第二話 行き先
この世界には幾多の神がいる。
水の神は飢えに苦しむ人間のために雨を降らせて作物を育て、水そのものを分け与えたとか。
雷の神は他の神との喧嘩で怒りに身を任せてカミナリを落とし、人間を焼き殺したとか。
それらの神々はこの天空に浮かぶ大陸の中心、都市部に住んでいる。
そして都市部に住むのは神の遣いである天使と、選ばれた一握りの人間たちのみ。
俺の願いは、いつか都市部に行き、本物の神をこの目で見ることだった。
――今日、この時までは。
太陽の光に照らされながら、すやすやと眠っている少女、モモ。
コイツが、輝かしい白銀の鎧を身にまとった騎士たちに追われていた。
手配書まで持って、随分と用意周到なことだ。
それに加えて、「神」だなんて大層な呼び方をされて。
あんなに高貴で強そうな騎士たちが探しているコイツ、モモ。
俺は理解せざるを得なかった。
モモは確かに「神」で、何らかの理由であの騎士たちから逃げているのだと。
一か月前にモモが来た時に持たされていた親父の手紙に「追われているから匿ってあげて」と書かれていた。それとも辻褄が合う。
一体親父は、何に巻き込まれているのか。……いや、あの暴走列車のことだ。どうせ自分から首を突っ込んだのだろう。
今の俺のように。
「血は争えない、ってやつか」
ぽつりと呟けば、モモの長い睫毛が震えた。
重たい瞼がゆっくりと開かれる。朝焼けのような碧眼が俺を見定めた。
可愛らしい鈴の声が、小さな口から漏れ出た。
「ふあぁ……おはよぉ、ショウくーん……」
「おう、おはよ。寝れたか?」
「もうバッチシだよぉ」
ぶい、とピースサインを作るモモ。
「ショウくんはいつから起きてたの?」
「ついさっき。そんなことより、聞きたいことがいくつもあるんだが」
「ぎくっ」
わかりやすく肩を跳ねたモモの額を小突き、俺は話を促した。
「わたしはね、本当に全知全能の神様なの」
「ちょっと事情があってね、今は大半の力がないんだ」
「でもその力がある場所はわかるんだよ」
「力を取り戻す……のが、本当はいいんだろうけど、でも……」
「でも?」
モモはそこで言葉を詰まらせた。
そして、俺の脳裏によぎったのは白銀の鎧を着た騎士たち。
「なあ、あの騎士たちって何なんだ?」
すると、モモは苦しそうに笑った。
「わたしの王宮の騎士たち。天使の騎士団、って言ったらわかるかな」
天使の騎士団とは。
白銀の鎧を身にまとい、神のために武器を振るう騎士たちの総称。
その強さは、天使の中でも上澄みだと言う。
ただの人間からしたら、一人相手でも災害のようなものだ。
……今更ながら、たった数人であれ、よく天使の騎士団相手に扉を押さえられたな、俺。
「でもあの子たちの記章は赤だったから、階級は一番下だね。やっぱりみんな、わたしを探してるんだろうなぁ……」
「え、天使の騎士団にも階級があるのか?」
「うん」
モモは指をひとつずつ増やしながら説明した。
「天使の騎士団は、三階級に分かれてるの。一番下が赤の子たち。真ん中が青の子。一番上が紫の子」
「みんなわたしに仕えてくれてたけど、今はどうなんだろう……他の神に仕えてるのかなぁ」
そう呟いたモモは、寂しそうな、遠い目をしていた。
「とりあえず、アイツらから逃げればいいのか?」
「そうしたいけど、逃げ切れるかなぁ。普通の人間じゃ敵わないよ? 今の状況が奇跡なくらい」
「……それもそうか」
ならこれからどうしたらいいのだろう。
考えながら野営の跡を隠す。
それを見ながら、モモが言った。
「ね、郊外に知り合いがいるの。そこ行かない?」
「モモの知り合い?」
「そ」
花の神様。
そう言ったモモは、花が咲くように笑った。




