019 領主サマ
いよいよ出発の日。
荷台の前には、兵士が二人と師団長さん、そして知らない人が一人。
「この方はイシシモ・シュトー男爵。このシュトー領を治められている」
貴族キター!
居るのは知ってたが、田舎者だった俺は当然会った事が無い。
「正確にはイシシモ・ベルセ・シュトーだけどな」
「どっちで呼べば良いですか?」
「シュトーでいいよ。ベルセとか男爵とかウザい」
横に居た兵士に聞いた所、ベルセってのが男爵を表すらしい。
だから「イシシモ・ベルセ・シュトー男爵」と呼ぶのは失礼らしい。
そりゃウザいって言いたくもなるかも。
ちなみに他のも聞いておいた。
失礼して「手打ちにしてくれるわっ!」とか言われたくないので。
ウル→王族、エル→大公、ラウム→公爵、ソラム→侯爵、カッツ→伯爵、ニア→子爵、ロン→騎士爵、だそうだ。
まぁ、名前を聞いただけで階級が判るのは便利かもね。
騎士爵ってのは一代限りの爵位らしい。近衛騎士とかになると叙勲されるみたい。
「なぁ、本当に大丈夫なん? 人間が人間持ち上げて運ぶとか、聞いた事が無いんですけど?」
「おい、一般人の前だぞ。もっと威厳出せって!」
「辺境を任されている貴族に期待すんなよ。それよりもさ、本当にドラゴンに会いに行く訳?
正気? あのドラゴンだよ? 物語で勇者が苦労の末に討伐する、あのドラゴン。正気?」
「だから何度も説明しただろ! 人語が通じるから大丈夫だって!」
「それもこいつがそう言ったからだろ? 正気?
帰ってこれを笑い話にして一杯飲もうぜ、な、な?」
「正気正気うるさいな! いい加減腹くくれ!」
「え~、危ないじゃん。ヤバいじゃん。
もし本当にドラゴンと会えて話せたら、陛下に話しにいかなきゃいけなくなるじゃん。
田舎もんにそんな大役させようとするなよ~」
かなりフランクな領主様のようだ。
でも言いたい事は判る。確かに初対面の人を信用しろと言われてもね。
しかも本当なら陛下に会わなきゃいけないなんて、面倒だよ。
「だから散々話しただろ!
本当に山向こうにドラゴンが居るなら驚異だと! 各国の情勢が変わる情報だと!
いち早く接触出来るのは好機だと! 覚悟を決めただろ!」
あの~、師団長さん。
内情がダダ漏れですけど。
まぁ、国の事だし、公務員のような物だし、大事なのは判る。
「判ったよ~、行けば良いんだろ、行けば。
でもドラゴンとの会話は任せるからな?」
「お前貴族だろ!」
「残念でしたー、ドラゴンに人間の決めた制度なんか関係ありませーん!
なら一番強い者が話すのが当然ですー」
「お前も強いだろ! ……まぁそこは譲歩しよう。だが、何か聞かれたら答えろよ?!」
「そりゃ答えるさ。ドラゴンからの質問を無視するようなヤツはいないだろ」
さすが貴族。
口は達者のようだ。
そして強いらしい。貴族って階級にあぐらをかいてる訳では無いんだね。
もしかしたら、強いから辺境を任されているのかも?
「話はまとまった。
このメンバーで行く。問題無いな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「なぁ、バトリエルと言ったか? 質問しても良いか?」
「はい」
「本当にドラゴン居る? 話出来る?」
「はい」
「そうか~。マジか~。ところでさ、何でお前囚人服なの?」
しょうがないじゃないか! これしか服を持ってないんだから!
「……唯一の服なので」
「なぁ……一応ドラゴンの弟子みたいな立場なんだろ? こんな格好で行かせてドラゴン怒らないか?」
「人間の格好に興味無さそうなので、怒らないと思いますけど」
「う~ん、人間側のメンツもあるんだよねぇ。……よし、俺が服を用立ててやろう」
マジか! 貴族様から服を頂けるとは!
「いやいや、お前、そう言って旅立つのを遅らせようとしてるだろ?」
「ははははは、何言ってんの?」
「やっぱりそうか。
おい、誰かこいつに私服をやれ。その分の金は払う」
どうやら貴族様の時間稼ぎだったようだ。
しかも看破されて、兵士の私服がもらえる事になった。
それはそれでありがたいが、貴族様から服をもらいたかった。
俺が着替えると、やっと出発になった。
とりあえず山の頂上を目指す。
10回くらいのジャンプで到着出来たけど……。
「「「「………………酔った」」」」
全員が船酔いみたいになってしまった。
ゴメンナサイ!!




