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その光は光明の光?7

「それでは用意がありますので心を落ち着けてお待ちくださいね」


 司祭さんは私達に微笑みかけてから祭壇横にある扉から一旦中へ引っ込んだ。


「おい、レナ……」

「ジーン、聞いて」


 私はジーンの言葉を小声で遮る。

 恋人同士を装って身を寄せながら、手短に話す。


「私が聞いた話だと、全員目を閉じて祈りを捧げるらしいの。その最中に、私達が魔法陣だと疑っているもので光の魔法が使われる。私はその瞬間をしっかり目で見て確認するわ」


 私に何か文句を言おうとしていたジーンも司祭さんがいない今相談すべき話だとわかってくれたようで表情を引き締める。


「そうしたらレナの目が眩むんじゃないか?」

「ええ、だからジーンは光が収まるまでしっかり目を閉じていて? 確認できたら私が伝えるから、そうしたら素早く司祭さんのところへ行って問いただしましょう。私はしばらくの間、目が見えないと思うから対応はジーンに任せるけれど、もし犯人が司祭さんだとしたら、再び光魔法を使って私達を捕らえるか、逃げてしまう可能性がある」

「わかった、そうされる前に動きを封じる必要があるな」


 さすがは元騎士様、話が早くて助かった。


「司祭さんには詳しく話を聞きたいから、喋れるようにだけはしておいてね? 後の女性二人も襲いかかってくるかもしれないけれど……」

「レナ、お前は戦えるのか?」

「いいえ、私は魔法も戦闘もさっぱり」

「わかった。問題ないだろう」


 ジーンは力強く頷く。


「人質になると厄介だ。抱えて戦うぞ」

「私を!? そ、それなりの重さあると思うけど……人間だし」

「知ってるよ」


 ジーンはそう言ってふっと笑う。

 その瞬間、なんだろう。

 あまり認めたくはないけれど、少し見惚れてしまった。


 失礼な笑いをされたはずなのに見惚れてしまうなんて、恋人のふりをしているせいで距離が近いからだ、たぶん。

 よく見たら整った顔立ちをしているな、と今更になって気がついてしまったわけではない、決して。


「お待たせしました」


 司祭さんがやってきて救われた。

 私はそっとジーンの腕から手を離し、居住まいを正す。

 今は余計なことは考えない。集中しなくては。


「それでははじめます。私が終わりました、と言うまで目は閉じたままでいてください。そうすることでレイスマフ神が願いを聞き届けてくださいます。では、祈りを」


 司祭さんは私達に目を閉じて祈りを捧げるよう促す。

 スマーフ神教でも祈りの際は目を閉じて頭を垂れる。

 それが当たり前だから、目を開けて何が起きているのか見ようとする人間なんていないはずだ。

 普通は。


 私は俯いて目を半分以上閉じて薄目を開けておく。

 司祭さんの祈りの言葉が始まる。

 これが終わった時が光の魔法を使うタイミングだ。


 私は文言を集中して聞いて終わりの気配を逃さないようにする。

 ちらりと隣を見ると、ジーンは固く目を閉じていた。

 目を閉じているのを見ると、睫毛が長いことがわかる。


「──願いを聞き届け給え。我ら唯一の神、天上におわすレイスマフの御神よ」


 来る……!


 私はそっと顔を上げ、司祭を盗み見た。

 思った通り、光魔法を使う本人であろう司祭は目元に黒い布を巻いて目がくらまないように予防している。

 その司祭が薄い紙を高く上げた。

 蝋燭の光で透けて見えるのは、何かの模様──おそらく魔法陣だ。


「レイスマフの“光よ顕現せよ”!」


 呪文を唱えた──と、思った瞬間、目に衝撃が走る。

 目を開けていられないほどの眩しさ、これは間違いない、光魔法だ。


「ジーン! 間違いない! 光の魔法陣を使ったわ!」

「ようやく俺の出番だな!」


 言うやいなや、私はジーンに片腕で抱えられる。


「俺にしがみついておけ!」


 私はぎゅっとジーンにしがみつく。

 ちょうど首の辺りに手が回り、しがみつくことができた。

 恐らく腕を椅子のようにして私を抱えてくれている。

 片腕が使えなくて大丈夫なんだろうか。

 でも、ジーンの言うとおり人質になってもいけないので、せめて邪魔にならないようにしっかりとしがみつく。


 私は目を閉じていてもクラクラしてくるくらい瞼の裏が真っ白で眩しい。

 これを外でやられたら、思わず尻もちをついて鞄を手放してしまうだろう。


 私がジーンにしがみつくと、すぐにぐんっと前進しているのがわかった。

 室内なのに風を感じるほどの速さで、恐らく司祭さんに向けて走っている。


「な、なんですか!?」


 恐らく掃除をしていた女性達だろう、悲鳴のような声が上がった。

 魔法を発動させた司祭さんは黒い布で目を覆っていたので、目を閉じていたであろう女性達の方が先に気がついたのだろう。


「悪いな!」


 ジーンはそう言うと共に、私を抱えていない方の手で何か衝撃を与えたようだった。


「うっ」


 短いうめき声と共にドサっと人間が倒れるような音がする。

 ──乱暴なことをしていないといいけれど。


「なんだ!?」


 司祭さんの焦った声が聞こえる。

 それと共にもう一度衝撃が走り、恐らく二人目の女性も昏倒させたようだった。

 一瞬の出来事に、まるで夢でも見ているかのようだ。


「俺はエバークライン治安維持部隊、隊員のジーン・ジャミルズだ。俺が何故お前を拘束しているか、わかるな?」


 なんと、女性を昏倒させた直後に司祭さんを拘束したというのだろうか。

 見てもいないし速すぎて理解が追いつかない。


「ち、治安維持部隊!? まさか……なぜ……」

「ふ、地方都市だからと俺達を甘く見たな。俺達にはこの街のことならなんでも知っている協力者がいるからな」

「散々バカにしたくせに、自分の手柄のように自慢しないでほしいわね」


 私は薄目を開ける。

 まだ視界がチカチカしているが、すぐ側のジーンの顔は薄っすらと見えた。


「……悪かったよ。俺はこの街もレナのことも舐めていた」

「私のことはいいけれど、店のことは今度しっかり謝ってよね」

「ああ、わかった」


 私は何度か瞬きをする。

 ジーンは片腕で私を抱えながら、もう片腕で司祭さんの腕をひねり上げているようだ。


「司祭さん、魔法陣は証拠として押収させてもらいますね。詳しい話は治安維持部隊の本部で聞きますから」

「わ、私はやっていない!!」

()()、ですか?」

「……っ!」


 司祭さんは顔をこちらに向けて、私に向けて忌々しそうな顔を向ける。

 とても誰もを救う宗教の司祭の顔には見えなかった。

 魔法陣に目をつけた誰かが起こした犯罪ではなく、この司祭さんが自ら使って窃盗をしているのかもしれない。


「エバークラインの人間は魔法陣を手に入れても使い方がわからないでしょうから。それとも、貴方が誰かに使い方を教えましたか? その場合でも窃盗幇助罪で捕らえられるとは思いますが」

「お前はなぜ魔法陣の存在を……!?」


 司祭さんは本性を隠すことをやめたらしい。

 私をお前呼ばわりしてそう尋ねてきた。

 最近はやたらとお前呼ばわりされている気がする。


「王都でも知る者は少ないはずだ……! 魔法省の関係者でもない限り……!」


 ふっと私は鼻で笑う。


「そんなわけないじゃないですか」


 もしそうだったとしても司祭さんに言う筋合いはないし。

 私は関係者ではない。少なくとも()()


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