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あなたからは逃げられない9

 私は一つ息を吐いて吸う。

 しばらく呼吸を忘れていたかのように新鮮な空気が肺に入ってくる。


 これで魔法陣のメカニズムはだいたいわかった。

 次は、どうしてこの紙の魔法陣が私をベリアル家に戻すことになるのか、そしてこれを量産できるかどうか、だ。


 この紙の魔法陣には光属性を持つ者の属性が入っているはずだ。

 作り方は──


 そこでふと、リーフが言っていた言葉を思い出す。


「付け加えるとしたら『血』さ。それできっと姉様は辿り着ける」


「血……」


 あの時はベリアル家の血のことを言っているのかと思ったが、比喩ではなかったとしたら?

 例えば光の魔法使いの血をインクに混ぜて魔法陣を描いているとか──


 私はハッとして口に手を当てる。

 バラバラだったピースが繋がっていく感覚があった。


「ただいま」


 背後から声がかかってビクリと身体を揺らす。


「すまない、やっぱり気がついていなかったか」


 申し訳なさそうな声が私をゆっくりと現実へと戻した。


「おかえりなさい、ジーン」


 気がつけば窓の外は夕暮れだ。

 紙の魔法陣を解明するのに思ったより時間がかかってしまったらしい。


「魔獣研究所はどうだった?」

「ああ、成果があったよ」


 ジーンは充実した表情を見せ、私の隣に座る。


「魔獣研究所と薬草研究所が共同で魔獣の嫌う臭いについての研究をやっているらしい。それで何体かの魔獣に効果があった薬草をもらえることになった」

「本当に!?」


 さすがは学術都市ローレイラだ。

 研究所同士の繋がりも強く、研究内容が充実している。

 魔法省を除いて、だが。


「ギョウジョーで試したことはないらしく、実験のために研究者が数名エバークラインに来ることになった。理論上は効果があるはずだが、もし効かなかった時のために代替案もいくつか持っていくと言ってくれた」


 問題が目の前にあったなら解答が得られるまでやり通す。

 研究者の鑑だと私まで嬉しくなった。


「……それでレナの方はどうだった?」


 私を気遣うような、それでいてどこか緊張しているような声色で尋ねられる。

 ジーンと顔を合わせると、真剣な表情をしていた。


「魔法陣は……」


 言いかけて言葉が止まってしまう。

 魔法陣の謎はたぶん解けた。

 量産もできる。


 そう言ったらジーンは喜ぶだろう。

 だけどそれはジーンが戦時隊に戻る一歩を踏み出すということだ。


 戦時隊に入ればエバークラインを離れて王都に戻ることになる。

 その後も王族の警備などで王都から離れることはないだろう。


 だが王都にはベリアル家がある。

 私が逃れたいと願い、叶ったベリアル家。

 もう二度と戻りたくない場所。


 つまり私とジーンは離れることになる。

 魔法陣のためにやり取りは続くかもしれないが、顔を合わせることはなくなるだろう。


 ジーンのいないエバークライン。


 そう思うと胸が締め付けられて痛い。

 ジーンは最近になってエバークラインにやってきた。

 私がエバークラインで過ごした時のほとんどはジーンがいなかった。


 それなのになんでこんなに辛いんだろう。

 なんでいなくなってほしくないと思うのだろう。


 その答えなんて──わかりきっている。


 今まで気がつかないふりをしてきただけだ。

 私はジーンのことが──


「?」


 好きだ。


 涙が出そうになってぐっと堪える。

 今だけは泣けない。

 泣いたら理由を言わなくてはならないから。


 なんで離れると思った今自覚するのだろう。

 こんなに辛いなら気がつかない方がよかった。


 私が魔法陣のことを伝えなければどうだろう。

 そうすればジーンはずっとエバークラインに、私の側にいてくれるだろうか。


 いや、ダメだ。

 私は自分の手をギュッと握りしめる。


 そんなことをしたら私がベリアル家に捕まるだけだ。

 そうしてベリアル家の都合のいいように使われるだけ。


 それを防ぐにはこの問題を直視して、未然に防がなくてはならない。


 それに──


 ジーンの顔を見る。

 自分の夢に真っ直ぐなジーン。

 その夢を私のわがままで潰すわけにはいかない。


 私は一つ息をついてジーンを真っ直ぐに見る。

 もう涙の気配はなかった。


「紙の魔法陣の作り方がわかった」

「本当か!?」


 ジーンの目は見開かれ、驚愕した声をあげる。


「こんな短時間でわかったのか?」

「ええ、実際に試したわけではないけれど、恐らく。リーフがヒントをくれたからね」


 私はテーブルの上の魔法陣に目を落とす。


「詳しい成り立ちは割愛するけれど、この魔法陣には予め属性が入っていて、ここに魔力を注ぎ込むだけで使えるようなの」

「ふん?」


 ジーンはわかったようなわかっていないような相槌を打つ。

 でもそれでいい。本題はここからだ。


「どうやって属性を付与しているのかが疑問になるけれど、リーフは『血』と言った。光属性を持つ人間の血をインクに混ぜて魔法陣を描く──それが作成方法だと思う」

「なるほど、じゃあまずは光属性を持つ人間をとっ捕まえて血を数滴もらえばレナの仮説が本当か確かめられるな」

「ずいぶん物騒なことを言っている気がするけれど……その必要はないわ」


 私は微笑む。


「私の血で試せるから」

「レナの……? でもレナは魔法が──」

「使えないわ。でもそれは属性を持ちすぎているからじゃないかっていうのが私とリーフの仮説」

「持ちすぎてる……?」


「そう、私の身体には闇属性以外の地水火風雷そして光の六属性が存在している可能性があるの」


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