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曇天は初デート日和3

「母方のお祖父ちゃんはエバークライン生まれ、エバークライン育ちでね。明るくて社交的、変わったものを集めるのが趣味で、お店まで開いちゃった活動的な人でもあったわ」

「それがダスカー雑貨店?」

「ええ、そうよ。元々はお祖父ちゃんが始めたお店だったの」


 お祖父ちゃんが店頭に立っていた時のダスカー雑貨店を思い出すと胸が締め付けられそうだ。

 行く度に見たこともない品物が並び、一日かけて店内をじっくり見る時間が大好きだった。


「家賃が安かったと言って北商業区の西の端に店を構えてね、はじめはお客様なんて全然来なかったらしいんだけど、珍しいもの好きのお客様やお祖父ちゃんの友達が時々来るようになって、口コミでどんどん広がっていったの。常連さんもどんどん増えて、十分に暮らしていけるくらいになったみたい。おかげでお祖父ちゃんはエバークラインで顔が広くなって、私もこうしていろんな人に声をかけてもらえるの」


 ジーンは時々相槌を打ちながら静かに聞いてくれている。

 すべて話さなくては、と私は一息ついてから再び口を開いた。


「……お祖父ちゃんが亡くなったのは一年と少し前のことだった」


 そう切り出すとジーンは僅かに眉間に皺を寄せる。

 予感はしていたのだろうけれど、そうして心を痛めてくれるような様子は私の心を温かくした。


「しばらく前から病気で寝たり起きたりの生活だったみたい。……私は何も聞かされていなくて」


 そのことを思うと心の奥底で燃えるような憎悪を感じる。

 だけど、今はその話ではないので見なかったふりをした。


「ザヴァルが教えてくれたの。あ、ザヴァルはダスカー雑貨店の常連でね、それでお祖父ちゃんが調子悪そうだって手紙をくれて。すぐ駆けつけたんだけど……間に合わなかった」

「……そうか」


 ジーンは落ち着いたトーンで絞り出すようにそれだけ言う。


「その時、私もちょうどバタバタしていてね。……具体的には婚約破棄されて家を勘当された、というか」

「……は?」


 突然放たれた情報量の多い言葉にジーンは目を白黒させる。

 ただ、この話はすると長くなるので今回は詳しく話すことはやめておく。


「ダスカー雑貨店はこのままだと閉店してしまうところだった。私はそれが嫌だったし、ちょうど勘当されて仕事もお金も住むところもなかったから、店主を引き継がせてもらったのよ。そのことについてお祖父ちゃんと話せていないから、どう思っているかわからないけれど……」

「そうだったのか……」

「だけど、お祖父ちゃんにいつまでも遠慮しているつもりはないわよ? 今までの一年間は常連さんの好みの品を仕入れ続けて、常連さん達にダスカー雑貨店の新しい店主を受け入れてもらっていたところなんだけど、これから徐々に私の色を出していくつもり。新しいお客様も取り込んでいかないと生き残っていけないからね。街の外へ出て新しい品物を仕入れに行ったりもしたいわ」

「そうか」


 ジーンがふっと表情を和らげる。

 何か面白いことを言ったつもりはないんだけれど、と首を傾げるが、ジーンはニコニコと笑っているだけだ。


「お祖父ちゃんにはいろんなことを教えてもらった。学園で習うような、本で読むような知識しか持たなかった私に生きた世界を教えてくれた。私にとってかけがえのない……唯一の家族でいてくれた人だったわ」


 胸がキリキリと痛む。

 それでもなんとか笑顔を作って、それで私はお祖父ちゃんの話を終わりにした。


 会話が一区切りついたところで、私達は店を出る。

 今日の目的は食事をすることではない。

 のんびりしていては暗くなって魔物が活発に動く時間になってしまう。


 私達はエバークラインの入口にある門まで向かった。

 ここには警備隊が常駐していて、人の出入りを管理している。


「許可書を。……おや? お前は……」

「治安維持部隊所属、ジーン・ジャミルズだ」

「そうだったそうだった。最近入ったんだったよな?」


 警備隊の隊員は含みのある笑顔をジーンに向けた。

 ジーンが戦時隊から落ちてきたことを揶揄しているのだろう。

 あと、純粋な興味か。


 私もそうだったけれど、戦時隊からエバークラインにやってくる人間なんて聞いたことがなかったから。


「通っても構いませんか?」


 私は準備していた許可書を提出する。

 街を出るには許可書が必要だ。

 名前と出かける理由、所要時間、同行者を記入してある。


 街から一歩外へ出ると魔物がどこから出てくるかわからないので、魔物避けの魔法が施された馬車で出るか、腕が立つ人を同行者として連れる必要がある。

 たいてい同行者はギルドで人を雇って連れることがほとんどだが、今回は治安維持部隊の隊員であるジーンを同行者として指定しておいた。


「理由『デート』……はははっ、魔物の側で逢引か? 斬新だな」

「人には邪魔されないのだからいいでしょう? さ、通してもらえますか?」

「……ああ」


 警備隊の隊員はからかいに私が動じなかったことに不満そうな顔をしたが、仕事なので許可欄にサインをし、門を開けてくれる。


「よい()()()を」

「ありがとう」


 ジーンが今にも剣を抜きそうな顔をしていたので、私はそっと腕を取って門を通った。

 私の行動に驚いた顔をしたジーンは、無事に諍いを起こさずに門を抜けてくれた。


「よかったのか? 一発殴ってもよかったのに」

「同僚を殴ったらまた別のところに飛ばされちゃうかもしれないじゃない。それに、あんな人を相手にすると人間の格が下がるわ」

「……たしかにこれ以上どこかへ飛ばされるのは勘弁だな。思ったよりここが気に入っているし」

「あら、それはよかった。私もエバークラインが好きだから。生まれ育った場所よりも」


 治安維持部隊に馴染めていなさそうなジーンはてっきりエバークラインを嫌っていると思っていた。

 私の好きな街を嫌いだと言われるのは悲しいから、ジーンが気に入ってくれたなら嬉しい。

 私がニコニコとしていると、対象的にジーンの表情が曇った。


「……レナは聞かないんだな、俺がどうして戦時隊を追われてエバークラインにきたのか」


 ジーンはどこか苦しそうにそう言った。


「聞いたほうがよかった?」

「いや、でも気になるだろう? ここへ来てからみんな理由を聞きたがる。見下したいんだろう」

「気にならないと言ったら嘘になるわ。だってエバークラインに戦時隊の人が来るなんて、私の知る限りなかったことだから。だけど、話してくれるまで聞かないわ。誰にだって話したくないことはあるでしょうから。……私にも」

「そう、だったな」


 ジーンはすまなそうな顔をする。

 さっき私が店で少しだけ零したことを思い出したのだろう。


「ジーンも聞かずにいてくれるでしょう? もちろんいつか話したいなとは思っているけれど。だから、お互い様よ」

「……レナ」


 名前を呼ばれてジーンと目を合わせると、ひどく真剣な表情をしている。

 思わずドキリとして、そんな自分に驚いた。


「今日俺はレナにどうしてエバークラインに来たか、俺がどうして魔法陣に興味を持っているか聞いてほしいと思ってきたんだ」

「……うん」


 ジーンが必要以上に魔法陣に興味を持っていることについては気がついている。

 出会って数回しか会っていない私をデートと称して街の外へ連れ出して魔法陣の確認をしようとするくらいなのだから。


「少し長い話になるかもしれない」


 私が黙って先を促すと、ジーンは静かな声で語りはじめた。


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