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Lesson74 『祭祀は越階の最短路。』

冒険者達の活躍もありグリーンタウンの死骸や瓦礫は片付けられた。

なので南門の脇には慰霊碑が建立される事が決定する。



「ウォーカー君。

もう1ついいかね?」



『あ、はい。』



フカヒレのサンプルを献上した際に、ふと皇帝が話題を変える。



「碑石のデザインだがね。

ちょっとこれがセンシティブなんだよ。」



『と、仰いますと。』



「部下達は帝国式の慰霊碑に拘っているのだがね。

そんな事をすれば国際世論を不用意に刺激してしまうだろう。

共和国人共が吹聴している帝国の侵略主義がどうのこうのという例の論説だ。」



『ああ、そうかも知れません。』



皇帝が無造作に指さした比較スケッチ。

帝国と王国では慰霊碑のデザインが全く異なる。

石の種類、デザイン、碑文の書式、台座に施す彫刻、献花台の有無。

流石にこうまで違うと慰霊にならない気がする。



「だが、王国式というのも政治的に問題だ。

我々が彼らの領有権を認めたかのような誤解が生じるからね。」



『なるほど、確かに。』



帝国はタテマエ上、グリーンタウンが王国領である事を認めていない。

歴史的・文化的に帝国文明圏に所属すると喧伝し続けている。

口ぶりから見て、グリーンタウンを自国の一部と認識している帝国人は1人も居ないのだが、戦略上の便宜からそうなっている。



「地元民の意見を聞きたいんだ。

この地方に何か無難なデザインがあれば教えてよ。」



『あ、はい。

大至急皆に聞いてきます。』



「うん、後は侍従長と調整しておいて。」



そう言われたので、隣の小部屋で事務作業をしていた侍従長の下に顔を出して経緯を報告する。

侍従長は手元の書類にサラサラとサインをして俺に渡した。



「これでよし、安心したまえ。」



何が書いているか分からない書類ほど恐ろしいものはない。

この男には俺が文盲である事を何度か伝えた筈なのだが、その度忘れられる。

普段教養階級ばかり相手にしている所為か、俺のような無学者を認識出来ないのかも知れない。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



廊下でマイヤー大佐と出会ったので、これまで礼を述べて、皇帝から仕事を請け負えた経緯を話す。

彼は満足そうに笑っただけだった。


あ、この反応は全部知ってたな。

いや、恐らくは侍従長あたりに俺をポジティブに報告してくれたのではなかろうか。



「さあな。

私は軍人として粛々と任務を全うしているだけだよ。」



『…大佐に何か御礼は出来ませんか?』



「そんな事をされたら汚職になってしまう。」



『ですよねー。』



話はそれだけ。

俺達は小さく黙礼し合うと背中を向けて再び歩き出した。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ジェフ。

慰霊碑の件、大至急クラーク女史達に考えさせてくれ。』



「丁度オマエが本をせしめたばかりだしな。」



『ああ、あれだけあれば1冊くらいは役に立つだろう。』



依然、王国人の騎乗は禁止されているのだが、侍従長が発行した諸々の許可証によって俺達は自由に駆ける事が出来るようになった。

いや、それどころか帝国内を普通に移動する許可すらも含まれている。

理論上は帝都まで行く事が出来るとのこと。


瓢箪池に駆けるジェフの馬影を見送りながら、権力の万能性に対して溜息を吐く。

俺は例え自分に利益があるとしても、特定の誰かが得をする仕組みは好きじゃない。

きっと宮使えには向いてない気質なのだろうな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺達はグリーンタウン内に居を構える事を許可(許可の体を取った強要だが)されたので、冒険者仲間のケヴィン・コリンズが婿入りした胡桃亭なる宿屋に固まって宿泊している。

最初は兵士達に「黒鍬の分際でベッドなんか使いやがって。」と厭味を言われたが、侍従長から下賜された【禁裏御用】なる制札を玄関に立ててからは近づく者すら居なくなった。

そりゃあね、俺が帝国兵でも絶対に関わりたくないもの。


なので、ズカズカと入り込んで来るのはブンゴロドくらいのものである。



「おーう、ウォーカー。

オマエ、上手くやりやがったなあ。

おかげでワシらもウハウハだぜww」



最長老もロキ爺さんもずっと機嫌が良い。

彼らの想定以上に順調に事態が推移しているとのこと。

特に皇帝から軍旗を賜れたのは望外の幸運であった。

これにより彼らは【帝国が使役してやっている異種族】ではなく【皇帝の直轄兵】に格上げされた。

帝国が必死で阻止してきたドワーフ在住の法的根拠が転がり込んで来たのだ。



「安心しろウォーカー。

オマエにも、まだまだ旨い目を見せてやる。」



最長老が意味ありげにウインクする。

どうやら彼は自らの存命中に、もう少し利権を拡大したいらしく、俺達との協力関係を更に深めたいようだった。

まあなあ。

ドワーフにとっちゃ千載一遇の好機だからな。

ここを逃すような人ではないよなあ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



夜、ベッドで寝転んでいると不意に皆が退室してしまう。



『ん?

皆さん、何かありましたか?』



声を掛けても愛想笑いでそそくさと廊下の向こうに行ってしまった。

不審に思った俺が身を起こそうとすると上品なノックが2回鳴る。

この時点で嫌な予感がした。



「テッドさん❤」



『あ、クラークさん。』



「来ちゃいました♪」



『御婦人がこんな所に来てはなりません!

占領下なんですよ!』



「反省してます♡」



あからさまに反省していない。

それどころか上機嫌にニコニコ笑っている。

こんな事を言いたくないのだが、君は王国貴族だよな?

自国領土が占領されている状況でそんなに嬉しそうな表情をするのは不謹慎ではないか?



「そんな事より慰霊碑のデザインを考えて来ました♪」



『あ、はい。』



何がそんな事なのかは分からないが、ポーシャ嬢のスケッチブックを鞄から取り出しながらクラークは言う。



「この地域にあった大昔の宗教なのですが…」



『採用!』



「え?

あはは、まだ何も言ってないですよ♪」



クラークはスケッチブックを開いて該当ページを捲るが、見るまでも無かった。

俺の中でパズルが噛み合う音が鳴り終わっている。



『その宗教の話を聞かせて下さい。』



「え?

せめてデザインを見てから。

あ、このページです。」



『採用。』



古式宗教のデザインだけあって、珍妙なフォルムの石碑だ。

素晴らしいことに、王国式からも帝国式からもかけ離れている。



『宗教の概要は?』



「あ、はい。

神聖教という名前の宗教です。」



『ふむ。』



クラーク曰く。

神聖教は平たく言えば汎人類愛と清貧を説いた宗教。

1人の名も無き聖人が興し、実践的な困民救済と共に布教活動を行ったので、一世を風靡したとのこと。

その人気を危険視した時の王によって高弟共々処刑され、神聖教も各地の権力者に弾圧され地下宗教化したらしい。

どうやら権力者に面と向かって清貧と平等を説いたことが処刑の原因。

そりゃあ危険視されるよね。

その後、各地の信者は土着信仰の祭祀に偽装して開祖への思慕を残したとされる。



「もっとも、忘れられて久しいので各地に残るのは名残だけですが…」



『成る程。

こういうデザインの石碑が各地に残ってる訳ですね。』



「いえ、逆です。

各地の権力者は神聖教を危険視してましたから。

関連する祠や石碑は徹底破壊されて残ってません。」



権力者達にとって余程都合が悪かったのだろう。

神聖教は全世界で邪教認定され痕跡すら許されなかった。

皮肉なことに各地で破却令が出され続けた事により、デザイン記録が後世に残ってしまったとのこと。


《こんなデザインの石碑を建てた者は死刑!》


権力者達が異口同音に絵図付きの高札を村々に立てたおかげで、神聖教の石碑フォーマットが後世に残った。

当時の王侯貴族の名さえ忘れられているにも関わらずである。



「昔の宗教なので教義もシンプルなんですよ。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【神聖教団の教義  ~その3つの根幹~】


・人間はみんな平等です。


・富は独占してはならず、分かち合わねばなりません。


・暴力や戦争は悪い事、まずは話し合いで解決しましょう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



凄く良いこと言ってるなぁ。

そりゃあね。

専制君主に向かってこんな教義を説いたら普通は殺されるよね。


聞けば、神聖教の開祖は名も無き清掃労働者だったらしい。

各国の君主が《不浄の下賤》と口を極めて罵倒している。

純粋な善意から戦場での遺体埋葬を無償で行っているうちに支持者が自然発生したとのこと。

また、若い頃に土木奴隷として使役されていたらしく、培った経験を活かして各地で農業用の溜池を作った。

権力者というのは現金なもので、溜池だけは平然と残し嬉々として使い続けた。

俺が懇意にしている溜池村や現在の拠点である瓢箪池もその名残だそうだ。



「あの…」



俺が無言で長考していた所為かクラークな不安そうな顔をしている。



『ええ、聞いておりますよ。』



「テッドさんは聖人になんかならないで下さいね。」



成る程。

女がこう言ったという事は、開祖をなぞるのが世界にとって正しいのだろうな。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



翌日。

侍従長の下に出頭しポーシャのスケッチを見せる。

老人の口伝を絵の上手い子供が戯れに描き起こしたというカバーストーリーを添えて。



『私は無学なので、よく分からないんですけど。

言い伝えでは、こういうデザインの石碑が昔はあったらしいです。』



「ふむ。

これは古代王国の祭祀?」



『あ、いえ。

本当に歴史とか文化とか疎いので。』



「ふむ。

この献花台の意匠は古代のものだな。

明らかに帝国建国以前の様式だ。」



気がつけば皇帝が入室してスケッチを覗き込んでいたので慌てて平伏する。



「ふーん。

昔のものなら良いのではないか?

無難だし。

適当に地元民に巫女舞でもさせてお茶を濁そう。」



皇帝としても、わざわざ脳のリソースを過度に割くような案件ではないのか、その場で即決してしまう。



「じゃあ侍従長。

私はこれから会見原稿の読み合わせだから。

慰霊碑の件はウォーカー君と進めておくように。

今週中にテープカット出来るようにね。」



「はっ!

御意のままに!」



俺は家臣になった覚えはないのだが、皇帝達の中では既に準近臣なのかも知れない。

侍従長から自然にあれこれと命令されてしまう。



「ではウォーカー君。

村から適当に若い娘を数名集めておいて。

皇帝陛下のテープカットの際に、それっぽい巫女舞をして貰うから。

ああ、後は懇親会の時に各国の観戦武官にお酌でもして貰おうかな。

昨今はハニートラップへの批判が厳しいから、性的な態度は厳禁と周知しておいて。

彼らも全員妻帯者だから。」



『あ、はい。』



役所仕事ってこんな感じかぁ。

俺には勤まりそうもないなぁ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



生憎、女の当てなど俺にはないので、胡桃亭に戻り皆に相談。

丁度、家主のケヴィン・コリンズが戻っていたので奥さんと娘さんに女子を集めるようお願いする。


結局、紆余曲折あってケヴィンの娘のコレットをセンターに据え、テルマ・テイマーだのマーガレット・リンドバーグだのを両脇に添えて、神事っぽい舞をでっち上げさせる。

(最近の子はダンスとか好きだよなぁ。)


神聖教石碑のスケッチを描いたポーシャ・ポゥも功労を嵩に巫女舞に加わりたがったのだが、鈍臭いのですぐに女子達からハブられてしまい、部屋の隅でイジけている。



『えっと侍従長閣下。

こんな感じでどうでしょう。』



「ふむ。

じゃあ式典はこれで行こう。

繰り返すが、各国の観戦武官も臨席するから粗相の無いよう徹底させておくように。」



『あ、はい。』



巫女舞は俺の目から見ても素人芸なのだが、逆にその方が清純感があって良いらしい。

(ダンスが上手すぎると商売女を連れて来たと疑われる。)

他の側近達も「こんなんでいいんだよ。」と口を揃えていたので、まあ無難な線に収まったのだろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



副産物があった。

帝国人の俺達への扱いが劇的に向上したのだ。


死体を埋葬する黒鍬は卑しい存在だが、葬礼を司る神職は高貴な仕事との事。


そんな訳の分からない理屈に基づいて、今まで俺を差別していた将校達が掌を返すように親交を求めて来た。


あまりにアホらしいので、死臭の染み付いた遺品のドックタグを磨く作業に戻ることにした。

遺品区画に入ると、お調子者達はどこかに去っていた。




Lesson74 『祭祀は越階の最短路。』

【名前】


テッド・ウォーカー



【職業】


神聖教団信者総代

フカヒレの人

黒鍬者    (帝国から自粛要請中)

冒険者

ウナギの人



【スキル】


食材鑑定

高速学習

ウナギ捕獲



【資産】


銀貨28枚

鉄貨62枚

帝国銀貨(冒険者の宿に後送)

帝国金貨(冒険者の宿に後送)



【所持品】


折り畳み釣り竿

簡易テント

大型リュック

万能ナイフ

ポートフォリオ

騎士用手袋

トラバサミ

ハンモック

業務用肉醤製造セット

荷馬車

討伐チップ (ウナギ)

ゴブリン漁網

ブンゴロド通行証

ドワーフ式の軍用テント

グリーン図書館蔵書 (2万2918冊)

帝国通行証



【生産可能品目】


山椒粉

フカヒレ

ラー油

肉醤

ジャガイモ (少量)

ウナ肝

マーガリン

墓穴



【ポートフォリオ】


ホーンラビット

スライム

サンドシャーク

山椒

ドブネズミ

薬草概要

蝶類概要

風琴鳥

ドワーフ

蛇モグラ

廃棄物処理法

ウナギ

ジャム

バター

共和制




【仲間】


リコ・クラーク       (司書)

ジェフリー・フィッシャー  (漁師)

キース・ポーター      (運送業)

レオナ・レオナール     (受付嬢)

グスタフ・グリルパルツァー (狩人)

トーマス・トンプソン    (バディ)

ヘレン・ヘイスティング   (冒険者)

ノリス・ノーチラス     (修理屋)

ハンス・ハックマン     (農夫)

マーガレット・リンドバーグ (油脂製品製造業)

グレッグ・グッドマン    (支部長)

テルマ・テイマー      (飼育員)

^7@7@:;++         (先導者)

ブルース・ボブソン     (漬物職人)

クロード・クーパー     (田舎支部長)

ケヴィン・コリンズ     (宿屋の入婿)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(あとがき)


最後までお読みいただきありがとうございました。

このLesson(教訓)が有意義であったと感じていただけましたら、冒険の道標としてページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで評価して下さると幸いです。


ご安全に。

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― 新着の感想 ―
将校たちが手の掌を返したのは「皇帝が権限をテッドに与えた」事が大きいのだろうと思った いくら王国出の元農奴といえど権限を与えられ仕事を与えられ、それが皇帝が満足する形で終えるとあれば見る目は変わるかな…
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