「美味しいのに」
リコはグングン海底に向かって泳いでいく。
ものすごい透明度だ。
外海との境界になる岩場まで見渡せる。
キョロキョロと辺りを見渡すと、海底には大きな伊勢海老風のエビや、鮑のような巻貝がたくさん岩に張り付いているのがみえる。
リコは、一度海面に戻り、サップボードを【買付】けその上にのると、【収納】から大きな木を出してパドルとカヌーを作り出した。
どうやら体験したことのある海とそう変わりはないらしい。
〈探索〉にも、モンスターのマーカーは無い。内海の中に脅威になるような生物はいないようだ。
リコは〈身体強化〉を解除した。
浜から「リコ様!!」と声がかかるが、どうやらリュコスは水の中に入る気配は無く、思った通り、泳げないらしい。
リコはカヌーとパドルを【収納】して、浜の方でカヌーを出した。
無事、リュコスの手にカヌーが渡ったのを確認して、もう一度海に潜る。
砂浜から僅か10mほどで、水深3〜6mといったところだろうか。今は干潮なのかな?
透明度が高く、たくさんの小魚や魚介類であふれている。
リコは、水中でネットタイプのスカリと貝剥がしを【買付】、次々と鮑に似た貝を剥がしとりスカリに入れる。
上を見上げると、サップボードにカヌーが近づいて来ていた。
リコは海面に戻り、ボードにつかまった。
「何をしてるんですか!!」
リョコスが叫ぶ。
リコは、スカリの中身をガラガラとカヌーにあけると、サップボードのリーシュコードをカヌーに投げ入れ、無言のまま再び海底に潜った。
リュコスは慌ててコードをカヌーに結びつける。
今度はでかいエビを捕まえたが、3尾も入れるとスカリはいっぱいになってしまった。
【買付】で丸メッシュビクを買う。
【鑑定解析】した結果[パリヌル海老 可食 美味]と出たそれを、12尾捕まえてビクに入れ海面に上がり、カヌーにビクごとのせあげた。
「リコ様! 何をしてるんですか!?」
「漁です」
「なぜ突然!?」
「タコを探しています」
「タコ?」
「リュコス、泳げないの?」
リコが聞くと、リュコスは叫ぶ。
「俺たちのような身体の者は水に浮きません!」
リコは「へぇ」と答えて、「元いた国で水泳は必須科目。みんな学校で習う」そう言ってカヌーの周りをスイスイと泳いみせ、トプンっと海底に戻る。
お目当てをさがしていると、鮑のような貝は[アバロ貝 可食 美味]と出た。
魚も結構いるが、流石に手掴みは無理だろう。
銛で魚を突こうかとも思ったが、いや、ここは、当初の目的、タコを探そうと、岩場に目を凝らす。と、[ポルッポ 可食 美味]とポップが出た。
きた! と、喜んだのも束の間、岩からはみ出る足一本がやたらとでかいことに気がついた。
リコは海面に戻り、サップボードに乗りあげカヌーに横付けすると、心配そうな顔をするリュコスを尻目に、【買付】たロープ止めを【錬金錬成】で、かえしのついた銛のように加工して「[穿 研ぎいらず 耐久(極) 切れ味(極) ]」と【魔法付与】して名前をつける。
パラコートの反対端をリュコスに「持ってて」とわたし、反対端を持って、大きく息を吸うと海底に戻る。
岩間にいる[ポルッポ]にそっと近づく。
[ポルッポ]はリコに気づくと、岩間からヌッと身を乗り出し、長い手足を伸ばしてきた。
リコは[穿]の一本にパラコートを結びつけると、両手で構え【魔術操作】を使い、スピアガンの要領で[ポルッポ]の眉間目掛けて
「撃つっ!」
[穿]は[ポルッポ]の眉間に的中した。
リコはサップボードに戻って、ポルッポを貫いた杭付きパラコートをリュコスに渡すと「ロープが常にピンとはるように優しく巻き取り引いて」と指示する。
リコはその間に、別のロープでバランスよくカヌーにサップボードをくくりつけると、大きなバケツに大量の塩を用意する。
パラコートは激しくグイグイと動いていたが、やがて動きを止め静かになった。
「巻き上げて」
リコの指示に、リュコスがパラコートを巻き上げると、やがてそれは姿を現した。
「なんですかこれは!?」
「これがタコ。こっちでは[ポルッポ]っていうんだって。食べた事ない?」
「見たこともありません」
「そう。美味しいのに」
こんな物が? リュコスの訝しげな顔をスルーして、リコは貫通させた[穿]を【収納】すると、「ゆっくり浜に戻っていいよ」とリュコスに言う。
そうして[ポルッポ]をバケツの中に入れると、ガシガシと塩で揉み始めた。
「〈浄化〉〈洗浄〉〈攪拌〉」と歌うように発動句を唱え、海水で洗い流し、を繰り返す。
やがて[ポルッポ]の滑りはすっかりなくなり、バケツの中でキュウキュウと音を立て始めた。
「〈水の玉〉【錬金錬成】」
熱湯を作り出すと、その中に[ポルッポ]をゆっくり入れた。
[ポルッポ]は、湯の中で丸まり赤くなる。
5分ほどして、すっかり茹で上がった[ポルッポ]をザルにあげて冷ましておく。
「ヨシ」
リコは、カヌーが浜につくと、ボードの上を歩きながら「〈洗浄〉〈乾燥〉〈浄化〉」と、自身を身綺麗にすると、そのままの流れで【収納】から出した服を【魔術操作】でまとい、浜辺に降り立ち、出した作業用のアウトドアテーブルにタコと時計を置いて、みんなが起き出すだろう時間にタイマーをセットする。
水から上がったリコは、白地に藍で花柄をあしらったマイセンのティーカップの様なデザインの、リネンとコットンのVネックマキシ丈、いわゆるリゾートワンピに、大小様々なビジューのついた煌びやかなサンダルを履き、髪を緩くまとめ上げていた。
ワンピースと同じ布で抑えられてはいるが、その端々から垂れたおくれ毛が揺れている。
いつもの真っ黒な戦闘服からは想像できないほど女性らしい装いに、全くの別人のように見える姿で、恐ろしいほど滑らかに【魔術操作】を操っていた。
一連の流れは一貫して無表情で、そこに笑顔も会話も、目線が合うことも一切無かったが、あまりの巧みさに、リュコスは目を奪われ棒立ちになっていた。
[ポルッポ]を冷ましている間に、リコは、大きなベルテントを展開し、外を小さなランタンと、中を[ワプスランプ]で飾る。
中についたてをたてると、ハンガーラックに、女子全員のサイズに合わせた数種類づつのリゾートワンピとサンダル、反対側のラックに男子全員分のかりゆしとハーフパンツ、グルカサンダルを用意した。
木の影に、【錬金錬成】で作ったビーチチェアを並べ、マットとクッションを乗せ、サイドテーブルには、コースターをのせておく。
「ヨシ」
下拵えした[パリヌル海老]を縦に半分に切り割って、炭火の網の上でじっくり焼く。
[アバロ貝]も、しっかり下処理して焼く。こちらは、焼けたら[ポルッポ]と同じく3mm程の厚さに波型に切り、冷やした皿に並べて、新玉ねぎ、完熟トマトのみじん切りと、ブラックペッパー、で作ったカルパッチョソースをかけ、バジルを飾ったら【収納】しておく。
焼き網の上には、他にもとうもろこしと、じゃがいも、肉厚なピーマン、椎茸、玉ねぎ、かぼちゃも焼いておく。
エビがいい感じにジュブジュブ言い出したら、食べやすい大きさに切り、片方にはガーリック塩とオリーブオイルだけ、もう片方には、以前作って【収納】していたベシャメルソースを乗せ、ハーブを散らし「〈火の玉〉」で表面を炙っておく。
「ヨシ」
いい感じに熱せられた鉄板で、人数分のガレットと目玉焼きを焼く。
「フライパンでやるより速いし楽ちんだな」
こちらはシンプルに、目玉焼きとアボガドとハムでガレットを作り、ベビーリーフのサラダを添えた皿に盛り付け熱々のまま【収納】しておく。
「ヨシ」
砂浜の上に大きな絨毯をひらく。
その上にガーデンパーティ用のテーブルを出して、真っ新なテーブルクロスをかけて、トロピカルな花で飾り、椅子を並べる。
椅子の前に、きちんと規則正しく、1人分ずつカトラリーを並べ、グラスも薄造りの繊細な物を並べていく。
収納していたフレーバーウオーターの入った水差しを並べる。
ピピピ! と時計のアラームが鳴る。




