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ルビーアイ・カタストロフィ  作者: アゲハ
2章 泉
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2話 カフェテリア

私、泉はアメリカのハーパード大学に留学した



あれから1年の月日が流れ、学校生活にも馴染みを感じる



この大学に留学したのには理由があった



生物学に(ひい)でた学校



私は、私の【眼】をもっと知る必要がある



だから選んだのだ、ココを……









大学の休講日


ある日の昼過ぎ


大学からさほど遠くない駅前


私の姿は、そのカフェテリアに在った


丸テーブルに4つの椅子


その1つに私は腰を掛け、更に隣の椅子を引き寄せる


その上に手提(てさ)げのトートバッグを置いた


バッグの口を開いた私は、数冊の書物とノート


そして筆箱を取り出し、テーブルの上へと展開させる


開けた筆箱からシャープペンシルを取り出してはカチカチとペン尻のノックを押し、芯を出した


準備は万端だ


私は書物に手を掛け、そして開く


その厚い本の表紙には、【脳科学】と書いてあった








このルビーアイは元々、人には理解出来ない力だ


だからこそ、それに近い知識が詰まって居るのは脳科学だと推測した


正直、英語を勉強したとはいっても、通訳士を務められる程に高い知識は無い


だから、持ってきた書物の1つには【英語辞典】も含まれている


読める文は読み、解らない文は辞典で()()


ソレを繰り返していると、私の隣に人が立っていることに気付いた


「オ待タセシマシタ♪」


流暢(りゅうちょう)な英語で話し掛けて来たのはウェイトレス


その女性の持つトレーに乗っていたのは、私がオーダーしたカフェラテだった


「Thanks♪」


そんな感謝の言葉を彼女に掛けると、笑顔でカフェラテ、そしてミルクとシュガー、小さなスプーンが入った小物入れをテーブルへと上品に置く


彼女が店内に体を向けたところを確認した私はティーカップに指を絡め、1(くち)、コクリとノドを鳴らした


うん、良い味ね♪


程良く感じる苦味


口の中に豊潤に薫る洗練された風味


私はこの店で頂くカフェラテの時間が大好きだった






私の視線は、何度も本と辞典を行き来する


体の特異性というよりは、ソレに働き掛ける何か……


そう思って居たのだけど……


解らない……


間違いなのかも知れない


この力は未知のモノ


両親が私を産んだ時に、私の元にルビーアイはやって来た


不可解だ


脳であっても、体であっても……


その能力は、ママやパパから一挙に引き継ぐ事は実に不可解


両親も持ち、私も持つなら解る


DNAに()る何かだと推察出来る


解らない……


解らないよ……


そして私は、もう1(くち)、カフェラテを(すす)った








何度も脳科学の専門書に目を通す


何度もカフェラテに口をつける


ん?


いつの間にやら、ティーカップの中は空っぽだ


もう1杯頂こうかな……


そう思って顔を上げた時だった



「うわ!!!」



私は椅子から転げ落ちた


驚き、仰け反り、体勢を崩したのだ


驚いたのには理由がちゃんとある





私はテーブル下から、ゆっくりと顔を上げ……





ソコに居る人物に目を向けた





目の前には金髪の美女がテーブルに頬杖(ほおづえ)をついて、()()()()顔で私を見ている


私は彼女を知っていた



()()()…… いつから居たのよ!?」


「ズットヨ…… 15分位前カラカナ……」



エリスと云う名の彼女は、怒っているかの様な表情を崩さない



「そんなに前から!? 何で話し掛けてくれないのよ…… もう!」


「話シ掛ケタヨ…… 無視サレタケドネ……」



え!?


私は彼女に向かって大きく手を左右に振った



「してない、してない! 無視なんかするわけ無いでしょ!!」



彼女の顔に笑顔が戻る



「解ッテルヨ♪ 冗談(じょうだん)ヨ、冗談♪」


「冗談って…… もう…… ビックリさせないで……」


「フフフッ…… 泉ハ()()()良イ子ネ♪」



そう言って、私達は笑い合った



昔から、か……



エリスは大学に入った直後から、とても仲良くしてくれる友人だった


大学に入ったものの、右も左も解らない


多少の読み書きは勿論出来るが、やはり少しは感じる()()()としての見られ方


ソレがあるから友人と呼べる人は居なかった


それを彼女は友達に成ってくれた


それはそれは強引に……






初めて会った日の事を覚えて居る


キョロキョロ次の教室を探していると、いきなり背後から笑顔で()()()()()()()


そんな彼女の第一声は



「貴方、日本人ナンダッテ!?」



だった


Yesと質素に頷いた私に



「硬クナラ無イデヨ♪」



そう彼女は言い放つ


その後に発した言葉が



「友達二成ロウヨ♪」



だったのだ








いきなりの出来事に私は目を丸くしていたと思う


正直、最初から何もかにもを信用した訳では無い


彼女は、この土地の人


私は、他国の人間だ


実際、他の学友からはイジメというわけでは無いが、ソコまで口をきいてくれる人は、ほぼ居なかった


だからこそ、彼女の言葉を直ぐ鵜呑(うの)みにする事は無かった


だが、そんな彼女と一緒に行動をする機会が増えた時に聞いた言葉


その言葉で、私は彼女の全てを信用したいと心に決めた






あの日



私はエリスに聞いた



「ねぇ、エリス……」


「ン?」


「私…… 日本人なのよ?」


「ダカラ?」


「外国人だよ?」


「ソウネ?」


「あまり私と一緒に居るとさ…… 他の人から仲間外れとか…… ならない……?」


「意味ガ解ラナインダケド?」


「だから…… 仲間外れよ!」


「貴方…… ソンナ事ヲ気ニシテルノ?」


「だって…… 外国人だし……」



彼女は深く溜め息をついた


そして、私の肩に優しく手を乗せた



「アノネ、泉? 貴方ハ【人】でしょ?」


「そりゃ…… 勿論」


「ウン…… デネ、私モ【人】ダヨ?」


「当たり前でしょ?」


「ソ! 当タリ前ナノ♪」


「は? つまり?」


「貴方ト云ウ【人】ヲ、私ト云ウ【人】ガ好キニナッタ…… ソレダケジャナイ?」


「エリス……」


「ネ? 簡単デショ♪」


「そう…… ね♪」


「ウン♪ ダカラサ…… 何カ言イタイ【人】ニハ、勝手ニ言ワセトケバ良イノヨ♪ ダッテサ、貴方ハ、貴方ノ為二()()()()マデ来タンダカラ!」



ジーンとした


心の奥が熱くなった


彼女に取っては小さい悩みだと思えたのだろう


だけど、ソレを()()()に言葉にされると、やはり私は()()()()()事で悩んでいたのだと……


そう、思う


その後も笑顔を絶やさず、私に語り掛けてくれる彼女に……


私はとても、救われた


エリス……


貴方が友達で……


この日本とは違う土地で……


初めての友達で、本当に良かった

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