プロローグ
── 神々が神々であることに辟易した時代。
とある国に、神と呼ばれる、または自称しているモノが数多く存在していた。
あまりにも存えた神々は変化を求める。
神としての力を放棄し、自分たちで創り出した人間に、生まれ変わろうと目論んだ。
しかし、簡単に神の力を放棄する方法は見つからない。
ある時、人間の中に突出した能力を有する血筋が現れる。
神々はその血筋に着目した。
神々からすれば微々たる能力ではあるが、人間からすれば、その能力は神々の能力と同種に見えた。
ある神が言った──
『あの血筋を利用できまいか』
ある神が言った──
『あの系譜ならば、吾らの力を徐々に弱めていくこともできよう』
ある神が言った──
『本当に可能なのか? あんな矮小で華奢な器で、俺たちの力を受け入れるなんて』
ある神が言った──
『相性があるようですが、うまく交配させ、血を濃くすれば問題ないでしょう』
ある神が言った──
『どうせただただ無味乾燥に過ごしているだけなのだ。試みても損はあるまい?』
ある神が言った──
『しくじったとしても、土塊人形が元の土に還るだけ』
ある神が言った──
『それでもなお心配であれば、まず土着神や蕃神で試みれば良い』
神々は言った──
『異議なし。理は今、一つに結ばれた』
◇ ◇ ◇
……何があったんだっけ。
今目の前で、ぼくの体であった欠片がバラバラに千切れ飛び、スローモーションのようにゆっくりと舞っている。
熟れた果実のごとく潰れた腹部からは、赤錆びた鎖のような臓物がぶちまけられ、手や足は各々が別の生き物として目覚めたかのように、勝手な方向へと逃げ惑っていた。
それら異形の群れを繋ぎ止めているのは、綻んだ刺繍のように虚空へと延びる真っ赤な糸。
皮肉にもその細い糸だけが、これらがかつて「ぼく」という一個体であったことを、無機質に証明していた。
あぁそうか……ぼくは死ぬんだな。
その向こうには昨日までと変わらぬ、ひどく見慣れた風景が広がっている。
ついさっきまで、ぼくもその日常の中にいた。
ぼくという一個体を、この世界から解放することに成功した不器用な鉄の塊が、擦れた金属の焼ける独特な匂いを放っている。
その周りでは、それに乗車するために列をなしていた大勢の人間たちが、それぞれ好き勝手な音階を奏でていた。
そうだ……今日は妹の誕生日。
妹と会う約束で急いでいたんだっけ。
幼い頃に両親を亡くしてから、ずっと二人きりで支え合ってきた妹。
ぼくにとって唯一の心残りは、彼女を独りぼっちにしてしまうことだ。
あぁ……騒がしかった音階が、徐々に遠ざかっていく。
「ぼく」という存在を繋ぎ止めていた真っ赤な糸が、限界まで延びきり、今まさにぷつりと断たれようとしたその瞬間、ぼくの心に圧倒的な存在感を持った何者かの声が響いた。
『『『『『『『見つけたぞ!!』』』』』』』
逃げ惑う「ぼく」であった全てを、何者かが強引に掻き集める感触がした。




