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真冬のポニーテール  作者: 山葵わかな


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28 真冬への想い

「真冬ちゃんに会うのは来週までお預けかなあ」

 昨日アルバイトから早めに解放され睡眠時間の確保ができたという雨夜(あまや)は、驚くことに今日も引き続き俺より先に自席で頬杖をついて虚空を眺めていた。雨夜の嘆きからするに、真冬が心配で頑張って早起きしただけだろうとは思うけれど。

「真冬が能力を使いかけたのが、土曜日。今日で三日経つことになるから、さすがに大丈夫だと信じたいけど……。なあ、雨夜」

「なんだよ?」

 鷹司(たかつかさ)と対面してからの経過日数を指折り数えながら、雨夜ならその答えがわかるのではないかという結論に達する。頭の後ろで手を組み椅子を軋ませていた雨夜は、俺の問いかけに目線を合わせてくれる。

「雨夜個人の感覚でいいんだけどさ。状況的に真冬が今日来るのは難しいのか?」

「うーん。真冬ちゃんの能力も代償もわからないし、ましてや刻印の抑制付きだからなあ」

 腕を組み考え始める雨夜に、俺はしまったとこの問いへの後悔の念が押し寄せてくる。

 真冬の能力を雨夜は知らない。それは、俺が伝えるという選択肢を取らなかったからだ。ならば、俺が真冬の能力について触れるのは極力避けた方がいい。それは意識的に行わないと回避できないことだと、今更になって気づく。

 ただ、真冬の能力の話題を回避し続ければ雨夜はいつか疑問に思う日が来るだろう。いつもどおり、不自然なくやっていくしかもう手立てがない。俺は自分で蒔いた種だが観念して雨夜の考えを待つ。

「俺の能力が不発に終わることが仮にあるとすれば、通常の睡眠時間プラスアルファで復帰できると思うんだよな。真冬ちゃんはそうじゃないみたいだから、春香さんが言っていたとおり余程強大な能力を持っているはずだ」

 何の能力も持たない、他の人間と変わらない器の俺からしてみたら、雨夜の能力だってそれなりに強い能力だと思うんだけどな。簡単に夢に潜れるだなんて言ってはいるが、人の情報を見て干渉までできる能力が大したことないなら俺なんかどうなっちまうんだ。真冬が特別すぎて他の能力が俎上にも載らないのが実際のところだが。

「途中で帰っちゃったとはいえ、昨日は自力で学校まで来ていたわけだし。能力の強さの影響を差し引いても、今日も来る……と思う。オレの願望がほぼ八割方占めてるけどな」

「……そう、だよな」

 にへらと力なく笑う雨夜に俺も同意の姿勢を見せる。こんな議論をしたところで何も変わらないのはわかっている。真冬が来るまでの不安感を、同じ(コア)である雨夜の肯定的な考えによって有耶無耶にしたいだけなことくらい、自覚している。

「あーあ。今日真冬ちゃんが来なかったらオレのメンタルに関わってくるからなあ。テンションブチ下げの状態で連休中の激混みらしいバイトをこなせる自信ないんだけど」

「前から気になってたんだけどさ」

 あからさまに肩を落とす雨夜に、俺は前置きをする。

「雨夜ってさ。真冬のこと好きだよな」

 我ながら、何を言っているのかって感じだ。真冬の能力の話から逸れようと無意識的に発した話題がこれかよ。

「え。お前も同じだと思ってたけど」

 斜め上の問いかけに、これまた斜め上から回答が刺さってきた。俺は思わず口の形が『は』の字になる。

「いや。好きっていうか、一目惚れっていうか……。真冬ちゃんってさ、なんかこう、しとやかで奥ゆかしさがあるのにさ、周囲の人を惹きつける芯のある凛とした魅力があるっていうかさ」

 雨夜は心のうちに淀む靄をどうにかして言語化しようとしていた。

「……まあ、そんな感じじゃん。お前もよく真冬ちゃんのこと目で追ってるし。だからオレ、やっぱり核と器の適合者同士似たとこがあるんだなって感動したんだけど……違ったか?」

「は」

 今度はとうとう声となって発せられたその音で、俺に投げられたボールは一度留め置くしかなかった。

「……俺、そんなに真冬のこと見てたか?」

「はあ? 自覚なしかよ。まあでも、その分オレも真冬ちゃんのこと気にしてるってことだから、おあいこにしてやるよ」

 高校に入学してから一か月。雨夜の言うとおり、真冬が気になっていたのは否定できない。それは、いわゆる一目惚れって奴かもしれないと考えたこともあった。彼女いない歴イコール年齢の俺が考えをこじらせすぎたかもしれないとも思ったさ。

 でも、今は違う。

 真冬に惹きつけられていた理由は、明確だ。

 雨夜が俺を見つけ出してくれて、この短期間である程度気を許せるようになったのと同じだ。

 器と核。適合者同士が引き合うのと同じなんだ。真冬には人を惹きつける魅力があるが、俺が真冬に見入ってしまったのはまた違う理由によるもの。

 俺もまた、真冬との適合者だからだ。それを知って、これまでのモヤモヤのすべてが腑に落ちたんだ。

 好きだとか愛だとか、そんな生易しいものではない。生きるか死ぬか、適合者であるかどうかの歪な関係性。今にも切れてしまいそうなか細い糸は、情熱的な赤い色をしていない。ただ適合者になり得る核とつながっているだけで、俺がどちらの糸を手繰り寄せるのか。それを人類存続審判とやらが見世物として面白がっているだけなんだ。

 真冬が持っている人を惹きつける魅力だって、真冬固有のものではないのではないかとも思う。雨夜だけではなく、鷹司だって石原だって。それに他の生徒もやけに真冬に対して一目置いているのは薄々感じていた。真冬の能力を知った今、その魅力は刻印では抑制しきれていない能力が滲み出ているものなのではないか、と。

「そんなに難しい顔すんなって。いいじゃんか、好きだろうが気になる程度だろうがさ。オレら敵同士でもなくて、親友なんだからさ」

 雨夜の笑顔が、眩しい。

 俺はいっそこのまま、雨夜の照らす光で消滅したいくらいだった。何もかも隠し事をせずに話すと言っておきながら裏切り続けている俺の罪も何もかも全部。

「親友って言うにはまだ早くないか?」

 親友と言ってもらえたことは素直に嬉しい。俺がその期待に応えられずに裏切り続けているだけで。端から見ればただの照れ隠しとしか取れない言葉しか、俺には発せられなかった。

「ひっでえなあ」

 雨夜は笑う。何も疑わず、ただ『いい奴』である俺を信じているがために。

 そしてその笑顔は、ガラガラと遠慮がちに開かれた教室の扉によってさらに輝きを増した。

「真冬ちゃん!」

「……! 真冬」

 俺と雨夜は揃いも揃って、姿を見せた人物の名を呼ぶ。

「あ……。昨日はごめんね、途中で帰っちゃって。もう今日は大丈夫だから」

 俺たちを心配させまいとした真冬の第一声からは、昨日までの疲れの色は何もなかった。嘘偽りなく無理はしていないようで安心する。

「今日休んだら、連休中も心配かけちゃうかなって思って。それに、明日からまたうちの神社の参拝客の方があの喫茶店にお世話になるかもしれないから。雨夜くんにラテアート頑張れって、言わなきゃって」

「ま、真冬ちゃん……!」

 これ以上気を遣わせないようにと真冬なりの冗談のつもりなのだろうが、雨夜にはそんなの関係ない。刺さりも刺さりまくった真冬の声援に、既に拳が天井高々に突き上がっている。たまたま目に入ったクラスメイトが怪訝な顔をしているぞ。

「ゴールデンウィーク、か……」

 そう。世間では明日からゴールデンウィーク後半戦と言われている。俺たち高校生にとって昨日今日と平日は平常運転だから、休みを取れば大型連休だなんて甘美な謳い文句はただの煽り文句にすぎない。高校入学後この一か月間、毎日顔を合わせてきたクラスのみんなと初めて離れる連休。まあ、予定のない俺にとっては家でゴロゴロぐうたらしていたらいつもの土日のようにあっという間に休みが終わって、何事もなく変わらない日常が始まるんだろうけど。多少の五月病が付加されるという条件付きだがな。

「真冬ちゃんはゴールデンウィーク後半戦、何か予定あるんだっけ?」

 ゆるゆると拳を下ろしたと思いきや、雨夜がキラキラした目はそのままで問いかける。あわよくばまたあの喫茶店に来てほしいと言わんばかりに。俺ならばその誘いに乗ってやらんこともないのにな。

「連休は、家の手伝いと……お茶会のお手伝いもあるかな」

 お茶会と聞いて脳裏に浮かんできたのは、手入れの行き届いた香り高い花々に囲まれた庭園で、ティースタンドにスコーンやら何やらきらびやかな食べ物とともにティーカップ片手に優雅にキメる真冬の姿。いやいや、と首を振って無駄な妄想を振り払った俺は、部活選定時の会話を思い出していた。

「お茶会は茶道部の活動の方ではないから、家の手伝いの一つにはなっちゃうんだけどね。近所の子どもたちがお点前をするから、その裏方の一人として入らせてもらうんだ」

「休みの日まで大変そうだな」

 家の都合でお茶を嗜んでいたから高校でも茶道部に入部すると真冬は言っていた。思っていたよりも生活に根付いているらしいその高尚な趣味に、俺はありきたりな感想しか出てこなかった。

「そうなんだよね。ここぞとばかりに宿題がたくさん出される予告をされているのに。勉強する時間取れるかな……」

「しゅ、宿題……」

 俺は一気に現実に戻されるとともに、段々と焦点が合わなくなってくる。せっかくの国民の祝日に山のような宿題の嵐を浴びせてきた教員たちに対する恨み節が止まらない。

 他人に救いを求めようと俺は雨夜を見遣る。雨夜は真冬に笑顔を向けたまま表情一つ変えていなかった。話を聞いていないだけなのか、アルバイト漬けで忙しい連休でもあんな宿題なんて負担にもならないのか。コイツの場合はどちらもあり得るから、腹が立ってきた。

「今日もね、そのお茶会の準備のために急いで帰らなくちゃいけなくて。だから、今こうやって話せてよかった」

 そう言って微笑んでくれた真冬を見られたのは一瞬だけで、その柔らかな笑みは後から入ってきた担任の手によって奪われることになる。昨日途中で帰宅した件で真冬は担任に謝罪をしているらしかった。

「話せてよかったのはこっちの方なのにな。なあ、シノ?」

「そうだな」

 俺の後ろめたい気持ちを和らげてくれた真冬には、感謝しかなかった。

 そして、真冬の言うとおり俺たち三人が話せる機会は朝のホームルームが始まる前以外に巡ってくることはなかった。

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