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「みんな私をたっぷり儲けさせてね」1

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「やっぱりこのままダンジョンの中にいるのは、子供達のために良くない事だとわかった」


 先の[腐食菌種茸(グールマッシュ)]事件で、子供の好奇心を満たすのは『絶対的な管理と安全があってこそ』と痛感したリコは、実質2人の大人で、8人の子供の安全を完璧に管理することはダンジョン内では不可能と結論づけた。

 そして一通り、ズンダガマの皮集めも終わって、実践を想定した野営もこなし、アマルも家の周りなら自由に歩けるようになった頃、パハンの当初の依頼期日である1ヶ月が過ぎようとしていた。


「そろそろ、街の生活に戻るべきだと、思う」


 いつものように夕飯を終え、風呂に入って寝支度を整えた子供達がベットに潜ったあと、大人組の夜のミーティングでのリコの反省に、パハンがこれまでの生活との別れを切り出した。

 勿論、これまでも報告のために何度かギルドには戻ってはいたが、子供達の体も健康になり、当のアマルが自由に歩けるようになった今、やはりこのままダンジョンに居続けることなどできないのだ。


「リコ達と、一緒にいると、ここがダンジョンの中だと言うことを忘れてしまう」


 パハンは膝の上に置いた手をギュッと握りしめる。


「このまま、リコ達に甘えて、ここに居続けることは、どんなに、どんなに願っても、叶わないことなのだと、みな、解って、いる、のだ」


 パハンはうつむいて、絞り出すように言葉をつなげる。


 衣食住に困らない。それだけじゃない。子供達にとって、ここでの生活がどんなに心安らぐことなのか。

 こんな世界にいても、それだけはわかる。

 常に多数に虐げられ、大人の犠牲になるのが当たり前など、どう考えても、その方が異常なのだ。おかしいのだ。

 妹は、子供らは、護られるべき存在なはずだろう!?


「生まれてから、こんなに楽しかった事はない。それだけで、この日々の思い出があるだけで、これからの日々を、、、どんなに辛いことがあっても、、、俺は、、、俺達はっ」


 孤児は、獣人の子供達は、ここにいる8人だけではないのだ。

 そして、これから生きていく日々の方が長い。

 理不尽に抗い、戦いながら生き残っていくしかない。

 パハンは、パタパタと涙を流し、歯を食いしばる。


 リコとリュコスは、顔を見合わせ、パハンを見返してパハンの言葉を待つ。

 リコが、口を尖らせてリュコスを見ると、リュコスは眉間にシワを寄せる。

 リコはアゴでリュコスに何か合図すると、リュコスは渋々パハンの隣に座り直し、パハンの頭をモシャシャシャシャと荒く撫でさすった。


「!???」


「やだパハン先輩。今生の別れじゃないのよ? ここでの生活が地上でもできるようにするって言ったじゃない」


 リコは、バラの模様のティーカップを手に取って、やれやれとゼスチャーしながら紅茶をすする。


「私とリュコスが街で暮らせるように協力してくれるって言ったじゃん。むしろこれからよ? 忘れちゃった?」


 リコは足を組んでとても偉そうな態度で言葉を続ける。


「道具も、お金も、時間も、まだまだ返してもらわないといけないのに『これでお別れ』なんて、許すわけがないでしょ?」


 リコは、カップをテーブルに置いて言った。


「私達はぼったくり商人なんだから」


 リコはアゴを上げて、パハンに言い放つ。


「だからこれからどうするか。具体的な話をしよう?」


 パハンは顔を上げて、涙を流しながら言う。


「俺を、俺達を必要としてくれるのですか? まだ、助けてくれると言うのですか?」

「いいえ、これからは、助けてほしいのは私達の方」


 リコはそう答えると、パハンの顔に手を添えると親指で涙を拭う。


「頭を下げてたら、撫でられるって忘れちゃった?」


 リコの言葉と共に、リュコスがワシャシャシャシャと、パハンの髪を乱す。


「いえ、いいえ。・・・リュコスに、撫でられたかったのです」


 パハンはニッコリと笑っって答えた。

 リュコス頬がほんのり赤く染まっているのを、リコはほっこりと見つめ「あのね・・・」そう言って、リュコスと夜な夜な煮詰めていた企みを、パハンに打ち明けた。




 寝支度を整えて、寝室に入るとリコは、ベットの上で手を伸ばし、グーパーと動かしながらリュコスに話しかける。


「まさか泣くとは思わなかったね。やっぱりまだまだ子供なんだなぁ」

「ここまで至れり尽くせりの生活をしておいて、さらなる援助を口にするなど、この世界では考えられない事なのですよ?」


 リュコスは、磨いていたナイフを鞘に戻し、装備を定位置に整頓すると、ケモミミカチューシャを外して両腕を上げ、ググッと伸びをしてから、人の姿のまま灯を消してリコの隣に潜り込む。

 そして、そっとリコを抱きしめた。

 天井から吊られた大星形十二面体は、暗闇を和らげる藍色の光をほんのりと放ち部屋を照らしている。


 リコは、向きを変えてリュコスに向き直ると、胸に顔を埋めて寝る体勢に入る。

 リュコスは、この瞬間がとても心地よく、1日の中で1番愛おしい時間になっていた。

 その胸にぐりりと額をこすりつけながらリコは言った。


「こっちはさぁ、ダンジョンの中から出られないのだから、むしろこれからは恩を売り放題なわけじゃん? 多分、人が良すぎて自分の優位な立場に気づいてないんだよねぇ。正直に言うべきだと思う?」

「・・・いえ、わざわざ言う必要はありません。むしろ利用するべきだと思います。が・・・案外パハン先輩は気づいているのかもしれません」


 それでも、言質が欲しいのだ。きっと。


 リュコスは、リコの頭に手を回し、髪の感触を確かめるように梳き撫でる。

 愛しい人に好きなように触れても拒まれないと言うのは、自分の存在を全肯定されているようで、その幸せを噛み締めるが、これからはまた2人きりの生活に戻れるのだと思うと、より一層その幸福を色濃く感じ、どうにかなってしまいそうなほど胸が苦しくなった。


 リュコスの抱きしめる腕にグググっと力が籠る。


「ん、ん、んっ痛い苦しい」


 リコの声に、リュコスが力を抜く。


「寂しくなるねぇ」


 リコの言葉に肯定の返事はない。


「・・・いや、絶対寂しくなるよ?」


 リコは、リュコスの考えを察して念を押す。


「・・・今生の別れじゃありません。またすぐ会うのですよ。それこそきっとしばらくは毎日のように。俺はもう、それも余計な事だと思うのですがね」


 リュコスは、そんな事はあり得ない。とは言わず別の言葉でやんわりと否定した。

 リコは、そんなリュコスの様子に、言葉が溢れたように言い漏らす。


「お互い、人間らしくなリましたなぁ」


 リュコスは驚いて体を離しリコの顔を見た。


「やはりリコ様は人間ではなかったのですか!?」

「なんでそうなる?」


 リコは、やれやれと天井の星に向き直ると、呆れたように答えた。


「最初の頃に言ったでしょ。忘れちゃったの?」

「いえ、あれは、比喩的な表現かと」

「リュコスってば、いまだに私の非常識な言動に困らされているのに」


 それなら、本気で人間じゃないと思っているのなら、いっそもう色々諦めてくれよ。

 リコはその言葉を飲み込んで、代わりに はぁ と短くため息をつく。


「明日、子供達にどう話そうかねぇ」


 正しいきっかけも言い出し方も思いつかないまま目をつぶった。




「お互い、人間らしくなリましたなぁ」


 リコの寝息が、規則正しく繰り返す中、リュコスは、その言葉の意味を考えていた。


 いいや。まだ、俺はまだ、リコ様と自分以外のことなど、どうでも良い。

 俺が、毎日こうやってリコ様に触れることを、リコ様が許してくれる日々が続くのならば、そのほかの人間の事などどうなっても良い。

 獣人の子供が何人死のうが、人間の営みが廃退し数が減って行こうがどうでも良い。

 むしろその方が都合が良いとすら思っている。


 リュコスは、もう一度リコを抱き直し、改めてその幸せを噛み締めた。

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