振り回される日々
転生前、わたしは特別なものになりたいと英雄願望を持って子どもを救って死んだ。
転生後、わたしはツタによる触手プレイをされて傷を治されていた。
それから現在、わたしの目の前でミリアは大量の魔物に追い回されていた。
実に状況は混雑としている。
「ちょっと! 待って! 助けて! 助けてください!」
「穢された穢された穢された。……グスッ」
確かに気力とか体力とかは戻ったけど。
助けた代償がこれとはあんまりだと思う。
一応治ったのは事実なので、わたしはミリアを取り囲む魔物を斬り飛ばして助けておいた。
「それでなんなのさ! 君は!」
わたしはへたり込むミリアに向かって問いかける。
「だから、ウコン・ミリア・ミトコンドリアだって。そういうあんたは?」
「キリシマ。スイ・キリシマ」
「変な名前」
否定はしない。
否定はしないけど初対面の、それも助けてくれた恩人に対して言う言葉じゃないよ。
とりあえずもうここには居たくないので、わたしは当初の目的を無視してダークエルフの村へと足を運ぶ。
家。そこにわたしの安堵が詰まっている。
「そっちにアンタの村があんの?」
なんか知らないけどわたしの後ろをひよこみたいについてくるミリア。
わたしは目だけミリアに向けて問いかける。
「……なんでついてくるの」
「村から追い出された私はどこに行けばいいのよ」
「どこにだって行けばいいさ……」
わたし関係ない。
どっかで勝手にエルフにでも見つかればいいんだ。
何ならゴブリンにでも捕まっちまえばいいんだ。
ミリアは意気揚々とした態度で声を張る。
「何よ。いいじゃない」
「よくない」
「ケチ」
「ケチじゃない」
ダークエルフの村にエルフを入れたらどうなるのか。
そもそもダークエルフとエルフは犬猿の仲である。
世界樹であり精霊樹でもある大木を中心として広がる、同じ大森林に住む種族同士なのに。
過去に何のいさかいがあったのかわたしには分からないけど。
平穏無事に暮らしたいわたしにとってはそんなのどうだっていい。
余計な波風は立てたくないのである。
「一連のことについて詫びます。ごめんなさい。はいはい、これで良いでしょ」
ミリアは手をフルフルと振って、しょうがないから謝ってやった感を出してくる。
声や態度もほとんど謝罪の気持ちが込められていない。
どのみちここで追い払っても勝手についてくると確信したわたしは、ダークエルフの村まで全力ダッシュ。
これで少しでもミリアを放せると信じて。
「ちょっと、急に走らないでよ!」
……やばっ、意外にこの子足速いッ!
ダークエルフの村に不本意とはいえエルフを連れ込んだらまずいのに!
* * *
この世界は部分的に異世界だと思う。
少なくともクラスだとか魔力だとか闘気だとか、そんな目には見えない非現実的な力が蔓延っているのは確かだ。
そしてそれらの力は、無いとまともな暮らしをすることができないほどわたしたちの暮らしに浸透している。
とある学者は言う。
なぜこの世界に魔力があるのか。なぜクラスがあるのか。なぜ闘気があるのか。
そんな頭が痛くなるような話とは無関係でいたい。
料理が作られる過程、料理が何をもたらしてくれる理由を知っていたとしても、どうしてその料理が誕生したかの理由なんて誰も興味が無いのである。
わたしからしてみればそれと同じで、クラスも魔力も闘気もどうだっていい。
せいぜい普段の支障をきたさなければいいな、って思う程度である。
だからね、お願いだから第一印象で問題を起こすことだけはやめて欲しい。
思いが通じればいいなと、わたしは鉛でも乗っているのかと思うほど重い肩を落としてとぼとぼと歩く。
「へぇ~、ここが。なんというか、野蛮って感じね」
わたしの隣に居るミリアはダークエルフの村を見渡しながらそう評した。
……結局追いつかれてしまった。
エルフなのになんでこんなにも足が速いのか分からない。
はぁ、とわたしはひとつため息をついた。
ミリアはわたしの気など一切知らないのか、物珍し気にダークエルフの作ったオブジェを見て回っている。
ダークエルフは割と芸術を重んじる種族である。
岩や木々、家にも施されたペイント。首から下げられた魔物の牙で作られたネックレス。
一言で言えばある程度ルールが敷かれた野性の部族って感じ。
狩りもするし、農業もする。
されど来るものは拒まないし、去る者も追わない。
外との交流もそれなりで、割とよく人間とか魚人とか異種族も来る。
家も木造建築で出来ていて、部族長だから家が一番大きいだとか目立つとかそういうものはない。
多分だと思うけど、ある程度家を区別するためにオブジェクトを作っている面もあるのだと思う。
住み心地に関しては……まぁ住めば都。
上司にいびられるだとか時間外労働だとか胃が痛くなるストレスといったものを感じられないからその点は最高。
だからね、とわたしはミリアの肩を掴む。
「あの、あんまり触らない方が……」
だってもし万が一壊しでもしたら……。
わたしの心配事など露にも知らないのか、ミリアは「大丈夫大丈夫!」と無遠慮に触りまくり……、
「あっ……」
バキッと何かが砕ける音が鳴る。ミリアが呆ける声を出す。
機械のようにわたしが首をそっちに動かす。
ミリアの近くに壊れたオブジェが広がっていた。
この時のわたしは後になって考えてみると、多分こう思っていたに違いない。
あっ……わたし、社会的に死んだ。
ミリアはたははとわたしに壊れたオブジェの欠片の前で笑って見せる。
「形ある物はいつか壊れるっていうし、別にいいわよね」
「良いわけないよおおおおぉぉぉぉ!!」
「何よ。創造の前に破壊ありって言うでしょ」
「それは作り手が言う言葉で破壊する人が言う言葉じゃないんだよぉ!」
オブジェを作ったであろうダークエルフ、プッカさんのムンクの叫びが聞こえてくる。
なのに何にも悪びれることなくきょとんとした顔でいるミリア。
なんで分からないの?
みんなから向けられる敵意の目に!
「ちょっと置いてかないでよ、キリシマ! なんか物凄い形相をしたダークエルフが追ってくるんだけどぉ!」
「わたしの名前を叫ばないでぇ!!」
ミリアが名前を叫んだせいで、わたしの方にも向けられる嫌悪の目。
もうほんと……なんでこんなに散々な目に会うの!
プッカさんに追われるミリアに追われる羽目になるわたし。
もう既に敵意を向けられているのに。
この後ラオウさんに会わないといけないって考えると本当に……。
平謝り、土下座まですればこの村に居させてくれるかなぁ……。




