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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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第七話 剣士学園録 ー半歩の頂ー

今日の訓練場は、ざわめく声に支配されていた。


剣士学園ランキング本戦、その決勝戦である。


中央の円形試合場に立つのは、本山雪。

文永の役より長刀を使う家系、本住吉流の家元。

入学前からランキング戦に参加し、以来、無敗を続けている。


対する相手は、鷹宮蓮。

渦が森一刀流の門下生でありながら、すでに師範級と評される実力者。

三年生筆頭、学園ランキング二位の剣士だった。


蓮は静かに雪を見据える。


入学以来、頂点を知らない。

そして――雪に勝ったことがない。


蓮はゆっくり息を整え、間合いを確かめた。

距離、足場、呼吸。そのすべてを一つずつ確認していく。


審判の声が響く。


「始め」


雪が踏み込んだ。


長刀が大きく弧を描く。

その動きは滑らかで、鋭い。だが決して力んではいない。


本住吉流。

基本を崩さぬ、整った剣である。


蓮は間合いを外さない。

抜付け、踏み込み、流し。

制定の見本のような無駄のない動きで応じた。


長刀が蓮の鎬を滑る。

刃先が、わずかに髪をかすめた。


雪の目が細くなる。


蓮はそのまま打の流れへ入る。

だが雪は動じない。


呼吸。

間合い。

足さばき。


すべてが整い、狂いがない。


雪の長刀が蓮の鎬を削りながら床へ滑り込む。

次の瞬間、雪の身体が深く沈んだ。


長刀が跳ね上がる。


深く沈んだその位置には、まだ蓮の剣先は届いていない。


刹那。


雪の長刀が蓮の胴をかすめた。


短い一閃。


(またか……)


蓮の思考が、静かに沈む。


(まだ……届かないのか)


蓮は一歩退いた。

そして静かに一礼する。


審判が手を上げた。


「勝者 本山雪」


歓声が訓練場を包む。


雪は息を整え、蓮を見た。

わずかの間 静かに言う。


「……ありがとうございます、蓮先輩」


蓮は何も言わず、階段へ向かった。


一段、降りる。


(何度目だ)


また一段。


(届かないのは)


階段を下るたび、これまでの時間が思い起こされる。


剣を始めたのは、十歳を過ぎた頃だった。

上級生の剣に憧れ、門を叩いた。


楽しかった。


型を覚えることが嬉しかった。

勝っても負けても、ただ剣を振るう時間が楽しかった。


渦が森一刀流。


その流派が、自分の世界だった。


師が好きだった。

師範が好きだった。

先輩に憧れた。


その先輩もまた、剣士学園に入った。

だが――頂には届かずに去っていた


それでも蓮は思った。


渦が森一刀流なら届く。

自分が、渦が森一刀流を頂へ導くのだと。


誰よりも研鑽した。

誰よりも型を繰り返した。


だが、入学して最初の春。

蓮は本戦に立てなかった。


秋のランキング本戦

先輩を倒した豪剣にうち伏せられた

渦が森一刀流は同じ相手に負けた


次席。


あと半歩。

その半歩が、どうしても届かない。


銀杏が散る頃、蓮は守ってきた型を破った。


抜付けの拍子。

鎬の回し方。

踏み込みの距離。


制定を崩した。

他流を真似た。

間合いを変え、得物の重心まで調整した。


すべては――


渦が森一刀流を守るため。


あと半歩。

その半歩を越えるためだった。


やがて梅が咲く頃。

蓮は、先輩の雪辱を果たしていた。


渦が森一刀流は前へ進んだ。


それでも。


蓮の前には、まだ「雪」が積もっていた。


剣士学園、次席。

三年生筆頭。


また、半歩届かなかった。


蓮は空を見上げる。


誰よりも渦が森一刀流を愛している。

誰よりもその頂からの景色を見たいと思っている。


それでも。


喉の奥から、かすれた声がこぼれた。


「先生……」


「渦が森は遠いよ……」


「高すぎるよ……」


絞り出された言葉だった。


蓮の「破」は――

まだ、足りていない。

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