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「ご結婚されてましたか」2

2/2




 ざわざわと、にわかに周りが騒ぎ出す。

 瀕死の仲間を抱えた3人組のパーティが出口の魔法陣に現れていた。


「29階のリッチに猛毒と呪いをかけられた! 誰か! 回復ポーションと解毒、解呪ポーションを持っていませんか!」

「リッチは倒したのに、兄さんの毒も呪いも治らないの! どうかお願いです! なんでもします! 助けてください!」


 周りを取り巻く誰かが声をかける。


「金はあるのか?」

「今は無い! でも、換金できる物は持っている!」

「足りなかったら借金奴隷にでも何にでもなります! 兄さんを助けてください!」


 弟、と、思しき男に支えられている兄と思しき男の腹からは、出てはならぬものが出てしまっているのに、気を失う様子もなく、おそらく毒と痛みでのたうち回っている。

 何とか弟妹2人で押さえつけてはいるが、もがくたびに床には血があふれ出していた。


「相当な猛毒を受けているな」

「呪いも強力そうだ」

「ありゃぁもうダメだな」


 人々は遠巻きにヒソヒソするばかりで、手を貸そうと近付く者は誰1人としていなかった。



 リコは、声をひそめてリュコスに聞いた。


「29階踏破の冒険者だってよ? どうして誰も助けないの?」

「・・・壁にいるギルドの商人が動かないからです」


 リュコスは、嫌な予感がする。とは思ったが、聞かれた事になるべく正直に答えた。


「どうゆうこと?」

「そもそも金が無いから彼らはポーションを用意していなかったのが明白です。ここで死ぬなら最悪生き返りができると上がって来たのかもしれませんが、ポーションでは、助かった後になって払うとは思えません」


 最初にポーションを買った商人ギルドのブースでは、件の商人こそ不在のようだが、数人の商人が嫌悪の目を向け静観している。

 どうせ死ぬならここでなくとも。ってとこか。


「なるほどね。じゃぁ死なせたくない場合はどうやってお金を作るの?」

「・・・借金さえ作れば誰でも奴隷になれるのですが、公式に借金を作れるのは、神聖契約を行える、神殿だけです。神殿で契約をして金を作ってから、その金でポーションを買うのが順当です」


 だが、彼らは一切それをしようとしていない。

 リュコスは視線を再び彼らに戻し、そのままリコに「どんな理由があるのかわかりませんが、後になって金を払うとは思えません」と念を押すように言った。


 なぜ二回言った? リコはリュコスを目を細めてみつめる。


「パニックになっているだけ、、、いや、この様子では彼らには何もしなくても借金奴隷になるでしょう。奴隷になった後では貸した金は絶対に戻ってきません」


 リュコスは、大きくため息をついて、観念したかのように言った。


「なぜなら、彼らは獣人のパーティです」

「んもう」


 リコは、ジト目のリュコスの視線に口を尖らせながら、血まみれの床にひざまずくと【鑑定解析】で、瀕死の仲間に泣き縋る獣人達をみた。


 [表示ステータス]

 エドガー 25才♂

 種 族:猫人(五感卓越 高瞬発力)

 スキル:【解体】【影踏】【魔術操作】

 魔 法:〈闇属性〉〈火属性〉

 職 業:冒険者前衛

 状 態:不死の呪い 猛毒 瀕死


 [表示ステータス]

 アラン 15才♂

 種 族:猫人(五感卓越 高瞬発力)

 スキル:【偵察】【影踏】【魔術操作】

 魔 法:〈闇属性〉

 職 業:冒険者斥候

 状 態:負傷


 [表示ステータス]

 ポウ 15才♀

 種 族:猫人(五感卓越 高瞬発力)

 スキル:【状態異常強化】【魔術操作】

 魔 法:〈水属性〉〈風属性〉

 職 業:冒険者魔法使い

 状 態:混乱 負傷


 いずれも肌は透き通るように白いのに、毛のある部分は真っ黒で、見事な碧眼をしている。

 兄との永遠の別れに怯え、なりふり構わず助けを乞うその耳はイカ耳になっていて、なるほど、いずれもまごうかたなき素晴らしい黒猫だ。


 リコは、同じ様に隣にひざまずいたリュコスの耳に顔を寄せヒソヒソと話しかける。


「不死の呪いを受けてるよ?『生き返らせる』のは無理なんじゃない?」


 リュコスは、黒毛の猫耳達を見て憎々しげに眉間にシワを寄せる。


「・・・そうですね。このまま放置すればアンデットになります。そうなれば『生き返らせる』ことはできません」

「じゃあいいよね?」

「・・・・・・」

「仕方ないよね?」


 リコがニッコリ笑うと、リュコスは大きくため息をついた。


 リコは、助けを乞う若い男の獣人ににじりより、耳元で、ゆっくりはっきりと囁く。


「こんにちは。雑貨屋ぼったくりの店主リコです。19階で雑貨屋をやっています。今、全状態異常完全回復薬フルポーションがあります。買いますか?」

「い、いくらですか?」

「大金貨10枚」


 リコは懐からチラリとのぞかせた薬瓶を見せる。

 自らも負傷しているらしき男は、血の流れる腕を押さえて目を見開く。


「! 払います。必ず払います! どうか、どうか兄を助けてください!」


 イカ耳の男がフルフルと震えながら懇願する。可愛い。


「お買い上げありがとうございます」


 リコは、ペコリと頭を下げ、息も絶え絶えな男を〈浄化〉し、薬瓶を取り出した。


「ま、まて! 待て、待て待て」


 皆、呪いを恐れて、遠巻きに近づかなかったと言うのに、一緒にすぐそばまで来ていたロレンゾは、リコの肩を掴み引き戻す。


「その獣人1人、いや、2人だって金貨10枚も借りられないだろう。奴隷になったとて多くを神殿に持っていかれる。悪いことは言わない、やめておけ」


 ついでなぜ止めないのかとリュコスをみるも、リュコスはフルフルと首を振った。


 ロレンゾは話をしていた男に「自分の腕の止血をしろと」布を差し出すも話を続ける。


「あんたらも、その腹の怪我に猛毒と、何か知らんがリッチの呪いまで受けてるんじゃ、もう助からない。これ以上酷いことになる前に、心静かにいかせてやりな」


 ロレンゾの言うことはもっともだ。

 リコもすぐにロレンゾが冷徹なわけではなく、薬を無駄にしない様、双方に思いやりがあって言ってくれているのがわかって、胸がギュンとした。

 思えば、最初に声をかけたのも、好みのタイプだったからかもしれない。


「でもっでもっ! まだ生きてるっまだ生きてるのっ」


 血まみれの兄に縋りつき、泣きじゃくる猫耳の獣人に、リコは膝をつき直し声を落として告げる。


「不死の呪いをかけられています」

「神殿の神官に知られたら、即、殺されるだろう」


 リュコスが表情を変えず付け足した。


「そんなぁぁっ」


 妹が、兄にしがみつきべそべそと泣き出すと、腕の傷を押さえていた獣人の手に力が入り、指の隙間からゴボリと血が溢れ出す。こちらもなかなか深手の様だ。


 このまま死ぬと、アンデットになる。

 アンデットになると人として生き返らせる事はできない。

 だからと言って、アンデットになる前に人の手で殺されては、そもそも生き返ることはできない。


「答えて。選べる手段は一つしかありません。生きてるうちに解呪し、ポーションで怪我を治し、回復させるしかないのです。回復したいですか? 治りたい?」


 苦しむ男の目がフルフルと揺れ、口からは血の泡を吹かせてている。


「頑張って! 答えなさいっ! 守るべきものがあるでしょ!」


 虚だった男の眼球が、一瞬にして焦点を合わせリコと視線が合うと、ギュッと瞬きをした。


「ヨシ!!」


 リコは、自分と兄猫に〈浄化〉をかけ、ぎゅうぎゅうと内臓を押し戻しながら、ジョボジョボと患部にポーションをかける。

 ひっそりと〈治療〉の魔法をかけつつ、残った半分を無理やり口に含ませるが、うまく飲み込む事ができず、男の口からポーションが溢れた。

 仕方がない。


 リコは、男に口付け、口内の血を吸い外に吐き出し、新たに蓋を開けたポーションを自分の口に含んで無理やり喉奥に流し込む。

 と、リュコスが慌ててリコを引き剥がす。

 カハっ とえづきながらも獣人は薬を飲み込んだ。


 光の粒が瀕死の獣人を包むと、まとわりついていた黒いモヤは霧散し、猛毒の影響と思われる身体の爛れが綺麗に消えて、飛び出ていた内臓が体内に戻ると、みるみる傷が塞がっていく。

 痙攣も出血も止まり、呼吸も寝ているように穏やかなものになると、顔色も嘘のように良くなった。


 【鑑定解析】

 状態:疲労困憊 貧血 栄養不足


「ヨシ」


 リコは口元を拭って〈浄化〉をかけ、小さくガッツポーズをすると、呆然とする獣人2人にも[ぼったくり治癒薬(大)]を「飲んで」と差し出す。

 パクパクと口を開け閉めしてパニクっている2人に「お兄さんみたいに無理やり飲ませるよ?」と言うと、我に返った2人は、慌ててビンの中身を飲み干した。


「お兄さんが起きたら服用させて」と[ぼったくり治癒薬(大)]を渡す。

 2人の身体がポワッと光り、血が噴き出ていた弟の腕の傷も、みるみるふさがっていった。

 リコは皆にまとめて〈浄化〉をかけた。

 床や装備を赤く染めていた血糊が消え、先ほどまでの大騒ぎは何だったんだと思われるほど綺麗になったが、壊れた防具や大きく破けた服が、真実を物語っている。


「皆さんの体調が整いましたら、なるべく早く19階のセーフルームまで来てください」

「えっ? えっ?」


 狐につままれたかの様な顔で妹猫耳が自分の手足を見る。


「神殿に行く前に来てくださいね。お支払いのことはその時に話しましょう。よろしいですか?」

「えっ? どう」


 腕の傷が治った獣人がわけがわからない。と言う表情でリコを見る。


「私はあなた達が誠実であると信じます。どうか、あなた達も私のことを信じてください」


 リコは[名刺]を渡してニッコリ微笑むと人差し指を唇に押し当てて


「このことはどうかご内密に。悪いようにはいたしません」


 「よっこらしょ」と立ち上がると、思い出したかの様に2人に効用効能使用方法の書かれた[リジェネイチゴミルク]を手渡した。


 弟獣人はそれを両手で受け取り、飴とリコの顔を何度もみかえす。


「良いですか、大切な物を売り買いする前に、なるべく早く19階のセーフルームまでいらしてください」


 未だ動揺する妹獣人の耳をふわりと撫でる。


「もう一踏ん張り頑張れ」

「ありがとっ!? ありがとうっ!」


 リコは、そっとロレンゾに近づき、


「ロレンゾさん。助言をくださってありがとうございます。お礼にこちらを差し上げます。受け取ってください」

「こっ、これは!?」

「[全状態異常完全回復薬フルポーション]です。さぁこちらにサインを」


 リコはペンと魔インクを取り出し、呆けているロレンゾに無理やりペンを握らせると、封に名前を書かせた。

 瓶が ポワッ と、光を放つ。


「こちらは[個体認識]されましたので、ロレンゾさんしかご利用になれません。その代わり封を切るまで品質は保存されます。色々教えてくれてありがとうロレンゾさん」


 リコが、バカ丁寧に頭を下げ、リュコスも倣って頭を下げる。

 2人がその場を後にしようとすると


「・・・!! 待ってくれ! これは、これ、俺、以外が使えるようにできないか!?」


 我に返ったロレンゾは、腹を治した獣人をみた。

 足を止めたリコは振り返り答えた。


「すでに何らかの症状が出ている方の[個体識別]無しの完全回復薬の使用には、診察が必要なんです」


 さっきの兄猫同様、欠損では無いのなら名前を書かせる必要はないだろう。

 だが、どんな古傷や病に効くかはわからない。何か事情があるとして、と、リコは、医師がいる事を思い出し、鑑定とは言わず、言葉を変えた。


「誰か他に、なにか治したい方が?」

「妻だ。長く、患っている」

「ご結婚されてましたか」


 リコの言葉に、リュコスが目を細めてリコを見る。


「えっと、いつでも良いので奥さんと一緒に19階まで来ることはできますか?」

「えっ? どうゆう?」

「私、ズンダダンジョンの19階で雑貨屋を営んでいます」


 リコはそう言って[認識阻害]のフードを外し[名刺]を差し出す。リュコスが渋い顔をした。


「え、あれ、女の子?」


 ロレンゾが目を丸くしてリコを見る。


「大人です」


 リコは、無い胸を張ってふんぞりかえった。

 リュコスは眉間にシワを寄せリコのフードを被り直させた。


「19階にお二人で来るのが難しかったら、回収屋ギルドのパハン先輩を訪ねてください。護衛の依頼を出しておきます。えっと『ロレンゾさんとその奥様を19階の店まで連れてきて。詳細はタップしてね。リコ』っと」


 リコは名刺にサインを書き込みロレンゾに手わたした。


「え、どうゆう事だ、、、?」

「良いですか、回収屋のパハン先輩にその名刺を見せてください」


 リコはそう言ってニコリと笑うと、「またのご利用お待ちしております」と、頭を下げその場を後にした。




「なんだ? 今のは?」

「何をしたんだ?」

「野良の回復師か? 神官?」

「〈ヒール〉で治したのか?」


 取り残された商人達はザワザワと今目の前で起こった事を噂し始める。

 猫耳の兄妹達は、ロレンゾに手伝われて、ダンジョンの外に出て行った。


 皆の困惑の隙に、リコとリュコスは2階通路の魔法陣部屋に身を隠す。


「よろしかったのですか」

「まぁ宣伝だと思えば大した事無いよ」


 前いたところでは宣伝に1番金をかけるんだよ。と、リコはあっけらかんとしている。

 リュコスは「いえ、心配しているのはそこではありません」ため息をついて、金の話では無い。とリコを見た。

 リコは、フフン と胸を張る。


「ダンジョンにいるうちは大丈夫。神聖遺物の性能を信じよう」


 リュコスは大きくため息をつくと、リコに苦言を呈す。


「・・・それにっ・・・治療のためとはいえ、今後あのような事はしないでください。2度と!」


 リコは批難の意味を込めて半目でリュコスをみる。


「どうしても必要とあらば俺がします」


 リコを見もせず当たり前のようにそう言うリュコスに、リコは鼻の頭にシワを寄せた。

 積極的に助ける意思もないくせに。

 何かにつけ『俺は奴隷ですから』と言ってくるやつが、どの立場で何言ってんだ。

 リコはその言葉をグッと飲み込んで「善処します」と答えるにとどめた。




 一方、ロレンゾは、ダンジョンの出口で、肩を貸したぐらいで何度も頭を下げる獣人達を見送って、自分も帰り支度をするため闇市に戻る。

 テントの撤収作業をしながら、受け取ってしまった[完全回復薬]をそっと懐から出しつぶやいた。


「大金貨10枚の品をこんな簡単に・・・あいつら一体?」

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