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-ボテッ
そんな音と共に現れたハジメが、着地の際に付いた土埃と金の粒子を軽く払いながら、苦笑いを浮かべ出発準備をしているギルドへと合流を果たす。
「なははっ、随分と尻に引かれてるみたいじゃん。身体の調子はいかがでしょうハジメ大先生?」
妹分であるアリスが所属する米国支部からの依頼で40階層までの攻略が決まってから、ここまで足早に進んで来たが、どことなく感じるギクシャクとした雰囲気。
カケルもそれを感じているのか、普段通りを意識して軽口を叩くも、どこか歪。
「ははっ、そのお陰で四六時中体調万全だから悪くはないもんだよ?」
「無理、無茶ばっかりのハジメにピッタリの嫁さんか、ちとばかし監視の目が厳しい気もするけどな、なははっ!」
少し離れた場所で休憩をしていたであろうユイが歩み寄るのを横目に、ケラケラと笑うカケルはこれまでと同じに感じる。
腰に下げた聖剣の鈍い輝きを除けば、だが。
「ハジメ、はいこれ。体調は大丈夫?」
「ありがと、おかげさまで体調はバッチリだよ。後でレピィにもお礼言わないとね。」
手渡された荷物を受け取り、周囲を改めて確認すれば既に出発準備を終えたリュウとタモツがこちらに急げ、とジェスチャー。
隣に僅かな気配を感じて視線をやれば、いつの間にか来ていたメグも同様に急かしてくる。
「...ワーウルフが複数近くまで来てる。」
二人のジェスチャーはそう言う事か、と理解すればそこからは早い。
受け取った荷物を背負い先行する二人の後を追い掛ける形で駆け出す。
今回の攻略の目標はあくまで女神の大魔石。
ワーウルフの魔石は大きさも純度もこれまでの魔石より良質な為、研究者としては数が欲しいとこではあるが、攻略を行える時間に限りがある以上はいちいち相手もしてられない。
「このまま直進すりゃ階層境界が見えてくる。寝起きのとこ悪いが犬っころにケツ齧られない様走ってくれっ!」
メグを抱えた状態で駆け出したカケルのギアが一段、二段と上がる度に離されていく。
その身体能力を羨ましく思いながら、後方に意識をやれば着実に迫って来る二体のワーウルフが視界に入る。
「ユイ、このままじゃ追いつかれそうだし奥の手を使おうか。」
こんな状況で少年の様な笑みを浮かべるハジメに溜め息を零しながら、そのまま身を委ねるユイの視界が加速する。
さながら人間ロケット。
ケセラセラによる模倣魔法で風の抵抗を軽減し、自身の適正属性である火魔法を後方へと噴射。
細かい調整の効かない、ただ真っ直ぐに“飛ぶ”為に編み出された魔法。
先行していたメンバーに置いていかれるどころか、抜き去りそうな程の速度を叩き出したハジメとユイは無事に階層境界へとたどり着いた。
全員の到着を確認した後、38階層へと踏み入れたギルドメンバー達。
メンバー内でユイ以外は無事だった。
人間ロケットと言う魔法のデメリット、それは速度の代償に生まれる風の抵抗である。
勿論、模倣魔法によって風の抵抗は極力受け流してはいるが、細かい調整も出来ない程の暴れ馬な状態で完璧などあり得ない。
結果、ユイの髪は逆立ち、まさに怒髪天を衝いているのだ。
怒りの対象はハジメ、カケル、リュウの悪ガキ3人組。
原因となったハジメは当然として、階層境界を越える前から笑いを堪えていた二人は取り敢えずの危機が去った瞬間に腹を抱えて笑いだしたのだ。
先程まで感じていたどこかギクシャクとした雰囲気など何処へやら。
悪ガキ三人組を懲らしめる為にレピィが呼び出され、同じ女性としての性かメグが静かに弓を番え、どちらにも付けないお堅いタモツは周辺警戒と言う逃げ道を使いこの場から去った。
蛇に睨まれた蛙の様に震える三人をきっちりと叱りあげ、締め上げ、的にして遊んだ女性陣の機嫌がどうにか落ち着いた頃、周辺警戒に逃げたタモツがなんと階層境界を発見して戻って来る。
まさかの大手柄にこれ幸いと攻略に勤しむ悪ガキ三人組の団結は深まった。
40階層主まであと少し。
続く。