5、帰り道
「さあ帰りましょう」とリリーがアルの手を引っ張って歩きだしたのだった。一方で、
「こら待ってアルは私と一緒に行くんだから」とエアリーはリリーの手をアルから放させようとする。
「喧嘩しないで、三人で帰ろう」とアルが言うと、エアリーとリリーは「こいつと一緒なの?」というような顔をしたが、結局一緒に帰るのに同意したのだった。
三人で出発しようという時だった。
「ちょっと待って」と聖女が言ったのだった。
「どうしたの?」
「モンスター除けのアイテム。帰りの分はないんだった」
「なんで?」とアルが聞く。
「だって高くて帰りの分までは買えなかったんだもん。お金を貯めてると、もっと時間がかかりそうだったし」
「そんなんで来ちゃ駄目でしょ」とアルはリリーに言った。
「ごめんなさい。でも大丈夫。もしなにかあったら私が守ってあげるから安心して」
「それはタノモシイナー」とアルは棒読みのような返事をする。
聖女の力は確かに強い。強力なモンスターから結界でパーティを守ったり、怪我をしても回復したり、高レベルモンスターのいるこの森でもある程度ならしのげるだろう。
アルは自分が強くなったことをリリーに言おうか迷ったけど、まだ言わないことにした。
「私に任せなさい」とリリーは小さな力こぶを作って見せながら言った。「あ、でも、赤鎧熊だけは私でもどうにもできないから気をつけてね。見たら全力で逃げるんだからね」
「うん、わかった。アカヨロイグマ? コワイナー」と待たしてもアルは棒読み。でも赤鎧熊は大丈夫。昨日、ぼこぼこにしたから今日は出てこれないだろうし、出てきてもすぐ倒せる。
三人は森の中を歩いていたが、不思議なことにモンスターに全く出会わなかった。
「不思議だなあ。物音も、モンスターの気配すらない。まだ行きに使ったアイテムの効果が残っているのかな。そんなはずはないけど。でもまあ出ないんだからいいか。運がいいね」
「能天気なやつ」とエアリーは呆れる。
でもモンスターと出会わないのは運がいいわけでも不思議でもなんでもなかった。モンスター達が強くなったアルを恐れていて出てこないだけだった。
森の中は最短でも抜けるのに二日かかる。
だから途中で野宿することになった。
手分けして枯れ木を集めたり、食べられそうな野草などを集めたりしていたのだが、
「リリーはどこ?」
「知らない」
先ほど危ないから離れちゃ駄目といってた本人が、どこかに行ってしまったのだ。
その時、遠くで悲鳴が聞こえた。間違いなくリリーのものだった。
アルが駆けつけると、リリーは黒い狼のようなモンスターに襲われていた。森の中では真ん中くらいの強さのモンスターだ。
「リリー大丈夫?」
急襲されたらしく、結界を貼る余裕もなかったようで、なんとか攻撃を防いではいるが、防戦一方でじりじりと追いつめられていた。リリーはアルが来ていることに気づくと、
「来ちゃダメ。私たちじゃ勝てない。私が引きつけている間に逃げて」と言った。
しかしアルは構わずリリーのところに駆け寄ると、軽く一蹴りすると、狼は吹き飛んで近くの木に叩きつけられてしまった。
「え」とリリーは呆気にとられている。
「一年間やることなくて鍛えてたから、これくらいのモンスターは倒せるようになったみたい」
リリーは首を振った。
「いやいや。一年間でこんな強くなるわけない」
「そんなこといってもなあ」とアルは頭を掻いた。
「本当に? こんなん私より強いじゃん」
「そうみたい」
アルはそれを聞いてリリーは悲しそうな表情をした。
その表情を見て、アルに不安がよぎった。
そっか、じゃあもう私必要ないね。街まで一緒に行ったらさよならだね、とか言われるかもしれない。アルが強くなったら、リリーが一緒にいる理由なんてないのだ。
「ほら、やっぱり聖女は弱いアルだったから、一緒にいただけなんだって。大丈夫アルには私がいるからね」とエアリーが言った。
しかし、リリーはアルに、予想に反して、
「私を見捨てないで」と言って泣きついてきたのだった。
「俺がリリーを見捨てる?」
「うん。だって、もう私が守らなくていいってなったら、私なんて必要ないって言うかなって」
「そんなことないよ。見捨てないよ」とアルは言った。
「本当? よかった」
「リリーは弱くない俺はいや?」
「うーん」とリリーはしばらく考えて、「自分より強いアルもいいかも」と言ったのだった。
「ほらわかったでしょ。リリーは、俺のことを見捨てたりしないって」とアルはエアリーの方を向いてと言ったのだった。
「ふん。まあ認めたわけじゃないけど、しょうがない。それにあんた聖女と一緒にいるようになってから、悲しい表情をしなくなったし」
「じゃあ、心配もなくなったことだし、この三人で仲良くかえろう」とアルは言った。
「えー、私は聖女と仲良くなるつもりはないんだけど」
「私はエアリーちゃんと仲良くしたいけどなー」とリリーはエアリーに向けてほほ笑んだ。
「いやだー」とエアリーはアルの後ろに隠れたのだった。
リリーは新しいエアリーへの攻撃の仕方を見つけたらしい。
この三人だったらうまく行く気がする。アルはそう思って安心したような気持ちになるのだった。