★終わりってこと
「今の時刻は二三時五五分。そろそろアニメが始まるが……」
あれから、約一時間かけて帰宅した。
晩御飯やお風呂など、いろいろやることを済ませてからソファに座り「さあ、これからアニメ見るぞ!」といきたいところだが、俺は非常に嫌な予感がしていた。
それは、あの紙切れに書かれていた言葉の『今夜二四時』が、ちょうどアニメの始まる二四時に誰かが自宅に来るのではないかということだった。『8843』という数字だけは意味はわからなかったが。
考えすぎかもしれないが、あれは間違いなくルミナが残した最後のメッセージ。
そういうことなら口頭で言ってほしかったがあの性格だ。
どうせ「言うの面倒くさい」とかいう理由なのだろう。
確証がない以上、このままアニメを見てもいいが途中で来られて遮られるのも癪なので書いてあった時刻まで待つことにする。
リアタイできなくて残念だ。
そんなこんなで時間は過ぎていき。
「——二四時まで。三、二、一……」
スマホのデジタル時計がゼロになったその時——。
インターホンがピンポーンッと音を鳴らす。
「ホントに来やがった……!」
いや待てよ。そもそも、なぜ俺の家を知っている?
めちゃくちゃ怖いのだか。
とりあえず、インターホンで誰かだけは見よう。
一体、訪ねてきたのは誰なのか。
あの美少女か、それとも……。
「……誰だ?」
画面に映っていたのは、見覚えのある黒色のローブ。
これまたフードを深々と被っていて顔まではわからない。
今のご時世、誰かわからない相手に応答するのは危ないがインターホン越しに通話だけしてみるか。
「……はい」
「8843」
スピーカーから聞こえてきた男の言葉に一瞬ぞっとする。
間違いない『8843』は紙切れに書いてあった謎の数字だ。
そうか、あの数字は合言葉の役割をしていたのか。
だとしたら、ルミナ以外知らないはずでは……?
「今、ドア開けます」
ゆっくりとした歩調で玄関へ行き鍵を開錠しドアを開けると、
「こんばんは。天海誠也くん」
「こ、こんばんは。なんで俺の名前を……」
「さっ! 早速、お邪魔させてもらうよ〜」
「は⁈」
男は俺を押しのけて家に突入してくる。
本日二回目、嫌な予感がする。
ルミナに並ぶ変人の予感が。
「え、一人暮らし? にしては綺麗だねぇ。彼女でもいんの?」
「いやそれは……」
「あー、そういえば彼女いないんだっけ。もしかして、うちのルミナが来ると思って片付けたとか?」
「……」
「あ、図星だ」
ぶっ飛ばすぞこの野郎。
いきなり家に押し入ってきては彼女いないだの、ルミナがどうだの。
「ねえねえ、実際のところどうなの? 来ると思った?」
耳元でそう呟いてくる。
「……来ると思ってました」
「ハハッハー。だよねそうだよね〜」
俺より数十センチ高い身長、ムカつく言動。
何者なんだこいつは。
「いや本当はね。彼女が来るはずだったんだ。でも『眠いから帰る』って言って帰っちゃった」
予想できた答えだ。だがムカつく。
あんな紙切れ残しといて、あとは人任せとは。
「それはいいとして。なにか話すことがあって来たんでしょう?」
「うん。それじゃあ卓に着こうか」
卓に着くということで、ダイニングの椅子に向き合う形で座るも、その途端「部屋が暑い」と文句を言い、とうとう、被っていたフードを上げてその容姿を露わにする。
シュッとした笑顔の絶えないイケメン顔で、着ているローブと同じ黒色の髪色に、シースルーマッシュな髪型。そして、右側の髪についている謎の銀色のヘアピン。
一言で表すならウザい。イケメンすぎてウザい。
こんなのが家に入ってこないでほしい。イケメン特有のいい匂いが残るから。さっさと帰ってもらおう。
「それでなんのご用だ?」
「あれ、敬語抜けてる気がするんだけど……まあいいや。今回来たのは、君のために質問コーナーをしてあげるためだ」
「なら、早速教えてくれ。あんたは何者だ」
男は机に肘をつき手を組む。
「僕はニゲル。この世を調和する者」
ニゲル——この世を調和する者。
また出てきたな意味不明な単語が。
だからなんなんだよ、この世を調和って。
「『なに言ってんだこいつ』って思ったでしょ」
「なに言ってんだお前」
「二度言ったようなもんだね」
何度でも言ってやる。なに言ってんだ。
「ルミナも同じことを言っていた。一体、調和ってどういう意味なんだ?」
二人の言う『調和』。
その意味は一体……。
「まずは、僕と彼女——ルミナについて話そう」
先ほどまでの、にこやかな笑顔は消え、真剣な顔つきになる。
ああ、ここから真剣な話ね。
「僕たちは政府公認の特別機関——≪HARMONIA≫に所属する構成員だ」
ハ、ハル——なんて言った?
しかも、政府公認の特別機関って……
「ちなみに国家機密だ。口外したらルミナに殺されるから覚悟しておいてね〜」
「なぜルミナ」
なるほど、要するにドラマとかで見たことある秘密組織ということか。
そう考えると『この世を調和』というのも、世の裏で暗躍してる悪者を排除してるみたいなニュアンスで間違いないだろう。
いや怖。家に来ないでください。
「そんなデカい組織が動いている理由はなんだ?」
「それはまあ、見せた方が早いかな」
ニゲルはズボンのポケットからスマホを取り出し、ほいっ、と言ってとある画像を見せてくる。
「……なんだ、これ」
英語がズラーっと書いてあって、真ん中にいつの頃かわからない俺の横顔写真が載ってある。
「懸賞金十億ドル。日本円にして 一千五百億円相当で、達成条件は天海誠也を指定された場所に運ぶと書いてある」
「はあ⁈」
け、懸賞金⁈
俺がなにしたって言うんだ!
てか、一千五百億円って……絶対そんな価値ないだろ。
「桁外れの額に達成条件が見合ってないし、さらう相手は高校生ときた。おかしいとは思わないかい?」
「ああ、自分で言うのもあれだが、俺にそんな価値はない」
「と、思われていた。でもここ最近あることがわかってね」
「あること?」
「……まあそれは言えないんだけどね」
「なんでだよ」
ところどころウザいなこいつ。
「≪HARMONIA≫——最高司令官の考えだよ〜」
「最高司令官ねぇ」
命を狙われているかもしれない人に、詳細を明かさないとはどういうことだ。
秘密組織のやることはわからんな。
謎だった問題点は一通り聞くことができた。
まず、あの黒スーツたちは懸けられた懸賞金が狙いで、それを助けにきた美少女——ルミナは≪HARMONIA≫という秘密組織に所属している構成員……構成員? あんな美少女が?
ともかく、謎は解けたな。
「そんな感じで今日から僕たちは全力で君を守り、この懸賞金を懸けた人物を特定する。そのために天海くん、君の力を貸してくれない?」
「俺が?」
「今や君は世界の渦中に飲まれている。よって、君の周りには必ず悪が取り巻き事件が起こる。言わば君はハチミツみたいなものだよ」
悪という名の虫が俺に集ってくるという意味か。いい迷惑だな。だが——
「俺を中心に悪がやってくるなら、懸賞金を懸けたラスボスも見つけやすくなるということだな?」
ニゲルはニコッと笑みを浮かべ「話が早くて助かるよ」と言う。
話が早い、か……。そうするしかないからだよ。
知らないうちに俺は鉄の檻にいて、そこから出ようとすれば出れるが出た瞬間に殺される。
そんな危険な檻に勝手に放り込まれたんだ。どこにでもいるごく普通の高校生が。
自分でなんとかする力なんてないし、それなら政府公認であるという秘密組織の言うことを聞くしかない。
言った通り、ハチミツになって悪を誘き寄せるしかない。
……なぜだろうな、今は不思議と怖い。
銃を向けられて殺されそうになった時の俺はもっと肝が据わっていた。
それは『死ぬ』という実感が湧いていなかったから。脳の防衛反応が働いたのだろう。
だが今はどうだ。たまらなく怖い。自分が世界の人間に牙を向けられていると気づいてからは。
ただそれと同時に、俺がこの世に貢献できるのではないかという期待もある。
これまで、やりたいこと、なりたいものがなく、退屈の迷宮に迷い込んでいた俺が非日常の中で人の役に立てる。
俺のやりたいことが今、見つかったかもしれない。
「と、言うわけで。僕の話はこれで終わりだけど、天海くんからなにか聞きたいことはある?」
聞きたいことか。
そうだな、あれは聞いておこう。
「じゃあ一つだけ。お宅の教育についてだ」
「エ?」
「とにかく塩対応で冷たい少女に関してなんだが——」
「それじゃあ、まったね〜!」
「あ、おい! お前も逃げるのか! ニゲルだけに、つってなぁ!」




