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幼馴染の一人が【泥棒猫】にジョブチェンジしてから、俺の青春が修羅場ってる  作者: 古野ジョン
第一章

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第4話 揺れるポニーテール

 俺たちは一緒に電車に乗り、最寄り駅に到着した。そこから学校までは徒歩で十分くらい。両隣を二人に挟まれながら、田んぼに囲まれた道を歩いていく。何も遮るものがないから、直射日光が容赦なく肌を突き刺してきて暑くて仕方ない。


「暑いわねえ……」


 ふと左を見ると、赤いリボンでまとめられた冬雪の髪が揺らめいていた。これはこれで新鮮だけど、やっぱり違和感があるんだよな。


「結局、なんでお前はポニーテールなんだよ」

「別にいいじゃない。気分よ、気分」


 いくら訝しんでも、冬雪は涼しい顔をするばかりだった。昨日までは普通に髪を下ろしていたと思うんだけど、どうして今日になって髪型を変えたんだろう……。


「あの……桑折先生の娘さん、だよね?」


 その時、右を歩く千夏が恐る恐る身を乗り出してきた。冬雪も気がついたようで、こちらの方に視線を送る。


「ええ、そうよ」

「えっと……脳の検査とか、先生にはお世話になって」

「私にお礼を言うことないわ。それより千夏ちゃん、私のことはやっぱり覚えてないのかしら?」

「うん……ごめんね」

「事故に遭ったのだから謝る必要はないわ。でもせめて、私のことは『冬雪』と呼び捨てしてくれたら嬉しい」

「う……うん」


 冬雪はにこやかな笑みを浮かべていたが、千夏は申し訳なさそうに俯いていた。しかし「桑折先生の娘さん」とは、なんとも他人行儀な表現だな。ちょっと寂しい。


「そういえば航平くん、そろそろ夏休みね」

「ん? ああ、そうだな」


 最近ドタバタしていたから忘れていたけど、言われてみればそんな時期か。


「何か予定はないの?」

「いやー、特にないよ。千夏は部活だよな」

「うん、合宿とか練習試合とか忙しいみたい」


 どうやら部活に関する記憶はそれなりに残っているみたいだな。これなら学校生活に支障はなさそうだし、ちょっと安心する。


「でね、航平くん?」

「ん?」

「もう高校二年生だし、私たちもそろそろ受験勉強を始めないといけないと思うの」

「なっ、なんだよ急に」


 冬雪は白いハンカチで汗を拭いながら、じっとこちらを見つめる。まるで教師か予備校講師みたいな言い草だな。成績優秀な冬雪はともかく、ごくごく平均的な学力をした俺にはあまり関係のない話だと思ってたのに。


「せっかく予定がないなら、夏休みは勉強に力を入れるのはどうかしら?」

「んなこと言われても、別に塾とか行ってないし」

「あら、何を言っているのかしら?」

「え?」


 やれやれとでも言いたげに、冬雪は肩をすくめた。こんなアメリカ人みたいなポーズをする奴だったかなあ。やっぱり何か今日は様子が変――


()()()みたいに私の家で勉強すればいいじゃない」

「はっ!!?!?」

「えっ?」


 いつ俺が冬雪の家で勉強なんかしたんだよ!? というかそもそもお前の家に最後に行ったのがいつかすら覚えてねえけど!?


「ちょっ、なに言ってんだよ!?」

「航平くんこそどうしたのよ、いつもいつも私の部屋に来ているじゃない」

「おっ、お前……!」

「疲れた時にはこうやって、隣同士で肩を並べて……」

「!!!?!?!!?」


 目をつむって肩に頭を乗せてくる冬雪に、俺はただただ混乱するしかない。こんな出来立てほやほやバカップルみたいな真似をコイツとした覚えはないんだが……。


「ちょっ、離せよ! どうしたんだよ急に!?」

「あら、照れてるのかしら? 昔からなんだし、今更恥ずかしがることないわ」

「過去の記憶を捏造するんじゃねえよ!?」


 昔からの幼馴染が突然いちゃつこうとしてきたら怖いんだよ! 千夏は記憶を失くすし、冬雪はこんなんだし……本当に何が起こってるんだ!?


「あの……航平?」

「なっ、なに!?」


 すると、右側から千夏が俺たちの様子を覗き込んできた。なんだか不安そうな表情で、俺と冬雪のことを交互に見ている。


「こっ……ふ、冬雪とは普段から仲が良いの?」

「仲は良いけど家に行ったりはしてない!」

「もうっ、恥ずかしがらなくていいのに」

「へえー……やっぱり仲良しなんだね」

「どこが!?」


 千夏が寂しそうな表情を見せる一方で、冬雪は澄ました顔で俺の身体にすり寄ってきている。普段はクールな優等生のくせに、よりによってこんなクソ暑い日にくっつくんじゃねえ!


「ね~、航平くん……」

「猫なで声を出すな猫なで声を! 本当に冬雪かお前!?」

「あなたの幼馴染、桑折冬雪よ~」

「マジでお前……!」


 冬雪は冷静沈着で凛としているのがカッコいいのに、こんなのは……そう、解釈違い! 解釈違いだよこんなの! いったい誰が冬雪をこんな風に変えちまったんだ!?


「ねえ、冬雪」

「あら千夏ちゃん、何かしら?」


 その時、千夏がそーっと身を乗り出してきた。何か聞きたそうな顔で、さらに話を続ける。


「あの……さ。聞きたいことがあるんだけど」

「ええ。なんでも聞いていいわよ」


 冬雪は自信満々といった表情で、相変わらず俺にひっついている。俺も汗をかいているからいい加減にやめてほしいんだけどな。冬雪のことは嫌いじゃないけど、急にこんなことをされても困るだけって言うか――


「冬雪は航平のことが好きなの?」

「すっ!!!?!?!?」

「うおっ!!?」


 次の瞬間、突き飛ばすようにして冬雪が俺から離れた。見たことないくらいに顔を紅潮させて、目を白黒させている。


「ななななな何を言っているの千夏ちゃん!?」

「さっきからずっとハンカチで航平の汗を拭いてるんだもん。そんなの好きな人相手にしか出来ないかなって」

「えっ?」

「~~~~~~ッ!!」


 言われてみれば……妙に首の後ろが乾いている気がする。冬雪が頭を乗っけていたから気づかなかったけど、こっそり拭ってくれていたのか。でも……なんで?


「航平の汗を拭いたハンカチ、どうするつもりなの?」

「そそそそっ、そんなの洗うに決まっているじゃない。なななな何を言っているの――」

「えっ、でも左手にビニール袋が」

「こっ、これはエチケット袋よ! 暑い日には熱中症で体調が悪くなるかもしれないから当然……!」

「ふーん……」


 千夏の奴、まるで冬雪が俺の汗を蒐集しているかのような言い方だな……。いくら何でもそんなことあり得ないと思うんだけど。だって俺たちただの幼馴染だし。愛情極まった重い彼女みたいな真似を冬雪がするわけないもんな。


「おい千夏、いくらなんでも変な勘繰りしすぎだって」

「そうかな? 航平がそう言うなら……」

「だいたい冬雪が俺のことを好きなわけないじゃんか。なあ?」


 左を向くと、冬雪はなんとも間の抜けた顔をしていた。おそらく千夏は忘れているのだろうけど、()()のことがあるからな。冬雪が俺のことを好きになる意味はない。


「え……ええ。そんなのあり得ないわ……」

「そっか。聞いてよかった!」


 冬雪が苦しそうに紡いだ言葉を聞いて、千夏はほっと胸をなでおろしていたのだった。


***


 俺たち三人は学校に着いて、高校二年生の教室がある四階まで上がった。


「じゃ、じゃあ私はここで……」

「ああ、またな」

「じゃあね、冬雪」


 なぜか疲れた顔をした冬雪と別れて、千夏に付き添って教室へと向かう。自分が何年何組かは覚えているようだけど、クラスメイトのことは忘れてしまったみたいだし。


「ここ……私のクラスだよね?」


 教室の前に着くと、千夏は少し不安そうに中を覗き込んでいた。知らない生徒だらけだし、転校生にでもなったような気分だろうな。


「ああ。一人で大丈夫か?」

「うん……ちょっと心配だけど大丈夫! また友達になればいいもん!」

「そっか。気をつけてな」

「ありがとう、じゃあね!」


 千夏はニコッと笑って、教室の中へと入っていった。こういうところはコイツらしいな。また友達になればいい……なんてポジティブな考えが出来るんだから、やっぱり生まれつき太陽みたいな奴だ。


「さて」


 ひとまず千夏を送り届けたことだし、俺も自分のクラスに向かうとするか。ってあれ、廊下の向こうから誰かが走って――


「何やってんのよ航平ーっ!!!」

「ぐえええええっ!!?」


 せっ、背負い投げ!? 誰だいきなりこんな乱暴するのは!?


「なっ、なんだよ急に――」

「アタシよ! あんたねえ、自分がやったこと分かってんの!?」

「あっ、秋乃!!」


 そこには、不機嫌そうに眉をひそめて俺のことを見下ろす秋乃の姿があった。胸の前で腕を組んでおり、かなりお怒りのご様子。


「なっ、なんだよ急に!?」

「いいから。ちょっとこっち来なさい」

「こっちって」

「話があんの。さっさとついて来て」


 秋乃は親指で後ろの方を指した。恐らく廊下の端っこまで来いと言いたいのだろう。でも――その前に言いたいことがある。制服を改造してお洒落を楽しむのは自由だと思うんだけど、せめてこれだけは伝えないと。


「秋乃」

「なに?」

「パンツ見えそう」

「死ねッ!!!!」

「ぐわああああっ!!?!?!」


 思い切りお腹を踏みつけられ、思わず絶叫してしまう。この後、俺は首根っこを掴まれて連行されていったのだった……。

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