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何色の花が咲くか




 ダンジョンが開く少し前に、1階の出口魔法陣に移動した。

 相変わらず人のいないフロアは、広々と寂しく、がらんとしている。


 聞けば、皆の家は回収屋ギルドのある『獣人区域』に用意してあるらしく、粗末だが十分な広さがある家屋を2軒続きで購入できた様で、リコは少し安心した。流石にそこまで迫害が酷いわけではないらしい。


 街壁内の『獣人区域』は、一つの井戸を囲むように4〜12軒の家が建っていて、共同でその井戸の使用や管理をするのだそうだ。

 獣人区域では空き家ができるたびに、ギルド長が、コツコツ買いとり、儲け度外視で獣人らに貸し出し、回収屋ギルドで集金、補填して、徴税官に税をまとめて払っているそうだ。


 それぞれ、リュコスやリコ、パハンとパーティを組んで19階のゴーレムを倒し、ズンダガマの皮5枚採取の条件を満たした上、[認識阻害]のアイテムもあるので、しばらくはよからぬ輩にちょっかいをかけられることもないだろう。


 事情を知る回収屋ギルドの大人達の協力を得られる事も了承済みだ。

 ダンジョンを出た後の暮らしの条件は、以前に比べたら十分に整って、みんなと一緒ならば、一端の冒険者も舌を巻くほどの立派な戦闘力も身につけた。

 いつまでも“危険な”ダンジョンの中で生活させておくわけにはいかない。ずっとここにはいられないのだ。


 リコは、ここへ来る前の、あの卒業式の朝の気持ちを思い出していた。

 これは、一人暮らしを始めようとしていたあの時に似ている。不安よりも、ワクワクの方が大きかったあの瞬間に。やっと自由に自分の足で立てるあの瞬間に。

 できることはやった。あとは新しい生活を始める。それだけだ。

 きっとみんなも、あの4月の気持ちを感じているはず。しかも、私達は、寝起きする場所が違うだけで、これからもいつでも会える。

 そうお互いを奮い立たせ、別れを告げるのだ。


 ズンダダンジョンの開場を告げるラッパの音が鳴り響いた。新しい今日が始まる。


「コレからが本当の意味での自分の人生だよ。みんなで頑張って生き抜こう」


 リコの言葉に、子供達は頷いて、リコとリュコスの服から手を離す。


「みんなをお願いね。パハン先輩」


 リコは子供達の後ろに立つパハンに目線を向ける。


「任せてください」


 パハンは力強くそういうと、リコの前でひざまづき、眼鏡を外す。

 腰にさしてあった採取ナイフを掲げ、床に置いた。


「リコ、あなたに希う。我々をあなたの剣と盾にしてください」


 そう言って手を取り額に当てる。

 リコは、パハンに顔をあげさせひざまづき目線を合わせると「これからも私を助けてねパハン先輩」とニッコリ微笑んだ。

 パハンは口角をあげ、リコの手のひらに頬擦りしてキスをした。

 リコが赤面すると、リュコスは眉間にシワを寄せ、リコを引き上げ立たせた。


 子供達がライちゃんとミミちゃんに抱きつき別れを告げ、イビルちゃんが皆に頬擦りして回っているのをリコは眩しげに見つめる。


「では」


 立ち上がったパハンが告げる。

 皆も足を出口に向け歩き出す。

 と、ナカツが走って戻りリコに抱きついた。ギュウギュウと力を込めて顔を擦り付ける。


「ナカツ、みんなを守ってあげてね」


 リコの言葉にナカツが顔を上げる。


「ナカツ。また明日!」


 リコが笑ってそういうと、ナカツも涙を拭って笑って応える。


「リコ! また明日!」


 皆のもとに走り戻った。


 何度も振り返るみんなに、笑顔で手を振り「また明日!」と声をかけ会う。

 リコとリュコスは、出会った時とは打って変わって、しっかりと自分の足で歩き、ダンジョンを出ていく皆を誇らしい気持ちで見送った。


「あぁ、良いな。素晴らしい。みんなちゃんと元気になった、、、あれ?」


 ポツリと漏れでた言葉に、ポロポロと涙が溢れて来た。


「あぁ、うん。やっぱり寂しいみたい」


 眉間にシワを寄せ困り顔のリュコスに、リコが胸を押さえてそう告げる。


 また明日会えるのに?

 リュコスは、リコがどうしてそんなに胸を痛めるのかわからなかったが、言うべき言葉を選べず、首を傾げてただリコの背中を撫でさすった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「とりあえず、ここがコレからの拠点になる、から・・・」


 パハンに連れられて来た、立ち並ぶ二軒のその家は、ダンジョンを背に、西門から街壁内に入って、冒険者ギルドを超え、下町区中央に進み、獣人区域とゴミ地区を隔てる道沿いにあった。

 街のほとんどの住宅が、共同で使う井戸のある中庭を囲む形に数軒の家が立ち並んでいて、同じ区画に、パハンとアマルが暮らす小さな家もあり、パハンが言うことには、どの家も長く人が住んでいなかったので手入れをする人がおらず、至る所が壊れ、心許ない事この上なく、長く借り手もつかなかったらしい。

 とは言え、獣人区域の住まいなど、雨風がしのげればそれでいいと言う様な、どれも似た様な仕様なのだけれども。


 それを横並びに、皆で呆然と見上げていた。


「・・・フフ、あははは」


 レトが不意に笑い声を上げた。

 それは到底子供の暮らしを守る家とも呼べぬ、崩れかけたただの小屋みたい。

 たった1ヶ月。人間らしい暮らしをたった1ヶ月経験しただけで、こんな事を思うなんて。

 さらにそれより前は、それこそ屋根とも壁とも呼べぬバラックに囲まれ隠れ暮らしていたというのに。


 皆でひとしきり笑い合ったあと、イナバとサラが、見合って腕まくりをする。

 パハンが、小屋の中に入って、[マジックボックス(吸収)]を設置すると、10分ほどで家屋がボックスに吸収された。続く隣の小屋も吸収させる。


 そして何も無くなった空き地で、みんなで[土固め タコ]を使って地面を(なら)す。

 平になったら、ダンジョンで作った石板を並べていく。

 石板には、リコが書いた魔法陣の溝が掘られていて、正しく並べ終えると、ヤツノが「それじゃぁみんな離れて」と、声をかけ、溝に魔法陣を書くためのインクを流し込む。

 インクの流れに抜けがないことを確認して、魔石を嵌めると、魔力をこめて魔法陣を発動させた。


「やった。リコ、成功したよ」


 そこには、まだダンジョンの中にいた数日前、みんなで完成させた二階建ての家が建っていた。

 当然リコが図面をひいて、柱や枠組みを組み立ててはくれたが、内装は生活動線を考えて、子供達で案を出し合った。

 一階はワンフロアで、居間兼作業場になるよう広いスペースにした。

 台所とは反対側にお風呂とトイレが設えてある。

 全ての家電が、マナ自動吸収変換システムからなる魔道具で、必要な魔石は、訓練の最中に自分たちで採取した魔石を元にリコに作ってもらった。

 上水は水道の魔石だが、下水はそのうち壁の外からレトがスライムを連れてくる予定だ。


 台所は小さいながらもパントリーがついていて、その最奥には、引越し祝いにと、リコからもらった[マジックリンクボックス(収納)]が鎮座している。

 床は石板で掃除しやすくなっていて、鍋の煮炊きをする用のかまどのほかに、パンを焼く専用のパン焼き釜がピザ屋のように台所とダイニングテーブルの間に陣取っている。

 ここで毎日、サラが美味しいパンを焼くのだ。


 壁際の緩やかなスリット階段を上がると、各自レターテーブルと、本棚、天蓋枠付きのベットに、クローゼットが2人分、左右対称に設えられた部屋が3部屋、横開きの扉と共に並んでいる。

 井戸のある中庭側に張り出したベランダがあり、一階の勝手口に屋根のようにかかっているので、そこでの作業も何かとしやすい寸法だ。同じく内側に向く窓にだけ、ガラス窓にしてあり、彩光もバッチリだ。


 同じ作りの家を隣に魔法陣石板で展開して、食事は女子ハウスで一緒に食べるため、女子ハウスのダイニングキッチンのテーブルは大きくしてある。

 シンプルな作りだが、手入れのしやすさを重視した、子供でも暮らしやすいシェアハウスの完成だ。


 台所で、流しやかまどを瞬く間に調整して、丁度良い高さに加工していくヤツノに、レトとサラが目を輝かせて褒め称える。


「ヤツノ凄い。リコの魔法みたい」

「魔道具師リコの一番弟子ですから」


 ヤツノは笑って応えた。


 あるべき場所に家具を置き、各部屋に生産のための機材を並べ、それぞれのスペースにお気に入りのランプを飾り終わると、皆で「おぉ〜」とその出来上がりに感嘆の声をあげ合う。

 それはもう、ここの区域の中で一等上等な住まいが完成した。


「そして忘れずにこれを設置する」


 パハンは、リコに持たされた置石型の魔道具[ロボウ]を家の四角に設えた。


「「「おぉ〜」」」


 リコが言っていた魔道具の効果を目の当たりにして、みんなで声を上げる。


「[認識阻害]と違って、そもそも違和感を生ませないのよ。どちらかというと〈闇属性〉の〈幻術〉の魔法ね。何気なさすぎて気がつかないと思うよ」


 なるほど、随分と立派な家のはずなのに、周囲の風景に溶け込んで、なんでもないように見えてしまうから不思議だ。

 これなら変に注目を集めることもないだろうが、当然、扉や窓には[個体認識]の[鍵]も備え付けられている。


 子供の自分たちだけでこんな事ができる様になるなんて。


 そうして、最後に、ナカツが家の扉横のテラコッタに、花の種を植えた。


「玄関横の鉢植えに花が咲いたら、そこはもうそれだけで素敵なお家」


 みんなで、リコの言葉を思い出し、じんわりと浮かぶ涙を拭う。


「何色の花が咲くかな?」


 アマルの言葉に、パハンは笑って応えた。


「なんだろうな? 楽しみだな」

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