初めてのソロ狩り 終
今回は、初めての野良PT。
知らないプレイヤーたちとの出会い。
そして、俺が少しずつMMOの本当の楽しさに触れていく
お話です。
**タルノト2**
俺は今、自分一人の力で狩りができる喜びを噛み締めていた。
……いや。
正確には、俺一人の力ではない。
目の前では、俺のかわいいGD、ツバイスちゃんが、マミーの群れを蹴散らしている。
生まれたばかりの頃は豆粒みたいに小さかったのに、今では俺よりレベルも高い。
そして、図体もでかい。
マミーの群れが一斉にツバイスへ襲いかかる。
だが、2本の槍が振るわれるたびにマミーが崩れ落ち、残った敵もアイスウェーブに巻き込まれて消えていく。
強い。
実に頼もしい。
そして、その横には……
何もせず突っ立っている俺。
「…………」
そう。
俺はやっぱり、ぼっ立ちだった。
昨日、マクビさんたちにパワーレベリングしてもらっていた時と何も変わっていない。
違うのは、ツバイスを操作しているのが俺自身ということくらいだ。
ちなみにGDには寿命がある。
ずっと一緒にいられるわけではない代わりに、その分レベルは上がりやすい。
だから狩れば狩るほど、ツバイスはどんどん強くなっていく。
カチッ、カチッ……。
部屋に響くのは、マウスとキーボードの音。
画面の中ではツバイスが忙しそうに戦い、ファイターの俺は棒立ち。
だが、現実の俺は意外と忙しい。
ツバイスに指示を出し、敵を探し、次の獲物へ向かわせる。
カチッ。
カチカチッ。
……スパー。
狩りに余裕が出てきたせいか、さっきからタバコの本数だけが順調に増えていた。
どれくらい狩っただろう。
ふと、気づく。
「……静かだな」
チャット欄がやけに静かだ。
俺はマウスを左右に動かし、周囲を見回した。
画面の景色がぐるりと回る。
その時だった。
「…………!」
いた。
プレイヤーだ。
その姿を見た瞬間、昨日のことが頭をよぎる。
PK。
マウスを握る手に、自然と力が入った。
もしPKだったら……。
今の俺じゃ勝てるわけがない。
瞬殺。
そして経験値ロスト。
「マジで勘弁してくれよ……」
少しだけ手が震える。
怖い。
普通にPKが怖い。
プレイヤーがこちらへ近づいてくる。
両手にはダガー。
職業はレンジャー。
昨日、俺を襲ったヤツと同じ職業だ。
ただ、同じプレイヤーではないことは一目で分かった。
昨日のレンジャーは、全身からピンク色のオーラを放つ、どう見てもヤバそうな装備だった。
こっちのレンジャーは光っていない。
武器も違う。
……とはいえ、安心はできない。
レンジャーは俺の目の前まで来ると、ピタッと止まった。
「…………」
無言。
こっちも無言。
画面の中では、2人のキャラクターが向かい合っているだけ。
だが、その向こうには人がいる。
知らない誰かが、同じようにパソコンの前に座っている。
敵かもしれない。
ただ通り過ぎるだけの人かもしれない。
それとも……。
考えれば考えるほど、指先が固まっていく。
逃げるか?
いや。
何もされてないのに逃げるのも変だ。
俺は恐る恐るキーボードに手を置いた。
指が少し震える。
たった一言を打つだけなのに、まるで相手の懐へ踏み込むような緊張感があった。
そして、文字を打つ。
「どうされました?」
……うむ。
我ながら大人の対応である。
すると、それまでぼっ立ちだったレンジャーから返事がきた。
『すいません、PTあいてますか?』
「…………」
え?
PKじゃない?
張り詰めていたものが、音もなくほどけていく。
俺が固まっていると、さらにチャットが続いた。
『もしソロなら、ご一緒しませんか?』
……誘われた。
PTに。
しかも向こうから。
さっきまで「襲われるかもしれない」と身構えていた相手が、俺に手を差し出している。
画面の向こうにいる、名前も顔も知らない誰かが。
俺なんかと組んでくれるのか?
胸の奥が、じわりと熱くなった。
答えは決まっている。
「はい! よろこんで!!!」
居酒屋ばりの即答だった。
***
俺をPTに誘ってくれたレンジャーは、「雪さん」というプレイヤーだった。
レベル96。
今育てているのは2キャラ目で、レベル上げのためにタルノトへ籠っているらしい。
雪さんと他愛もない話をしながら狩っていると――
『PTあいてますか?』
また1人。
しばらくすると、
『PT入れますか?』
さらに1人。
気づけば、次から次へと人が増えていった。
そしていつの間にか……
8人。
フルパーティーになっていた。
構成は、俺を含めたファイター2人。
サマナー3人。
レンジャーの雪さん。
そしてプリースト2人。
画面のPT欄が名前で埋まっている。
昨日までは、ほとんど1人でウロウロしていた俺がだ。
なんか……MMOやってる。
そんな実感が急に湧いてきた。
『支援バフ掛けるので、一度中央に集まってください!』
プリーストから声がかかる。
バラバラに狩っていたメンバーが、中央の大部屋へ集まっていく。
俺もツバイスを連れて向かった。
全員が揃うと、プリーストの支援魔法が次々と発動する。
1つ。
2つ。
3つ。
4つ。
5つ。
PTメンバーだけでなく、それぞれのGDにもバフが掛かっていく。
『支援ありがとうございます!』
『ありです!』
『ありがとー』
チャット欄にお礼が流れ、みんな再び自分の狩り場へ散っていった。
なんだろう。
この感じ。
妙に楽しい。
***
PTで狩りをしていると、色々な話が聞けた。
どうやらメンバーのほとんどがサブキャラらしい。
メインキャラは別にいて、気分転換に違う職業を育てているという。
ずっと同じキャラを使うんじゃなく、色々な職業を触ることでモチベーションを保っているらしい。
なるほど。
そんな遊び方もあるのか。
そして誰かが言った。
『野良PT組んで、知らない人と話しながら狩るのもコムルの楽しみ方だよ』
「…………」
なんか、いいな。
昨日まではモンスターを倒して、レベルを上げて、強い装備を手に入れる。
それがオンラインゲームだと思っていた。
でも、どうやらそれだけじゃないらしい。
知らない人に声を掛けられて。
一緒に狩って。
どうでもいい話をして。
また別れていく。
それもゲームの一部なんだ。
俺はPTチャットを眺めながら、黙々とツバイスに指示を出した。
相変わらず俺のファイターはぼっ立ちだったけど。
***
それから2時間ほど経った。
プリーストの2人は支援バフが切れそうな時間に集合をかけてくれる。
流石である。
俺のレベルも順調に111になっていた。
「ふう、やっと上がったな……」
満足しながら狩りを続けていると、チャット欄に見慣れない言葉が流れた。
『○○さん予約入りました!』
「……予約?」
何の予約だ?
居酒屋?
俺は少し考えたが、分からないものは聞いた方が早い。
「質問です。予約ってなんですか?」
すぐに雪さんが答えてくれた。
『あ、そっか。始めたばっかりだったね』
『今PTいっぱいでしょ?』
『だから「誰か抜けたら誘ってください」っていうのが予約』
なるほど。
満員のPTに、順番待ちがあるらしい。
『今回は私がPTリーダーだから、予約した人の名前メモってるよ!』
「なるほど!」
ふむふむ。
そういうことね。
……野良PTに予約システムまであるのか。
誰かが作った公式ルールでもない。
プレイヤー同士で自然にできたルールなんだろう。
こういうのも、なんだか面白かった。
***
その後も狩りは続き……
時計を見ると23時。
「……眠い」
さすがに今日はここまでだ。
俺はPTチャットに別れの挨拶を打ち込んだ。
「今日は寝ますね。楽しかったです! ありがとうございましたぁ!」
送信。
すると、一気にチャットが流れ始める。
『おつかれー』
『おつおつ』
『またねー』
『おつかれさまでし!』
「…………」
でし?
少しだけ気になった。
まあ、いいや。
俺はPTを抜けた。
静かになった画面を眺めながら、今日のことを思い返す。
初めて知らないプレイヤーに声を掛けられた。
最初は、PKかもしれないと怯えていた。
けれど、返ってきたのは攻撃ではなく、たった一つの誘いだった。
初めて野良PTを組んだ。
8人で狩った。
知らない人たちと、どうでもいい話をした。
たったそれだけだ。
たったそれだけなのに……
胸の奥には、まだ誰かと繋がっていた余韻が残っている。
「はぁ……」
思わず顔がニヤける。
「コムル、たのしぃーーー!」
この頃の俺は、まだ知らなかった。
レベル上げでもない。
装備集めでもない。
コムルで一番厄介なのは……
人と出会うことだった。
そしてここから俺がコムル沼に沈んでいくまで、
そう時間はかからなかった……
どうも、やっと書き方などが分かってきた作者です。
……
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!
今回は、俺にとって初めての野良PTのお話でした。
知らない人から突然声を掛けられて一緒に狩りをして、
くだらない話をしながら時間が過ぎていく。
今振り返ると、こういう何気ない時間こそ昔のMMOの楽しかったところだった気がします。
そして、ツバイスちゃんが強くなればなるほど俺のファイターはますます置物に……。
本人はちゃんと狩りをしているつもりです。
たぶん。
少しずつコムルの世界にも慣れ、楽しさを知り始めた俺。
ここから、さらに色々なプレイヤーと出会っていくことになります。
そして、その出会いの先には……。
この物語のタイトルにつながる“ヤツ”もいるわけですが、それはもう少し先のお話。
最近、少しずつ読んでくださる方が増えていて、本当に嬉しく思っています。
閲覧数を見るたびに、
「お、楽しんでもらえてるのかな?」
と、ひっそり喜んでおります。
もしこの先も「ちょっと読んでみようかな」と思ってもらえていたら、それだけで嬉しいです。
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それでは、また次のお話で!
コムル沼は、まだ入口です。




