酷く屈辱的な武器(ダークエルフにとって)
わたしは忘れていた。
エルフが攻めてくることを。
相手が群であることを。
頭の隅から追いやっていたツケがここで来た。
ミリアが数歩後ずさる。
「ターメリック……マトン……カリー……」
めっちゃ美味しそうな名前しているなぁ!
カレー好きが相まってそこまでするの、エルフ族。
「私の名を呼ぶな。穢れる」
心底嫌そうな顔で吐き捨てるターメリック。
メンマがわたしとミリアの腕を掴んで下がらせる。
自分もある程度エルフから距離を取ると、竹槍を取り出し矛先をターメリックに向けた。
「あいつ、どんなエルフなのでありますか!!」
ミリアはターメリックから後ずさりしながら答えた。
「エルフの副族長よ。目の前でマトンカレー以外のカレーを食べようとしたエルフを粛清したって噂があるわ」
「せんまっ。副族長、心せんまっ!」
はっ、ついツッコんでしまった。
ターメリックが手を振り下ろすのを合図に始まる銃撃戦。
ダークエルフの反応速度はエルフを優に超えている。
わたしたちは誰ひとりとして欠けることなく木の裏に隠れた。
銃弾飛び交う場所だというのに、あのターメリックはそのど真ん中で演説する。
「世の中マトンカレーこそが正義だ。ビーフもチキンも邪道。マトンカレー以外を食べる奴は私がこの手で何度も処罰してきた」
「本当にやってたの君! そのマトンカレーへの拘りは何!?」
どれほど心苦しかったのかを訴えるかのように、その目からは涙を零していた。
なんか、わたしももらい泣きしたかもしれない。
ターメリックは握りしめた拳をぶるぶると震わせて、大気を震わすほどの声量で叫ぶ。
「だがお前はそれですらないライス! その行い、神やガーリックが許しても私だけは絶対に許さない!!」
「許さないの君たちくらいだよ!」
なんで憎き宿敵を倒すかのような声と感情でアホっぽい内容を喋るのだろう。
これがこの森での常識なのだと、わたしは何とかして飲み込もうと頷いた。
なおもターメリックは叫ぶ。
「出てこいミリア! さもなくばダークエルフを巻き込むことだけは許してやろう」
森が荒れる。双方の銃弾で。ダークエルフの手榴弾で。自然が壊れていく。
そのたびにエルフとダークエルフは互いに苦し気な表情を晒していた。
高校男児くらいのエルフを鎮圧させたメンマが筆頭に叫ぶ。
「ふざけるなであります!! ダークエルフの領地に踏み込み、危害まで加えた!! そんな要求が通るわけ無いであります!!」
「そうだ! ミリアちゃんはエルフなのに俺たちの輪に馴染もうとした!」
「最初こそ嫌なエルフだと思っていたけど、ミリアちゃんは変わったんだ!」
ダークエルフたちの士気が高まっていく。
今のミリアはダークエルフの仲間だと認定されているらしい。
最初こそ不意を突かれたけど地の利はこちらにある。
しかしなおも、ターメリックは両手を振り上げて盛大に宣言する。
「……ならば、最大の幸福を与えてやろう!」
空間が軋む。地鳴りが轟く。ターメリックの背後に波紋が広がる。
これは魔力。
ターメリックは魔力のみで地球とこの世界を繋げている。
理論上できなくはない。
同じような現象が起きて、こちらの世界にも銃が流れ着くのだから。
けれどこれを一個人で。
十門のゲート。
ターメリックの背後に開かれているのを現す言葉があるとすればそれである。
しかし驚くのはそれだけじゃない。
ゲートからこちらを覗く見覚えのある衣装を着た存在がいた。
ひとつとして例外は無く、みな一斉に窓からこちらに向かって手を振りかざしている。
「フハハハハ! これが私の力、ゲート・オープン・ナンスロー!」
投げられた物体。
それは平べったい布団叩きのような形をしていて。
蒸気機関車の如き湯気が出るほど熱々で。
若干の焼き跡が残る黄土色の島。
見間違うはずもない。
それは正しく。
「ナンじゃん!!」
わたしは叫んでしまった。
ナンの直球ストレート。ナンの急速カーブ。ナンのスライダー。
幾重にも球種が変化する魔球ナン。
しかもインド風のおっちゃんがゲートからひょっこり顔を出してナンを投げてくる。
「クッソ、こいつナンだと。なんつー武器を!」
「ダークエルフの弱点を突いてくる武器を持ちだすとはなんたる下劣であります!!」
「もう絶対に許さない!! ナンを飛ばしてくるなんて! あんた本当に最低よっ! ダークエルフをなんだと思ってるの!!」
「よくそんな、うっわ毒ガス兵器まで持ち込んできたよこの種族みたいな反応できるね、君ら!」
銃弾が飛び交い、ナンの駆け抜ける戦場。
流石にわたしは我慢できずに突っ込みを入れてしまった。
もう、真剣にエルフとの戦いに備えていたわたしが馬鹿みたいじゃん!




