第六話 幕間 「掲示」
ある日の夕刻 剣士学園・掲示廊
夕方の廊下は、人の気配が少なかった。
ランキング戦を控えた時期の掲示板には、普段より多くの紙が貼られている。
対戦表、注意事項、練習場の使用時間。
その中で、一枚だけ。
妙に白い紙が目についた。
雪は何となく足を止めた。
近づく。
紙には短い文章が書かれていた。
――規定により、帯刀せず試合に臨んだ者は、順位の如何を問わずランキング戦の参加資格を失う。
よって――
春日。参加資格なしとする。
雪の視線が止まった。
一瞬、意味が分からない。
もう一度読む。
同じ文章。
名前も、変わらない。
春日。
雪の胸の奥で、何かがゆっくりと冷えていく。
(……嘘)
そんなこと、あるはずがない。
春日はランキング戦の予選を勝ち上がっている。
実力で勝ってきた。
それなのに。
たった一行で。
「参加資格なし」
雪の手が掲示板の木枠に触れた。
指先に力が入る。
廊下の向こうから声が聞こえた。
「お、いた」
振り向くと、蓮先輩が歩いてきていた。
その後ろに、三年生が二人。
雪の顔を見て、蓮先輩の表情が少し変わる。
「……見たのか」
雪は黙って掲示板を指した。
蓮が紙を見る。
その瞬間、目が鋭くなる。
「……は?」
後ろの三年生が声を上げる。
「なんだこれ」
「ふざけてんのか」
蓮は紙をもう一度読む。
そして、静かに言った。
「教務室だ」
雪が顔を上げる。
「先輩……」
蓮はすでに歩き出していた。
「このままで済むと思うなよ」
三年生たちもついていく。
廊下の奥へ。
雪はその背中を見送った。
掲示板には、まだ紙が貼られたまま。
そこにあるのは、ただの文章。
短い。
冷たい。
けれど。
雪の胸の奥で、何かが強く残った。
(春日)
静かな目を思い出す。
(あなた……知ってたの?)
その問いに答える者は、誰もいなかった。




