6-6 『仕様変更後のレイド戦』
今後の方針を決めるプレイヤー会議の席では、それぞれのギルド内で高レベルの者のレベルが、逆に低レベルの者のレベルが報告された。
「東側攻略プレイヤーの平均レベルも97になったか」
「最高で99……なんとかなりそうか」
闇の魔王のレベルは不明だが、魔王が生息しているであろう洞窟内に居たモンスターはレベル95。キースのレベルが98であった事から、彼らの予想では魔王のレベルは100前後とされている。
魔王と一対一での対決をするわけではない。いくつかのPTで挑む事を考えれば、十分勝算のあるレベルにまで達していると考えても良い。
「少しでも魔王の力を削ぐ意味でも、こっち側のレイドボスを何対かやっておくべきじゃね?」
「ボス産のレアでも出れば戦力アップにも繋がるしな」
レイドボスそのものが魔王の力に関係していると女神は言っていた。レイドボスを倒せば倒すだけ魔王の力も弱まるのだと。更に、レイドボスを倒した時に得られるアイテムには強力な物も多く存在する。装備であればプレイヤーの強化にも繋がるのだ。
今回のプレイヤー会議で決まった事は、最低限、東側大陸の南側半分を開放する事となった。その地域に配置されたレイドボスも全て倒す――と。
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東側大陸の南側。ローグイースト地方にあるライドンの砦。
プレイヤーが東側大陸で一番初めに攻略を開始した砦だ。
「召喚モンスが魔法職に流れると瞬殺されちまうな」
「紙装甲だからな……だからってウィズの火力を落とさせてるとボス倒すのに時間食って召喚モブ増えまくるしなぁ」
レイドボスと真正面から戦う昴といっくんは、激戦の中で会話を交わしていた。ヘイトスキルを持つナイトとバーサーカーは、通常であれば敵を他のクラスに流さない為にも必死なスキル回しで会話の余裕などは無いのだが――
「あぁぁぁ! くっそ! どんなに『挑発』しても、敵さんがこっち向くの一瞬しかねーよ!」
っという状況になっている。
いっくんはまだ良いほうだ。攻撃スキルも豊富にあるため、ヘイト管理を諦めて全力攻撃に転じればよいのだから。
昴にしても特殊防具や奥義の力で、攻撃面はバーサーカーほどでは無いにしても、他のナイトに比べるとマシなほうだ。
激戦の中、昴やいっくんの会話にもあったように、防御力が全クラス中最弱なウィザードは、大魔法を放つと同時に複数のモンスターから狙われ、あっという間にHPはゼロとなる。そうさせない為にも回復職が必死にヒールを施そうとするが、彼らとで常にモンスターから狙われる存在になっているせいもあって、スキルが遅れる事が多々あった。
「大魔法はタイミング合わせて一斉にぶっぱすれば敵のほうを瞬殺できるんじゃね? そしたら後衛にヘイトが行くのも気にしなくていいだろ?」
「……たしかに」
「よし――」
指揮を担当していたプレイヤーと、彼と同じギルドに所属する幹部プレイヤーが思いついた作戦を順次指示していく。
十数人のウィザードが集まり、一人が号令を掛け、一斉に「バースト・フレア」の詠唱に入る。
ド・ゴオオオオオォォォォォォォォォォォォォ
強烈な爆風が辺り一面を襲った。
広範囲に渡って展開された炎の爆発は、群がる召喚モンスターたちを容易に燃やし尽くした。
魔法範囲を霞めた程度のモンスターたちは、辛うじて息はあるものの、動く事すら出来ない状態だ。
「瀕死のモブに止め刺せ!」
誰かが声を張り上げると、動きの素早いアサシンやシノビ、後衛からハンターが、地を這い蹲るモンスターへと止めの攻撃を浴びせて行く。
「ウィザードは一箇所に固まってボス中心に大魔法ぶっぱしろ! ソーサラーは抜けてくる召喚モブが出てくるのを前提に、ウィザードとボスの直線上に沼と範囲攻撃の用意!」
「沼で鈍足状態のヤツにはアサシンとシノビで止めを刺してくれ!!」
沼、「スロー・ウォップ」のスキルの効果範囲に入った敵は、移動速度が極端に鈍くなる。
ウィザードが高火力で攻撃すれば敵はウィザード目掛けて襲ってくるのだが、敵とウィザードとの直線上に「スロー・スウォップ」を展開すれば、敵がウィザードのところまで到達する時間を大幅に稼げる事になる。既にウィザードの攻撃で重症を負っているモンスター相手であれば、火力の低いソーサラーでも止めを刺すことが可能だ。
更にアサシンとシノビを加えれば、ウィザードの安全を確保できると踏んだのだ。
この作戦が功を奏し、以後の戦いでは回復職の負担も軽減され、効率よく召喚モンスターの殲滅にも成功した。
『レイドボス:バルギオン・デドールの討伐に成功しました。これによりローグイースト地区の脅威が排除されました』
これまでの戦いで、討伐時間の最長記録を更新したレイド戦がようやく終了した。
戦闘不能者続出。蘇生可能時間内に「リザレクション」を受けられなかったプレイヤーが多数、拠点となる町へと強制送還された。
号令に合わせた魔法職の、魔法一斉発射を行わなければ、もしくは作戦を思いつくのがもっと遅ければ、被害は更に増えていただろう。
「やっと倒せた……」
戦闘中に「ジャスティスブレイド」を20発以上放った昴は、肩で息をしながらそう呟いた。「ジャスティスブレイド」のCTは3分。単純に20発放っていたとしても、レイドボスを倒すだけの事に60分は掛かった事になる。
「大丈夫ですか? 昴さん」
「うん。餡コロさんこそ大丈夫だった?」
床に腰を下ろした昴は、心配そうに声を掛けてきた餡コロへと視線を送ると、そこには薄汚れた彼女が立っていた。
「えへへ。2回転がりました」
舌をペロリと出した餡コロは、戦闘不能になった回数を素直に告白した。
彼女が今ここにいるということは、無事に仲間からの蘇生を受けた事を意味している。
「僕も1回戦闘不能になってしまいました」
餡コロに次いで桃太も、自身が戦闘不能になった事を口にした。回復職は戦闘を継続させる為にも、戦闘不能にならない事を最優先にして動くのだが、これまでの戦いがまったく通用しなくなった今回のレイド戦では、多くの回復職も戦闘不能となっていた。
「なんというか……こんな戦いだともう『聖杯』なんて使ってる余裕ないな」
「動いちゃダメ。攻撃貰っちゃダメ。リアルな乱戦だと無理よねぇ」
愚痴るアーディンにニャモが同情する。範囲内にいる味方プレイヤー全員に有効な戦闘補助スキルだが、発動中は術者が「動けない」「他スキルの使用が出来ない」「攻撃を受けると効果が切れる」というデメリットがある。今回のような戦闘で「動けない」というのは不可能に近かった。
「せめて範囲に一度入れば数分間付与っていうタイプだったらよかったんだがな」
「う〜む……」
クリフトが無情な突っ込みを入れてくる。アーディンも彼の言う内容であったらと心底思っていた。
そんなカーディンに対し、いつもは何かと生徒役を演じさせられる餡コロが、珍しく助言を出した。
「じゃ〜、アーディンさんがそういう事にしちゃったらいいんじゃないですか?」
「は? 意味わからんし」
「え〜っと。スキルの仕様をクリフトさんが言ったみたいなのにしちゃうんです」
「どうやって?」
「思い込みで!!」
思い込みで解決した自分のように、アーディンにも思い込みで解決させろという事らしい。
数秒間、その場の空気は凍りつく。
そんな事できるのはあなただけです。
全員が彼女をそんな目で見つめた。
「……一瞬でも期待した私が馬鹿だった」
「え〜、ダメですかぁ?」
やれやれといった様子で、全員帰還の準備に取り掛かった。
レイドボスから出た戦利品は、最後に止めを刺した別プレイヤーのPTメンバーが集めている。取引不可能なアイテムは彼らが得る事になっているが、取引可能なアイテムに関しては、後々の魔王戦の際に対決するメンバーへと寄付する事が決められていた。
次々に「聖堂帰還」で戻っていくプレイヤーたちの中、ひとり最後まで見届けていたアーディンがぼそりと呟いた。
「ダメ元で試してみる……か」
彼女は餡コロが口にした「思い込み」を実行することを決意した。




