表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5、帰り道

「さあ帰りましょう」とリリーがアルの手を引っ張って歩きだしたのだった。一方で、

「こら待ってアルは私と一緒に行くんだから」とエアリーはリリーの手をアルから放させようとする。

「喧嘩しないで、三人で帰ろう」とアルが言うと、エアリーとリリーは「こいつと一緒なの?」というような顔をしたが、結局一緒に帰るのに同意したのだった。

 

 三人で出発しようという時だった。

「ちょっと待って」と聖女が言ったのだった。

「どうしたの?」

「モンスター除けのアイテム。帰りの分はないんだった」

「なんで?」とアルが聞く。

「だって高くて帰りの分までは買えなかったんだもん。お金を貯めてると、もっと時間がかかりそうだったし」

「そんなんで来ちゃ駄目でしょ」とアルはリリーに言った。

「ごめんなさい。でも大丈夫。もしなにかあったら私が守ってあげるから安心して」

「それはタノモシイナー」とアルは棒読みのような返事をする。

 聖女の力は確かに強い。強力なモンスターから結界でパーティを守ったり、怪我をしても回復したり、高レベルモンスターのいるこの森でもある程度ならしのげるだろう。

 アルは自分が強くなったことをリリーに言おうか迷ったけど、まだ言わないことにした。

「私に任せなさい」とリリーは小さな力こぶを作って見せながら言った。「あ、でも、赤鎧熊だけは私でもどうにもできないから気をつけてね。見たら全力で逃げるんだからね」

「うん、わかった。アカヨロイグマ? コワイナー」と待たしてもアルは棒読み。でも赤鎧熊は大丈夫。昨日、ぼこぼこにしたから今日は出てこれないだろうし、出てきてもすぐ倒せる。


 三人は森の中を歩いていたが、不思議なことにモンスターに全く出会わなかった。

「不思議だなあ。物音も、モンスターの気配すらない。まだ行きに使ったアイテムの効果が残っているのかな。そんなはずはないけど。でもまあ出ないんだからいいか。運がいいね」

「能天気なやつ」とエアリーは呆れる。

 でもモンスターと出会わないのは運がいいわけでも不思議でもなんでもなかった。モンスター達が強くなったアルを恐れていて出てこないだけだった。


 森の中は最短でも抜けるのに二日かかる。

 だから途中で野宿することになった。

 手分けして枯れ木を集めたり、食べられそうな野草などを集めたりしていたのだが、

「リリーはどこ?」

「知らない」

 先ほど危ないから離れちゃ駄目といってた本人が、どこかに行ってしまったのだ。

 その時、遠くで悲鳴が聞こえた。間違いなくリリーのものだった。


 アルが駆けつけると、リリーは黒い狼のようなモンスターに襲われていた。森の中では真ん中くらいの強さのモンスターだ。

「リリー大丈夫?」

 急襲されたらしく、結界を貼る余裕もなかったようで、なんとか攻撃を防いではいるが、防戦一方でじりじりと追いつめられていた。リリーはアルが来ていることに気づくと、

「来ちゃダメ。私たちじゃ勝てない。私が引きつけている間に逃げて」と言った。

 しかしアルは構わずリリーのところに駆け寄ると、軽く一蹴りすると、狼は吹き飛んで近くの木に叩きつけられてしまった。

「え」とリリーは呆気にとられている。


「一年間やることなくて鍛えてたから、これくらいのモンスターは倒せるようになったみたい」

 リリーは首を振った。

「いやいや。一年間でこんな強くなるわけない」

「そんなこといってもなあ」とアルは頭を掻いた。


「本当に? こんなん私より強いじゃん」

「そうみたい」

 アルはそれを聞いてリリーは悲しそうな表情をした。

 その表情を見て、アルに不安がよぎった。

 そっか、じゃあもう私必要ないね。街まで一緒に行ったらさよならだね、とか言われるかもしれない。アルが強くなったら、リリーが一緒にいる理由なんてないのだ。

「ほら、やっぱり聖女は弱いアルだったから、一緒にいただけなんだって。大丈夫アルには私がいるからね」とエアリーが言った。


 しかし、リリーはアルに、予想に反して、

「私を見捨てないで」と言って泣きついてきたのだった。

「俺がリリーを見捨てる?」

「うん。だって、もう私が守らなくていいってなったら、私なんて必要ないって言うかなって」

「そんなことないよ。見捨てないよ」とアルは言った。

「本当? よかった」


「リリーは弱くない俺はいや?」

「うーん」とリリーはしばらく考えて、「自分より強いアルもいいかも」と言ったのだった。

「ほらわかったでしょ。リリーは、俺のことを見捨てたりしないって」とアルはエアリーの方を向いてと言ったのだった。

「ふん。まあ認めたわけじゃないけど、しょうがない。それにあんた聖女と一緒にいるようになってから、悲しい表情をしなくなったし」


「じゃあ、心配もなくなったことだし、この三人で仲良くかえろう」とアルは言った。

「えー、私は聖女と仲良くなるつもりはないんだけど」

「私はエアリーちゃんと仲良くしたいけどなー」とリリーはエアリーに向けてほほ笑んだ。

「いやだー」とエアリーはアルの後ろに隠れたのだった。

 リリーは新しいエアリーへの攻撃の仕方を見つけたらしい。


 この三人だったらうまく行く気がする。アルはそう思って安心したような気持ちになるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ