レトの狩り 2
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「流石に少なくなってきましたね」
次の日、2人で拠点周りの確認中、いつもよりもだいぶ落ちている魔石が少なくなってきた事に気づいたヤツノがリュコスに声をかけると、リュコスは辺りを見回し「愚昧な個体が固定したのだろう」と返事をした。
壁の中に餌があると分かっていても、壁の破壊が無理だと気づいたモンスターは、当然諦め別の餌場に移るだろう。
今、魔石になっているのは、襲撃方法が単一で、それに気づけないタイプの魔獣という事になる。
魔石の大きさや品質から、そう強力な個体もいなさそうだし、数が多いと言うわけでもない。
・・・と、教えることは色々あるだろうにその一言で済ますんだ。
毎日の魔石拾いから、周囲の情報を得る学習の最中じゃ無かったのか?
ヤツノは、相変わらずの塩対応なリュコスにため息をついて、拾った魔石を検分していた。
「サガレ」
「え?」
リュコスが、身を深く沈めると、次の瞬間には結界の外に出ていて、今にも襲い掛かろうと飛びかかるフォレストタイガーの喉元辺りにナイフを突き立てていた。
その前には、身を固めて立ちすくむレトがいた。
「あ、え? レト、いつのまに?」
突然の事に、驚くヤツノに、リュコスは言った。
「固定化された次は、そのさらに愚鈍な個体を餌にする個体が出る」
タイガーのドロップ品を拾いあつめ、手にした大きな魔石をヤツノに渡す。
「1人で勝手に結界の外に出てはいけないと、リコ様にもパハン先輩にも言われているはずです」
リュコスは、未だ固まり何もリアクションを起こさないレトを咎めるように話しかけた。
レトは、顔を下げ、開きかけた口を閉じて、何も言わずに家の方に走り去った。
次の日から、レトの挑戦が再び始まったのだが、どうにも精度が低く、リュコスは少々困惑していた。
1日目、リュコスが出かけるのやめてしまう。
レトは訳もわからず、家に戻ったリュコスにただ黙ってついて行った。
2日目、結界間際でこちらをみる。
3日目「そんな精度では“連れていけない”」
とうとう口に出してその存在を咎められると カッ として家に走り帰るレト。スキルをうまく使いこなすことができなくなっている。
どうしよう。どうしよう。
「役立たず」
このままじゃまた捨てられちゃう。
どうしてこんな事になっちゃったんだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
孤島に閉じ込めて結界なんかで囲っておいてこんなこと言うのも何だけど、子供の自由はなるべく制限したくない。もちろん安全第一だけど。
むしろ元気になってきた証拠、子供は冒険したがる生き物なのだ。
「でもそれがダンジョンの中でと言うのはいただけない」
「猫科の魔獣は気配の隠匿に優れた個体が多く、レトは自身の隠匿中、他外に対しての警戒が薄くなる傾向があります」
「それをそのまま伝えてあげればいいのでは?」
ヤツノはリュコスを見た。
「なぜ?」
「へ?」
リュコスの応えに、ヤツノは純粋に驚いておかしな声が出た。
「あ、注意を、促す事ができます『だから、気をつけろ』とか『もっと練習しろ』とか?」
リュコスはしばらく考え込んで、
「俺が警告したとして、そのままの状態で訓練を続けても死ぬだけで、自分で気が付かないと身に付かない能力です」
「だから、伝えるのは無駄だと?」
ヤツノの言葉に、わずかに別の感情が混ざる。
「いいや、問題は加減です」
「へ? ぇ?」
ヤツノから、再び裏返ったような声が出た。
「ダンジョンの中では、上層階でもない限り、ちょうど良い具合に痛い目にあうようなモンスターがいないんだよね。やっぱ沼地のガマがマシだっただけなんだ?」
弱い個体は死ぬ。そうでしょう? そう言ってリコが、深刻そうな顔でリュコスに答えを求める。
「やっぱり、街に戻らないとダメかぁ。このままダンジョンの危機感が薄れちゃまずいよね」
今度はパハン先輩に、明後日な言葉を豪速球でぶん投げている。
なぜそうなるのだ?
パハン先輩も、オロオロと2人に視線を泳がせ困った顔をしているが、リコとリュコスはわかり合っているようだ。
何だこれは?
おかしい。この2人は何の話をしているんだ?
淡々と訓練について話を進める2人に、いや違う、そうゆう話では無い。とヤツノは目を丸くした。
いや、大事な事だが、リコまでそうなの? 10才の子供にダンジョンで、本当に命の危険がある状態でのリアルな戦闘訓練が正当だと? スパルタすぎない? いや、今はそうゆう事を言っているのではない。と、ヤツノが慌てて話を戻す。
「ち、違うのです。レトは、リュコスに恋をしてしまったのかもしれません」
はっきり言わないとわからないのだなと、認識を改めて言葉を変える。
「え!? なんで!?」
リコは、ようやく正しく理解し、正しく狼狽えた。
そうなの? そうゆうこともあるの?
でもよりによって、このキングオブ朴念仁相手に 初恋 なんて、トラウマ製造機に燃料を焚べるようなもんじゃないか!?
「ど、どうしよう。レトがグレちゃうのは困る!」
「グレちゃう?」
パハンが、またおかしな事を言っている? と、リコに目線を向ける。
「レトは、俺と子供を作りたいとは思っていません」
リュコスは能面のまま言い放った。
「なんでわかるの?」
「もしかしてリュコスは、相手が発情しているかどうか、わかるのですか?」
皆が、一様に驚き、パハンが、まさかとその可能性を口にする。
「? パハン先輩はわからないのですか? あ、でも俺も、リコ様のはわかりませんでした」
「デレカシーどこ行った!?」
リコが、そうゆうとこだぞ!? と バシバシ 割と強めにリュコスを叩く。
シロが「人間に発情期は無いよ」と、イナバから身を乗り出して、ゲラゲラと声をあげて笑っていた。
コレは分別のある大人の会話ではない。まるでスラム近くの酒場の酔っぱらいではないか。
ヤツノは眉間にシワを寄せ、自分を取り囲む背が高いだけの大人達に頭を抱えた。
「多分親に、褒められたいんだよ」
誰でも持っている普通の感情だ。
そして恐れているんだよ。また捨てられてしまうんじゃないかって。
一頻り大笑いして息を整えたシロは、真面目な顔をして眉を下げるとそう言った。
その言葉を受けて、なるほど。と頷くと、リコがリュコスにお願いする。
「リュコスに、こんな事できるかどうかわかんないけど、なるべく優しくしてあげてほしい。できるかどうかわかんないけど」
なぜ2回言った? 大事な事だからです。
パハンとリコが無言で見合い目線で会話を続ける。
「甘やかす。ですね?」
「いやぁ〜それは悪手だなぁ」
散々ゲラゲラ笑っていたシロが、優しくする案に待ったをかけた。
「リコは何でリュコスの事が好きなの?」
「は? え? や、優しいから?」
「でしょ? なら、優しくしてコレが本当に恋になっては、色々よろしくないのでは?」
「あ、いや、それは、そうかぁ・・・ん〜でもまだ10才だよ?」
対してリュコスは23才、もしくはそれ以上かもしれないんだ。純粋な恋愛感情とは言いがたいんじゃ無いか? とリコは思っていた。
「リコ、我々獣人の平均寿命は40〜50才で、人間のおおよそ半分だと、言われています。種によってはもっと短く、30年を迎える前にこの世を去る種も珍しくありません」
「えっ!?」
「最初の発情期が来れば、それからいくらでも子を成し育て、次の世代に命をつなげます。獣人とは、そうゆう生き物です」
ただし、番に人間を選べばもう少し寿命は伸びますがね。と言う言葉をヤツノは飲み込んだ。
リコの、悲壮が露わになった表情が、とてもそうゆう軽口を言えるようなものでは無いと、すぐに気づいた。
「あ、すみま、せん」
ヤツノが思わず謝ると、リコは堪えきれずにボロボロと涙をこぼしてうつむいた。
リュコスは、そんなリコを落ち着かせようと何やら耳元で囁いている。リコは何度も頷き、落ち着きを取り戻していく。
その2人の姿をじっとみていたヤツノは言った。
「まぁこれから、レトは今までよりもリュコスに注目するでしょうから、そうすればコチラの方は勝手に問題解決すると思います」




