1 夢
高校の入学式の前夜、俺は夢を見た。
目的地へと向かう電車の中で、真新しい高校の制服に身を包んだ俺一人だけがぽつんと座席の真ん中に座っている。これから高校の入学式か、どんな高校生活が待っているのだろうかだなんて、期待と不安が入り交ざりながら窓の外の景色をぼうっと眺めていた。音を立てず静かにレールの上を走る車外の景色はモノクロで、車内も色を失っていた。誰一人として乗客はおらず、車窓で切り取られた住宅の街並みは脳内に刻まれることなく右から左へと流れ去っていく。
「よう」
ある男の一声で車内の静寂は破られた。先程まで誰もいなかったはずの向かい側の座席に俺と同い年くらいの男子生徒が座っていた。俺と同じ高校の制服を身に纏っていて、よく見ると俺のものと同じくシワ一つない、新品同様の制服だった。
突然声をかけられたからなのか、それとも突然目の前に人が現れたからなのか。はたまたその両方であるかはわからないが、俺は咄嗟に返事をすることができず、ただその男子生徒を見つめていた。
「何にも反応してくれないなんてつれないやつだなあ。これから夢ある高校生活をともに過ごしていく仲間だっていうのに」
向かいの男子生徒は両腕を頭の後ろに回し、その顔は片眉を吊り上げて、俺の返事を促してくる。発言の内容からして、やはり俺と同じ境遇の人間のようだ。
「お前は、誰だ……?」
しばらくの間の後、ようやく開いた俺の口から出てきた言葉は相手の存在を問うものであった。こんな簡単な問いを発するだけでも労力を要するのはなぜなのか。
「あ、それはそうだよな。人の夢に土足で勝手に入り込んでいるのに、名前も名乗らないなんて失礼だよな」
すまんすまん、と片手を顔の前に立てて謝る仕草をすると、不意に立ち上がりそのまま俺の前で立ち止まった。
コイツは何を言っているのかと、俺は拙い脳味噌を回転させる。『夢』という単語が妙に引っかかる気がするが、それ以上脳が物事を考えさせてはくれない。ふわふわと急に身体が現実離れしたような感覚に陥る。
俺は観念して目の前に立ち尽くすその男子生徒の顔を見上げた。顔を見ているはずなのに、先程からその男子生徒の顔貌を、俺の頭はまったく認識してくれようとはしなかった。まるで粗くモザイクがかかっているかのように。
「オレの名前は……」
その男子生徒が名乗ろうとした瞬間、ぷつり、と。夢の中の俺の意識は途絶えた。




