さんが?」
「ええ。アルカサンドリアの砂漠の戦士を率いて、助勢の為に、こちらに向かっているそうですよ。」
ダウゥ・アルヌグーム・サハラー(星見の砂漠)は母の故郷であり、この区域ならば隣接する地区でもあるが、予想外の吉報にソウマは歓喜した。
レン・スラスト・ヴァストックは、ソウマの母「ファストラン・ヴァストック」の歳の離れた実弟であり、族長の家系にある青年だ。
母が存命の幼い頃は、よく一緒に遊んでもらった記憶がある。
彼は、とても美しい人であった。
並びに、物資補給の大半はリア域の「星寳」が請け負っている。
「星寳」の家長ウォークス・エクスは「モディアブル騎士団領」での責任を痛く感じ、「金眼の社」に対する抗議を表明している。
よもや、ここまで便宜を図ってくれるとは有言実行の人と見直すばかりのソウマ。
タマウガード曰く、物資自体に善悪は無いと笑う。
当の本人は補佐役としてクリシュナ派の精鋭100名、レギオー中隊歩兵陣形を右翼にて維持している。
及び、散開戦術に組み込まれた遊撃隊100名を指揮するのは、カイト・オセアノ・シュルンである。左翼を担当する。
黒曜石の講堂・塔・王宮による渾然一体と化した壮大な建築物群は、高いところには石の浮彫による彫像があしらわれ、非常に凝った外観となっている。
黒曜石の城 (クリェーポチス)と呼ばれる所以である。
建国当時、この砂漠に面した乾季地帯に多くの石工が集い、石工組織を築いた。
石工組織はこの地に根付き、結社「カーミェンシチク」としてハルゴニアを形成し、今に至る。
二重構造の外壁が開き、「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)1500騎馬が密集陣形ファランクスの位置についた。
黒檀石盾の壁から長槍が構えられ、全面に結界壁を作る。
壁後方、彼等を二刻前に送り出した「王者」ローディアス・リュッセンが黒馬に跨がり、前線に躍り出た。
「ほほう…だが、まだ前には出てこないと言うわけですね…。」
タマウガードの目論み通り、ローディアスは後方指示の陣形に留まっている。
彼我の戦力比は2:1。
我らに勝利をぉぉぉ!!!精霊神の御加護をぉぉぉ!!
双方が鬨の声を上げる。
噛み砕けぇぇぇ!!!黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)に栄光をぉぉぉ!!!
その「黒の兵団」(チョールヌィ・コルプス)は前面から進軍を開始。
それが「大ハルゴニア王国(バリショーイ・ハルゴニア・ツァールストヴォ)」の獰猛さを体現する。
だが、それが狙い目。軍馬の速度は猪突猛進につき、陣形が乱れるは必至。
「…撃てっ!」
紅石騎兵大隊、横隊陣形より一斉掃射。
「星寳」から提供された「簡易型充填式・聖骸銃」試作型500丁だ。
ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドォォォンッ!
暴発する不良品もあったが、一斉に火を吹き、黒檀石盾を粉砕。
落馬多数を生み出す。迫る軍馬の波を押し留めるに成功。
出端は挫いた。
ソウマはテオの愛馬ベッルルス(可愛い子)を横に走らせ、左翼に合流しつつ、指示を飛ばす。タマウガードの目論見通りに事は進んでいる。
「第二陣形っ!!」
直線的な行動に限られた黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)を、横隊陣形の紅石騎兵が中央から分かたれ、中央突破の流れを寸断する。
横隊陣形ゆえの陣形の薄さを活かした高速展開が功を奏した。
なれば右翼「クリシュナ派」は側面突撃の形態となる。
「…突撃開始っ!!」
タマウガードが怒涛の勢いで、手勢を率いて中核部を討つ。
黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)「第一宗家」イラリオン・ラシジェーニエが、これを迎え討つ。
その配下もラシジェーニエ家精鋭の国王親衛隊。これが正面から衝突。
少し遅れて、ソウマが加わった左翼が側面を追撃し、位置としては側背部を襲撃する形となる。
だが混乱戦は長くは続かない。
あとは、ソウマとカイト次第である…。
「カイ君っ!!」
カイト・オセアノ・シュルンが「妖精の剣」(アイヲーン)を携え、単独で騎馬を疾走させた。
「うおおおっっっ!!」
立ちはだかる黒の兵団 (チョールヌィ・コルプス)を薙ぎ払い、討ち落とし、そこに肉迫する。まさに八面六臂の活躍だ。
「妖精の剣」(アイヲーン)とは己が心の具現化、それは十四の柱 (ギガントマキア)を再現した「黄昏の力」(ヨトゥンモーズ)の片鱗。
灰色の鈍い燐光が斬撃と共に、標的である「王者」ローディアスに叩きつけられる。
ガキィィィーーーン!!
だが黒馬に跨がりし王者は、長髪乱れる鬼相でそれを受け流す。
ローディアスの黒檀真槍が、「武曲星(混沌のキズグス)」の霊質により強化された結果であった。
「若造めがっ!」
返す勢いで恐るべき黒檀真槍をカイトに突き付ける。
「おっさん、無理すんなよっ!!」
キィィィン!!ガキィンッ!!
「ぬっ!?」
だが、その反撃の一撃はローディアスを驚愕させた。
カイトの「妖精の剣 (アイヲーン)第二形態」。
それは右腕に同化し、硬質化 且つ右上肢甲冑状に変容した鍵爪が、その黒檀真槍を叩き折っていたのだ。
「なっ、何だとぉっっ!?」
粉砕すると同時に、物理現象を超える「回避不可の霊質切断」こそが、アイヲーンの本質。
怯むローディアスから一旦、距離を取るカイト。
その視線の横にソウマを捉え、その露払いに手綱を戻す。
「ソウマこっちだっ!!」
馬上にて「聖骸銃」を振るっていたソウマは、それを形状変換して格納する。
代わりに抜き放つは腰の偃月刀「砂漠の青」(アズラク)。
亡き母の形見である。
青い清流の気刃が「砂漠の青」(アズラク)の刀身を覆い延長する。
右脇構え、金の構えにて下身を狙ったカウンター。
「いざっ、尋常に勝負されよっ!」
ローディアスは無言で帯剣「リトゥアール」を誇示し、闘争の意を示し応える。
しかし、良いようにあしらわれたものだ。
儂も歳には勝てんという事か…。
戦域は互角以上の競り合いを見せてはいたが、散開状態になると先行きは混迷と化すのは目に見えている。
こうなると戦力比の影響が徐々に顔を出してくるものだ。
タマウガードとしては、その前に決着を付けたいところ。
「まだか…?」
流石のタマウガードの顔にも焦りが生じる。
…その時、遠くで喚声が生じた。
砂煙を巻き上げ、地平の彼方から迫り来る500あまりの騎影。
来襲を告げる法螺貝の音色。
戦況は一気に傾いた。
レン・スラスト・ヴァストック率いる「砂炎の猟団」が第一幕の戦場に風穴を開ける。
同時に、ソウマの放った偃月刀の打突が、ローディアスを落馬させ、地に着けた瞬間でもあった…。




