016 身分証
「さて、君はここに務める事が決定した訳だが」
「は、はぁ。まだ何か?」
「ポッと現れた者に簡単に身分証を発行する訳無いだろ?」
ま、そうだよね。
ラノベで、冒険者になれば身分証が作れる、なんてあるけどそんな訳が無い。
この世界、生まれた時に教会に出生届をするのだ。祝福をしてもらう為に。
それは年に1度、国に書き写した物が提出される。そして作られる身分証。
なので「~~村の出身です」と言えば、調べる事が出来る。
他の国から来た者でも、その国の身分証がある。
それは俺が生まれた頃と変わっていないようだ。
一応、丁寧に教えてもらった。
持っていない者と言えば、3通り。
1.犯罪者
牢屋に入れられる時に没収される。
逃亡すれば身分証が無い事になる。罪を償って出れれば返却される。
当然身分証に犯罪履歴が記載されるけど。
2.不法入国者
パスポートと同じで、身分証には「~~出身」「~~に入国」とか書かれている。
記載が無いのにこの国に居れば密入国だ。
スパイ等は堂々と入って来れないのでこれらに該当する。
密入国して子供を産めば、その子供も身分証が無い事になる。
祝福を受けに教会に行っても、親の身分を聞かれるからだ。
3.紛失
便所に落としたとか盗まれたとか。
勿論再発行してもらえる。だが、再発行までは持っていない事になる。
その場合は、申請中の証書がもらえるけど。
さて、この重要な身分証だけど。
複製されては意味が無いので、色々と複製防止の機能があるんだとか。
気になって問い詰めたけど、教えてくれなかった。
ラノベのように「特殊なインクで作られていて~」な感じで、簡単には教えてくれないわ。当たり前だけど。
「ここまで説明して、身分証の大事さが判っただろう?」
「いいえ。もう少し詳しく」
「……まあいい。もう少し話してやろう」
補足してくれた情報。
・高額な買い物をする場合は提示しなければならない。
・商売を始める場合申請が必要だが、身分証を提示しなければならない。
・出入りする時に身分証が必要な街もある。
・他人の身分証を利用した場合、即死罪。
つまり、何をするにも身分証が必要という事。
「理解したか?」
「はい」
「で、重要なのはここからだ。
身分証を持たない者に身分証を発行する場合、後見人が必要になる」
「そうでしょうね。信用出来ませんから」
「自分の事なのに判ってるじゃないか。
だから信用出来る者が後見人になる必要がある。例えば王族や貴族等が望ましいな」
「師団長さんがなってくれると」
「アホか。俺程度じゃなれる訳無いだろ」
師団長さんでもダメなのか。
「では、誰か貴族とか紹介してもらえるって事ですか?」
「何言ってんだ。お前には超強力な後見人が居るだろ?」
「え? …………考えたけど思い当たりません」
「ドラゴンだよ、ドラゴン」
「……はぁ?!」
「ドラゴンが認めるならばこれ以上の証明は無い」
「何で?! ドラゴンってそんなに偉いんですか?!」
「偉いとかじゃなくて、強い。人間の国なんぞ、簡単に滅ぼせる力を持っているだろ。
そんな存在が後見人の場合、誰が拒否出来る?」
そりゃ「拒否する国なんて滅ぼしてしまえー」ってドラゴンが言ったら困るよな。
「脅迫に近いですね」
「そう言うがな、我が国にも利点はある。ドラゴンと繋がりが出来るという利点がな」
「利用出来ないと思いますけど」
「繋がりがあるというだけで、他国からすれば驚異なのだ。実際に動いてくれなくても問題無い。
というか、動かれたら困る」
「はぁ。まぁ判りました。ドラゴンに後見人になってくれと頼んでくれば良いんですね?」
「そういう事だ。
だが、お前が一人で行って爪等で拇印?をもらってきても信用出来ない。
なので、俺と、後何人かが同行する。問題無いか?」
「多分大丈夫です」
出てきたばかりなのに、もう戻る事になるとは。
ま、いいか。
ドラゴンに聞きたい事も沢山あるしな。ダンジョンの事とか魔法の事とか。
帰って質問攻めしよう。