サラの血 2
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リコは、自分の身体が移動したのを感じ、呼び戻されたように目覚めた。
リュコスの匂いがする。ごめんリュコス。いつもいつも辛い思いばかりさせてごめん。
「・・・どうしたら、許してくれる?」
「もう2度としないと約束してください」
「うん。もう、2度としない。凄く痛かった。血もちょっと出しすぎたかも。怠いし凄く眠い。ガマの皮は後でも良い?」
「俺は部屋から出ていません。命令は実行されませんでした。皮は必要ありません」
「いや、命令したら、だから、皮は採りに行くよ。でも、嫌な事しないって約束したのに、破っちゃって、ごめん」
「えぇ、悲しかったです」
結界の外、森の片隅で、リコを抱きしめたまま、リュコスは答えた。
「ああするしか、方法が思いつきませんでした。愚かな選択をした自覚があります。本当に、ごめんなさい、いつも、いつも本当にごめんね、ごめん。なんでもするから許して。ごめん、リュコス」
リュコスは、リコを抱きしめる両腕に力を込める。
もうダメだ。アイツらはリコ様を傷つける存在だ。このまま2人で森に帰ろう。
そんなリュコスの考えを察して、リコは話を続けた。
「ごめんリュコス。もう少し甘えさせて。お願い。家に戻って、こんなふうに2人を抱きしめたいの」
2人を安心させてあげなくちゃいけないから、すぐに、家に戻って欲しい。
ヤツノはよくわかっているみたいだけど、サラは凄く動揺していると思う。
リュコスは大人でしょう? リュコスも、もう怒ってないよって2人を安心させてあげてほしいの。
お願いよリュコス。私をすぐ家まで連れて行って。すぐに、起きる、から。
そう言ってリコは寝てしまった。
イビルちゃんがリコの襟首から這い出して、慰めるように、スリスリとリュコスの首元に身を寄せる。
リュコスはリコを抱き抱えたまま、ギリリ と歯軋りをして立ち上がると、そのままゆっくり家に戻る。
結界は難なく通れた。誰にも微塵の殺意も無くなっていたが、心の中は乱れに乱れ、誰に向けたら良いのかわからないいい知れぬ怒りに満ち満ちていた。
なぜ? なぜだ? なぜなんだ?
どうしてリコ様がこんな目に遭ってまで、赤の他人の子供を守らなければいけないんだ?
わからない。わからない。わからない。
イビルちゃんがドアを開けてくれる。
リュコスは無言で家に入ると、みんなが固唾を飲んで見守る中、駆け寄るサラを無視して部屋に入る。
そのまま移転部屋から森の拠点まで帰り、ベットにリコを横たえると、声を殺して泣き崩れた。
俺を特別だと、必要な存在だと言ってくれる。
それなのに、いざという時の俺の優先度が低いのはなぜだ?
肝心な時に選ばれないのに、何が特別か?
なぜ、どうして俺の願いを聞いてくれない?
全てリコ様を守るためにしている願いだと言うのに。
ドス黒い想いが身を包んでゆく。
「ゲホッガハッ」
ジャラッ
口から鎖のカケラが出て霧散した。
目が覚めると、リュコスが背を向けてベットに座っている。
両肘を膝について頭を下げて、寝ているのだろうか? 微動だにしない。
視界が暗い。今何時なんだろう? どのぐらい寝ていたのか、みんなちゃんとご飯を食べただろうか?
そうだ、早く起きて、2人に顔を見せにいかないと。
リコはその身を起こそうと腹筋に力を入れる、が、体に力が入らない。
「あ、貧血だこれ・・・」
そう呟くと、リュコスが顔を上げ振り向いた。頬が濡れている。
手を伸ばそうとするが、腕が重くて持ち上がらない。
「・・・どうしました?」
「身体が、重くて動かない。血が足りてないみたい。リュコスのいちご飴一個ちょうだい」
リコは、あ と口を開けた。
リュコスはバックから[完全回復薬]を取り出し「まずはこちらを」と、口に近づけゆっくりと口に注ぎ込む。
リコは「ウエェ」と鼻の頭にシワをよせた。身体がポワッと光を放つ。
それを見て、やっと安心したリュコスは、手に持っていた[ぼったくり回復飴]をそっとリコの口に中に入れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝になり、リコは自分の体調を確認して、健康をアピールすると、半目で睨むリュコスを急かし、一目散に移転部屋へ駆け込んだ。
リュコスにも、ヤツノに昨日のことを謝っておくように。と言うが、キョトンとした顔を向けられたのは、スルーだ。まずはサラだ。と、部屋をノックする。
もう起きていたサラに「少し話して良い?」と声をかける。
黙って頷くサラに櫛を見せ、髪に触って良いか聞くと、頷いたサラの髪を櫛でとかし、前髪をシュシュでまとめ、泣き腫らした目元を撫で「〈治療〉」と呟く。
「サラ、昨日はごめんなさい。あんな事、すべきでは無かった」
改めて頭を下げるリコに、サラは俯いて首を左右に振った。
「うぅん。サラは間違っただけだけど、私はわかっててやったのだからあれは悪い事だった。ごめんなさいサラ。あんな方法で、脅す、なんて、大人がする事じゃ無かった。ごめんなさい」
サラは眉間にシワをよせ「どうして、どうして・・・」と、言葉を詰まらせる。
「えっと、これは、わかんないけど、間違えましたこれからは気をつけます。って言う『ごめんなさい』なのかも。だから、サラは別に許さなくても良いの」
「違う。そうじゃ無い。リコは何も悪く無い。悪いのは私っ」
「サラ、サラが傷つくと、もう私も痛い。きっとヤツノも、他のみんなも。それをわかってもらう為に私がやった事は、結局サラと同じで根本的な問題の解決にならないのよ」
「違う、違う・・・」
「サラ、みて、違わないの。私は、サラの怖がる事をして、サラに言う事を聞かせようとしている。サラに嫌な事をした悪い大人と何も変わらないっ、あぁ、本当にごめんなさいっ」
リコは再び頭を下げ、サラの手を握る。
「ちゃんと、言葉にして伝えれば良かった。こんな風に。昨日は、カッとなって頭が上手く回らなかったの。私、他者の気持ちがわからないから、全然考えが至らなくて、自分てなんて馬鹿なんだろうって思ったら無性に腹が立って、腹立ち紛れに怒りをただぶつけてしまったんだわ。反省しています。次は間違えないようにします。だから、だから、これからも私と、一緒にご飯、作ってくれる?」
リコは、ギュッと口をつぐんで、サラの言葉を待った。
サラは、とうとう堪えきれずボロボロと涙をこぼす。
「私もっ私も嫌だった、リコがっ、リコが傷ついて、血がっちがたくさんっリコがっ うぐっ 大丈夫ってっ 言ってるのっ 嫌だったっ 知らなかったのっ ごめんなさいっ ごめんなさいっリコっ! 私っ! 私っ間違ったっごめんなさいっもうっもうしませんっ だがらっリコっごめんなさっ うあぁぁ〜ん」
上手く言語化できない。上手に慰められもしない。本当にコミュ力低い。
子供相手に心底申し訳なくって、リコは、サラを抱きしめ、2人でしばらくワンワン泣いていると、カーテンが開いた。
「仲直りできた?」
シロの言葉に、リコは「あぁ、これが」と納得した。
「わかった。あれは、仲直りしてください。の、ごめんなさいだ」
と、サラの顔を見た。サラは ウンウン と頷き返す。
後ろで、イナバとレトとアマルが心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「わぁ私、女の子とケンカして仲直りするの初めてかもぉ」
目をキラキラさせながら、そう言い漏らしたリコに、シロが声をあげて笑う。
「リコのケンカは毎回流血沙汰だなっ」
「あ、そう言えばそうかも。でもそれシロが言う?」
リコが眉間にシワをよせそう答えると、イナバが声をあげて笑ったので、つられてサラも、レトもアマルも笑ってしまった。
途端に幸せな気持ちが溢れ出す。
「あれ、これ、なんだろう、これもとても素晴らしい事な気がする」
リコは湧き上がる見知らぬ感情を胸を押さえて噛み締めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
すっかり気を取り直して、いつものように朝食の用意を済ますと、外で魔石を拾ってきたであろうリュコスとヤツノが戻ってきた。
リコがリュコスに「謝った?」と聞くと、リュコスは「はい」とだけ答えたが、あまりの能面ぶりに、リコの視線はヤツノに移る。
「えぇ、リュコスは何も全くちっとも悪くありませんが、謝罪は受け入れました」
ヤツノはそう言って、同じく スン とした表情で、いつものようにテーブルに着くと魔石を磨き、魔力を補充する作業に取りかかった。
リコは鼻の頭にシワをよせる。
「謝罪の意味を知っている?」
「リコ様に言われたくありません」
食い気味にそう答えたリュコスに、リコとサラは顔を見合わせて声をあげて笑った。




