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これだから神装は欲しくなかった

 

「ついてこないでよ」


「わたしは君の監視役だから」


 ターメリックへの尋問も無事? に終わった昼下がり。

 尋問が終わったのを確認するや否や、早々に立ち去ろうとするミリアをわたしは追いかける。

 わたしが追いかけるとミリアは逃げる。

 もうずっとこんな調子なのである。


「ミリア?」


「話しかけないで」


「お耳触ったのは謝るよ」


 分かってほしいとは言わない。

 非があるのはわたしも同じだから。

 だからわたしは謝るだけ。

 ひたすらミリアに対して謝っていると、わたしはふと思ってしまう。

 ……あれ、なんでわたしは謝っているのだろう。

 別に良くない?

 謝る必要ないよね。

 わたしはミリアから離れて仕事の手伝いに行こうと足先を別の方向へと向ける。


「それだけで謝られるなら私にも謝ってほしいであります!! 今日一日私の欲望発散の道具で手を打つでありますよ!!」


 メンマがミリアの目の前に立ち塞がった。

 ミリアはメンマを一巡して鼻で笑う。


「あんたは日頃の行いが悪いだけよ」


「何おうであります!! お腹パンパンになったのにでありますよ!!」


 自分のお腹をバンバンと叩くメンマ。

 そのお腹はもう既に元のスリムな体形に戻っている。

 一体、どんな身体の構造をしているのか本当に不思議である。

 わたしはメンマとミリアの会話に割って入る。


「わたし、これからラオウさんとメラチャルさんと話があるから」


 メンマにミリアの監視役を任せて早々とこの場を立ち去ることにする。

 後ろから聞こえるミリアの「ちょっと!」という言葉を聞こえなかったことにして。


 *  *  *


「キリシマ、お前。神装という物を持っているらしいな?」


 わたしの中で平穏無事な生活が完全に音を立てて崩れた気がした。

 メラチャルさんとラオウさんには知られたくなかったのに。

 少しでもまだバレていない望みに掛けてわたしは言い訳をする。


「あの不思議な炎に関してはいつも言っている通りです。わたしが編み出したただの魔法です」


「だがあのエルフはその炎を神装だと言っているが? なんでもエルフの族長もその炎に撤退を余儀なくされたとか」


「エルフの族長が勘違いをしただけです。わたしが神装を手に入れるような苛烈な性格に見えますでしょうか?」


 神装を手に入れるのに性格が関係しているのかどうか知らないけど。

 狩りの時に使っていたのでばれるのは時間の問題だったとも取れる。

 ラオウさんは難しい表情でわたしの肩に手を置いてくる。


「お前が問題を起こすような性格ではないことは知っている。ダークエルフらしからぬその性格もだ」


 問題を起こさないように努めていただけだからそう見えてもおかしくない。

 わたしは三回ほど瞬きする。

 頭の中を極限にまで冷やして思考を止める。

 そんなわたしを見透かすかのような目をラオウさんは向けてくる。


「お前が隠したいならそれでいい。だがもしダークエルフのために使ってくれるのなら、一度だけで良い。あの族長に勝つために。その力を振るってくれ」


 頼むとわたしはラオウさんに頭を下げられた。

 メラチャルさんも同じように倣って頭を下げてくる。

 ……こんなの、ずるい。

 これじゃあわたし、使う選択をしなければダークエルフの村に居られなくなる。

 けれど族長を倒さないと平穏無事な生活を送れないのも事実だから。

 だからわたしは、ラオウさんの言葉に「はい」と返事をするほか無かった。


 *  *  *


 わたしは夕焼け空を眺めながら家への帰路を歩いていた。

 道行く人には挨拶をして。捕まってしまったら中身のない会話を繰り広げて。

 また夕焼け空を眺めながら帰路を歩く。

 わたしはひとつため息をついて玄関の扉を開ける。

 そこからは特に何かするまでも無く時間を潰して食事の時間になれば手伝いに入る。

 家族団欒とした食事の風景。

 ミリアとメンマが何かよく分からないことで争いを繰り広げている。

 わたしはそれをただボケっと眺めるだけ。

 こっちに会話を振られれば相手を不愉快にさせない言葉選びで場を和ませる。

 そうして風呂に入って軽いストレッチをした後、わたしは床に敷かれた毛布に身体を埋める。

 ベッドじゃないからか、今日は身体が良く冷える。

 わたしは身体をブルブルと震わせながら思う。

 ……そういえば今日、ミリアから会話に誘われなかったなぁ、と。


 翌朝、ダークエルフの村ではエルフの村に侵攻する計画が企てられていた。

 祭壇上でわたしは最重要戦力として紹介されていた。

 周りから浴びせられるのは賛美の声。

 光明が見えたと奮い立つ声。

 わたしは嫌だなぁとか考えながら、耳に入る音を右から左に受け流していく。

 ただ早く終わるようにと人形に努める。

 わたしは多分、笑顔だったと思う。

 無表情とかではなく、場に合わせて笑顔を作っていたと思う。

 やっぱり、平穏無事な生活を送るためには個性や自我など必要ない。

 他人の定めたレールを走るだけ。それが目標への最短ルート。

 わたしの場合、ダークエルフたちの言うとおりにすることこそが最短ルート。


「どうよ、私の社会性は」


 隣にいるミリアがわたしに籠を突きつけてくる。

 果実やきつねうどんと狩りで得た肉を物々交換しているときのことである。

 ミリアの方も籠の内容物がここに来た時と全て変わっていた。

 わたしは最後に川魚と今日得た果実を三つ、肉ときつねうどんを交換して取引を終える。


「良くなったね」


「でしょ!」


 ミリアはドヤ顔を見せると、わたしの手を掴んでくる。


「今日やることは」


「ミリアの監視」


「いつも通りね」


 こういう相手の予定を無視するところは本当に変わらない。

 ひとまずわたしたちは家に戻って戦利品を置いていく。

 どこに行くのか聞かされないまま、わたしは元気なミリアに引き摺られていく。

 それにしてもと、わたしはさっきとえらい違いの様子であるミリアに問いかける。


「機嫌治ったの?」


「別に。けどメンマがあんたは人形みたいなものだから強引に行けばいいって」


 いつも断っているよ?

 メンマの強引な誘いを。

 わたし、メンマから人形か何かのように思われていたのね。地味にショック。


「だから、あんたには少し我儘になってもらうわ!」


「別にわたしは——」


「あんたが、私に社会に馴染む大切さを教えてくれたように。ねっ」


 ふーんとわたしは気にも留めずミリアに引き摺られていく。

 ズルズルと引き摺られること十分ほど。

 ついた先はエルフたちが囚われている監視付きの部屋だった。

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