「悪魔に願い事をしてはいけません」3
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「夕食を先にしましょう」
2日続けてはどうかと思ったが、先ほどはあんなに頑張ってもらったし、肉組に今日の肉を楽しみにされているのでステーキ丼を出す。
コレックは3杯も食べた。流石に驚いた。烏龍茶を飲め飲め! と皆に勧めるが、あまり意味はないかもしれない。
「いってきます」と野営地を後にして、22時。いつもならとっくに寝てる時間。
リコは、ウキウキで主道を歩いていた。
そう言えば夜に出歩いたことがなかった。強そうな、現に強い冒険者3人に囲まれて怖いもん無し。
ほんのりと光る瓦礫に照らされ、見るもの全てが新鮮でどこか美しく、リコは喜びを隠さなかった。
「夜の草原は生まれて初めてです。見たことないものがいっぱいです」
「ダンジョンの暗闇の中で斯様に生き生きとする乙女も珍しいがの」
「夜の方が、色々なものが光ってよく見える気がする」
リコの言葉にリュコスが眉を顰める。
「リコ殿も、夜の住人のような振る舞いだな」
「お2人も夜の方がよく見えるのですか?」
「あぁ、みえる。力も5割り増しだ」
「フハッ凄い! 夜歩いた方がずっと早く先に進めそうですね!」
さっきからリコのテンションがおかしい。
バコニーの所在も掴めない。
そう離れてはいないはずだ。なのに気配を感じない。
リュコスは自分の警戒が届かない何かが起きていると気づいた。
「リュコス殿、少し、魔術とスキルの授業をしよう」
オベントが杖を出した。
バコニーはどこだ? リュコスは必死に気配を探る。
リコ様もイビルちゃんも、胸のシャドーマンも、どうして何もリアクションしない?
オベントとバコニー、この2人はなにかおかしい。
リュコスもナイフに手をかける。
「コレは〈威圧〉の応用」
オベントの囁きが耳に響く。
「【隠密】のスキルにちょっとだけ〈魔法〉を混ぜて使う」
本能だけで戦っているようでは、ヒトからリコ殿は守れぬよ?
真後ろからオベントの声がする。
自分の前をリコの隣を歩いているのは何だ!?
「気配を消すのでは無く偽る」
耐え切れずナイフを抜く。
「リュコス! どうしたの!?」
後ろからリコが駆け寄ってきた。
「!?」
リュコスは振り返らずリコを身体で止め、目の前にいるオベントにナイフを構える。
どうしてあのイビルちゃんは反応しない?
「挟まれたぞ」
耳元でオベントの声がする。
目の前のオベントだと思っていたものがバコニーに変わった。
「スキルに頼りすぎだな」
目の前のバコニーが「なまじ【気配察知】【気配遮断】が優れている為に簡単に騙されるようです」と口に出す。
リュコスは背中でリコを押し、ジリジリと2人から距離を取る。
「もう遅い」
バコニーが口に出す。
パチっと背中に何かが当たった。
「い゙っ!!」
「お、できた」
後ろにいたはずのリコがオベントに変わっている。
「!」
リコはバコニーの隣にいた。
バコニーと楽しそうに前を歩いている。
バコニーの背中に回した手にはナイフが握られている。
「!?」
「リュコス殿、気配は〈偽装〉することができる」
オベントが前に進み出て、杖の先に細やかな青白い電気の線を出したり消したりしている。
「故に気配は、目で見るのでも無く、匂いを嗅ぐのでも無い」
2人死んだぞ。
先に歩き出たはずのオベントがぬるりと背後から顕れた。
いつもの白髪の紳士の姿では無く、黒く禍々しく揺る頭髪の根本から赤黒い角が生えている。
「俺が悪魔だからじゃぁ無いよ。オマエが未熟だからリコも死んだ」
「いえ、リコ殿は殺せませんでした」
バコニーが振り返り言う。
リュコスには、リコが楽しそうこちらをみているようにしか見えない。
「はて?」
いつもの姿に戻ったオベントが首を傾げる。
「ここから100mほど西に進んだ所に巣があるみたいなんですけどどうします? お二人はここで待ってますか?」
リコが普通に話している。ように見える。
解らない。
リュコスは「ウグゥ」と唸って胸を抑えると、前にいたはずのリコの手が背中に触れた。
「どうします?」
リコがオベントに“普通”に話しかけている。ようにみえる。
「リコ殿は、神にあったことがあるな?」
「あぁ、はい」
「その時、何を命じられました?」
「いいえ、何も」
「ではなぜここに?」
「? 事故? でしょうか?」
「事故?」
「その場で天使? 神使? に殺されたので、不可抗力でこの国に飛ばされたようです」
天使? 神使? リコは鳥頭で羽の生えたやつ。に頭を踏み潰された。と説明する。
「そろそろ【隠密】を発動させたほうがいいと思うのですがどうしますか?」
キョロキョロと辺りを見ながら、神との出会いの話など興味なさげに伝える。
おそらく【状態異常】に関して恐ろしく“愚鈍”なのだ。
バコニーの殺気も、オベントの〈威圧〉も気にならないかのような振る舞いに、オベントが痺れを切らせて質問する。
「リコ殿には、今ワシの姿がどう見えているのですか?」
「え、ロマンスグレーの素敵なイケオジ紳士に見えます?」
目がとてもキレイ。リコが不思議そうに答える。
「イケオジ」
バコニーがリコの言葉を繰り返す。
オベントは苦笑いをしながら質問する。
「リコ殿、もう少し詳しくワシを見ることができるかね?」
「みても良いんですか?」
「え?」
「“よく”みても良いんですか?」
ゾワッ
オベントの体を怖気が障む。
「・・・いや、辞めておこう」
バコニーが驚いた顔でオベントをみる。
「俺の姿はどう見えますか?」
「黒髪褐色高身長に端正な顔立ちのハイスペイケメンです」
「ハイスペイケメン」
バコニーは初めて聞く単語を繰り返す。
「もっと“よく”みることはできる? できますか?」
「良いんですか?」
バコニーと、オベントの顔を見た。
オベントが頷いたのでリコは口に出して言う。
「【鑑定解析】」
ジュゼ 7才 称号:悪魔の眷属
種 族:魔人(高魔力)
スキル:【隠密】【身体強化】【百発百中】【魔術操作】
魔 法:〈闇属性〉〈無属性〉
職 業:冒険者 アサシン ドミナントの従者
状 態:健康
途端に、2人の〈偽装〉が解けた。
「あ、すみません、お二人とも偽名だったのですね?」
さっきまでと全く変わらず話しかけてくるリコに、ジュゼが驚いて質問する。
「リコ殿はこの姿が恐ろしく無いの? 無いのですか?」
リコは[表示モニター]から視線を移してジュゼをみる。
白目の無いガーネットの瞳に、曲がりうねった角とはみ出す牙が見える。
よく見ると2人とも眼球の色は偽装後と同じのようだ。
「え、あ、こちらも素晴らしいイケメンです」
「イケメン」
ジュゼがまた言葉を繰り返す。
「イケてるメンズ。ハンサム? 美人な男性の事です?」
随分イケメンが気になっているらしいジュゼに、イケメンを説明した。
「本当にこちらもお綺麗ですよ? オベント様はその、お若く見えます」
リコは、ちょっと残念そうな顔をした。
「なぜ?」
「あ、私の好みの問題でしょうか? どちらかと言うとイケオジ好きなので」
「イケオジ」
イケてるオヤジ。とリコが説明する。
「あ、いや、なぜ急に〈偽装〉が解けたのか」
なんの魔力も感じなかった。とドミナントは言う。
「あれ? 私のいた国では悪魔は本名を知られると全てのウソがバレる。と言われていましたが、そのせいでしょうか?」
すみません。とリコが頭を下げた。
「いや、、、いや。そうか」
そう言えば、大昔にそんな話を耳にした事があったような。
ドミナントは“大昔”の記憶をたぐる。
「2人でなに内緒話してたの?」
「内緒話?」
「オベント様がずっとリュコスの耳元で何か喋ってじゃん。仲良しかよっ!」
リコは笑いながらリュコスを肘で小突く。
「仲良し!?」
胸がぴょんぴょんした。と、リコが訳のわからないことを言っている。
「スキルと魔法について教えてもらっていました」
「え〜良いな〜私も聞きたかった。今度お願いしてみようかなぁ」
「いえっ、ダメです。悪魔に頼み事をしてはいけません」
「あぁそうゆうのあるのね? でもオベント様達は大丈夫だと思う。どんな契約を結ぶかなんて個人の資質だし、人間も悪魔も変わらないよ」
リュコスは胸を抑えた。
「リコ様、悪魔は狡猾です」
「悪魔かどうかは関係無いよ」
「いいえ、あります。あいつらには魂が有りません。誠実なはずがありません」
周囲のマナが揺れる。
リコが悲しそうな顔でリュコスを見る。
リュコスの胸が酷く痛む。
「どうしたリュコス泣きそうな顔をしている」
ジュゼが、不穏な空気をだしつつリコを背後から抱いてリュコスを挑発する。
「リコ、悪魔は狡猾です。彼が正しい。魂の無いものを信用してはいけません」
ドミナントがそれはそれは美しい微笑みを湛えてリュコスを見る。
「魂の無い者は、善人を騙し、弱者を唆し、そのくせ執着にもすぐに飽きて、面倒くさくなると何もかも捨てて逃げる」
リズムのあるゆっくりとした語りは、呪文を唱え魔法をかけるようにその場を支配していく。
「全ての魂あるものに対して不誠実です。それが魂なき者の当然の権利とさえ思っている」
「そんなものに依存しては、最後には一緒に地獄に落ちるだけ」
ジュゼがリコの耳元で甘く囁く。
「一緒に落ちるならそれで良いのです」
リコははっきりと答える。
「それに、もう地獄は経験しました」
イビルちゃんがブルリと震えた。
リコが[電弧]を2本ベルトから外し、下にはらって先を伸ばすと、青白い狐が2匹ぬるりと両わきに侍る。
「〈水の玉〉」
リコは頭上に出した水球を操ってそばに来ていたダンジョンワプスの斥候を次々と水球に捉えていく。
水は形を変えて、もがき暴れるワプスを逃さない。
「ごめんなさい。さっきちょっと、動揺しちゃって」
自分のミスです。と、歩き出すリコと一定の距離を保って、所々にいるワプスをからめとり飲み込みながら、水球はどんどん量を増やしていく。
両隣を、ぬるりつるり と歩く狐等に ジッ バリッ と音を立てて何かが集まっている。
目の前に、崩れた廃墟の壁に張り付いて一軒家ほどの蜂の巣が現れた。
さっきマナが揺れたせいで、数十匹が巣穴から出て警戒音を鳴らしている。
「まずいな」
ドミナントが言うと「これぐらいなら大丈夫です」リコはそう言って巨大に膨れ上がった水球で巣ごとワプス達を取り囲んだ。
離れていたワプスも触手のように水が伸び取り込むと、一切の羽音が聞こえなくなった。
リコが[電弧]を振り上げると、大口をあけた狐が カチリ と牙を鳴らせた。
水球を電気の線が格子鉄線の様に巻き付くと、それまで巣に張り付いていたワプスたちが力無く水に浮き漂う。
[クイーンワプスの翅 ドロップしました。]
[ダンジョンワプスの毒針 ドロップしました。]
[ダンジョンワプスの翅 ドロップしました。]
[魔石 ドロップしました。]
・・・・・
繰り返すアナウンス。
暫くすると水の中に水泡が現れ始めた。
「【収納】やった[水素]ゲットだぜ」
狐等は空に帰り、思いがけないものを手に入れたリコは密かに喜こんだ。
リコは残った水をそっと地面に流し、落ちたドロップ品を一斉に【収納】する。
「わ、無属性の魔石が800個もドロップした。やった!」
「素晴らしい!!」
いつのまにか〈偽装〉を戻したオベントは、讃嘆を隠す事なく大きく拍手した。
「電気便利ですよ。水魔法と組み合わせると特に」
「あぁ! 何度か見たおかげで、ちょっと集められるようになった」
見て見て! とオベントが杖の先に電気を発生させる。
スゴイ! サスガ! とさっきまでの剣呑とした雰囲気が嘘のように「キャッキャうふふ」とはしゃぐ2人に、リュコスは訳がわからないと眉間に皺を寄せる。
「なるほど、守られているのはリコの方ではないのだな」
バコニーは、そう言い捨てリュコスの肩を叩き突き放すと、落ちていた魔石を数個拾ってリコの元に歩きよった。
リュコスは、胸を抑え俯き、下唇を噛んだ。




