098 題材
「基本的にエルが表情を出すためには、どう動かすかというのをインプットしないと表情としてアウトプット出来ないんだよ!」
エルは見た目は普通の女の子にしか見えないが、それでも人工的に作られた存在だ。
人工の存在である以上、表情の作り方をインプットしなければ、その表情は作れない。
だから、ややの言うとんでもないことが、インプットされてない表情を見せたということなのではないかと思って尋ねてみた。
「つまりインプットされていない笑みだった?」
しかし、ヤヤは首を左右に振って「サマエルが見せた表情、笑顔自体はいくつものヴァリエーションの一つとして、インプットしてあるんだよ」と否定されてしまう。
こうなると僕の頭では話が読めなくなってしまったので、素直にヤヤの言葉を待つことにした。
対してヤヤは、話の核心に踏み込む。
「インプットはしてあるけど、それを動作させるには、命令入力が必要なのよ」
そこで僕はようやくヤヤの言う『とんでもないこと』の内容を察することが出来た。
「そうか、僕が無意識だったてことは、表情を変える命令が出てないってことだ」
「そう。少なくともログに記録はされていない……つまり、エルもレンタも指示を出していないってこと……」
「にも拘わらず、エルの顔には笑みが浮かんだ」
僕の返しの言葉に、ヤヤは大きく頷く。
「無意識下、つまり指示が出ていないにも拘わらず、表情が変わったと言うことは、私の手を離れて『進化』したと考えられるよね」
ワクワクとした表情で尋ねてくるヤヤに、僕は「でも」と返してしまった。
ヤヤも僕が何を言わんとしていたのかを察した……というより最初から予測していたんだろう。
軽く頷くと、ヤヤは僕の想像したままを口にした。
「引き起こしたのがレンタだとすると、エルの『進化』というよりも、レンタだから起きた現象とも考えられるね」
僕は自分も同意見だと伝えるために、頷いてみせる。
ヤヤは僕に対して同じく頷きで応えると、満面の笑みを浮かべて見せた。
「これは研究しがいがある題材だね」
僕はそうワクワクした声で言うヤヤに「実際に研究って、何をするつもり?」と今後の方針を尋ねてみる。
すると、ヤヤは視線を上に向けて少し考えた後で「特に何かをしなくても良いんじゃないかと思う」と返してきた。
「そうなのか?」
検証のために明日からでも何かメニューに加わるのではないかと想像してただけに、ヤヤの答えに、僕は肩透かしをされたような気分になる。
すると、ヤヤは「命令のログが無いのに表情が変わったって言うのはとても面白い題材だし、もの研究は確かに興味を惹かれるけど、だ。レンタ君」とわざわざ君付けで僕を呼んだ。
瞬時に『助手を君付けで呼ぶ博士』が浮かんだのもあって、僕はわかりやすく咳払いをしてから返す。
「何ですか、博士?」
その返しをヤヤも期待していたようで、満足そうに頷くと、得意げに答えを口にした。
「我々の最大の目的はエルの歌声を再現することだからね。まずはそれを最優先とするべき何だよ」
ヤヤの説明に納得した僕は「なるほど」と頷く。
対してヤヤは、ニヤリと笑った。
「もちろん、自主的にいろいろ試してくれるのは大歓迎だよ。レンタ君」
「……それなりに努力しますよ、博士」




