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迷いの森、光る石の道しるべ  作者: 千雪はな
第1章 エメとルゥ
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潤む瞳

僕とのダンスを終えた後も、エメはまだ少し興奮気味にその余韻に浸っているようだった。


一人で右手を出し、左手は肩に添えるような姿勢で、さっきのステップを踏み始めた、が……


「あれ?……ん?」


「エメ、そこは右、次は、あ、違う…」


「ふふっ、あははは…」


エメが大笑いするのにつられて、僕も笑った。



ガチャッ


「「わぁ!」」


突然、玄関扉が開いて、僕とエメは飛び上がるほど驚いた。そこには、ジュディさんとラリーが笑って立っていた。


「あんたが気づかないなんて珍しいね。余程(よっぽど)楽しかったんだね」


確かに。エメはいつも気配を鋭く感じて、まだ人影が見えないうちから、小屋にジュディさんやラリーが来るのを僕に教えてくれていた。


僕が崖から落ちた日は、森の周りで僕の家の者達が探している気配を感じて、僕の無事を伝えに森の入り口まで行き、ラリーを小屋まで連れてきてくれたんだった。エメは、人が来ると森の様子が変わるでしょう?と言うけど、僕にはその違いはわからない…。


そんなエメが、扉が開くまでジュディさん達の訪れに気づかないなんて。そんなに僕とのダンスに夢中になっていたんだろうか。そう思うと、僕は嬉しくて調子に乗ってしまいそうだった。



エメは少し照れて笑った。


「かあさん、私、少し踊れたわ」


「ああ、その窓から見えてたよ」


「えっ、見てたの?」


「楽しそうだから、ラリーさんと少し見てたんだ。あんたが気づくまでと思ったら、いつまで待っても気づかないから可笑しくてね。上手に踊ってたじゃないか」


「でしょう?でも、一人でもう一度踊ろうと思ったらできないの…」


「それは、ルゥのリードが上手ってことだろうね」


僕はごく基本のステップで褒めてもらって、なんだか照れ臭くなった。


「やっぱり、ルゥと一緒じゃないと踊れないのか…」


エメは口を尖らせて不服そうな顔をしている。


「エメはもう少し練習したら上手に踊れるようになると思うよ。僕はエメと、とっても踊りやすかったから」


「本当?」


エメの顔が、僕の言葉でパァっと明るくなった。その可愛らしい豊かな表情をいつまでも見ていたかったけど、残念ながらここを離れる時間が来たようだった。



「リュウ様、そろそろ…」


遠慮がちに口を開いたラリーに「ああ、わかった」と僕は返した。そしてエメとジュディさんの方へ向いた。


「エメ、ジュディさん、助けてくれて本当にありがとうございました。そして今日までお世話になりました」


僕は深く礼をし、顔を上げて続けた。


「また改めてお礼をさせてくださ……えっ、エメ?」


エメの深い青色の瞳が潤んで、今にも涙がこぼれ落ちそうになっていた。そしてくるっと僕に背を向けてしまった。


「エメ…、この夏のうちにまた会いに来るよ。次の冬の休みにも……」


肩を震わせ、顔を見せてくれないエメに、僕はオロオロした。ジュディさんはエメをそっと抱きしめると、優しい声で言った。


「エメは誰かを見送ることなんて初めてだからね。私はラリーさんと先に行ってるから、落ち着いたらルゥとおいで」


「えっ⁈」


僕は慌ててジュディを見た。ジュディさんは、小さく頷くエメの頭を優しく撫でると、僕に言った。


「じゃあ、エメを頼んだよ。ゆっくりで構わないから」


「あ…、あの…」


ジュディさんは玄関扉を開けると、もう一度、僕の方を振り返った。


「森を出た所に馬車を待たせているそうだから、そこで待ってるよ。さぁ、ラリーさん、行きましょうか」


「はい、ジュディ様」とラリーは僕の荷物を持ち、玄関へと向かった。そして玄関を出る前に僕の方を向いた。


「ではリュウ様、お待ちしております」


「あ……」


キィ…、パタン



玄関扉は静かに閉まり、情けない顔をしているであろう僕を残して、二人はさっさと小屋を出て行ってしまった。


泣いている子の相手なんてしたことがない。姉さんが泣いていても、手がつけられないから誰かに任せて放っておくし…。


三つ年上の気の強い姉は、言いたいことを言いながら大泣きするから、僕がなんとかできるなんて思ったこともなかった。でも、それとは全然違い、静かに声を殺して泣いているエメを見たら、彼女を慰められるのは僕しかいないという思いが湧いてきた。


二人きりになったことも手伝って、僕は少し落ち着いてきた。


エメの左手はスカートをきゅっと掴み、右手で涙を拭っているが追いつかず、雫がぽたりぽたりと床に落ちている。僕は、(うつむ)くエメの前にそっと屈んでその顔を覗き込んだ。


僕は両手で彼女の頬を包み、溢れてくる涙を親指で拭った。


「エメ、足の痛みが取れたら、すぐに会いにくるね」


エメがしゃっくりを上げながら、一生懸命に涙を止めようとしているようだった。


「お菓子を持ってくるし、ダンスの練習もしようね」


涙は少しずつ止まってきたようだが、僕の言葉に頷くこともなく口をぎゅっと結び、スカートを掴んだ手に力が入っているのがわかる。


「それから、王都に戻る前にも、もう一度遊びに来てもいい?」


「もう…いちど?来てく…くれる?」


ようやく目を開けて、僕の顔を見てくれた。


「ああ、僕が来たいんだ」


僕がゆっくり立ち上がると、エメは僕を見上げた。


エメの涙は止まったけど、まだ瞳は潤んでいる。窓からの光を集めてキラキラと輝く様は何て綺麗なんだろう……



小さなしゃっくりが続くエメをそっと抱き寄せると、エメは僕の胸に顔を(うず)めて「私も来てほしい…」と小さな声で言った。


「ありがとう、エメ。そう言ってもらえて、すごく嬉しい」


その言葉に顔を上げたエメのおでこに、僕はゆっくりと口付けた。


驚いて目を大きく開いた後、エメは頬を赤らめてまた僕の胸に顔を埋めてしまった。

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