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エピローグ②

「え? じゃーキースは今日、命さんのところに?」

「はい。花束もって気合入れて出かけたって、伯母さんから聞きました」

「なんか想像したら、笑えるな。そのままプロポーズでもするんじゃないか」

「あはは。伯母さんも同じような事いってましたよ」


 昴と餡コロは、パソコンのボイスチャットではなくスマホを使って会話を行っていた。番号を先に教えてきたのは餡コロで、昴は気恥ずかしくなりながらも、当日には彼女へと電話をかけていたのだ。

 電話での内容は学校の事やキースと命の事などが主だったが、遂に――


「じゃあ、電車来たから乗るよ」

「あ、はい。駅で待ってますね」

「うん。改札口を過ぎたところにあるパン屋の前だね」

「はい。可愛い猫の看板があるのですぐ判ると思います。看板の横に立ってますね」

「わかった。それじゃー」

「気をつけて」


――プツ――


 昴はこれから餡コロと、始めて顔を合わせることになっていた。

 ゴールデンウィークはとっくに過ぎてしまったが、梅雨に入る前に出かけないという餡コロの言葉に、昴がなんとなく「出かけてみる?」と言ったことからトントン拍子に決まったデートだ。 


 電車の窓から見える風景は、アスファルトに覆われた道路に鉄筋コンクリートの建物。遠くには高層ビルが建ち並んでいるのも見える。

 二ヶ月以上前には、塔以外だと三階建てがせいぜいといった建物しかないような、そんな風景が当たり前な場所に彼は居た。建物の材質も木やレンガ、石といった物だ。

 歩く道も土がむき出しで、街中ですら砂が舞い上がるような、そんな場所だった。


「帰ってきたんだなぁ」


 昴は電車の中から、外の景色を眺めながらぼんやりと呟いた。

 彼の心には今、ふたつの感情が共存している。

 無事に戻ってきた事を喜ぶ感情と、異世界の人たちとの別れを寂しいと思う感情だ。


 電車が目的の駅へと到着する。

 

 電車を降り、改札口を抜けた。


 視線の先にパン屋さんを見つけると、一旦足を止め深呼吸をした。


 昴は緊張していた。

 ゲームでのキャラクターと自分の容姿とのギャップに、餡コロがどう反応するか不安もある。それが原因で疎遠になってしまったらどうしようという考えもずっと付きまとっていた。

 しかし、ここまで来たのだから引き返すことは出来ない。


 意を決して、昴は一歩踏み出しそのままパン屋の看板を目指した。


 看板は駅から出た所にあった。


「あ、昴さんですか?」


 突然見知らぬ女性に声を掛けられた。

 いや、声だけは聞き覚えのある声だ。

 昴の前方には、ストレートの長い髪を風に揺らす女性の姿があった。彼女の横には猫の形をしたパン屋の看板が置かれている。


「えっと……餡コロさ、じゃなくって美奈さんだよね? どうして解ったの?」


 彼女は微笑んだ。


「だって『昴』って感じの顔してましたから』


 屈託の無い彼女の笑顔に釣られて、昴も微笑んだ。


「あはは。昴って感じって、どんな顔だよ。たしかに本名も昴だけどさ」

「こんなですぅ〜」


 餡コロが昴を指差して笑う。


 二人は満面の笑みを浮かべたまま歩き出した。

 始めて合った者同士とはとても思えないほど、仲睦まじく歩いてゆく。


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