01 シャルル・ペロー
【ご注意】
本作は1697年フランスで発表された、シャルル・ペローの『赤ずきん』の成立を取り扱った作品です。
本作には、古い民話に見られる食人表現をはじめ、残酷な描写、病気や差別を扱った描写が含まれます。
一般的に知られている現代の『赤ずきん』とは異なる、非常に苛烈な民話表現を取り扱っておりますので、苦手な方はご注意ください。
眩い蝋燭の光と上質な香水の匂いが満ちていたヴェルサイユ宮殿の夜を脱ぎ捨てるように、シャルル・ペローの乗った馬車はぬかるんだ泥道をひた走っておりました。車輪が泥を跳ね上げるたびに重い衝撃が走り、ペローは身をすくめながら、車窓の外に広がる濡れた暗闇を見つめております。オルレアン近郊へと続くその道は、都の煌びやかさとは完全に切り離された別世界へと続いておりました。
ペローの胸中にあったのは、可憐で素朴な農民たちが薪をくべた暖炉を囲み、温かなスープをすすりながら語り合うような、牧歌的なおとぎ話の情景でございます。都市の洗練された貴婦人たちが「まあ、なんて愛らしいお話でしょう」と扇子をあおぎながら微笑むような、優雅な古伝承を手に入れること——それだけが彼の目的であり、文士としての次なる名声への糧となるはずでした。
しかし、馬車がオルレアン近郊の貧しい村に辿り着き、彼がその足を泥の中に踏み下ろした瞬間、思い描いていた温かな妄想は冷や水でも浴びせられたかのように吹き飛んでしまいました。
連日の雨によって粘土質の地面は底なしの泥沼と化し、ペローの履いた上質な革靴を容赦なく呑み込んでまいります。湿り気を含んだ冷気には、家畜の排せつ物、腐った藁、そして雨に濡れた土から立ち上る生臭い臭気が混ざり合った、胸を突くような悪臭が漂っておりました。
周囲を見渡せば、そこにあるのは絵画に出てくるような美しい農村などではなく、傾いた藁ぶき屋根と、今にも倒れそうな粗末な土壁の小屋が点在する凄惨な風景でございます。雨の中に立つ村人たちは、ペローがこれまで見慣れてきたパリの人々とは、まるで別の世界の住人のように見えました。
塩の専売による過酷な塩税と、領主から課される無償の強制労働であるコルヴェによって、彼らの生活は極限まで絞り尽くされていたのです。
通り過ぎる村人たちの頬はこけ、骨が浮き出た皮膚は土と同じ灰色をしておりました。雨に濡れたぼろ布のような衣服を纏い、背中を丸めて歩く彼らの動きは重く、まるで生きながら泥に埋もれていくかのようでございます。
そして何よりペローを恐怖させたのは、彼らの眼光でした。
身なりの良い馬車から降り立ったペローに対し、村人たちは親しみや好奇心など露ほども見せません。落ち窪んだ眼の奥に宿っているのは、飢えと猜疑心、そしてよそ者に対する鋭い警戒の光でございます。その視線は、通りがかった見知らぬ獲物を品定めする野生の獣のようであり、あるいは自分たちのわずかな糧を奪いに来た執達吏を睨みつけるような暗い情念に満ちておりました。
ペローは濡れたコートの襟をかき寄せ、深く息を呑みます。手帳と羽ペンを懐に抱えたその手は、冷え込みのせいばかりではなく、目の前の圧倒的な現実が放つ不気味な気配に震えておりました。ここには、都会のサロンで求められるような呑気で甘美な昔話など、一欠片も存在しそうにありませんでした。
濡れた旅装のまま村の唯一の旅籠へと足を踏み入れたペローは、煤けた壁と低い天井に押し込められた独特の圧迫感に身を縮めました。薄暗い店内には、濁った安酒の酸っぱい臭いと、湿った衣服が発する異臭が充満しております。
ペローは懐から銀貨を一枚取り出し、カウンターの粗末な木板の上にカタリと音を立てて置きました。そして、周囲に集う幾人かの農民たちに向かって、努めて穏やかで洗練された弁舌を意識しながら声をかけます。
「どなたか、この地に古くから伝わる興味深いお話や、昔から語り継がれている不思議な出来事を聞かせてはくださらないか。どんな些細な物語でも構わないのだ。お聞かせいただいた方には、相応の礼を約束しよう」
しかし、ペローの滑らかな言葉が途切れた瞬間、旅籠の空気は凍りついたかのように固まりました。
暖炉の火にあたっていた男たちも、酒杯を手にしていた男たちも、一斉に動きを止めます。彼らの表情からは一切の感情が削ぎ落とされ、ただ冷ややかで深々とした沈黙だけが店内を支配いたしました。誰もがペローの差し出した銀貨に視線を落とそうともせず、暗い眼光で彼の全身を頭から足先までなぞるように見つめるばかりでございます。
農民たちの脳裏に去来していたのは、好奇心や金銭への欲望などではなく、身を刺すような本能的な恐怖でございました。
彼らの目には、上質な羊毛のコートを羽織り、白く滑らかな手をしたペローの姿が、パリから遣わされた徴税人の手先や、隠し財産や不敬の罪を暴き立てに来た領主の密偵としか映りません。不用意に口を開いて昔話や村の出来事を語れば、それを揚げ足に取られ、新たな税の名目にされたり、過酷な労役に引っ張られたりするのではないか——そうした長年の搾取によって叩き込まれた警戒心が、彼らの口を固く閉ざさせていたのです。
ひとりの老農夫が、嫌悪感を隠そうともせずに唾を床に吐き捨て、ペローから背を向けて奥の暗闇へと去っていきました。他の者たちも示し合わせたかのように視線を外し、ペローなど最初からこの店にいなかったかのように振る舞い始めました。
ペローがいくら言葉を重ね、差し出す銀貨の枚数を増やそうとも、彼らの強固な防御壁を穿つことはできませんでした。村人たちが抱く隔絶された孤独と猜疑心は、都市の人間が容易に踏み込めるほど浅いものではなかったのです。
さらに、この村の沈黙をより重く、息苦しいものにしていた決定的な理由がございました。
村全体に、皮膚がヒリヒリとするような異様な緊張感が漂っている背景には、つい数日前に発生した恐怖の出来事がありました。村のひとつの家族に、あの惨烈な天然痘の兆候が現れたのです。皮膚に不気味な発疹が浮かび上がった瞬間、村の疫病が出たときに古くから行われてきた、忌まわしい掟が適用されました。
伝染の恐怖に怯えた村人たちは、哀願するその家族を容赦なく住処から引きずり出し、人間社会の領域が終わる森の境界線へと追い払ったばかりだったのです。
誰もが「明日は我が身かもしれない」という死の恐怖におののき、互いに疑心暗鬼の目を向け合っておりました。隣人の微かな咳払いや顔色の変化にすら過敏に反応し、少しでも異変があれば即座に排除しようと身を固くしている状態です。
ペローが足を踏み入れたのは単なる貧しい農村などではなく、過酷な税の圧政と疫病の恐怖によって、慈悲を示す余裕さえ彼ら自身の恐怖によって削り取られていた、誰もが明日の自分を守ることで精一杯の、息の詰まるような村だったのです。




