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半歩 ~守・破・離 短き刃 長き道~  作者: 止水


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22/27

閑話  最強の条件 ー冷めたカツカレーとサンライスー

今日はカツカレーの特盛。


それが、蓮の今日の学食ランチだった。


少し奮発して、カツ二枚盛り。


(さてと……)


蓮はスプーンを手に取る。


(揚げたてのカツに炊き立てのご飯)


(この時間のカツカレーは最高なんだよな)


(時間調整して来た甲斐がある)


一口。


(……うん、美味い)


(熱い!でも最高!)


その時だった。


後ろの席が、妙に騒がしい。


振り向くまでもなく、

一年男子の集団だ。


声が聞こえてくる。


「一番といえば、やっぱり三年の摩耶先輩だろ」


(ああ……タイシャ流の摩耶か)


蓮はカレーを食べながら思う。


(まあ、強いよな)


(でも澪には公式戦で一度も勝ててないけど)


蓮はカレーにスプーンを差し込む。


(誰が強いとか言い出すの、

 一年男子あるあるだよな)


後ろで会話は続く。


「なんせ、実家があれだし……」


(ああ、肉体労働系の派遣会社だったな)


(そういう背景も、まあ大事だよな)


すると、別の声。


「俺は鷹宮先輩に一票!」


蓮の手が止まった。


(俺かよ!)


「人望あるしカリスマあるし!」


「三年男子、あの人の一声で集まるらしいぞ」


「この前も教務室に三年引き連れて……なんかしたって」


蓮は思わず苦笑する。


(うわ……)


(あの掲示板の件か)


(春日の件、完全に尾ひれ背ひれ付いてるな)


スプーンを口へ。手が止まる。


(男子限定っていうのが、ちょっと悲しいけど)


別の声が割って入る。


「いやいや、ここは2年の本山先輩だろ」


(雪のことか)


蓮は素直に思う。


(まあ、それはそうだ)


(入学前から筆頭だし)


(俺、あいつに公式戦0勝だ)


後ろの一年が熱く語る。


「名家の家元だぞ!」


「あの立ち振る舞い!」


「あの美貌!」


「何より最高の剣士!」


「門下生が一番多くこの学校にいるし、

 剣士会の一大派閥だぞ」


さらに続く。


「ほとんどの女生徒の憧れ!」


「彼女見たあとだと、学校の男子なんて曇って見える」


「彼女ができない男子の最大の原因だよな」


蓮は思わず心の中で叫ぶ。


(何それ!!)


(雪が原因かよ!!)


(俺も曇ってるのか~~!!)


その時だった。


「いや、俺は湊川先輩が最強だと思う」


蓮の手が止まる。


(え?)


(澪??)


気がつけば、

カレーはまだ一口しか食べていない。


もう耳は完全にダンボ状態だ。


後ろの席で声が続く。


「戦術的に湊川先輩を分析してみろ。凄いぞ」


「出た、古流戦術部員」


笑い声。


だが当人は真面目らしい。


「まず、可憐な少女の見た目に反して――

 実力は校内三位」


「確かに……」


「実家も太い。居合の名家だ」


(お、いいとこ突くね)


蓮は内心でうなずく。


(澪のお父さん、剣の世界じゃ超有名人だし)


古流戦術部員はさらに語る。


「門下生の数じゃない」


「その繋がりだ」


「本住吉流、鵯流、須磨寺院流の家元も

 通ったことのある流派だぞ」


「渦が森流とも交流あるし」


「渦が森の師範も流れを汲んでるらしい」


(へぇ……)


蓮は少し驚く。


(そこまで知らなかった)


話はさらに膨らむ。


「本住吉流が試合で大負けして評判を大きく落とし

 衰退しかけたとき――」


「それを救ったのが湊川先輩の曽祖父らしい」


「その恩義で、本住吉の家元は

 今でも正月には必ず挨拶に行くんだって」


「本住吉一刀流って言われてたのを、

 冠を排して本住吉流に改名したらしい」


「詳しいね~」


蓮は完全に聞き入っている。


(なにそれ)


(そこまで俺も知らんぞ)


(だから雪とあんなに仲いいのか……)


一年生が言う。


「じゃあ鷹宮先輩も本山先輩も

 湊川先輩に頭が上がらないってこと?」


蓮は心の中で即答する。


(そこじゃないけど!)


(でも頭上がらないのは間違ってない!!)


(あいつ、昔から拗ねたら師範より怖いんだぞ!!)


さらに一年生。


「裏では二人を締めてるらしいぞ」


「だから隠すために、あんな可愛い私服で

 可憐な出で立ちしてるんだって」


蓮はスプーンを握ったまま思う。


(それはただの澪の趣味だ~~!!)


すると話題が変わる。


「で、最後の決め手があいつだ」


(ん?)


(誰だ?)


「あの春日だよ」


「素手で三年倒しまくってるやつか」


「知ってるか?

 あいつ、湊川先輩の舎弟らしいぜ」


蓮の頭に「?」が浮かぶ。


(それ初耳)


一年が続ける。


「あいつ我が道すぎて、竹刀さえ持たないだろ」


「嫌いだって言って、先生が渡しても受け取らない」


「でも――」


「湊川先輩が渡したら、

 両手で礼して受け取ったらしい」


蓮は苦笑する。


(竹刀の話か)


(尾ひれ付いてるぞ……澪)


さらに続く。


「しかも澪先輩見かけたら

 走って行って挨拶するらしい」


「舎弟どころか飼い犬だよ」


笑い声が広がる。


蓮はカレーを見つめたまま思う。


(澪……)


(えらいことになってるぞ……)


気がつけば。


カツカレーは、まったく減っていなかった。


そして蓮は思う。


(……とりあえず)


スプーンを持ち直す。


(この話、澪に教えたら)


(絶対、面白いことになるな)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一年男子のテーブルは、ますます盛り上がっている。


「だから言ってるだろ!」


「湊川先輩が一番ヤバいんだって!」


「可愛い顔して裏で三年締めてるんだぞ!」


別の一年が笑う。


「マジかよ」


「しかも春日が舎弟」


「舎弟じゃなくて犬だろ 犬」


「そうそう、湊川先輩見つけたら竹刀を咥えて走ってくるって」


笑い声が広がる。


一年生たちは気づいていない。


そのすぐ後ろで――

蓮は黙々とカツカレーを食べていた。


だが――


耳は完全に後ろを向いている。


話はどんどん膨らんでいく。


「しかも家がやばい」


「ほかにも色んな流派の家元が通ったらしいぞ」


「本住吉流とか須磨寺院流とか以外にか?」


「布引流空手の師範も向洋流空手の選手も習いに来てたらしいぜ」

「菊水山柔術の大石も、指南を受けに行っていたらしい。」


(それも知らなかったな…… 澪のお父さん、本当に凄いなぁ)


そして一年が言った。


「つまりだ」


「学校の三強」


「本山」


「鷹宮」


「湊川」


「でも裏ボスは湊川」


その瞬間。


後ろから、静かな声がした。


「へぇ」


一年生たちが振り向く。


そこに立っていたのは――


小柄な少女だった。


整った顔立ち。


可憐な雰囲気。


右手にはパン 左手にはカフェオレ


そして学内でも有名な人物。


湊川 澪。




一年生たちが固まる。


「……」


「……」


澪は首を傾げた。


「裏ボスって何の話ですか?」


一瞬の沈黙。


そして。


「うわああああ!!」


一年生たちが総立ち


「みみみみみ湊川先輩!?」


「い、いつから!?」


澪は答える。


「春日が犬のあたりから」


テーブルが凍る。


蓮はスプーンを口に運びながら思う。


(ほぼ全部じゃん)


一年生が慌てて言う。


「ち、違うんです!」


「えっと、その!」


「僕たちは先輩のこと 尊敬してて!」


澪は静かに聞く。


「誰が誰を締めてるって?」


一年生が青ざめる。


「いや、その……」


澪は少し考える。


そして言う。


「面白い話ですね」


一年生たちは完全に固まっている。


そこへ、別の声。


「何、どうしたの澪?」


振り向くと、雪が立っていた。


「私が裏であなたを締めてるらしいですよ」


雪が一瞬止まる。


そして澪は知らんぷりして隠れている蓮を見る。


「そこの……蓮…  鷹宮先輩」


一年生が全員 振り返る 蓮を見る

「たかたたた鷹宮先輩!?」


もう、彼らの顔に血の気が無い


「どうしてここにいるんですか?」


蓮は即答する。


「違う 俺は違うんだ」


一年生たちが慌てて言う。


「ちがいます!」


蓮は思う。


(なんで俺が疑われる)


その時だった。


食堂の入口から声。


「湊川先輩!」


振り向く。


春日だった。


一直線に向かってくる


一年生が小声で言う。


「出た……」


「犬……」


春日が澪の前で止まる。


ぴしっと姿勢を正す。


「澪先輩 こんにちは!」


澪が言う。


「こんにちは」


春日が言う。


「これ、お返します ありがとうございました」


竹刀だった。


澪が少し驚く。


「ちゃんと使ってます?」


春日がうなずく。


「はい!」


深く頭を下げる。


そして去っていった。


食堂が静かになる。


一年生がつぶやく。


「……ほんとに犬だ」


澪が振り向く。


「聞こえてますよ」


一年生たちが再び固まる。


雪が小さく笑う。


蓮は思う。


(もうダメだ)


(完全に信憑性が上がった)


澪がため息をついた。


「変な噂ばっかり」


蓮が言う。


「ちなみに」


「何」


「春日が澪の舎弟ってのもある」


澪が言う。


「違います 」


「……舎弟じゃないです」


「じゃあ何」


澪は少し考える。


「……たぶん」


「わんこ」


蓮が笑う。


雪も少し笑う。


一年生たちは思った。


(この学校……)


(思ってたより面白い)


その日、学食では――


湊川先輩=裏ボス説


の信憑性が、

さらに強まった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ところで、春日が… 澪先輩って 湊川先輩じゃあなくて?」

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