魔球何でナン(?)
良いじゃん、ナン美味しいじゃん!
熱くて持つのに苦労するし、ちょっと顎が痛くなるけどカレーと絡みあうふっくら甘い生地は本当にわたし自身の価値観を変えてくれたよ?
なんでナンで突っ込みをせざる負えない状態にしてくるのこの世界!
ターメリックは両腕を広げて高らかに宣告する。
「戦いというのはノリの良い方が勝つのだ!」
「そっち行ったであります!!」
メンマの言葉でハッと我に返ったわたしは、飛んできたナンをナイフで両断する。
勢いの落ちたナンが偶然にも近くにいたダークエルフに当たってしまう。
するとナンを当てられたダークエルフは苦しそうにお腹を押さえて蹲った。
「フハハハハ!! 我がゲート・オープン・ナンスローから放たれた熱々のナンは当てられた者の胃へ強制的に転移する! 貴様らは強制的にナンを身体に入れる破目となるのだ!」
「無駄に凶悪だね! ナンを奴隷痕扱いする君の方がよっぽど失礼でしょ! しかも消化したら無くなるじゃん!」
「クッ、なんたる屈辱! ナンを身体に入れるくらいなら!」
「くっそ、こっちに来るな下賎なダークエルフ共が! こっちにまでナンが」
「ターメリック様おやめください! 味方まで巻き込むつもりですか――」
……なんであのナン、銃弾より早く飛んでいるのだろう。
ミリアがナンかよく分からないけど解説してくれる。
「あいつの攻撃はかなり凶悪よ。その見た目から一時期何でナン? とか言われていたわ。けどそのすべてを、あいつはナンで黙らせてきた」
「いや黙らないでよ! 内容はどうあれ見た目ナンじゃん! 別にナンじゃなくてもいいじゃん!」
「これも全てナンへの愛が為せるわざ。憎きライスに天誅を下す技だ!」
「どう見てもナン投げ捨てているだけよね! 愛とか微塵も感じないよ!」
……とりあえず、先にあのエルフの集団からやろう。
わたしは足に力を込める。エルフの集団まで飛ぶために。
狙いを定める。
一足で飛ぼうとして、
「お前のその神装には気を付けろと、ガーリック様は仰っている。簡単に部下たちをやらせはしない!」
わたし目掛けて大量のナンが飛来する。
「君たち、職人のプライドとか無いの?」
「無駄だ。こちらの言語があちらの世界に通じるものか。それに、投げたナンの数によって私から給金が出る! 分かるか? 当てた数ではなく投げた数だ!」
「職人プライドの欠片もないね! 守銭奴なだけだね!」
わたしはカグツチの炎を槍上にしてターメリック目掛けて投げ放つ。
しかしターメリックの放ったナンはカグツチの炎を吸収して飛んでくる。
「神装の力を引き出せていない状態で、私のナンに敵うものか!」
「今更少年漫画風の台詞吐いても遅いよ!」
ミリアはわたしとターメリックが繰りなす攻防を縫うように撃ってくる。
ミリアへと向けられるゲート。
それよりも先に。
わたしはターメリックに斬りかかる。
やだ、このナン縮地してくる。見えない!
ターメリックが嘲笑う。
「エルフがダークエルフの文化に馴染めるわけないだろうに」
ナンが一斉にミリアへと向かって行く。
傘は閉じたまま。あれでは防ぐことができない。
着弾まで残り数秒。
けれどわたしを含めてみんなも間に合わない。
その瞬間、ナンの着弾する音が辺りに響いていった。
ターメリックが驚愕に目を引ん剝いた。
ついでにわたしまで引いてしまう。
「私は自由になるのよ。そのためなら馴染んでやるわ!」
「あづっっっ!! いぐっっ!! お腹が!! お腹が!! や、焼けるように痛いであります!! し、しかし、美少女エルフに盾にされた思いと攻撃された感動が合わさって!! 不肖メンマ!! 感激で――」
メンマぁぁぁぁ!!
その光景にお腹を押さえて地面に転がるダークエルフたちが感激の言葉を漏らす。
「確かにあいつならすぐピンピンする! 考えたな!」
「メンマを盾にできるほど、エルフはダークエルフに歩み寄れるのか」
「いいぞぉメンマ! その調子で食いつくしてやれ!!」
「メンマの扱い酷くない!?」
メンマは投げ捨てられると同時に、その場に崩れ落ちた。
「知らないでしょうけどね。ダークエルフってみんな、明るくて、優しくて、エルフの私も受け入れようとしてくれたの」
「今メンマを盾にしたよね!」
ミリアの手にあるのは極限まで魔力を溜めた和傘。
わたしとの修行の時に見せた、虹色の燐光。
「少しの違いも受け入れてくれないエルフとは大違いよ!」
ミリアの収束された破壊光線は何重にも連なったナンを貫き、ターメリックへと突き進む。
ターメリックも負けじと砲門を向けた。
「せめて醜く、そして美しく死ねっ! はっ、今日は店じまい? 待て待て! 金なら払うから投げろ!」
「そらそうなるよね」
ターメリックは虹の光線に包まれた。
反対にミリアの腕から力が抜けていく。
それと。
わたしはターメリックが飛ばされた方に目線をやる。
そこでは未だ健在で必死に起き上がろうとするターメリックの姿があった。
「わたしとしては降伏をお勧めしたいのだけど」
「舐めるなよ! 私はまだ!」
インド風のおっちゃんがナンを作るときに使用する道具をわたしに投げてきた。
飛んでくる道具。
わたしは思わず目を開く。
「いや遅いね」
ぺしっとわたしは飛んできた道具を叩いて落とした。
木を背にするターメリックが目を逸らす。
「ど、どうやら私の攻撃はナンにしか効果が無いらしい」
「そうですね」
「まっ、待てッ! 話せば分か――」
わたしはナイフでターメリックの意識を狩る。
無念の表情でその場に崩れ落ちるターメリック。
空間の綻びは元に戻っていく。
ゲートが自然に閉じていく。
わたしはターメリックを縄で縛り付け、思わず空を仰いで呟いた。
「……何でナン」




