「悪魔に願い事をしてはいけません」2
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お粥も好評だった。
昨日は肉をたっぷり食べたし、少し消化に良い物を。とリコは思ったが、コレまでの食べっぷりから保険で付けたトラウトの塩焼きで、充分満足感は得られたようだ。
『大喰らい』の面々はそれぞれおかわりもして、鍋を空にしてくれた。
リコはまたニンマリしながら鍋を洗う。
「今日は1日丸っと歩いて少しでも距離を稼ぎましょう」ハヤシが言うと、「くれぐれも、昨日のように狩りに夢中になり過ぎないように」コホンと口に拳を当ててライノが咳払いする。
「自分だってねー」「なー」とマツリとコレックが揶揄う。
「せめて見えないところまで行かないようにしましょうね」フエの言葉に、ヒナはコクリと頷いた。
何度かはぐれボアや角ラビットなどに出くわすが、そう数が多いわけでも無く、順調に歩みを進める一行だったが、草原フィールドも残すところあと1/3あたりで、異変に気づいたマツリがみんなを止める。
「空気がおかしい」
静か過ぎる。
「細かく地面が揺れてる?」
マツリが地面に耳を当て、集中する。
リコは〈探索〉でマップを出す。
「ブルの群れのようですね。25? 30? こちらに向かってきます」
リュコスがナイフを抜いた。
「数がわかるの?」
マツリが聞く。
「急に現れた 移動 早い」
どこからか現れたバコニーがオベントに言う。
「ちょっと足止めしますね。えっと、技名をちゃんと言った方が良いな」
リコが、沼地で練習していた魔法を試そうと[特殊警棒型杖 電弧]を出し構える。
「かしこみ かしこみ 〈稲荷神楽〉!」
皆が何か言う前に[電弧]の先から、2匹の青白く光る狐が躍り出る。
「な、に、その魔法?」
「召喚? 移転?」
「見たことない・・・!」
「ゴースト? いや、まさか・・・!?」
やがて地響きとともにブルの群れの集団が見えた。
狐等が向かってくる群れを囲むように数周駆け回ると、離れた場所で時々何かが爆ぜるような音が響き、群れの爆進はゆっくり速度をさげ十分な距離をとって止まり、ブル達の嘶きと土を蹴る音が聞こえる。
落ち着きを取り戻したかのように思えたが、戦闘を止める気は無いようだ。
「少し音がします。耳を塞いでください」
リコが警棒を振り上げる。
ギィンッ!!
金属音と共に地面から空に向かってジグザグと一筋の稲妻が立ち昇った。
「なに!? 雷!?」
ビリビリと空気が震えてる中、フエが耳を押さえながら叫ぶ。
リコはマップを見て撃ち漏らしがないか確認した。
狐等は辺りをウロついて、何かに気づくと、更に群れの後ろに走り進み、ブルを追ってきていたダンジョンワプスの群れの隙間をするりぬるりと駆け入り、次々と感電させて落としていく。
[ダンジョンワプスの毒針 ドロップしました ]
[ダンジョンワプスの翅 ドロップしました ]
[魔石 ドロップしました ]
繰り返されるドロップを知らせるアナウンス。
全ての羽音が止むと、2匹の狐は飛び跳ね絡まるように走って空に消えていった。
驚き固まる皆をおいて、リュコスがトドメを刺すために、倒れ痺れているブルの群れの中に入っていくと同時に、黒い触手が無数に現れ、倒れたブルの脳天を突き抜いていく。
[〈稲荷神楽〉習得しました ]
「う〜ん・・・広範囲魔法は上手く行ったけど、すみません。ブルはやっぱり倒しきれませんでした。トドメを刺すので、ちょっと待ってください」
「練度が足りなかったなぁ加減がわからない」と続けるリコの言葉に、固まっていた皆が「あ、あぁ、いや、手伝うよ」と動き出す。
リコは、マップで近くにモンスターがいない事を確認する。
「ありがとうございます。ドロップ品はもらっちゃってください。お肉は調理が必要なら後ほどこちらへ。ではお手数おかけします」
ペコリ。と頭を下げて、ドロップ品を回収する為に、リコも死屍累々の群れに走り入る。
「リコは『非戦闘員』と言った? 言っていました」
そばに倒れているブルの脳天をナイフで突きながらバコニーが話しかける。
「はい。この通り未熟で非力でトドメを刺し切れません」
「リコは雷を落とすことができるの?」
フエがまさかよもやと質問する。
「ダンジョンの中ではどうでしょう? 外でだったら・・・いや、別に屋内でもプラズマ・・・[黒犬]なら出せるのかな? そしたらもっと殺傷能力高いかな? いや、広範囲攻撃は維持したい。ちゃんとした舞? とかでマナをもっと大量に集める何か、工夫がいる[柳の枝]が必要だな」
ブツブツとリコが考え込んでしまった。
「魔力の消費をほとんど感じなかったが?」
オベントがリコを引き戻す。
「こちらでは誰も使わないから電気は簡単に集まるのです。実質使いたい放題なので、術の〈発動〉にしか自分の魔力を消費しません。それも魔石に貯めているのでほぼ[魔道具]の力です」
棒に組み込まれた魔法陣で、用途に合わせた獣を出すがそれだけです。と、その都度、その棒で書き込む簡単な命令文で魔法陣が構成されているので、発動後の獣は勝手に動く。と説明する。
「それも売り出すのか?」
槍で、ドス、ドス、と、倒れたブルの心臓を突きながら、ライノが歩み寄る。
「専門的である必要はないんですけど[電気]と[科学]の知識が多少ないと使いこなせないと思います」
なので売りません。とリコは答えた。
「[科学]?」
オベントが興味深そうに話に食いつく。
「自然科学っていう学問? 師について学ぶ。的な? 【錬金術】に似てると思います」
「ワシも学ぶことは可能か?」
「可能ですが、こちらでの師を知りません」
「リコ殿は?」
「無理です無理です。人に教えられるほどの知識はありません」
「残念だな」
「現象、現象だけなら、こう、寒くて乾燥してる日に何かに触ると『パチっ』となることあるじゃないですか?」
「あ、ああ、『妖精のイタズラ』だな?」
こっちでは妖精のイタズラっていうのか、かわいいな。
「アレを集めたものです」
「アレを集める」
「皆さんの水魔法と同じで、えっと、マナと同じようにあらゆる物体に電荷、、、電気の素が蓄えられていて、それを集めてプラスとマイナス、、、えっと、二つの物質の流れのバランスを崩すと、パチっと」
指の先で電気を弾けさせる。
「ふむ」
オベントの頷きに「全然わかんないわ」一緒に話を聞いていたフエが降参と両手を上げる。
自然現象としての雷があるなら、魔法に応用しても良さそうなのに、誰か研究している人はいないのだろうか?
そもそも魔法と言う超常現象を前に[科学]が適用される意味もわからない。
リコは「すみません。私では言語化するのはコレが限界です」と項垂れた。
そこに存在することがわかれば簡単だと思うけど、そこに辿り着く経過が見えない。
「いや、なるほど、面白い。[電気]と[科学]か。調べてみよう」
オベントが嬉しそうに言いリコの頭を撫でる。リコは「えへへ」と笑って返す。
「リコはなんでそんなにオベントに懐いているの?」
私だって魔法使いなのに。とフエが口を尖らせ言う。
「朝ご一緒する時間が多いからでしょうか?」
「あ、朝ごはん作ってくれてる時間かぁ! 盲点!」
「フエに早起きは辛いよね」
「最近は寝坊しない。えらい」
マツリとタイコがからかいヒナが頷く。
「ダンジョンワプスの方は全て倒せたようです」
何か詰問されているのかと訝しんだリュコスはリコを連れ出した。
ついていくと、無属性の魔石が山のように落ちていた。
「主道に近い場所に蜂の巣でもできてるのかな?」
ドロップ品をせっせと拾いながら〈探索〉マップを拡大する。
「あるな。主道1kmぐらい先を東に100mってとこかな?」
蜂と言ってもA4サイズだ。
リコだって遠隔攻撃魔法が使えなかったら猛ダッシュで逃げている。
冒険者達にも攻撃的な虫系モンスターの群れは恐れられている。何せ、飛ぶし、硬いし、速いし、量が多い。
「そして、虫系のモンスターに襲われると、死体が残らない場合が多いのです」
リュコスが5本の冒険者タグを持ってくる。
「あっ」
リコはぎゅっと目をつぶって気持ちを落ち着かせてから、気持ちを切り替え、ライノとハヤシにタグを持っていく。
やはり、ほんの数日前に15階で別れた冒険者達のものだった。
「あぁ、あの子達」
「ダメだったんだね」
「ダンジョンワプスの群れなんて、ついてない」
「あぁ、そうあることじゃない」
それなのですが、主道から100mが駆除対象なのかどうかがわからない。とリコがライノにタグをそのままわたし相談する。
「微妙だな」
駆除のために危険を犯すリスクと、天秤が釣り合わない。
何せ、一度でも刺されたら行動不能、死ぬ場合すらあるのだ。
しかも巣の駆除となると、その場にいるワプスの数は1000以上は確定だ。
「1ヶ月以上ダンジョンに人が入らなかったんだ。低階層モンスターの数が一時的に増えているのかもしれない?」
ハヤシがギルドの調査の甘さを訝しむ。
「回収屋まで締め出すなんてやっぱり異常だったんだよ」
マツリもポロリと愚痴をこぼす。貴族への批判は命に関わる。まして彼女は猫獣人だ。余程のことじゃない限り人前で口に出すようなことじゃない。
「駆除しましょう」
リコの言葉にリュコスが眉を顰める。
「草原フィールドは夜行性のモンスターがほぼいないんですよね? ではワプスは?」
「夜は巣の中で寝ているだろう。だが、斥候蜂に悟られず同時に素早く始末する方法となると」
「ワプスは火耐性があるから焼き殺す事もできないのよ?」
フエの言葉に、オベントはさっきの攻撃を思い出していた。
「あれが電気?」
確かに50ほどのワプスを瞬時に駆逐した。
「はい。しかもまとまって寝ててくれてるならより安全に確実に電気を通す方法があります」
「確実に!」
ハヤシが賛嘆の声を上げる。
「動いてない敵なら電気は便利で無敵ですよ」
リコは、エヘンとドヤ顔して、でも、と話を続ける。
「巣に近づいたら流石に気づかれちゃうだろうから、私とリュコスだけで行きますね」
「いや、ワシとバコニーも同行しよう。ライノ良いか?」
大剣のコレックはそもそも小型モンスターの討伐には向かない。重騎士は速い敵に弱い。1人にするわけにもいかないし、ライノはお守りを承諾するより他無かった。
「え、私達も行くわよ」ハヤシがオベントを見るが「お前達では無理だ」バコニーがハッキリと断りを入れると、「なんで!?」マツリの言葉を制するように「そうゆうスキルなのね?」フエがリコをみた。
「大丈夫です。蜂の巣駆除は何度も見たことあります。自信あります」
フンス! と鼻息を出して両手でガッツポーズをする。
あまり意味はわかっていないようだ。
リュコスも眉を顰めてリコをみる。
オベントは フ と笑うと「若い娘と夜のデートなんて何十年ぶりかの」とリュコスにウインクした。
リュコスは無表情を貫いた。




