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6-5 『神を欺く者たち』

 小規模な町をひとつ開放した昴たちは、現在その町での待機メンバーとして休息を取っていた。一緒に協力したほかのプレイヤーのうち、彼ら以外にもいくつかのPTが同様に待機という名の休息を満喫している。

 フィールドに出れば連戦続きなこともあり、東側大陸に来てからのプレイヤーたちは、こういった待機兼休息メンバーになる事を非常に喜ぶようになっていた。


 昴のPTにとって数日、いや一週間以上ぶりとなるまとまった休息。

 ギルド施設の無い町であるため、宿屋での一時的な暮らしとなる。数十人のプレイヤーが同様に宿屋へと身を寄せているが、小さい町とはいえ二軒の宿屋があった為、寝泊りする場所には困らなかった。尤も、モンスターにほぼ支配されている東側大陸では旅行客も居なければ旅人も、こちらの世界の冒険者も居ない。宿屋としては現時点でのお客といえばプレイヤーのみである為、貴重な収入源として重宝していた。

 

 男メンバーが寝泊りする大部屋へと集まっている昴のPTは、他愛も無い雑談に花を咲かせていた。

 そんな折に出た昴の話――


「そういやさ……ふと思ったんだけど」

「思わなければいい」

「思うぐらいいいじゃないですか……」


 当然というように無駄な突っ込みを入れるアーディンによって、早速話の腰を折られる。


「なんだ昴? 恋の悩みか?」

「あらぁ、そうなのぉ?」


 いっくんやカミーラも加わってますます昴は話を進めなくなっていく。


「違う。真面目な話なんだって」

「えぇ〜真面目な話とかつまんないし〜」

「似合わん事やってると、墓穴掘るよ〜」


 昴の抗議にニャモと月が、やはり昴の話を妨害するかのように茶化してきた。


「……なんでこのギルドには不真面目なのばっかりなんだ」


 溜息を付きながらぶつくさと呟く昴。そんな彼の肩に手を掛けたクリフトは、大真面目は顔で昴へと話しかけた。


「おいまて昴。俺はいつだって真面目だぞ」


 昴の肩に置いた手とは反対側の手の平で、親指を突きたて「ぐっ!」っというようなポーズを決めたクリフト。表情だけは真面目なままだ。


「信じられないし……まぁとにかく。この先、魔王を倒した後この世界がどうなるか考えてみたんだよ」


 埒が明かないと悟った昴は、彼らの突っ込みを無視して話を進めることにした。強引に話を進めるならばと、仕方なく一同は昴の話に付き合うことにする。

 昴の意見にいっくんが感想を洩らす。


「そりゃー平和になるに決まってるんじゃね?」

「一時はな。でもさ、また何かの拍子に、世界を脅かす存在が出てきたら……」


 どうするか? という昴の言葉に月が答えた。


「あはは〜、そん時はまた……またわたしらが召喚されるの?」


 今回と同じようにこの世界の住民が祈り、そして召喚されるのか、それともまた女神によって大規模な召喚が行われるのか、それは解らない。解らないが、また呼び出される可能性が高いことを月は想像できた。笑っていたものの、想像した内容が恐ろしくなったのか、後半部分は真顔で喋っていた。


「そうなんだよ。いや、俺らじゃないかもしれない。けど、絶対また別の世界から誰かを召喚すると思うんだ」


 悪の存在が現れて再び戦う力を失えば、かならずこの世界の住民や女神は、この世界とは別の世界から強引に他者を召喚し、自分達の代わりに戦わせようとするだろうと昴は言っている。


「そうでござるな。一度異世界から他人を召喚して、他力本願で魔王を倒した前科を持てば、次もってなるのは目に見えてるでござるな」

「でも、こっちの世界の人だって力を取り戻しとるっちゃろ?」

「アタシたちが居たからでしょうねぇ。誰も戦う人が居なかったら、彼らの力って取り戻せてたかしら?」


 カミーラが言うように、彼らプレイヤーが召喚され魔王打倒の為に戦い続ける者がそもそも居なかったとしたら……今頃この世界は魔王が支配する暗黒の時代を迎えていただろう。そうなれば今現在戦う為の力を取り戻しているこの世界の住人たちも、力もなく無気力な存在であった少し前の状態を維持していただけに過ぎないのだ。


「う〜ん。僕としては、やはりすがるべき神が居ないのにも問題があると思うんですよね」

「この世界の人間は、神が実際に存在しているのを知っているからな。しかしその神は無力な存在だし……」


 桃太とクリフトが、神職らしいセリフを口にする。


「神頼みってのも変だけどなー。神様居れば頑張れるわけじゃないだろ?」


 神が居ないから、居るからという言葉に疑問を感じたいっくんが反論した。女神フローリアが力を使える状態だったとして、それが人間たちが戦える事とどう関係があるのか理解できないという風だ。


「日本人の感覚だとそうかもな。実際地球だって宗教の違いだけで戦争できる国があるんだ。神様がちゃんそした形で後ろ盾してくれてると思えば、俄然やる気にもなるんじゃないか?」

「うーん……」


 クリフトの説明にまだ納得いかない様子のいっくんは唸るようにして呟く。


「まぁ、頼るべき存在が異世界の人間よりも、自分達の世界にいる神様ってほうがお互いの世界の為にも良いとは思うんだ」

「確かに、何かあるたびに変な儀式で地球人を呼び出されても困るしなぁ」


 昴の言葉に、解ったような解らないままのような、それでもいっくんは頼られるたびに呼び出されるのは困るという事だけは理解できた。


「でも、女神様は封印されてるんでしょ?」

「え? 封印なの?」

「いっくん……ゲームの設定覚えてるか?」

「いや、さっぱり」


 基本、ストーリー設定などを無視して進めるタイプのいっくんは、当然と言わんばかりにゲームをプレイ中だった頃にも公式サイトのゲーム概要には目を通していなかった。もっぱらシステム面を説明するページしか見ていないのだ。

 そんないっくんの不甲斐なさを見たアーディンは、突然立ち上がると後ろでのんびりお茶をすすっていた餡コロへと指示を出した。


「よし! 餡コロ君! 説明してやりたまえ!」

「はい先生! 女神フローリア様と弟神フロイ様は、神々の戦争に参加せず傍観者に徹した為に、他の神様達の怒りを買って女神の神殿に封印されてしまったのです!」


 アーディンの指示に素早く反応した餡コロはいっくんと違い、ゲーム概要といった世界設定関係のページ「だけ」を見るタイプだ。


「封印されたわりに、他人の夢に出てきたり召喚儀式やったりアクティブな感じなのは、何かに封じ込められてるってタイプじゃなく、神殿内に閉じ込められてるだけっぽいんだな」

「神殿内で普通に生活できるけど、神の力とかも神殿から外には送れないっぽいです。NPCさんの会話では」


 いっくんが洩らした感想に、餡コロが再びゲーム内で得ていた設定の知識を披露した。

 封印されている。と聞くと、何かのアイテムやそれに類する物の中に閉じ込められているという印象を受けがちだ。しかし実際の所は、女神フローリアは自身が住む神殿内であれば自由に動き回る事ができるという話だった。


「でも召喚できたじゃん?」

「神殿の外ってのは、まさに神殿の外であって()()()()は対象外だったんだろ」


 つまり、この世界の中で女神が住む神殿の外には女神の力は届かないが、まったく違う世界になら届く。という事なのだろう。


「なんてご都合主義なんだ」

「そこなんだけど……それって女神様がそう思い込んだから出来たとかいうオチだったりしないかな?」

「どういうことだ?」

「いや、『意思』がいろいろ重要な世界なら、神様だってそうじゃないかなってことで。それにさ、女神様たちを封印した神々って、むかーしの戦争で消滅してるんだろ? 未だに封印が続いてるってのが、なんか俺としては変だなって思うんだよ」

「まぁ、たしかに。仮に百歩譲って封印が継続中だとしても、弱まっていてもおかしくはないよな」


 昴の話にクリフトは納得したように自分の意見を付け加えた。


「そうなんだよ! だからさ、女神が『封印され続けている』って思い込んでることで、女神自身の意思が封印を継続させ続けているんじゃないかって俺は思うんだ」

「……なんか、それ正解な気がするわ」


 思い込みによる、自分ではありえないと思う事件を思い出すニャモ。この世界に来てまだ間もない頃、敵地偵察の為に砦に潜入した彼女たちは、そこで餡コロが手にしていたスプーンを魔法の媒体として使った事を。スプーンを杖代わりに出来ると信じれば「出来る」と言い切った餡コロは、まさにそれをやって見せたのだった。

 異世界の人間にもできた事なら、この世界の女神がマイナスの意味でやっている事にも納得がいく。


「女神の封印が解ければいろいろ安泰か……」

「でもどうやって封印を解くんですか?」

「思い込みで封印され続けてるんだから、それを教えればいいんじゃね?」

「そんな簡単にいくかしらぁ?」


 皆が思い思いの意見を口にする中、昴が以前から考えていた事を口にした。


「封印を解く方法を……作ってやるってのはどうかな?」

「「作るぅ?」」


 一斉に反応が帰ってきたことに昴はたじろぎながら言葉を続けた。


「ま、まぁ、具体的には何も考えてないんだけどさ」


 結局の所、どうやるかという事は考えてはいなかったようだ。

 しかし、昴の言葉に無条件で賛成する者もいた。


「でも、それ良いと思いますよ」

「賛成者が居てくれてよかった。ありがとう餡コロさん」


 微笑みあう二人を茶化すようにニヤニヤ笑うアーディンが、ついでに賛成の意を唱えてやった。


「ま、悪くないんじゃないか? 昴にしては」

「一言余計です」


 余分な一言を添えて。




「なるほど。女神の封印を解く鍵が闇の魔王ってことか」

「ありがちな設定ですね」


 思い込みには思い込みによる作戦。そう考えた昴たちは偽りの情報をプレイヤー内に広めさせ、どこからか仕入れるであろう女神がこの嘘を信じてくれることを祈る事にした。


 敵を欺くにはまず味方から。この場合、女神は敵ではないのだが、プレイヤー全員で「女神の思い込みを解消」するために欺くとなると、どこで女神に聞かれているか解らないので、昴たちだけの秘密にしたのだ。

 まずはプレイヤー会議でテーブル席に付く主要メンバーにそれとなく情報を流し、そこから全プレイヤーに伝える作戦だが、恐らくこの途中で女神も情報を手にするだろうと予測した。

 情報の出所はキースや命ということにもしている。昴やアーディンが命と面識のある人物だということは、古参のプレイヤー達の耳にも入っているので、疑われる事もないと踏んだのだ。


(あとはこの噂に女神様が乗っかってくれる事を祈るだけか)


 誰にも聞かれないよう、昴は心の中でそう呟く。

 彼らの心の中までも見透かせるかもしれないの、以後はなるべくこの件に関しては考えないようにした。尤も、再びフィールドへと出た昴たちは、のんびりと思い込み解消作戦の事など考えている余裕は無かった。

 戦闘に次ぐ戦闘で、それどころではないのだ。


 そして、東側大陸に渡ったプレイヤーのほとんどがレベル95を超えると、今後の方針を決める為のプレイヤー会議が開かれた。


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