第二話 典雅の剣士 ー蓮ー
剣士学園の朝は早い。
山の斜面に建てられた広い校地には、すでに多くの剣士が集まっていた。
この学園では、強さがそのまま序列になる。
ただ、勝った者が上に行く。
それだけの単純な仕組み。
落ちたくない。負けたくない。
その純粋な思いが、時間を惜しんで自主練に向かわせる。
この学校では当たり前の、朝の光景だった。
長い黒髪を後ろでまとめた少女。
雪もその中にいた。
その雪が見つめる先には、
制定された規定に沿って打刀を帯刀する爽やかな剣士がいた。
背はさして高くない。
特別目立つ体格でもない。
剣士としては、決して恵まれているとは言えない。
才に恵まれていたわけでもないのだろう。
だが、その場に立っているだけで、
周囲の空気が華やぐ。
剣士という殺伐とした学園には似つかわしくない、爽やかな見た目。
来る学校を間違えたのではないかとさえ感じさせる。
学園ランキング二位。
鷹宮蓮。
向かいには挑戦者。
体格のいい男子学生だった。
抜刀し、上段に剣を構える。
身長を生かした構えだ。
応じるように蓮も構える。
抜いた剣は、身長に比してやや長めの打刀。
青眼の構え。脇はやや締め気味。
合図が出る。
蓮の切っ先が、わずかに揺れた。
次の瞬間。
大きな踏み込みの音と、発せられた気合が練習場に響き渡る。
蓮が駆け抜けると同時に、相手の小手が弾かれた。
勝負は、すでに決まっていた。
正統な動き。
だが、どこか華やかさを感じさせる一本。
歓声が上がる。
それに応えるかのような、爽やかな笑顔。
一礼して、試合場を降りる。
「典雅」という形容が似合うような動きだった。
だが、それだけではない。
その動きには、ほとんど無駄がない。
同じ動作を、何度も、何度も繰り返した。
それだけで磨かれた剣だった。
雪は思う。
(どれほどの修練を……)
華やかな見た目とは裏腹に、
刻苦勉励という言葉ほど彼に似合う剣士はいない。
入学前のオープン試合にも出ず、
学内の稽古を抜けることもない。
人が休む時間にも、
人が帰ったあとにも、
彼は剣を振り続けてきたのだろう。
誰に見られなくても。
誰に評価されなくても。
そうでなければ、
あの一瞬の剣は生まれない。
雪は、彼の持つ華やかさ以上に、
そのひたむきな修練に敬意を感じていた。
その時だった。
観客の後ろを、一人の少年が歩いていく。
静かな足取り。
その動きに、雪の意識が引き寄せられる。
半歩。
ほんのわずかな体の運び。
その足運び。
雪の胸の奥で、何かが引っかかった。
既視感。
だが、どこにでもいるような普通の少年。
とても剣士には見えない。
帯刀もしていない。
少年は観客席の隅に座っただけだった。
早朝試合にも、興味がなさそうに見える。
名も知らない少年。
春のランキング戦は、まだ始まっていない。
それでも――
雪は、
もう一度だけ彼を見た。




