プロローグ —過去の物語—
雪が降っていた。
病院の近くの道は、
夜になると人通りが少ない。
白い街灯の下に、一人の少女が立っている。
手には長刀。
少女の名は、雪。
中学三年生。
来春、剣士のための学園へ進むことが決まっている。
剣士のための剣士学園。
そこでは来月、学園の全生徒だけでなく
来春入学予定者も参加できるオープン形式のランキング戦が開催される。
雪も、そこに参加するつもりだった。
道すがらの人を仮想敵に見立て、
間合いを測る自己鍛錬。
それが、雪の日課だった。
静かな道に、
わずかに足音が聞こえた。
向こうから男が歩いてくる。
五十代前後の男。
特別目立つところはない。
背も高くない。
歩き方も静かで、
強そうには見えない。
ただの通りすがりの人だろう。
雪はそう思った。
距離が縮まる。
男は止まらない。
ゆっくりと、
まっすぐ歩いてくる。
心の中では、雪の手が柄に触れる。
抜けば、斬れる。
そう思える距離だった。
だが——
男は歩みを変えない。
半歩。
その瞬間、
雪はわずかに息を止めた。
見覚えがある。
初めて見るはずなのに。
この歩き方。
この体の運び。
どこかで見たことがある。
だが、思い出せない。
何だろう。
何かに似ている。
分からない。
男はそのまま、雪の横を通り過ぎる。
その動きは、
あまりにも自然だった。
拍子が読めない。
間合いが測れない。
もし本当に長刀を抜いたとしても、
男はもうそこにはいない。
そんな気がした。
――私では、抜けない。
心の中でも、雪は刀を抜けなかった。
ただ、立ち尽くしていた。
振り向くことさえ、できなかった。
雪はまだ知らない。
その男の武を。
そして、
自分がこれから出会う少年の武が、
どこから来たものなのかを。
雪は後に言う。
あの夜、私は初めて
武具の先にあるものを見たのだと
自分の師をイメージして男性を書きました




