9話 ネゴシエーション
目の前にはエリスが大きく手を広げて私を庇っている
その前には銃口を向けた3人の黒服男
そして、彼らの目的
その強行の為には……
私を簡単に撃つだろう
エリスが泣いて了承するまで撃つ……
今はエリスに危害が及ぶとは思えない
彼女を丁重にドコかに連れて行って監禁
私とは別の方向へ連れて行き、見えない位置で、私は射殺
コレが奴らのベスト
フゥ……
中々の…… 状況ね……
でもソレだけ解っていれば何とかなる、かな♪
私にとって、最上級の安心がソコにあった
エリスは無事で無ければならない
エリスが居なければ、奴らの交渉は成立しない
人質は生きているから意味がある
つまり、私の身は、私が守るだけで良い
エリスが奴らを無言で睨んでいた
私はエリスに庇われながらも、その背後
死角でポケットに手を入れる
ソコから取り出した数個を両手に包んだ
何はともあれ、エリスをどうにか助けないと……
「ねぇ、エリス……」
「何……? 黙ッテ隠レテテ……」
「私は大丈夫だよ」
「今ハ…… デショ……」
「私ね、エリスに会えて本当に良かった」
「泉! 最後ノ言葉ミタイニ言ワナイデ!!」
「まさか! 最後なんてこれっぽっちも思って無いよ♪」
「ジャア何デ…… 何デソンナニ冷静ナノヨ!?」
「決まってるじゃ無い! エリスが居るからよ♪」
「泉……」
「だからね…… 私を信じられる?」
「ドウイウ意味……?」
「私の全てを…… 信じられる?」
「当タリ前デショ! 友達ダモノ!」
「良かった♪ じゃ、コレから起こる事…… エリスを守る事だからって信じてね!」
「エ?」
私の前で、顔だけ振り向いた彼女の表情には疑問が映っていた
その顔に私は微笑み掛ける
そして視線をその先に向けた
「ねぇ、黒服さん……」
「何ダ? 時間稼ギハ意味ガ無イゾ」
「時間稼ぎじゃ無いよ…… でもさ、最後に聞きたいんだ」
「…… 聞クダケ聞コウカ」
「ありがと♪ じゃあさ……貴方達は誰に頼まれてこんな事してるの?」
「フフッ…… 言ウ必要ノ無イ質問ダッタカ……」
「教えてくれないの!? 残念だなぁ…… 私…… ココで殺されちゃうんでしょ? 最後くらい良いじゃん!」
「最後カ…… マァ、ソレデモ言ウ必要ハ無イナ」
最後……
ソレに否定は無い
肯定もしないところをみるとエリスの不安を煽らない為だろう
別の場所で殺す予定ぽいのは確かね……
さて、と……
「じゃあさ、黒服さん……? ソレがゴールド・ファンド社の…… やり方なの?」
「キ…… 貴様……」
「あら? 当たっちゃった?」
表情が露骨に変わった
サングラスをしていても明らかに見える動揺
お次は…… っと♪
「ゴールド・ファンド社…… その社内でソレって許してるの? こんなに大それた事しちゃヤバくない!?」
「黙レ…… 前ノ娘!! コッチニ来イ!!」
「行かなくても良いよ、エリス♪ 私を信じなさい……」
私を庇いながら前に居る黒服達と背後に何度も視線を行き来させる彼女
その目が私へ何度目かに向いた時、私は笑顔を見せた
少し安心したのか無言で頷くエリスは、奴らの顔を再度見据える
私は言葉を続けた
「ねぇ、誰の指示?」
「ウルサイ! 黙レ!」
「そうなんだ…… そうだよね…… そりゃ有無を言わさず実行されるよねぇ……」
「何ヲ…… 言ッテイル!?」
「ん? いやさ? ゴードン・フリーマン社長の言い付けじゃ、逆らえないよね…… うんうん♪」
「オ前…… ドコマデ!?」
あらあら……
こんなに簡単に鎌に掛かるとは……
意外と残念な人達だね……
まぁ、OK♪
コレで全てが繋がった!
「解るよ♪ もう、大体解った…… ナンパ男達を動かしたのは貴方達…… エリスの父親を強迫する為にエリスを誘拐…… 彼女が逃げる気を無くすように私も誘拐する…… そして、彼女の目が届かない場所で殺害…… エリスは私が囚われてると思い、逃げる事は出来ない…… 完璧な誘拐だわ! そして全てを指示したのは社長…… ゴードン・フリーマンね♪ どう?」
「……」
「あら、無言? 目を見せて欲しいなぁ……♪ 貴方達の気持ちが読めるようにさ♪ でもね…… サングラスしてても緊張は伝わるよ! スッゴくね♪」
「……」
「怒ったね? 怒ったね♪ 良いよ~~…… ガンガン伝わるよ! 貴方達の緊張が♪」
私の茶化した会話に、奴らのみならずエリスの緊張も感じた
彼女の白く美しいうなじに汗が流れる
ゴメンね、エリス……
必要な事なの……
だから……
もう少しだけ私に付き合って……
「ね……? もう一度…… 頼むんだけどさ……」
私はゆっくりと心を整える
「サングラス…… 取って…… 今…… どんな目をしてるのか…… 見せてよ……」
奴らはピクリとも動かなかった
「ソレが答えね…… 伝え方が悪かったかな? そのサングラス…… 取れよ」
やはり微動だにしない男達
「じゃ、私が取ってあげなきゃダメか…… 覚悟は…… 良いね? そのサングラス…… 取れや!! 虫ケラが!!!」
バギッッパリィィィィィィィィィンン!!!
「アウチ!!!」
黒服達の1人が膝を落とした
こめかみ辺りを手で抑えている
そして、その男の足元には砕け散ったサングラスのレンズ
そしてフレームがひしゃげていた
立ったままの黒服2人は何が起きたのかとキョロキョロ辺りを見回す
その2人の視線が私に向いた時だった
バギョッッパリィィィィィィィィィンイイイン!!!
「ウグアァァァ!!」
バギョッッッパリィィィィィィィィィンン!!!
「グワッッ!!!」
その2人もまた、地に膝を落とす
「そんな顔だったんだね♪」
私は笑って、そう言った
状況が理解出来ないエリスは目を丸くしている
そして彼女もまた、キョロキョロと辺りを見ていた
黒服の1人が私を見た
「貴様…… 何ヲシタ!?」
怒りの表情が有り有りと見える
「何をした? アンタさっき何て言ったっけ…… そうそう! 言う必要は無いだよね♪」
「言エ!!」
「何で怒ってんの? アンタがさっき私に言ったんだよ? 人にだけ言わせるってヒドくない?」
「フザケルナ!!」
「今…… 何て言った、テメェ…… じゃあさ、私がさっき聞いた時はアンタ…… フザケてたの……? 言えよ、コラ……」
「ウルサイ! 何ヲシタト聞イテイル!」
「やれやれ…… 大人の事情ってやつか…… 子供は不憫だねぇ…… まあ良いよ! 教えてあげる♪ アンタ達の足元の小石見てご覧よ」
彼らは地に付けた膝元を見る
ソコには彼らの血が付いた石が転がっていた
「解った? ソレを私が投げたの♪」
「フザケルナト言ッテイル!!」
「ふざけてないよ?」
そう言った私は、大の字に私を庇うエリスの脇の下から左右の手を奴らに見せた
開いた手の平には数個の小石が姿を見せる
ソレを確認し、恐怖を見せる彼らに……
私は笑顔を向けた
「ね? ホントでしょ?」
「シカシ…… オ前ハ…… 振リカブッタ姿ヲ見セテ居ナカッタ!!」
「そりゃそうでしょ! 弾いたんだもの♪」
「弾イタ…… ダト!?」
「そ♪ アンタ達…… ココに私達を追い込んだと思ってたでしょ……? 先に言っておくケド……ソレ、間違いなんで♪」
「ハァ……!?」
「追い込んでいたの解ったからさ…… 逆にソレを利用したのよ♪ それで砂利道から小石を拾って、ココに走った……」
「ソンナ馬鹿ナ!!」
「小石さえあれば何とかなるかもって思ったからさ♪ こんな風に…… ね!!!」
シュパッ!!!
男達の頬から鮮血が飛ぶ
私は握り込んだ小石を3発、親指で弾いた
「て、感じ♪ 私は嘘はつかないよ…… テメェらと違ってね…… なぁ、どうする? ねぇ…… この後…… どうする……?」
「チッ……」
「ハッキリ言いなよ…… 大人でしょ? 子供の私が先にハッキリ言ってやろうか?」
苦虫を噛み潰した顔を見せる男達に私は言った
「私の大切な友達を…… 何しようとした? 誘拐? 舐めんな…… 殺すぞテメェら……」
そこまで言った時だった
奴らの顔が変わる
何かを決めた顔だ、コレは……
予定通りだ……
この為に……
私は彼らをバカにしていたのだから!
黒服の男1人が仲間に目を配る
そして彼らに言った
「オ前達…… 社長ニハイレギュラーダト伝エル…… 娘ハ生キテイル事ニシテ強迫スル…… 撃ツゾ……」
ソレに決めたか
エリスに目をやる
彼女の顔は引き攣っていた
「エリス! 私を最後まで信じて!」
「デモ! 撃タレル!!」
「信じなさい!!」
私は両手から小石を全て捨てた
背後から左手をエリスの顔に掛けて目を隠す
右手を彼女の脇の下から奴らに向けた
男が叫ぶ!
「シュート!!!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!カチッ!カチッ!カチッ!カチッ……
男の声と共に重く響いた銃声が……
止んだ……




